元宝塚歌劇団雪組のトップスター、早霧せいなの退団後初のミュージカルということでも話題を集めている『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』。これは1981年にブロードウェイで上演され、トニー賞4冠に輝いている傑作ミュージカルだ。
その年に最も輝いた女性“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”を受賞するほどに完璧なキャリアを持つ人気キャスター、テス・ハーディング。彼女を風刺するキャラクターを描いたことをきっかけに新聞風刺マンガ家のサム・クレッグと出会い、あっという間に二人は恋に落ちる。しかし、いざ結婚してみるとなかなかうまくいかなくて……。
今回、サムに扮するのはここ数年さまざまな舞台で好演し、俳優として成長著しい相葉裕樹だ。早霧とはこれが初共演となる。
――現時点では歌稽古が始まったところとのことですが、手応えは。
相葉「率直に言うと、とても難しいです。横揺れする“スウィング”などの、歌い慣れないアメリカの昔の音楽が多いので。発散するような楽曲ではなく、きれいに優しく、流れるように歌うのが意外に難しいんです」
――台本を読んでみてのご感想はいかがでしたか。
相葉「ザ・王道のラブコメディミュージカル、という気がしますね。「好き」とか「愛してる」とか、そういうセリフが随所に出てきますし、歌詞にも入っていますし。“ど”ストレートで投げ込んでくるような、そういう感じがあって。僕はこれまでそういうものに触れてきていなかったこともあり、すごく新鮮でした。僕自身はちょっと恥ずかしかったりもするんですけどね。それを恥ずかしがらずに(笑)、お客様に観ていただけるようにしないといけないなと思っています。観ている方がキュン!ってなるような。サムは風刺マンガ家だということもあって、少しマンガチックな要素も多いし、話の展開も、ちょっと?嘘でしょ??って思うことも結構あったりするんですけど」
――そこも、まさにラブコメの王道ですよね。
相葉「王道だからこそ、許されるんですよ。「待ってました!」を、堂々とやれるミュージカルなんだとも思います。まるで歌舞伎の見得を切るみたいに、王道を突き進んでいく。「ここ、キュンとしていいところだよ」って、とてもわかりやすいところもありますしね。でも、それを僕らが嘘だと思いながらやってしまうと、ただクサくなってしまうので。ちゃんと生まれてくる感情をしっかりとキャッチボールがしていけたらと。そうやってどんどん役を構築しつつ、深めていきたいです。だけど、本当に展開が早いんですよ、「え、もう好きになったの?」って思っちゃいます」
――最初は、お互いを嫌っているようなやりとりだったのに。
相葉「そうなんですよ。きっとお互いに一目で好きってなっちゃったんでしょう(笑)。しかも、曲のナンバー中に心が入れ替わっていくんです。「アイツ最低!」なんて言っていたのが、その曲の後半では「嫌い」が「好き」へと振り切っていくので。そこはぜひみなさんも決してツッコむのではなく、「キャ!」となっていただきたい。みんな、ちゃんとついてきて!と思いますね(笑)」
――今回初共演される早霧さんの印象は。
相葉「コンサートを客席から観させていただいた時は、本当にスターオーラがすごかったです!所作も、踊りも、もちろん歌も素敵で。「わあ、すごいな、これがスターの貫録なのか!」と思いましたね。改めて、いざお会いした時は早霧さんがキャスター役として僕をインタビューするという形で。その時に初めてちゃんとお話をしたんですけど、写真だとキリッとして綺麗でカッコイイ印象だったんですが、意外にすごく柔らかい雰囲気をお持ちだったので「仲良くなれたらいいなあ~」と思いました」
――今回のキャストの中で特に気になる存在は?
相葉「宮尾俊太郎さんです。バレエダンサーでいらっしゃって「ミュージカル、初めてなんですよ!」って言われた時はちょっとビックリしました。歌稽古でご一緒した時も「あー、緊張する!」とずっとおっしゃっていて、なんだか可愛らしい方だなと思いましたね」
――相葉さんが演じるサムというキャラクターに関しては、現時点ではどう演じたいと思われていますか?
相葉「ニュートラルでいたいなとは思っています。ラブコメディミュージカルだからこうしようとか、頭ごなしに決めつけるのも違うと思いますし。サムという役は、ごく一般的な感覚を持っている男のような気がするんです。ただちょっと、恋愛に臆病になっている時期があった。それもすごくよくわかるんですよ。でもいざ一目惚れをして、恋に落ちて、かなりのスピード婚なんだとは思いますが、そのあとの結婚感にしても、サムの気持ちに共感できる部分がたくさんあるので」
――お客様も、もしかしたらテスよりサムに共感する人のほうが多いかもしれませんね。
相葉「たぶん、そうだと思いますよ(笑)。テスは身の回りのことはみんなお手伝いの人や周囲の人にやってもらっていて、掃除も洗濯も裁縫もなにもできないみたいですし。結婚相手が本当にそうだったら困るでしょうね。僕だったら? 僕はまず、選ばないと思います(笑)。一目惚れしてしまうのはありだとしても、お互いの時間がどうしても合わないと「ええ~?」って不満になっちゃうタイプなので」
――その初対面の時に早霧さんからインタビューされていた様子は公式ホームページの中にありましたが、あの時、早霧さんの絵を描くような話もされていましたよね。
相葉「そういえば言っていましたね。忘れてた、まだ描いてないです」
――実際、相葉さんは絵を描くことがお得意なんですか。
相葉「グッズ用にイラストを描いたりしたことはありますが、別にすごくうまいわけではないんですよ。わりと変な絵のほうですね、見ようによっては可愛い感じかもしれないですが。でもやっぱり、早霧さんを描くのは難しそう。もし描くならデフォルメして、キャラクターっぽく描いてみたほうがいいかもしれないですね」
――サムは新聞の風刺マンガ家だから、普通のマンガともまたちょっと違うタッチなんでしょうか。
相葉「そうですね。サムの場合は猫のキャラクターを登場させるみたいなんですが、その猫のキャラが、この劇中にアニメとなって動いたりするらしいんですよ。だから僕、今回はもしかしたらアニメの猫と一緒に歌ったり踊ったりするのかもしれません。まだ具体的にはなにも分からないんですけど。その場面は、ちょっとほっこりしてもらえるナンバーになるんじゃないかと思います」
――なるほど、動く映像に合わせて演技をしなければいけないわけですね。
相葉「それもまた初挑戦のことなので、とても楽しみではあります。だけど、とにかくまずは歌をがんばらなければ……!(笑)」
――特に気に入っている曲はありますか。
相葉「いい曲が、いっぱいあるんですよ。中でもサムのソロナンバーが2曲ありまして、最後のほうに歌う『戻らない時間』というのが、彼女との別れはもう思い出になっていて、今は離れているけど彼女の明るい未来を願っているよというような内容の曲で。すごく悲しい曲なんですが、歌詞がすごくいいんです。この曲をまずはちゃんと歌いこなせるようにならないとな、と思っています」
――改めて、相葉さんが感じるミュージカルの魅力とは。
相葉「音楽やダンスがあることによって、表現の幅って広がるじゃないですか。そこで膨らませられることってものすごく大きいんです。お客様と一緒にそういう時間が共有できることで、たぶんストレート・プレイの舞台では届かなかったりすることも、音楽があるおかげで届くこともありそうですし。作品のテイストにもよるとは思いますけれども。それと、ミュージカルだと「楽しもう!」と前向きな気持ちでいらっしゃるお客様が多いように思うんですよね。そんな中で、特にハッピーエンドのミュージカルとなれば、会場がより幸せな空気で充満する感じがあるので、その時の空気感こそミュージカルならでは味わえる魅力なのかな、と思います」
――そのミュージカルならではの醍醐味が、たっぷり味わえそうな作品ではありますよね。
相葉「そうですね! それにしても今回はとても個性豊かなメンバーが揃いましたから、とんでもなくハッピーなステージがお届けできると思います。みなさんも一緒に、キュンキュンときめいていただきたいですね。ぜひ劇場に、遊びに来てください!!」
インタビュー・文/田中里津子