1930年代のアメリカを舞台に繰り広げられる、最高におしゃれで楽しい大人のミュージカル・コメディ『恋のすべて』。ある探偵のもとに「娘を恋に落としてくれ」という奇妙な依頼人が現れ、スウィンギングな一夜が始まる――。
稲垣吾郎作品ではおなじみの鈴木聡が作・演出を手掛ける最新作は、主演の稲垣のほか、花乃まりあ、石田ニコル、松田凌、北村岳子、羽場裕一ら個性豊かなキャスト陣が集結し、笑いとロマンティックに満ちた大人のエンターテインメントが描かれる。上演に先駆け、主演の稲垣吾郎に作品への想いを聞いた。
――作・演出の鈴木聡さんとは、今回で7作目のタッグとなりますね。
また鈴木さんとご一緒できるのはとてもうれしいですね。鈴木さんとのお芝居は、お仕事とはあまり思えないぐらい、とにかく「たのしい」の一言に尽きます。作品のテイストもですが、なんだか甘い夢の中にいるような感じで、非現実的な時間なんですよね。それは鈴木さんやバンドのメンバーのみなさんが醸し出してくれる空気もあるのかな。いつも「自分へのご褒美」みたいな感覚でやらせていただいているので、今回もたのしみですね。
――今回演じられるのは、ニック・テイラーという探偵の役ですが……。
実年齢よりも少し年下の役なんですが、人生のいろんなことを経験してきた中年男性で、でもまだなんかちょっとドキドキしていたいとか、心がゆらゆら動いてしまうところなどがコミカルに描かれているので、そういう部分が自分の心境とも合うように感じますね。なので、等身大の役ですよね。
――ご自身と似ていると感じる部分は多いですか?
当て書きで書いてくださっていることもあって、やはり似ている部分は多いと思います。僕は週に3回、生放送と収録でラジオをやらせてもらっているんですが、ラジオはテレビよりも「素」の部分がにじみ出てしまうので、隠せないところがある。そういう感じがこの役にもありますね。きっと、20年ずっと一緒にやってきた鈴木さんだからこそわかる「僕」なんでしょうね。グループ活動をしていた頃は、テレビで話したりするときなど、どうしても自分のポジションとかキャラクターみたいなものがあって、どこかで「そういう役割を演じていなきゃけない」というサービス精神があったりしましたけれど。あとは、物語がうねっていく中で、ニックは様々な「選択」をして生きていきますが、その選択の仕方であったり、状況の判断の仕方が似ていると感じますね。自分が曝け出されるようであんまり言いたくないですけど、そういうシリーズの作品ですからね。僕自身も成長しているし、年を重ねて時代と共に変化していますから、ニックは「今の僕」なんじゃないでしょうか。
――鈴木さんとお仕事をされるとき、ご自身のどんなところが引き出されていると感じますか?
僕の「調子の良さ」ですね(笑)。あと、意外とおしゃべりで、人ったらしなところとか。サイコパスなキャラクターや天才音楽家など、「ほんとは違うのになあ」と思うような、突出した人物を演じることが多いんですけど、鈴木さんは本当に僕の資質を、コミカルなところも含めてよくわかっていらっしゃるというか。すごく見られている感じはしますね。自分の言葉そのものみたいで、台詞を言うのが恥ずかしいですから。
――今回ご一緒する共演者の方々の印象はいかがでしょうか。
いろんな畑の方がいらっしゃっておもしろいですよね。これまでの「恋と音楽」シリーズでも、宝塚出身の方がヒロインを演じることは多かったんですが、僕のようにアイドルをやってきた人間がいたり、劇団四季で活躍されてこられた北村さんや、夢の遊眠社出身の、まさに演劇畑の羽場裕一さん、あとは2.5次元の舞台で活躍される若手の俳優さんがいたり……。皆さん、鈴木さんやラッパ屋(鈴木聡が主宰する劇団)さんの持つ世界観とはちょっと違うと思うんですが、だからこそ一緒になったときの融合感がおもしろいですよね。化学反応感と言いますか。それがこのシリーズの魅力だとも思いますし、演じていておもしろいですね。
――作品を彩る楽曲についても教えてください。1930年代のアメリカが舞台ということですが、やはりスウィング・ジャズのナンバーが多いのでしょうか。
そうですね、全体で20曲くらいあるんですが、スウィング・ジャズの楽曲もあります。北村岳子さんが歌うスウィングなんかとても素敵ですよ、ベニー・グッドマンの世界みたいで。軽快に歌って踊って。そこで僕ら男性陣がコーラスで歌ったりもして。今回の青柳(誠)さんの楽曲は、スウィング・ジャズではあるんですが、少し昭和歌謡っぽさがあると言いますか、美空ひばりさんとかが歌っていたようなジャズの雰囲気があるんですよ。そういった日本の昭和感とジャズが上手く結びついているという印象がありますね。他にも、ビル・エヴァンスのピアノのような綺麗なバラードの曲や、僕らが歌ってきたポップスみたいなナンバーがあったり、バラエティに富んだ素晴らしい曲が揃っていますね。
――最近、ドラマや映画などでも「恋愛」をテーマにした作品は以前より少なくなったと感じますが、稲垣さんからみて恋愛・ラブロマンスを描いた作品の魅力やおもしろさはどんなところに感じますか?
やっぱり、みんな恋はしていたいものなんじゃないでしょうか。恋をしているときって、バラ色じゃないですか。この「恋と音楽」というシリーズも“恋と音楽があれば人生バラ色”というテーマでずっとやってきているんですけど、恋がもたらすキラキラ感っていつになっても失いたくないものだし、そういうときって人は輝いて見えますから。
――恋への“憧れ”みたいなものが、深層心理にあるということでしょうか。
あると思います。今だと、韓国の恋愛ドラマとかもすごく流行っていますよね。現実的なことを描いた作品もそれはそれでおもしろいですけど、恋愛って普遍的なものですし、いつの時代でも「ドキドキしたい」という気持ちは、みなさん持ち合わせているんじゃないでしょうか。
――では、恋愛以外のテーマで今後演じてみたいものはありますか?
そうですねぇ……でも、恋愛の要素ってどんな物語にも絡んでくることが多いんですよね。物語の主軸ではなくても、登場人物の「想い」として、恋愛の描写がどこかに入ってきたり。この前、大正時代が舞台の、女性解放運動家が主人公のドラマを撮影して、すごくたのしかったんですよ。大正時代というと、まさに『恋のすべて』で描かれている時代と同時期だよね。あの時代が、なんだか自分にフィットする気がしていて。鈴木さんも、1930年代のアメリカに僕が合うってコメントしてくれているみたいですが、古き良き時代というか、ちょっと昔の時代設定の作品に出てみたいなという気持ちはありますね。草彅(剛)さんが出ていた大河ドラマもよく見ていましたし。時代物って、これまで僕もそんなにやってきていなかったりするので。でも、それに限らずいろんな作品に挑戦してみたいです。やってみたいものだらけですね。
――これからも幅広いフィールドでご活躍される姿をたのしみにしています。ありがとうございました!
取材・文/古内かほ
Photo/村上宗一郎
〈スタッフ〉
スタイリスト 細見佳代(ZEN creative)
ヘアメイク 金田順子(June)
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