2020年12月に配信にて上演された少年社中ライブストリーム「劇場に眠る少年の夢」。企画が好評だったことを受け、2021年2月に改めて、各リーディング公演&ビジュアルコメンタリーのアンコール配信が行われる。
今回、リーディング公演とビジュアルコメンタリーに関して、主宰・脚本・演出の毛利亘宏のコメントとオフィシャルレポート、リーディング公演のオフィシャル写真が届いた。
毛利亘宏(主宰・脚本・演出)コメント
一生忘れられないであろう2020年の最後に、大仕事が待っていました。
まさか約1週間ちょっとで6作品の“新作”を立ち上げるという企画が待っているとは思っていませんでした。毎日が初日で、毎日が千穐楽。早大劇研で言われていた戒めのような初心を思い出しながら、この企画を進めておりました。
これまでの自分自身と少年社中という劇団、そして、自分のつくりあげた作品に対峙した結果、新たにリクリエイトするリーディング公演に過去の自分の作品が大きな壁として立ち塞がることもありましたが、劇団員を含めた出演者とともにその壁は乗り越え、新たな少年社中の作品をご覧頂けるいい機会にできたのではないか…という自負はあります。
12月の時も多くの方にご覧頂きましたが、さらにより多くの方にご覧頂きたいと思い、2021年2月にアンコール配信と題して、再配信することにいたしました。再配信に際して、ライブ配信でみせられなかった表情や演出意図を改めて汲み取り、一部を修正させて頂きましたディレクターズカット版としてお届けいたします。
これまで劇場に観にこられなかった方々、少年社中を知らなかった方々もまだまだ全国、全世界にいらっしゃるかと思います。少年社中は演劇をお届けすることしかできません。しかしながら、その演劇が誰かにとっての救いや希望になるようなら、全力でお届けいたします。ぜひこの機会に少年社中を知っていただき、少しでも興味を持っていただけましたら、ぜひいつの日か、劇場でその全力を受け止めてください。その日がはやく来ることを心待ちにし、劇団員ともども精進を重ねます。
また劇場でお会いしましょう。
少年社中 主宰 毛利亘宏
オフィシャルレポート
(各公演レポート:片桐ユウ)
「少年社中」の演劇を語るとき、独特の表現として“少年社中を浴びる”という表現が使われることがある。これは少年社中の演劇が、観るだけではなく、演劇を浴びたような体験をもたらしてくれることを表している。
今回、新型コロナウィルス感染拡大を鑑みて、予定していた本公演を中止し、その代わりの企画の一つとして実施したこのリーディング公演。無観客、配信という画面越しでの公演となったが、“少年社中を浴びる”という新たな演劇体験の機会になるような熱演が、全てのリーディング公演の配信を通じて生まれた。
リーディング公演は、舞台装置の模型が映し出され、曲が流れ出すオープニングから始まる。
全作共通して、その演目のカラーが一瞬で伝わってくるような楽曲に、「少年社中」には音楽の良さも欠かせないのだとあらためて思う。照明効果はもちろん、作品のテイストに合わせてファンシーやゴシック、和風に統一された衣裳とヘアメイクも効いている。
劇団の特色ともいえる華やかなダンスシーンや立ち回りなどは“地の文”として朗読に組み込まれており、リーディングでも「少年社中」の要素は失われていない。それどころか劇団の良さがより濃く、より強く滲み出てきている印象だ。
役者たちの細やかな表情や仕草をじっくり見届けられるのは配信ならではの魅力。劇団員・井俣太良が「ふだんは回ってこない役を演じられた」とアフタートークでも語った通り、劇団員たちの新鮮な一面が見られるという、人数を絞ったリーディング公演ならではの良さも感じ取ることが出来るだろう。ゲストキャストの個性も溢れ出ている。
目でも、耳でも楽しめる「少年社中のリーディング公演」を是非とも堪能してもらいたい。
そして、またいつの日か劇場で「少年社中」の演劇を観ることを楽しみに。その日が来るのを共に心待ちにしたいと願う。
少年社中リーディング公演『贋作・好色一代男』
出演:井俣太良/大竹えり/堀池直毅/杉山未央/梅津瑞樹/矢崎広
井原西鶴の「好色一代男」を原案にして、艷(あで)やかな“生”の輝きを描き出した少年社中の15周年記念作。稀代の「粋人」にして随一の色男・世之介がこれまでの人生を振り返りながら、己の人生に“愛”を見いだす物語である。
「色」と「欲」について語らうテンポの良い掛け合いの中に、全ての人が抱く寂しさや温もり、ハッとするような真理が込められている。6年ぶりに世之介を演じた矢崎広の色気、七人の女性を演じ分けた大竹えり、役の演じ分けをリーディングならではのやり取りでユーモラスに仕上げてみせた堀池直毅ら、役者たちの鮮やかさが見事。紀伊國屋ホールで上演された2014年当時の盛り上がりが伝わる劇団員たちのアフタートークも聞き逃がせない。
少年社中リーディング公演『ネバーランド オリジナルキャスト』
出演:井俣太良/大竹えり/杉山未央/ザンヨウコ/椎名鯛造/唐橋充
2010年・2014年と青山円形劇場にて上演され、少年社中のターニングポイントともなった伝説の名作。成長したウェンディたちの前に突然、大人になってしまったピーター・パンが現れる。子どもに戻るためにはフック船長を倒さなければならない。ピーター・パンと共に再びネバーランドに向かったウェンディたちは、そこで子どもたちが永遠に遊ぶ夢の島・ネバーランドの秘密を知ることになる……。
アクティブな立ち回りが目に浮かぶようなやり取り、そして染み渡ってくる台詞の数々に、子どもだった自分も大人になった自分も救われる心地になる物語だ。フック船長役の唐橋充、ピーター・パンの影役の椎名鯛造、ティンカー・ベル役のザンヨウコは常連ゲストともいえる存在。朗読劇で甦ったオリジナルキャストたちの名演技に痺れる。オリジナルの役に加えて、誰がどの役をどのように演じるのか。役者の変幻自在ぶりにも注目して欲しい。
少年社中×東映リーディング公演『パラノイア★サーカス』
出演:廿浦裕介/竹内尚文/川本裕之/工藤遥/鈴木勝吾/松田凌
江戸川乱歩の作品群をモチーフにしたサスペンス。2016年、東映×プロジェクト第一弾にして、少年社中の初サンシャイン劇場進出作品となった。極上の『謎』を見世物とする孤島を本拠地とするサーカス団「パラノイア★サーカス」。そこに現れたひとりの小説家が、記憶と真実を取り戻していくまでのストーリー。江戸川乱歩の文体が持つ艷(つや)やかさと仰々しさが朗読にフィット。そこに推理とパラノイア(妄想)が織り混ざった「少年社中」独特の世界が重なる。
公演時から役替りした松田凌の気迫と熱演、好評を得た役を再び演じる鈴木勝吾のしなやかさを始め、劇団員たちも公演時から更にパワーアップしていた。劇団員が演じていた役の数々をまた違った魅力で見せた廿浦裕介、アフタートークでもパワーアップしたと絶賛を受けた竹内、副団長役から団長役へとなり演技の幅広さと多様性をみせた川本裕之。そして、少年社中初参加で本作の全ての女性役を妖艶に演じ分けた工藤遥にも脱帽だ。彼女の声と芝居はこの作品にさらなる艷(つや)やかさをもたらした。
少年社中リーディング公演『ネバーランド ニューキャスト』
出演:井俣太良/長谷川太郎/内山智絵/彩輝なお/生駒里奈/矢崎広
同じ脚本でも「演じる役者によってこうも色合いが変わるのか!」と驚かされる。是非とも「オリジナルキャスト」と見比べてもらいたい「ニューキャスト」バージョンである。
「オリジナル」では大人になったピーター・パンを演じていた井俣太良が「ニューキャスト」でフック船長を演じていることに、ストーリーを知っている人ならば響くものがあるハズだ。長谷川太郎は時事ネタで見せ場を作り作品にユニークさを足し、生駒里奈は大人になったウェンディを演じて新たな境地を切り開く。少年社中初参加の彩輝なおは、ツンとしたティンカー・ベルとピュアなタイガーリリーをキュートに演じ分けると共に美しい歌声を披露。毛利亘宏にとっても「人生の転機」になったと語られた本作。アフタートークの制作秘話も興味深い。
少年社中リーディング公演『リチャード三世』
出演:山川ありそ/廿浦裕介/杉山未央/内山智絵/梅津瑞樹/池田純矢
ウィリアム・シェイクスピアの同タイトルを大胆解釈。2015年、あうるすぽっとにて上演された時と同じく、極悪人と伝わるリチャード三世を池田純矢と山川ありそ、ふたりの役者が演じる。
このリーディング公演で久々に劇団への参加となった山川ありそは、ミステリアスな存在感を発揮。杉山未央は可憐さ、内山智絵は威厳を込めてリチャードを取り巻く女性たちを熱演した。クライマックスで池田純矢が見せる迫真の演技も圧巻だ。
勇ましく物々しい楽曲、白と黒のコントラストと薔薇のモチーフが映える衣裳がシェイクスピアの歴史作品らしい硬派な雰囲気を伝えてくる。朗々とした台詞を乗りこなす役者たちの力に圧倒されると同時に、茶目っ気ともいえるユーモアが挿入される会話からは少年社中らしさが感じ取れるだろう。
少年社中リーディング公演『三人どころじゃない吉三』
出演:田邊幸太郎/堀池直毅/大竹えり/竹内尚文/伊藤優衣/梅津瑞樹
歌舞伎の人気演目「三人吉三」を明るく鮮やかな作品として少年社中流にアレンジし、好評を得た話題作だ。僧侶崩れの和尚吉三、浪人のお坊吉三、そして女の恰好をして盗みを働くお嬢吉三。……どころではなく、話が進むにつれて様々な「吉三」が登場する驚きの展開。名刀「康申丸」と「百両の金」を巡る悲劇を回避するために、お嬢吉三が奮闘する。
梅津瑞樹がお嬢吉三を、田邊幸太郎が和尚吉三を、堀池直毅がお坊吉三を演じ、様々な因果が絡み合う物語をシリアスとコミカル、掛け合わせながら見せていく。少年社中初参加にしてリーディング公演3作品に渡り出演した梅津瑞樹の多彩さは必見。真っ直ぐに役ヘ臨んだ伊藤優衣の愛くるしさ、田邊幸太郎の個性も舞台の支柱だ。拍子木に合わせて役者が見得を切る美しさはリーディングでも健在である。
ビジュアルコメンタリー『トゥーランドット ~廃墟に眠る少年の夢~』
コメンタリーキャスト:井俣太良/杉山未央/生駒里奈/松田凌/毛利亘宏
2019年、サンシャイン劇場ほか3都市にて上演され、少年社中の20周年記念ファイナル作品にして史上最大規模となった劇団公演。オペラ「トゥーランドット」をモチーフに、時代設定を遠い未来へと変更。人々が「感情」を失った厳格な管理社会を舞台とした。世界に疑問を持ち始めた「トゥーランドット姫」とレジスタンスの少年「カラフ」が出会い、遙か遠い昔に禁じられた「演劇」を手段にして、世界を変えようと奮起するエネルギッシュな物語である。
「演劇で世界を変える。」のキャッチコピー通り、「演劇」に対する熱い気持ちが詰め込まれている。W主演の生駒里奈が「愛」を夢見る姫を愛らしくも逞しく演じ、松田凌が光を失わない少年を力強く情熱的に演じた。劇団員とゲストキャスト、いずれも劣らぬ熱量で舞台を彩っている。
コメンタリーでは、当時の意気込みや俳優・藤木孝への追悼、今だからこそ明かせる裏話や共演者についてなど、盛りだくさんのエピソードが語られた。このコメンタリーで彼らの想いを知ると、また新たな見方と楽しみ方で『トゥーランドット』、そして「少年社中」の演劇を味わえるだろう。