劇団イナダ組公演『いつか抗い そして途惑う』
「水曜どうでしょう」の藤村Dと演劇集団キャラメルボックスの大内厚雄が4年ぶりに共演。

「水曜どうでしょう」のディレクターとして“藤やん”の愛称でファンに親しまれている藤村忠寿と演劇集団キャラメルボックスの大内厚雄がOOPARTS「SHIP IN A BOTTLE」以来4年ぶりにイナダ組公演「いつか抗いそして戸惑う」で共演する。
その二人に話を聞いた。

 

――最近演劇づいているようですが?

藤村
「1990年代の札幌の演劇シーンは鈴井貴之とか、斉藤歩とか自分より少し上の年代がガッと盛り上げてくれていた。そのあとイナダ組が出てきて、大泉洋とかが出演していて、札幌では考えられない動員がありました。
この時代に大泉がずっと演劇面白いって言ってて、その時はまぁ、そうかなぁ・・・っていうくらいにしか思ってなかったんですけどね。大泉がいなくなって20年後っていうのはなかなか面白いんじゃないかと思って、3年くらい前に芝居やろうとイナダ組行ったんですよ。最初は冗談だと思われてましたね。
で、やりだしたらこんなに面白いものはないと。いいパスを出し、いいパスをもらい、みたいな感じが。それこそ大内さんと最初にやった鈴井さんの「SHIP IN A BOTTLE」なんか、完全にスポーツでしたからね。あれが演劇2回目だったんだけど、なんか、その感じが今でも残ってるんですよ。
自分でも劇団持っちゃったし。公演やる時は会社も出張扱いにしてくれるし。いい会社に入りました(笑)」

 

――大内さんはイナダ組への出演は初めてですが。

大内「実はイナダ組の公演を見たこともないし、まだイナダさんに会ってもいない。完全に未知なんですよ」

藤村「イナダがビビってますよ。どうやってやればいいんだろう?緊張するなぁって。超ビビってましたよ」

大内「でも、楽しみですよ。僕は藤村さんを知ってるけど、その藤村さんが面白いって言うんだから、相当クセがあるんだろうなって」

藤村「昨日から稽古に入ったんですよ。今回、高村何とかって役なんですけどね。台本って、それぞれのセリフに役名が書いてあるじゃないですか。それが全部「高村」って書いてあるから、どの「高村」だって・・・。三人兄弟で妹もいるんですけど、全部「高村」って書いてあるから誰のセリフかわかんないんですよ。あと、イナダって稽古場で無口にならないんですよね。常に自分で喋ってて、常に演じてる。自分で演じて、こうやってやれって言うんです。でも下手だから全然参考にならなくって。いや、もうあの人凄いんですよ」

大内「徐々に不安になってきました・・・」

藤村「大泉が前に「イナダさん、たまにいいこと言う」って言ってたんですよ。「本当にいいこと言う。そういうことかって気付かされるようなことをイナダさんは言う」って。俺もイナダの言葉を待ってる感じがあって。
イナダはこっちに負荷をかけるようなことをするんですよね。役者が一番やりにくいことというか。例えば、俺は力強い役なんかは絶対できるに決まってる。だから、そうじゃない非常にジメジメしてて人がいい上に引きこもりみたいな。そんなの俺の中には0%なタイプの役をやらせて、お互いに悩みながら創っていく。
イナダは「芝居やってて楽しいのは藤村さんとかが困ってるのが楽しい」と。役者をいい意味で育て、いい意味で一緒にやっていく人ではあるのかな」

大内「少し安心しました(笑)」

――作品について聞かせてください。

藤村「イナダが最初の10ページくらい書いてきて読み合わせしたんだけど、「今回はふざけたことをやるつもりないですから。雰囲気を変えようと思うんですよ」って。だからね、結局イナダは何したいのって聞いたら・・・弟が死んじゃって、その嫁さんを俺がなんとなく好きになっていく。好きになっていくんだけど、この人が弟を殺したんじゃないかって思って。この人も実際に人を殺したかはわからないけど、こういう悪いことをする人と、そういう人を好きになってしまうだらしない人と、なんかはっきりしないようなことをやりたいって言ってて・・・」

大内「イナダ組のお芝居っていうのはコメディというか、面白いものが多いんですか?」

藤村「まぁ、割とそう。テーマとしては暗い方が多くて、でもちょっと笑わせるようなところも入れようって感じなんだけど、今回は「いや、そんなこと考えてないです。」って。でもつい先日、俺が「グレイテスト・ショーマン」に感動してイナダに勧めたら、見に行ったらしいんですよ。そしたら感動して「藤村さん、もっと早く見てたら俺今回の話、愛と希望の話にしてたわ。」って。「やっぱり愛と希望だよね」って」

大内「めっちゃ影響受けやすい人なんですね・・・」

 

――お二人の役どころについて教えてください。

大内「僕の役どころはもう死んでるんですよね。どう出てくるのか?幽霊?」

藤村「まぁ、まだわからないですよね。札幌では同じ役を違う人が演じますから、大内さんに札幌に来てもらって、最後に2人で合わせてから札幌公演をやろうと思ってるんです。札幌で大内さんの役をやるのがヒロキって奴で、彼は札幌のローカルアイドルグループで活動しているんだけど、きっと同じ役をやることで刺激というか、こんなに違うんだ、ってのは受けるだろうと。これは凄い大事だと思う。違う人が同じ役をどうやるのかを見ることができる。札幌でやってる俺らにとってはこういう機会がないから」

大内「稽古に行くまでに、僕の出ている部分の台本が出来てたらいいですね。まだないんですよ・・・。だから、まだ藤村さんとの絡みがあるかどうかわからないんですけど、あったら困る感じで演じたいなって。藤村さんがなるべく困るように」

藤村「でも、まぁ、今回は設定がすごいですからね」

大内「こういうの、今の時代はあまりないですけど、戦後とかよくありましたよね」

藤村「ああ、戦争で旦那が亡くなってその世話をしているうちにみたいな」

大内「なんとも言えないんですけど、ある意味ではすごく人間ドラマが描ける状況かなって。一番、その、いろいろが混ざっちゃう。僕としては芝居が観られる設定でいいなって思いますけどね」

藤村「そんなこと考えてなかったぁ・・・」

大内「僕の好きな話に高村薫さんの「晴子情歌」っていう小説があるんですけど、これが結構ドロドロな話でそれでめっちゃ暗いんですよね」

藤村「俺が演じるのは問題が起こると引きこもるみたいな役柄らしくて、現状を見たくないみたいな。でも、愛想はいいんですよ。
現代の人って外では愛想いいけど、実は人との繋がりを拒否してるみたいなところがある。外との関わりを拒否してるから、愛想がいいみたいな人の方が人のことを見てない。で、結局引きこもっちゃって、って。なんかそんな感じで演じられればいいかな、そんなキャラがいいのかなって考えてますね」

――札幌で稽古をするんですよね。

藤村「大内さんは札幌と何か縁があったりしないんですか?」

大内「特にはないですね。今回は1週間か10日くらい滞在する予定なんですけど。最近ではOOPARTSで行ったくらい。昔はキャラメルボックスでも北海道公演があったんですけど」

藤村「これからご飯は美味しくなってくる時期ですよね。何か楽しみな事とかは?」

大内「とりあえず、回転寿司は一回行こうかなって」

藤村「稽古場の前が「トリトン」って美味しい回転寿司屋ですよ」

大内「そうなんですか。昔、普通に旅行で札幌に行った時に回転寿司に入ったんですけど、東京の回転寿司とは全然違うんですよ。それが今でも残ってるんですよ」

藤村「それはもう、おもてなししますよ。俺なんか稽古が終わるとすぐビール開けるんですよ、稽古場で。飲んでから飲みに行くみたいな。どうしても稽古が夜なんで飲むのも遅いんですよね」

大内「それで朝から仕事に」

藤村「俺、朝は仕事行かないんで」

大内「自由だ」

 

――最後に抱負等お聞きできれば。

藤村「これで3年連続かな。イナダが東京でやりたいって言って、SETさんにご協力いただいて。でも、まだまだ東京の人は地方の劇団がどういうものかわからないと思いますし、是非来ていただけたらなって思います」

大内「未知なことも多いですけど、藤村さんと久しぶりにやるのが楽しみですね。どういうものが生まれるのかっていうのが。是非それを見届けに来てくれればなって思います」