ミュージカル『刀剣乱舞』 にっかり青江 単騎出陣 荒木宏文 インタビュー

足りないものを追求し、高めていく旅を続けていく

 

刀剣男士・にっかり青江の日本全国を巡る旅は続く。「演劇を届けたい」という熱い志から始まったミュージカル『刀剣乱舞』 にっかり青江 単騎出陣は、計23都市にて有観客で上演。2021年春と秋の公演を終えた気持ちを、にっかり青江役の荒木宏文に聞いた。

荒木「2021年の公演は自分の未熟さを痛感する旅でした。実力が圧倒的に足りない。環境に慣れるという瞬発力と順応性がとても重要だと感じました。場所によってお客様の演劇に対する楽しみ方も異なりましたね。お祭り感があるところもあれば、静まり返って緊張感が伝わってくるところも。ひとり芝居ですし、この作品はお客様との“調和”というか、“共存”がすごく濃い。客席の空気感の影響を受けやすいので、調整が不可欠でした」


ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(以下、刀ミュ)の“本丸”で様々な経験を重ねてきた、にっかり青江ならではの“ものがたり”が綴られる本作。

荒木「客席からすると、にっかり青江が自問自答している姿を覗き見ている感じが強いのではないかな。春公演の頃はピリっとした空気もある中、自分が見ている景色を届けることに集中してやっていました。それを経ての秋公演では“見世物としてどうやっていくことが理想なのか”を考えました。劇中では正面に向かって話し掛けていますが、その相手は観た方それぞれに自由に感じていただけたら。具体的に提示する“答え”というものを持ち合わせないのがこの作品なのかなと思います」


余白と余韻が様々な感想を抱かせる作品だが、荒木自身がエゴサーチすることは全くないという。

荒木「お客様の声はとても大事ですし、直接届くメッセージは読みますが、自ら積極的に言葉を拾いにいくことはしません。僕たちは先頭に立って、お客様が思い描くものやニーズ、その先を見越して作品を創り上げていくべきだと思っています。それが僕の理想としているエンタメの作り方、芸能人としての在り方なんです」


20代後半の頃は年齢より若い役が多く、「年相応の役を取りにいけない」という葛藤もあったというが、「SFなど非現実の世界でなら役の幅が広がる」と考えたことで今の活躍につながった。

荒木「例えば若い容姿で実は何百歳という設定を持つキャラクターだったら、僕は年の若い子よりも芝居で説得力が出せる。そういった役柄のある作品が漫画やゲームを原作とするものには多かった。“2.5次元”と呼ばれるジャンルの演劇で、ちゃんと芝居をやりたい、とすごく思っています」


真摯な姿勢に信頼が集まり、荒木自らの提案から実現した今作。2022年春の日程も発表され、単騎出陣、そして荒木宏文自身の“旅”も続く。

荒木「僕自身は作品や役を好きになってくれたらそれでいいと思っているのですが、信頼や評価をいただけるのはすごくありがたい副産物だと思っています。それはにっかり青江が僕にもたらしてくれたもの。この単騎出陣をコロナ禍でやる意味がある形として取り組めたのも、ファンの皆さんが人気作品に育ててくれた“刀ミュ”だったからだと思います。ひとり芝居はエゴイストになる可能性が高いものでもありましたし、やっぱり演劇は色んな化学反応を起こしながら作るエンターテインメントだなとも。良い化学変化を起こせるプレイヤーのひとりでいられるように、今足りていないと思うものを追求して高めていく旅を続けていきたいなと考えています」

 

インタビュー・文/片桐ユウ

 

※構成/月刊ローチケ編集部 1月15日号より転載

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【プロフィール】
荒木宏文
■アラキ ヒロフミ ’83年生まれ。兵庫県出身。ミュージカル『刀剣乱舞』をはじめ、数多くの舞台、ミュージカルに出演。