ヨーロッパ企画 第40回公演「九十九龍城」記者会見レポート

2021.12.29

京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画が、およそ2年ぶりとなる新作公演「九十九龍城」を全国11都市で巡演する。久しぶりの本公演に先駆け、メディア向けに記者会見が実施された。

ヨーロッパ企画は1998年に旗揚げされた劇団で、企画性に重点を置いた”企画性コメディ”を掲げた作品作りに取り組んでおり、近年は舞台だけではなく、映画やテレビ、ラジオ、YouTubeなど幅広いコンテンツを制作し続けている。2020年に公開された映画『ドロステの果てで僕ら』は、台北金馬ファンタスティック映画祭2021に公式招待されるなど、コロナ禍でありながらも盛り上がりを見せている。

会見には、脚本・演出を務める上田誠をはじめとするヨーロッパ企画の団員と客演の早織らが登壇。上田は「2年ぶりの本公演。この2年、配信や映画などいろいろなお仕事をしてきましたが、僕らにとって本公演いうのは特別なもの。稽古場にメンバーがあつまって、そこに日頃からご一緒している客演の2人が来てくれて…特別な感慨がありました。やっとこの時が来た、と気合いを入れて稽古しています」と、気合をにじませた。

客演の早織は「以前『サマータイムマシン・ブルース/サマータイムマシン・ワンスモア』に出演させていただいて、また本公演に出演させていただくことを夢見ていたので、光栄に思っています」と、出演への喜びを語った。仕事の都合で登壇できずビデオメッセージを寄せた、同じく客演の金丸慎太郎は「今回で5回目の出演をさせていただいていて、飽きられてもアカンな、と思い九龍らしくガッと刈り上げた坊主にして稽古場に行きました。みなさんにイジっていただいたんですが…設定資料をみたら刑事役で真逆(のビジュアル)でした(笑)。今、絶賛、髪を伸ばし中です。とにかく、2年ぶりの本公演ということなので、ウケるコメディにしたいと思います!」と、少々気合いが空回りしてしまったエピソードとともに挨拶。上田は「せっかくなので、それ(坊主頭)も活かしていこうかと」と、その熱量をくみ取って芝居にしていくようだ。

また、今回から藤谷理子が正団員として活動を開始することになった。なぜこのタイミングか、と質問が及んだが「ずっとお仕事は一緒にさせていただいていて、ホーム感はありました。少し前から上田さんと正団員になるかならないか、というお話をしていて、なぜこのタイミングか、と問われると話がまとまったから、でしかない(笑)」と、正団員になる前から、もはやホームの感覚だったと笑顔で話した。

今回の物語は、かつて香港にあった九龍城にインスピレーションを受けて書き下ろされており、上田は「94年に取り壊されている魔窟なんですが、善悪を越えた凄みを感じる。劇団というもののトライブ感を覗きに来てもらうならば、この魔窟劇というのが合っているんじゃないかと思った」と話し、「アジアにあるパラレルワールドの魔窟」というイメージだという。また、2006年に上演した「Windows5000」という作品もベースのひとつになっているそうで「超違法住宅を覗いていく作品で、これも魔窟劇と呼んでいい。僕らにしかできないという手ごたえもあった。でもこのご時世、演劇くらいは海外というか少し離れたものを作りたいと『九十九龍城』になっていきました。そしたら『Windows5000』とはだいぶ離れた劇になりました。刑事2人が見る魔窟を楽しんでほしい」と、作品の手触りを語った。劇中音楽は「来てけつかるべき新世界」以来のタッグとなるキセルが手掛ける。上田は「兄弟の音楽ユニットで、独自進化を遂げている2人。エキゾチックな雰囲気で、香港といいつつ、多国籍なイメージがある九龍に合うんじゃないかとお願いしました」と、2人にオファーした理由を話した。

団員の石田剛太は、高校生の時に香港に訪れたことがあるそうで「20年前にトランジットで5時間ほど滞在したときの写真を持っていった」と話すが、反応がイマイチだったという。「香港のストリートの写真も河原町みたいだ、とか…。九龍城も取り壊されていて、公園になっていたので看板だけ」と、やや残念な写真ばかりだったようだ。「そんな感じで、九龍城はなくなっていますが、九十九龍城はパラレルワールドとして残っているということなので、そこに思いを馳せながら演じていきたいと思います」と脳内に残る香港のイメージを作品に投影して、やる気は充分と言った印象だった。

稽古場の様子について、団員の諏訪雅が語るところによると「怖くて稽古どころじゃない」ことがよくあるという。「九十九龍城は小さなところに人が密集しているという密度感が大事。稽古場には平台を組んであるんですが、じゃあ平台のところで麻雀でもやっていて、とかエチュードが始まるんですが、そこにマフィアがやってきて…と続けていると、平台がたわんで、怖くて稽古どころじゃない(笑)」と、かなりの密度になってしまうという。「今回、段差がたくさんあるんですが、たわんで怖いのでよく『下でやりましょう』ってなります。そして、キャストが足りない!エチュードをやっていても『諏訪さん入って…』って言われた直後に『そこ諏訪さん入って』とか言われる(笑)。台本も今ここにあるんですが(吹き出しやメモが多くて)大変です」と、稽古の大変さを語った。

さらに、団員の中川晴樹は「2006年にやった『Windows5000』をアップデートしたのが『九十九龍城』ですが、あの当時は舞台美術を役者でもある酒井くんがやっていましたが、今回はプロが入ります!13年来、やっていただいている長田佳代子さんがやってくれます。小道具も永野(宗典)じゃなくプロですから!」と、いろいろな部分が20数年前とはまったく違ってプロの手が入っていることをアピール。「あの頃は尖っていて、余計な会話や暗転で1分も2分もお客様を待たせたりもしていましたが、今回はあっという間の2時間です!」と宣言した。

仕事の都合でリモートから参加した団員の永野宗典は、「九龍城は多い時で5万人、畳一枚に3人いたらしいんです。俳優もそれに対応するべく、1人11役、単純計算で役者12人でべ132役が舞台に登場できる。なので、上田くんにこっそり『めちゃくちゃ役をやりたい』って耳打ちしたんですよ。かつて京都の東映撮影所にピラニア軍団というのが居たんですが、僕も斬られてはまた現れる”ひとりピラニア軍団”をやろうかと。そこで過密度MAX劇を表現できれば」と、壮大な野望を口にした。それを受けた上田は、「132役はちょっと妄想入ってるけど(笑)」としながらも、「何役かやることになる人がいるのは事実です。その中でも耳打ちしてくれた永野さんは、割とたくさんやるんじゃないか。ひとりピラニア軍団はありえそうですね」と明かしていた。

ヨーロッパ企画第40回公演「九十九龍城」は、2021年12月から2022年2月にかけて、全国11都市を巡演。東京は本多劇場にて2022年1月7日(金)~23日(日)に上演される。

 

取材・文/宮崎新之