スキャンダラスでリアルな感情を追求する演劇界の異才・三浦大輔が新宿歌舞伎町を舞台に描き下ろした舞台『物語なき、この世界。』。三浦にとって3年ぶりの新作となる本作には、岡田将生、峯田和伸、柄本時生、内田理央、宮崎吐夢、米村亮太朗、星田英利、寺島しのぶ、と、魅力的な面々が名を連ねる。
三浦の舞台に出演するのは今回が二度目となる峯田は、本作にどのように挑むのだろうか。話を聞いた。
――今回、役者としては久しぶりに三浦大輔さんの舞台に出演されます。出演決定のコメントでは、前回出演した作品『母に欲す』を振り返って「2か月間の暗闇」という表現をされていましたが……。
もう7年前くらいでしょうか。あの年の夏は暑くて、サッカーのワールドカップがあったから、それをすごく楽しみにしていたんです。でも、まったく見れなかった。稽古をやって家に帰って、夜中にワールドカップはやってたんだけど、もうスイッチが切れたように寝て。朝起きたらまた稽古に行って、帰って夜になったらまた寝て。セリフを覚えるのにいっぱいいっぱいでした。稽古中は誰かと遊んだりもなかったし、今思い出しても暗闇なんです。
――そんな“暗闇”に、よく戻られる気になりましたね(笑)
でも、暗闇は好きなんですよ。思い返すと、パルコ劇場で1か月も、よくあんな人前でやってたな、と思いますけど。あれから7年経って、もう世界は全く違う。僕は音楽ばかりになっているし、自分が舞台をやったっていうのが、考えらんない。あの時は、第一幕からずっとステージに居て、僕が居ないシーンが1つしかなくて、15分だけ。その15分で栄養ドリンクを飲んで、タバコ吸って、そしたらもうすぐ出番です!ってなってて……。よくやってたなー自分、って思います。
――『母に欲す』の前にも、三浦さんの舞台『裏切りの街』で銀杏BOYZとして音楽を担当され、2作品で三浦作品に触れていらっしゃいます。三浦さんの作品の魅力をどのように考えていらっしゃいますか?
緊張感ですかね……。観ている方も肩に力が入って観てしまうというか。本番を観ていると、役者さんの立ち姿で、ここに至るまでの稽古で何かをすり減らしながらやってきたんだな、というのが見えてくるような感覚があるんです。そういう緊迫感が感じられて、いつも感動します。
――三浦さんの世界を演技で体現するうえで、重要なことって何だと思いますか?
僕はあんまり演技の経験が多くないので、他の方のお芝居をみてどうだったか、みたいなのは無いんです。舞台のお芝居は、三浦さんの作品しか出ていないし。もう、あれが傷になっていて……でも、やりがいがあるんですよね。手を抜くとすぐバレる。このシーンは大して動きも無いから、ちょっとくらい手を抜いていてもいいかなと思っても、一発でバレる。そういうところを三浦さんは大事にしているんだなって思うし、だから適当にはやれませんね。ごまかしたらすぐ、「そんなんじゃないよね」って言われる。普段、一緒にご飯とかでしゃべっているときもそんな感じで、だからこそ、素でしゃべれる。ここでは言えないような話や、友達には言えないようなことも、「マジで!?」ってノリで話せるんです。それは、お芝居でもそうで、役を貰って演じてても、きれいごとでやっちゃうと「なんかダサくない?」って指摘されるんですよね。カッコつけることに対して、ちょっとオブラートに包むことって、ダサい。その美学があるんじゃないかな。僕にもそれがあるから、共鳴しているんじゃないかと思います。だからステージに呼んでもらえるのかも。
――今回の役どころは売れないミュージシャンとのことですが、どのように演じていきたいですか?
まだ細かいところは話していないので、これから詰めていくんですけど、まぁ弁護士役とかじゃないんで。ミュージシャン役なので、まだ自分の中に経験のストックがある。そういうところから引っ張り出せる部分はあるんじゃないかと思います。
――売れなくて諦めの気持ちを抱えている役ですが、シンパシーを感じたり、思い出す人がいたりするんじゃないでしょうか。
そうですね。ちょっと、会ってみたい奴がいます。そいつと会って話したい。銀杏BOYZの元メンバーなんだけど。プロットを読んでいて、ドラムのあいつが浮かんだんですよ。今、音楽活動はしていないですけど、あいつの中に音楽はまだあると思うんです。きっぱり忘れられないと思う。20年もやったんで。そういう人って、どういう感じで当時のことを話すのかなとか、久しぶりに会った時に話し方は変わっているのかな、とかさ。くたびれている感じもあると思うんですよ。もう40も超えて、普通の男ですから。それがどういう感じになっているのか、会いたいですね。
――何か役をとらえるきっかけになるかも知れないですね。ちなみに、音楽をやっているときと、芝居をやっているときで何か違いは感じる?
銀杏BOYZは自分が曲も歌詞も書いてプロデュースをしてやってるんですけど、お芝居は三浦さんがプロデュースだから委ねられる。銀杏BOYZは委ねられない。でも、どっちも楽しいです。プロデュースしてもらうことも、窮屈な感じも無いですよ。やっぱ、この人になら預けられる、っていうのがあるんじゃないかなぁ。楽しいですよ。おこがましいかもしれないけど、僕が音楽でやってきたことが、それに近いからかも知れません。みんなで歌おうぜ!みたいなの、よくやるじゃないですか、一体感とか言って。そういうのって嘘じゃないか、みたいなキモチがあるんです。僕はそういう感じでやってきたから、三浦さんと合うんじゃないかな。
――音楽と芝居に、なにかつながるものを感じていらっしゃるのかもしれないですね。
他のみなさんはわからないですけど、僕は銀杏BOYZも演じていると思うんですよね。ライブでは銀杏BOYZを観に来てくれるお客さんが居て、そこに合わせてどっかで……。さらけ出す、とは言っても、どこか銀杏BOYZを演じて歌ってる。お芝居も、たぶんそれと変わんないと思います。
――峯田さんの中では、音楽と芝居が繋がるというよりも、重なっている感じですね。
舞台が始まったら、開演1時間前くらいから楽屋にスタンバイして、それでトイレに入って、トイレから出てこなくなって、10分前のブザーが鳴ったらトイレから出て……って感じなんです。それって、普段の自分のライブとあんまり変わらないんですよね。挑む感じとかも、一緒なんです。脳の使う場所がちょっと違う感じもするけど、ほぼ一緒。ライブは今までやってきたから、お芝居で人前に出ること自体にも、あまり怖さはなかったな。
――以前、池松壮亮さんとの対談で「舞台はもうやらない」とおっしゃっていましたが、今回出演を決意した理由は?
もうやらない、って言ってました? でも、そういう感じだったんですよね。当時は。多分、最初で最後の感じでやってたんですよ。その後、三浦さんとは家も近くてよく飲みにいったりもしてて、その中で「またやろうか」ってことをお互いに言ってたんです。3年前くらいですかね、はっきりと「やろう!」って言われたのは。ホントにやるんですか!?みたいな気持ちもあったけど、どこかで嬉しい気持ちもあって――。女の人と別れたりすると、その時はもうやってらんなくても、だんだん時間が経つと自分の中も周りも変わっていったりして、なんか許せたりすることってあるじゃないですか? あんな感じですね。時間が経って、自分も、またやろうかな、という気持ちになれたんです。
――三浦さんとは普段から食事に行ったりもしているそうですが、オフの三浦さんってどんな感じ?
ふざけた話もしますけど……例えば僕と三浦さんと、もう一人くらい、友達が居たとするじゃないですか。個室の居酒屋とかで。そういう時はだいたい、友達から「なんでそんなマジメになるの!」って言われちゃう(笑)。いつも言われます。結局、稽古場と変わらないんですよ、オフなのに。あのドラマの第何話のこのシーンはなんで――とか、あのシーンであのカメラがしっとりと映しているのは――とかね。そういう感じはあんまり大っぴらにしたくないから、取材ではふざけたこと言ってると思うんですけど(笑)、結局は2人が盛り上がりたいのってそういう話なんです。女の子の話もしたいけどね。
――ちなみにオフの峯田さんはどんな感じ?
仕事とプライベート、あんまり区別がないかも。お酒飲んで憂さ晴らし!お疲れさん!みたいなの、よくあるじゃないですか。でも僕は、酒も飲まないし、ないんですよね。変な話、今から「5分後にライブです!」ってなっても、できると思います。えー!って言いながら、やれると思う。地続きですね。
――なんだか頼もしいですね。今回は岡田将生さんをはじめ、多彩なキャストが揃っています。岡田さんの印象や、そのほか気になるキャストの方はいますか?
岡田くんは、真ん中の人。何色にも染まれる人だと思う。全天候型。多分、僕って客観的に観ると一色だと思うんですよ。あまり変わらないというか。でも、岡田くんは臨機応変に、柔軟にやれる方じゃないかな。あと、寺島しのぶさんは、映画やお芝居も何度か観に行かせていただいていて、一緒にやれるのが楽しみ。寺島さんって、もう日本が誇る女優さんじゃないですか。「赤目四十八瀧心中未遂」っていう映画があって、その寺島さんがスッゴイんですよ。妖気が漂う女性というか。本当に色っぽくて、なかなか他にいらっしゃらない方だと思います。目線の動き方ひとつでも違うので、楽しみですね。
――そんな方々と並んでのお芝居になりますが、どんな心境ですか?
いや、何とかなると思うんですよ。やっぱり、自分の好きな方とやれるときって、なんとかなる。経験上ね。僕は、岡田将生くんが基本隣にいる役なので、お互いの立ち位置みたいなことは少し考えています。対照的に見えるように。自分がこう動きたい、とかより、岡田くんとどう空気を作っていけるか。でもまだこれからですね。まだお会いできてないし、本読みもまだなので。バランスが面白いバンドが僕は好きなんですよ。お芝居のこともバンドと一緒で、だからバランスを考えます。岡田くんが青なら赤になっていよう、みたいな感じにいたいですね。
――公演のチラシには“ドラマチックに彩りたがる人間のエゴをあぶりだす”と刺激的な言葉が並んでいます。峯田さんは、人生にドラマチックなことは必要だと思う?
どっかでは必要。ずっとリアルでは苦しいので、何割かファンタジーがあった方がいいんじゃないかな。物語って、意図的にドラマチックにしたがる部分があると思うんですよね。そういう時って、誰しもあると思う。なんていうか、友達や親が亡くなった時に声をかける感じとか――。でも、それを冷静にみたら、さしてドラマなんか起こってない。それは確かにそうだな、とも思うんですけど、劇的にしたくなる気持ちも分かるんですよね。
――ドラマチックを求める気持ちはわかるけど、ドラマなんか起こってないぞ、と。
うーん……朝起きて飯食って仕事して帰って寝て。そういう日常を平凡と言うなら、たまたま観に行った映画館の2席前に、前に付き合っていた彼女が座っていたら、それはドラマチックじゃないですか。実際にそういうことが、何度かあったんです。そこで、声をかけたりもするし、バレないように途中で出たこともある。そういうのってちょっとファンタジーっぽくないですか? 気付かないようにすることもできるし、大げさにすることもできる。その選択で、プラスに働くこともあるし、マイナスな出来事にもなる。それが煩わしいなら、何もしないで日常に戻ることもできる。
――起こった出来事をドラマにするかどうかは、自分次第、という感じですね。
そんな感じかな。プラスに働くならいいですけどね(笑)
――これから稽古なども始まりますね。
そうですね。でももう、暴力的な芝居はあんまりやりたくない(笑)。ケガしたくないからね。三浦さんって、そういうところなんかすごいでしょ? 「ココなら全力で当たっても痛くないから」みたいなことが、分かってるんですよ。言われたとおりに本気でやってみても、確かに痛くない。スゲーな、と思って(笑)。僕も三浦さんもお互い40半ばで、20代のあの時に比べて、いろんな経験をしたと思う。それで、これはいらねーかな、って捨てて書いたものでも、やっぱり残っている部分はあるはず。そこで繋がれると思うんです。そこが楽しみですかね。
――どんな舞台になるか、公演が楽しみです! 楽しみにしている方にメッセージをお願いします
お客さんにこういうことを分かってほしいっていうのは、まったくないけど、とりあえず峯田がんばってんな!っていうのは見せたい。親からも、電話で「あんた生きてんの?」って言われるんですよ(笑)。生きてますよ、ちゃんと!っていうのを、ちゃんと存在しているっていうのを見せたいですね。
――本日はありがとうございました!
インタビュー・文/宮崎新之
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