小泉今日子さんが代表を務める「明後日」が企画する『asatte FORCE』が、10月1日から18日まで東京・本多劇場で開催中です。
演劇、朗読、ライブ、子供のための演目など14企画23公演が上演される本作について、開幕2日前の本多劇場にて、小泉今日子さんにお話をうかがってきました!
――開幕を目前にして、今はどんなお気持ちですか?
「来ちゃった、って感じです(笑)」
――この企画は、急遽生まれたものだそうですね。
「はい。本当はこの時期、プロデュース公演をやるつもりで準備を進めていたんですね。それでまさに発表直前という時に、新型コロナウィルスが流行し始めて。その時点ではまだ、どうなるかなと思っていたのですが、演劇をつくっていらっしゃる先輩方にリサーチしたらやっぱり『しばらくは50%しかお客様を入れられないだろうね』と。もともとやろうとしていた演目は『ピエタ』という作品で、」
――それはこの企画の最終日にリーディングで上演される『ピエタ』(出演:石田ひかり 峯村リエ 小泉今日子)ですか?
「そうです。原作は大島真寿美さんの小説なんですけど、実はこれ、「明後日」設立のきっかけになったと言ってもいい作品なんですよ。今一緒に仕事している関根と別のお仕事をしていた時に、『すごく好きな小説があるんだよね』っていう話をして。ヴェネツィアのお話なので(日本人の容姿で)映像化は難しいけど、舞台だったらできると思うんだよねって。そんなところからいろんな話をするようになって、明後日の設立に至りました。だからいつも虎視眈々と上演を狙ってたんですけど、なんか毎回問題が起きて、できなかったんです。それで『今回こそは』と思っていたらまたコロナでって。それで、さてどうしよう、ということになりました。その頃はもう劇場にキャンセル料を払わないといけない時期だったんですね。でも果たしてキャンセルでいいのだろうかと考えました。劇場さんも、スタッフも、役者たちも、表現者はみんな数か月職を失ってたんだよなって。だったらなんかお祭りみたいにして、みんなで、横で手を繋いで、文化を盛り上げることができたらなってことで、この『asatte FORCE』という企画に切り替えました」
――そうだったんですか。
「コロナ禍で観たテレビで、フランスの学者さんが『アフターコロナは利他的な社会になるべきだ』という話をされていて。本当にそうだなと思ったんです。もともと、自分の利だけではなく、他に利をもたらすことで、自分にも利が返ってくるっていうのは、好きな考え方だったから、それをより強めようみたいな気持ちにもなりました。辛くてもやるんだこれは、みたいな感じですけどね(笑)」
――辛かったのは、『ピエタ』ができなくなったことですか?
「それもだし、3週間の演目を埋めるのも大変でした。その一つひとつを打ち合わせていくのも大変ですしね。もちろん、ひとりでやってるわけじゃなくて、優秀なスタッフがいるからできるんですけど」
――それが2日後に開幕。
「そう。だから来ちゃうんだなって(笑)。楽しみと怖さとって感じです」
――さっき「文化を盛り上げる」とおっしゃいましたが、この企画は演劇に加え、音楽の企画もありますし、えほんや随筆の朗読だったりと、ラインナップが小泉さんならではだなと感じました。
「今回はマイナスからのスタートなので、思い切ってチャレンジしたほうが気持ちいいかなという思いがありました。今は劇場に行くってことすら、リハビリテーションが必要なんじゃないかなとも思って。『劇場は楽しい場所なんだ』ってしたくて、いろんなことで埋めたかったんですよね。だから親子Dayを作ってみたり、音楽の日もありますし、まだ無名の若い子に開放してみたりとかね。きっとこの企画でいっぱい赤字を出すんでしょうけど、なんかもうこうなったら、やっちゃえ!やっちゃえ!って感じです(笑)」
――その「やっちゃえ!やっちゃえ!」が素敵だなって感じます。
「やらないでモヤモヤするのが、すごく苦手なんだと思います。間違えるってわかっててもやっちゃう。熱いってわかってても触っちゃうみたいなタイプなので(笑)。まだ50代ですからね。まだもうちょっとあるので。どっかで取り戻せばいいじゃん!って感じなんですよ。今が大事だぜ!って感じ。名前が“今日子”ですから。ピンチの時に度胸が据わる、みたいなところはありますね。親がそんな名前をつけたからでしょうか(笑)」
――そういうお話をうかがっていると、自分もがんばりたいって思ったりもします。
「今回、100%元には戻らないかもしれないような出来事が起きて、みんな、それぞれの職業やそれぞれの立場で、家庭とかも含めて、個々のレベルでいろんな問題が起きたと思うんです。辛くなっちゃう人もたくさんいらっしゃると思うんですね。自殺率が上がっているのも、絶望してしまうとか、ふと魔が差して生きているのが嫌になっちゃうっていう、気持ちはすごくわかる。でも、文化芸術エンターテインメントってやっぱり心が食べるものだと思うから、ちゃんと立っていないといけないんだと思っているんです」――ちゃんと立ってないといけない。
「そう。『あそこに泳いでいけばいるんだ!』っていう存在じゃなくちゃいけないと思う。みんなで横で手を繋いで」
――横で手を繋いで生まれたから、こんなにバラエティ豊かになったんでしょうね。
「今回の企画にいろんなジャンルの演目を入れたかったのは、みんなで助け合って、みんなで仲良く、みんなで達成していこうよっていうような気持ちもあります。子供っぽですけど(笑)。でもそれはきっと、絶対、明後日の財産にもなるだろうとも思っています。こういうときじゃないと生まれなかったアイデアがあると思うんです。いろんなアイデアが生まれて楽しかったですよ、逆に」
――今ならではの。
「ワクワクするのは、友達のお子さんとかもチケットを取ってくれてるんだけど、初めての演劇体験とかがうちの演劇になる、とかね(※親子Dayは子供券や親子券も発売)。沢村貞子さんとか殿山泰司さんの随筆の朗読っていうのも、なかなか普段は渋いなって感じで(笑)。でも私、おふたりと面識はないですが、俳優の先輩としてすごく影響を受けているんですよ。それでいま改めて、書かれたものを読んでみると、私たちが感じていることと変わらないんですよね。それぞれ、明治や大正に生まれて、戦争も潜り抜けて、きっと大変な思いをして生きていらっしゃったと思うんですけど、そんなおふたりが、随筆の中でチクリチクリとお書きになっている世の中のことが、今もそのまま通じるっていう。そこに、ずっとそうなの!?と思ったり、同じように感じているんだってほっとしたり。きっと、感じることがあるんじゃないかなと思います。沢村さんや殿山さんは私の年齢でギリギリ知っているかっていう俳優さんなので、誰だろうと思う方も多いと思うんですけど、観てほしい~!って感じですね(笑)」
――楽しみです。
「あとは『こころ踊らなナイト』(出演:高木完 スチャダラパー 川辺ヒロシ Chieko Beauty Ed TSUWAKI 小泉今日子)っていう音楽の日を作っているんですけど、本多劇場でDJプレイをして、座ったまま、こころだけが躍るとか」
――想像できない。
「想像できないよね(笑)。私もまだできてないんです。クラブにはあまり行かないって方も多いかもしれないけど、クラブミュージックってすごくかっこよくて、うるさいわけじゃないし、家で聴いていても気持ちよかったりするんですよ。だからそういう体験を初めてする人もいるのかな、とか。それに、ライブハウスやクラブは最初にクラスター感染が出て、大きく取り上げられちゃって、密を避けにくい場所だったりするから、復活が最後になっちゃうんだろうなって場所で、だから企画に入れたかったんですね。ここで一回そういうことが試せれば、『案外よかったね』って別のところでもできるよねって思うし。そういうふうに、ちょっとずつちょっとずつ、ちっちゃなリハビリができればいいなと思っています」
――リハビリ。
「劇場に行くのも、映画館に行くのも、本当にリハビリ。でも私もいろんな演劇の配信を観ましたけど、観れば観るほど劇場に行きたくなっちゃって」
――わかります(笑)。
「やっぱり文化施設って、電車に乗ったり、最寄り駅で降りてその街を歩いたり。それも楽しみだよなって思いますしね。この本多劇場に来るまでに目に入るお店だったりとか、そういうのも、意識してなくてもきっと楽しみのひとつなんですよね」
――いいお芝居を観た後は、電車に乗らずに歩いて帰ったりすることもあって。
「そうそうそう! 歩いて帰りたくなっちゃうこと、ありますね」
――客席を100%にしていいとお達しが出ても、実情という部分もそうですが、お客さんの気持ちも追い付けないよなと感じることは多くて。その中で、楽しそうな企画があるから劇場に行ってみようかなとか、体験を少しずつ重ねてもらうことは大事なのかなって感じています。
「そうなんですよね。そして成功例をいろんな団体が見せるしかないのかなって思っています。我々も細心の注意を払って、消毒ですとか、換気ですとか、検温だとか、そういうことをできる限りやっています」
――ちなみに企画は全23公演ありますが、小泉さんは9公演も出演されるんですね。
「はい。“立っているものは親でも使え”じゃないですけど」
――(笑)
「でも、こんなにできるかなあ? ふふっ。がんばろうって感じです」
――たくさんタイトルがありますが、小泉さんが今オススメしたいものは?
「本当に全部オススメしたいんですけど、やっぱりさっきお話しした『わたしの茶の間 沢村貞子の言葉』(13日、出演:峯村リエ 村岡希美 西尾まり 小泉今日子)や『あなあきい いん ざ にっぽん 殿山泰司の言葉』(14日、出演:風間杜夫 豊原功補)は、おふたりをご存知ない若い方もプラッと観に来てくれたらなと思います。朗読って、ただ読むだけだと思われるかもしれないんですけど、やっぱり俳優さんってすごくて。とても豊かになるんですよね。そういうのもきっと楽しめるものになるんじゃないかな。あとは『tagayas 山野 海×小山 豊』(9日)とか。山野さんが演じて、小山さんが津軽三味線を弾く、というものなんですけど、ひとりの女優が男から女まで、お相撲さんからきれいな女性まで、こんなに目まぐるしく変わっていけるのかっていう驚きもあるし、そこに小山さんの津軽三味線がアドリブ的に入ってくるんですよ。小山さんってギターを弾くように三味線が弾ける方で。三味線をエフェクターにつないでディレイさせて、そこにまた音を重ねていったりして、すごくかっこいいんです。だからそこもオススメかな。でも全部オススメで、きりがない(笑)」
――これは私個人の小泉さんの印象なのですが、「いつも新しい素敵なものを教えてくれる人」とずっと思っていて。子供の頃から。
「ちょっとお姉さんだからね(笑)。でも私、それが目的だったんです、その頃の。これかっこいいよ、これかわいいよ、っていうのが言いたくてしょうがない。これは今もそうなんですけど、ファンの方に合わせる気がゼロで(笑)、こっちにおいでおいで!って感じなんです。『ほら、この人、すごくかっこよくない!?』ってずっと言ってたい。だから今回もそういう気持ちは強いです。そういうのもモチベーションなんですよね」
――今回もきっと、知らなかった素敵なことがたくさんたくさんあるんだろうなと思っています。
「ありますよ!」
――楽しみにしています!
インタビュー・文/中川實穂