宮藤官九郎インタビュー|大パルコ人④マジロックオペラ「愛が世界を救います」(ただし屁が出ます)

大人計画・宮藤官九郎がPARCOと組み、一風変わったロックオペラに取り組んできた“大パルコ人”。2009年のメカロックオペラ『R2C2~サイボーグなのでバンド辞めます!~』、2013年のバカロックオペラバカ『高校中パニック!小激突!!』、2016年のステキロックオペラ『サンバイザー兄弟』に続く第4弾となる今回は、マジロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』を上演する。キャストにはNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』以来の宮藤作品となるのんと、映像だけでなく舞台でもその独特の空気感で魅了する村上虹郎がシリーズ初参加するほか、三宅弘城、荒川良々、伊勢志摩、少路勇介、よーかいくん、YOUNG DAIS、藤井隆といった新鮮な顔合わせが実現することになった。作・演出だけでなく、もちろん出演者としても登場しギター演奏も披露する予定だという宮藤に、今回の舞台の狙いや彼自身も楽しみにしているポイントなどを語ってもらった。

 

――大パルコ人も4回目となりますが、宮藤さんにとって今シリーズはどういう存在として考えられているのでしょうか。

僕にとっては、演劇の場を借りて公然とバンド活動ができる場所ですね。グループ魂の場合は「今、そんなことをしている場合じゃないだろ、みんなそれぞれ忙しいんだぞ」というような、ちょっとした負い目を感じることがあるんです。だけどこのシリーズの場合は「ロックオペラだからしょうがないじゃん」と言い張れる。つまり舞台の上でお芝居をしながらバンド演奏ができるので、最後にはご褒美が待っているという感覚が持てるんです。そこに向かっていく気持ちが、芝居を作るというひたすら辛い作業を重ねていくモチベーションになっています。


――お芝居を作るのは、辛い作業ですか。

このシリーズは、台本を書くことが一番辛いんです。時間がかかる。なぜかというと、歌詞を書きながら台本を書く作業になるので。たとえばアルバムを作るために歌詞を書くことになれば、ある程度時間をかけても許されると思うんです。だけど、このシリーズの場合はそれと同時に役者さんたちにまんべんなく出番を割り振り、しかもいいタイミングで曲が入ってくるように構成して、その曲も全部バラエティに富んだ感じにしなければならず、物語に必然性を持たせた上に歌詞自体も面白くしなきゃいけない。これまでも「なんでこの企画の時は、こんなに台本書くの大変なんだろう」って思っていたんですが、4回目にしてやっとわかりました。歌詞を書いているからだったんです(笑)。時間も、通常のものよりも倍以上かかりますからね。


――今回は“超能力モノ”だそうですが、どういういきさつでそのテーマを思いつかれたんでしょうか。

いきさつは忘れましたが、超能力モノというのはたぶん長坂さん(大人計画社長)に言われたんです。大パルコ人の第1弾の物語の設定は2044年だったんですが、第2弾は2022年、第3弾は2033年だったんですね。そうなったら次は2055年を舞台にするしかないなと思って、その流れから超能力の話になったんじゃなかったかな。それで超能力者の設定をいろいろ考えているうちに、まず思いついたのが予知能力はあるんだけど能力を発揮しようとすると屁が出てしまって、それが恥ずかしいから未来を予知することをやめてしまう主人公はどうだろう、と。それから、テレパシーを送れるんだけど送る時に顔がすごくブサイクになり、しかも語りかける声がおじさんの声になっちゃう、という女の子。つまり超能力は使えるんだけど、弊害のほうが大きいから能力を封印しなきゃいけない人たちの話はどうだろうと考えました。それと、よく考えたらこのシリーズでは今まで若い男女のラブストーリーはやっていなかったんです。1本目はサイボーグの話だし、次は学園モノだったし、前回はヤクザの話だし。もちろん、のんちゃんが出られることになったというのも大きいですけど、だったら若い男女の話にしよう!と思ったんです。


――やはり、物語としてはファンタジーっぽくしたほうが描きやすいということはありますか。

2044年が舞台だった『R2C2』のラストシーンは世界戦争が起こったというところで終わっていたので、2055年を舞台にするならその戦争のあとの話にはしなければいけない。だけど、現時点ではたまたま世の中が、コロナ禍でなかなか不穏な雰囲気になっていて。オリンピックが延期して今年やることまでは予想外でしたけどね。とにかく今、上演するのなら明るい話にしたいなと思ったんです。戦争が起きて一度瓦礫の町になってしまうんだけど、そこから立ち上がれるような前向きな話がいいなあって。あと、これは超能力とは直接関係はないけど、自分の能力を封印しなきゃいけないという設定に関しては、みんなが普通に持っているコンプレックスとか、そういうこともテーマに重なってくるといいなと思いました。


――音楽が盛りだくさんのシリーズでもありますが。

ただ、いつもは音楽的にこういうことをやりたいなとか、こういう曲やネタを入れたいと頭の中で考えたあと、最終的にストーリーをまとめてきれいに着地させるための時間がちょっとうっとうしいなというのが悩みだったんです。でも今回は、そこはもう、うまく着地させなくてもいいのかなと思っていて。単に気持ちいいところで終わらせようかな、と。演劇の場合は毎日、本番をやるわけじゃないですか。それを自分も毎日見ていると「この5分くらい、なくても良かったんだよな」って、やりながらも学んでいくものなんです。そこが、なんだかいつも自分の中で不純な感じになっているなと感じていたので、今回はそこはもういいよと思っているんです。


――では、気持ちいいところで終わろうと。

最終的にいい話にするとか、うまくオチをつけるというのは、今回はいいやと。よく考えれば『TOMMY』とか『ロッキー・ホラー・ショー』とか、いわゆるロックミュージカルやロックオペラって、物語的には無理やり終わっているものが多いですしね。とにかく最後の曲が良ければいいんだ!みたいなところがある。


――となると、お客さんも最後の曲を聴いてスカッとした気分のまま帰ることになりそうな気がしますね。

はい。それでいいんじゃないかな、と今のところは思っています。


――改めて宮藤さんにとって、のんさんの女優としての魅力とは。

僕は『あまちゃん』で、すごくいい出会い方をさせてもらったので。初めての朝ドラでしたし、僕は彼女のことを何も知らない状態で、彼女もまだ全然経験が浅かったし、恵まれた出会いでした。そしてまたいつか一緒にやりたいなと思っていて、今回やっとタイミングが合って出ていただけることになりました。せっかくなので、僕がいいと思う彼女の魅力をぜひ余すところなくこの舞台で出したいなと思います。もう今回はそれだけでいいかなと思えるくらいに、すごく特別な女優さんだと思うんですよ。みんなができるようなことはやらなくていいから、スペシャルな、彼女が面白いところだけを見せられたらいいのかなと。具体的には言葉にしにくいんです、なにしろ他の人は持っていない魅力だから、比較ができないので。しいて言うならセリフとか笑いの間合いをテクニックに頼らないところが、特に僕は好きです。セリフにしても、本当に思っていることをちゃんと心から言っているなということが伝わる。テクニックでなんとなく上手に仕事をしていないところが、とても好きなんです。


――音楽に関してはいかがですか。

今回、藤井隆さんに出ていただくことで、音楽的な幅が広がると思っています。最近再評価されている80年代の洗練されたシティポップを歌ってもらいたいと。でも振り返れば自分は80年代、ハードコアパンクばっかり聴いてたんで、なんかもう、シティポップVSハードコアパンクでいいんじゃないかと。今回は両極端にしようと思っています。僕が今回の舞台で演じる役は、1980年代からずっと生きている老人のパンクス。その時代に流行っていたのがまさに80年代の音楽という設定なんです。シティポップもハードコアパンクもどっちも80年代なんで。やっぱり、原点に戻っていくものだなあと。で、(上原子)友康さんには今回いろいろチャレンジしてもらって、今風のデスクトップミュージックみたいな曲もあって、そこはご本人も新境地だとおっしゃっていました。今のところ上がってきている曲は、のんちゃんと虹郎くんに合わせたかのような若いフレッシュな感じがします。本筋は、普遍的なボーイミーツガールの物語になります。出会って、好きになって、ケンカして、というお話なので。


――この作品を通じて、観る方にどのようなメッセージを送りたいですか。

テーマとしては「生きているということは、生きているってだけでもういいじゃん」ってことです。お芝居の中のセリフだから、自分で言うとより恥ずかしいですけど(笑)。「生きていることがもう特別」ってことですね。物語は、東京の人口が100分の1まで減ってしまったという設定で、つまり100人中99人が死んじゃってそこで生き残った人たちだけの世界になるんです。生き残っている人たちはみんなホームレスで、生活するのも精一杯。そんな中で、未来が見える予知能力があるのに代わりに屁が出ちゃうから封印しているというような、ものすごく哀しい人たちの話ですね(笑)。ぜひ「生きてて良かった」という気持ちを、実感しに来ていただければと思います。

 

取材・文/田中里津子
スタイリスト/チヨ(コラソン)