KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ラビット・ホール』ピューリッツァー賞戯曲部門受賞作、待望の上演決定!

2021.09.01

今年度より導入されたシーズン制、一年目のテーマは「冒」。
シーズンの最後を飾るのは、幸せな日常と未来を突然奪われながらも、深い悲しみから一歩を踏み出そうとする家族の物語。

2021年4月1日よりKAAT神奈川芸術劇場の新芸術監督に就任した長塚圭史により導入されたシーズン制。2021年8月~2022年3月までのシーズン一年目は、「冒(ぼう)」というテーマにそった企画がプログラムされ、“飛び出す、はみ出す、突き進む”さまざまな作品が劇場を彩る。

2021年ラインアップ発表会において長塚芸術監督が「いかにして死の悲しみ、そして生の喜びと向き合いながら生きていくか」を描いた作品として期待を寄せた『ラビット・ホール』は、2007年にアメリカのピューリッツァー賞戯曲部門を受賞したデヴィッド・リンゼイ=アベアーによる戯曲で、2010年にはニコール・キッドマン自らのプロデュース・主演により映画化もされ、数々の賞に輝いた。

かけがえのない息子を事故で亡くし、深い苦しみと悲しみの中にある夫婦。同じ痛みを抱えながらも関係がぎくしゃくしてしまう2人と、彼らを取り巻く人々が微妙に変化していく日常をきめ細やかに描いた戯曲。この演出を手掛けるのは、2017年『チック』(翻訳・演出)で第10回小田島雄志・翻訳戯曲賞、第25回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞し注目を集め、数々の話題作を世に送り出してきた小山ゆうな。繊細な本作をどのように演出するのか注目だ。

今回の公演では、テレビドラマなどの脚本を手掛ける脚本家に上演台本を依頼し、翻訳劇を現代の日本人に響く活きた言葉に磨き上げることにより、リアルな会話で物語が語られることを目指し、ドラマ『クロサギ』『紙の月』や、連続テレビ小説『まれ』など映像作品の脚本家として活躍する篠﨑絵里子が上演台本を手掛ける。長塚芸術監督は「セリフのプロフェッショナルが台本の構築に加わることによって、より身近な言葉になるのでは」と、篠﨑の起用に強い期待を寄せている。

出演者には、魅力あふれる実力派キャストが集結した。
事故で失った息子の面影に心乱され苦悩するベッカ役を、映画・ドラマ・舞台と幅広い活躍で存在感を示している小島聖、ベッカの夫・ハウイー役を、声楽家としてオペラデビュー後、俳優としてミュージカル・演劇と数々の舞台で活躍を見せる田代万里生が演じる。ベッカの妹イジー役には映画・舞台などでその個性が光る占部房子、二人の母ナット役には、確かな演技力で実力派女優として舞台・ドラマ・映画で活躍し続ける木野花、夫妻の息子を車で轢いたジェイソン役にはドラマ・CMでみずみずしい演技で注目を集める新原泰佑といった俳優陣となっている。

人は受け止めがたい現実とどう向き合って生きていくのか。この普遍的なテーマを描いた本作に、期待は十分だ。

 

あらすじ

ニューヨーク郊外の閑静な住宅街に暮らすベッカとハウイー夫妻 。
彼らは8カ月前、4歳だった一人息子のダニーを交通事故で失いました。ダニーとの思い出を大切にしながら前に進もうとする夫のハウイー。それに対し、妻のベッカは家の中にあるなき息子の面影に心乱されます。そのような時にベッカは、妹イジーから突然の妊娠報告を受け戸惑い、母のナットからは悲しみ方を窘められ、次第に周囲に強く当たっていきます。お互いに感じている痛みは同じはずなのに、夫婦・家族の関係は少しずつ綻び始めていました。
ある日、夫妻の家にダニーを車で轢いたジェイソンから手紙と彼が書いたSF小説が届きます。会いたいというジェイソンの行動に動揺を隠せないハウイーですが、ベッカは彼の描いた手紙や小説を読み、彼に会うことを決意します。

 

上演台本:篠﨑絵里子 コメント

十代の頃、失うのが怖いから人を本気で好きになるのはやめておこうと真剣に思っていました。貧しい考え方だと憐れみの目で見られたとしても、断固として嫌でした。
けれど人生は否応なしに、大切な存在を連れてきます。
気づけばかけがえのない人たちに囲まれて暮らしていたわたしはもう、ふとした弾みに思い出す『失う恐怖』に蓋をしてやり過ごすしかなく――、そして、この戯曲に出会いました。
幼い息子を失った絶望のなかで、これからをどう生きていくのか、生きていけるのか、その答えを探してもがく夫婦の物語。心とは裏腹に傷つけ合い、責め合い、差し出された手に触れることもできず、暗闇にただ立ち尽くす。
その果てに彼らが得た再生へのかすかな光が、誰かを愛して生きずにはいられないわたしたちのささやかな救いにもなることを、祈らずにはいられません。

 

演出:小山ゆうな コメント

私が『ラビット・ホール』を知ったのは2010年、映画版でした。人間の悔い、その悔いにどう人は向き合っていくのかという問いが、美しい言葉と深い人物像で描かれていて、私自身自らの人生においても時折触れたくなる作品で何回も見返しており、長塚さんから本作での演出というお話を頂いた際、驚きと喜びと共に、身の引き締まる思いがいたしました。
この素晴らしい戯曲に、演劇的に自由で新しい事/垣根を超える事を恐れず果敢にチャレンジされるKAAT、そして長塚芸術監督の新シーズンの作品として、【冒】険を恐れず取り組めればと思っております。
今回は、映像界で大活躍される篠﨑さんが上演台本を作成してくださいます。いきた日本語を生み出される篠﨑さんの手により、どのような日本語版が生まれるのか楽しみです。また、キャスト・スタッフともに新鮮なチームとなっており、皆でこの作品を透明度高くお客様にお届けできるよう模索できればと思っております。