PARCO PRODUCE2021 音楽劇『海王星』山田裕貴インタビュー

寺山修司が1963年に書いた未上演の音楽劇が、新生PARCO劇場でついに上演される。主人公・猛夫とその父・彌平、彌平の婚約者・魔子をめぐって繰り広げられる悲恋の物語である本作は、まさに「寺山ワールド」の原点ともいえる作品。寺山の詩的な音律で彩られた言葉と想像力をかき立てられる魅惑的で怪しい登場人物が物哀しい祝祭劇を綴る。主演を務めるのは、映画『東京リベンジャーズ』などの注目作に多数出演する山田裕貴。松雪泰子、ユースケ・サンタマリア、清水くるみ、伊原六花、中尾ミエ、大谷亮介らが脇を固める。約3年ぶりの舞台出演となる山田に、寺山作品の魅力や、初めての音楽劇挑戦への思いを聞いた。


――本作のオファーを受けて、どこに惹かれて出演を決めたのですか?

僕はまだお仕事を選べる立場でもないので、声をかけていただき、「やりませんか?」という愛をいただいたので(出演しようと思った)。僕は、求められないと頑張れないタイプなんです(笑)。なので、僕をこの作品に出てほしいと言ってくださったことが惹かれた理由だと思います。映画だから、ドラマだから、舞台だから、こういう作品だからやりたいというのはないんです。超無欲な男です。お話をいただいて、脚本を読ませていただいて…いろいろな巡り合わせでこうなっていると思います。ただ、あえて言うならば、松雪さんとユースケ(・サンタマリア)さんとお芝居をしたいというのはありました。


――松雪さん、ユースケさんと共演したいと思ったのは、どんなところに魅力を感じたからですか?

ユースケさんとは、映画『あゝ荒野』でご一緒させていただきましたが、ボクシングシーンの撮影で僕が集中しているときにお会いしたので、当時はあまり会話ができませんでした。ユースケさんは、昔から幅広い役を演じられていて、バラエティーでもユースケさんにしか出せない味を出して活躍されている姿を拝見してます。今回は、それを肌で感じてみたいと思っています。
松雪さんは、3年前に(山田が)出演した『終わりのない』という舞台を観に来てくださっていました。なので、今回、僕が出演する作品に松雪さんが出てくださるということは、もしかしたら認めてもらえたのかなという想いもあります。俳優としてだけでなく、人間としての松雪さんも知れたらいいなと思っています。


――では、本作の脚本を読んで、どんな感想を抱きましたか?

人間の愛憎が描かれた作品だと思いますが、まず最初に感じたのは「愛って何? 愛を求めたことで何が生まれるの?」でした。この世にはいろいろな愛情が溢れていますが、本作では、人を好きだと強く感じられるであろう「恋愛」を見せています。でも、その姿は、「本物の愛なのか」と考えさせられる脚本でした。本物の愛ならば、見返りを求めないと僕は思います。でも、そこに憎しみが生まれるということは、それは愛ではないのではないか。もしかしたら、それはただの欲かもしれない。そんなことを考えました。


――今回、山田さんが演じる猛夫という役は、山田さんご自身と共通点はありましたか?

父と子の関係というところに関しては近いところもあるのかなと思います。僕自身、父に対してコンプレックスを抱いていたこともありますし、同時に尊敬もしていました。いろいろな家族の形や親子の関係があると思うのですが、今でも僕と父の関係が普通なのかと言われたら正直分からないです。なので、そういう意味では、この作品とシンクロする部分はあると感じています。


――そういった山田さんの思いは、役を構成する上でプラスになりそうですね。

なると思います。言葉で表せない細かな感情は、発する声に滲み出ると思いますし、例えば振り向くスピードひとつとっても出てくるものなのかもしれません。ただ、僕は舞台に出演した経験がそれほど多くはないので、これから(演出の)眞鍋(卓嗣)さんとディスカッションをしながら作っていきたいと思います。


――眞鍋さんとは、すでにお会いしましたか?

歌稽古の時に少しだけお会いして、僕の着ていたTシャツについて話しました(笑)。僕、最近、アニメのセリフや名言が書いてあるTシャツが好きでよく着ていますが、その時も「せめて人間らしく」という文字が入ったTシャツを着ていました。眞鍋さんがそのTシャツをいじってくださって(笑)。それから、以前、眞鍋さんが演出された劇団俳優座の「インク」という作品を観に行かせていただき、感銘を受けたので、そのお話をさせていただきました。


――「インク」を観劇して、眞鍋演出作品にどんな感想を抱きましたか?

劇中で語られているところが全てじゃないというメッセージがすごく印象に残る作品でした。成り上がっていく人の一生が見られる作品だったのですが、共感できるところがすごく多かったです。(成り上がっていく段階で)うまく立ち回れる人もいるのかもしれませんが、不器用な人だと一つのことに集中して周りが見えなくなってしまう。僕も作品に入るとそのことしか考えられなくなってしまうタイプなので、マネージャーさんたちも作品によって僕への対応の仕方を変えてくれているようで…申し訳ないなと思いつつ、役者が天職かもしれないとも思っています(笑)。「インク」は言葉数も多く、難しいセリフが多い作品だったので、今回は、眞鍋さんがどんな作品を作っていこうとしているのか、眞鍋さんの考えを早くお聞きしたいなと楽しみです。

 


――今作では、どのような役作りをしようと考えていますか?

僕、役作りってあまり考えたことがないんです。とにかく、まずは「魂まで変われ。“俺”は消えろ」と思って演じています。それから、演じる役、今回だと灰上猛夫についてどれだけ考えられるかだと思います。彼は、この言葉を言うのにどんな音を出すんだろう。どんなふうにこの歌を歌うんだろう。このセリフを言う時にどんなふうに息を吐くんだろう…と、その人物について徹底的に考えて、気持ちを知ろうとする。それが僕にとっての役作りです。役者という仕事は、人の気持ちが分からないとできない仕事だと思っているので、「なんでこう思うんだろう。なんでこういうことを言うんだろう」と常に考えています。もちろんお芝居でセッションをしていくうちに、「ああ、こうだったんだ」と気づくこともたくさんありますが、まず最初は「魂まで変われ」と思うところからスタートします。


――なるほど、その思いが山田さんのリアリティあふれる演技につながるんですね。ところで、先ほどお話にも上がった映画『あゝ荒野』も寺山作品ですが、寺山作品にはどのようなイメージがありますか?

その質問は絶対に聞かれると思っていましたが、僕よりももっと寺山作品を愛されている方がたくさんいらっしゃると思うので、僕がそれについて語ることは難しいですね…。ですが、『あゝ荒野』は愛を欲している人のお話だったとは感じました。『海王星』も愛によって何が生まれるかを描いていると思うので、寺山作品には、根底に愛があるのかなという印象はあります。


――ところで、本作では、山田さんの歌唱シーンもあります。これまで山田さんがお仕事で歌を歌っているイメージがなかったので、そういう意味でも楽しみです。

1度だけミュージカルに出演したことはありますが、それ以来になるかなと思います。でも、僕、とにかくカラオケが大好きなんです(笑)。なので、歌えるという喜びはすごくあります。今回は、音楽劇ということですが、役の感情を乗せた上で歌をきれいに届けることを重視するのか、歌が乱れても役の思いや勢いを見せるのか、どのようなスタイルになるのか、眞鍋さんとの稽古が待ち遠しいです。


――今作で歌われる楽曲についてはどう感じていますか?

猛夫が歌う曲は、すごく儚く、悲しい曲が多いと思います。これを舞台上で歌うことでどんな世界観が作り出せるのかを考えながら今、歌稽古をしています。


――歌や歌詞からも役にアプローチできるのは、音楽劇ならではなのではないですか?

ですが、僕たち人間は、歌で会話をしているわけではなく、言葉で会話をしているじゃないですか。なので、猛夫がその時、どう思っているかを歌うのはいいことだと思うのですが、歌を聞いてこういう人だなと考えてしまうのは危険だと僕は思っています。まずは、皆さんとのお芝居の中での会話を通して感じたことに重点を置いて猛夫という人間を作っていって、その後に、猛夫がどう歌うのかを考えられたらいいなと思います。


――最後に、山田さんにとって舞台の魅力とは?

僕はまだ若輩者なんで、何が魅力なのか気づけていないと思います。だって、100本くらい出演した人じゃないと、舞台の魅力を語っていたって信じられないでしょう?(笑)。ただ、お客さんのレスポンスを直接感じたり、自分の言葉で空気が真空になるような感覚を肌で感じることができるのは、舞台ならではだと思います。だからこそ、まだ僕は舞台に立つのが怖いです。映像でもそういう空気を感じられることはいっぱいありますが、映像では怖くない。ずっと野球をやっている人が、いきなりサッカーをやってくださいと言われているような、そんな感覚があります(笑)。


作品や役柄に真摯に向き合う姿勢と、まっすぐに思いを伝える言葉が印象的だった今回のインタビュー。まるで山田裕貴という人物がその役柄同様であるかのように錯覚させる、リアルな役作りの一端が垣間見えた気がした。今作では、山田が松雪やユースケ・サンタマリアとともに、どのような「愛憎」を描き出すのか。期待が高まる。

 

取材・文/嶋田真己
スタイリスト/森田晃嘉 ヘアメイク/小林純子