双子の兄弟の数奇で切ない人生を描いたミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』は、1983年ロンドン・ウエストエンドでの初演以来、世界各国で上演され続けている不朽の名作だ。今春、日本初演のプロダクションにも参加していた吉田鋼太郎が演出、柿澤勇人とウエンツ瑛士の二人が双子を演じ、この名作に新たな風を吹き込む。上演に先駆け、ウエンツ瑛士に作品への意気込みを聞いた。
――出演が決まったときの率直なお気持ちからお聞かせください。
柿澤(勇人)くんと双子の役をやれる、という歓びと、プレッシャーからくる怖さの両方がありました。同年代でがっちり共演できる作品って意外と少ないんです。むしろ、同じ役を取り合う場合が多かったりするので……。こんなに向き合って一緒に組めることってなかなかないので、柿澤くんとの共演は楽しみと同時に、これが最後かもという哀しみもあります。
――これが最初で最後かも、という想いが。
そうですね。でも、そんなふうに感じられる役者さんってそういないので、貴重な存在ですよね。彼との共演は勉強になるだろうなと思っています。
――作品自体はご覧になられましたか?
まだ日本では見てないんです。柿澤くんはこの作品が好きで、舞台を6回観たと聞いているので、逆に僕はあんまり情報を入れない方がいいのかな、とも思っていて。
――真逆な状態のお二人が組むのもおもしろそうですね。
それが良い方向にいったらいいなと思いますね。
――今回は双子の兄弟の一人、エドワード(エディ)を演じられます。どんな人物だと捉えていますか?
役を演じるとき、いつも「この人は本当は何を思っていたんだろう」、ということをまず考えてしまうんです。今回演じるエディというキャラクターは、台本に綴られている部分だけを見ると、裕福な家庭に引き取られて、エリートコースを歩んで、豊かな環境で育ったからこその真っすぐさと正義感があって……という印象です。でも、そこだけではない、台本には書かれていない部分についても掘り下げたいと思っています。彼は血縁関係のない親に育てられていますが、「血の繋がりってなんだろう。そんなに大事なものなんだろうか?」ということも考えていきたいテーマですね。初演時の80年代と比べて、今はテクノロジーの発展で子供を授かる可能性や選択肢も広がりましたし、当時とはまた少し違った意味が見出されるのかな、と……。
――今の時代に上演されることの意義は、そういうところにもあるのかもしれませんね。
きっと、今観ると「ん?」っていう違和感はあると思うんです。以前はすっと流れて聞こえていたような台詞が、今聞くとひっかかることもあったり。格差社会の問題や、子供たちが置かれている状況も含めて、昔と今では感覚が違うと思いますし、そういう社会的な部分もぜひみなさんに見てもらいたいなと思います。
――演出を担う吉田鋼太郎さんについては、どんな印象をお持ちですか?
以前、鋼太郎さんと共演させていただいたときに、“リアル”と“お芝居”の両方をすごく大事にされている方なんだなと感じました。芝居上で起きていることだけではつまらないよね、という精神がある方ですね。演劇だから「エンタメ」としておもしろいものでなければいけない、という想いもすごく持っていらっしゃる。実際、鋼太郎さんが演出された『スルース~探偵~』を観たときも、おもしろさと心震える感情の両方が湧きあがりました。
――今回は双子の役ですが、今後、柿澤さんと演じてみたい役柄などはありますか?
一番最初に思い浮かんだのは、役柄関係なく、「素の二人で舞台に立ってみたい」。例えば、二人で歌ったり踊ったりするコンサートとか。普段の彼の素敵な部分が、もっとみんなに伝わる瞬間があったらいいな、って思うんですよね。役柄ではなく、彼自身がキラキラしている姿を横で見てみたいなあ、と。そういう姿を間近で見られたら役得だな、って。
――お二人のステージ、観たいと思われる方はたくさんいらっしゃると思いますよ!プライベートで印象に残っている柿澤さんとのエピソードは?
僕は彼の電話を無視することが多いんですよ(笑)。酔っぱらってかけてくることが多いので。
――そうなんですね(笑)。
そのまま無視し続けると、「これだけ電話したのに出てくれません!」って、(架電履歴の)スクショ画像をTwitterに投稿されるんですよ。そうすると、かっきーファンから「出てあげて!」っていう声がたくさん届いて(笑)。僕はそれを笑って受け入れてるからいいんですが、それを見た周りの大人たちが慌てていたのが忘れられないですね。
――周りがざわざわしてたんですね(笑)。
彼とは「(電話に)出たくないんだ」って言える関係性なので、こちらとしては全然大丈夫なんですけどね(笑)。そこで彼も落ち込むわけでもなく、スクショ画像をTwitterに載せて返してくる、っていうのが、僕にとっては一番信頼できる返し方なんですよ。そこで何も言ってくれない方が嫌だし。そういうところに、彼の愛情深さを感じるんですよね。周りはそうは思わないでしょうけど(笑)。そこは二人にしかわからない部分だと思いますし、そいう関係性を築ける相手がいることは幸せだな、って思いますね。
――ウエンツさんご自身についてもお聞かせください。2018年の秋から一年半、イギリスに留学をされましたが、ご自身の中で変化したと思われるところはりますか?
そうですね、良くも悪くも人って環境で変わるんだな、ってすごく思いました。この前、番組の収録で寺島しのぶさんにお会いしたんですが、しのぶさんが出演された『海辺のカフカ』のパリ公演を、留学中に観に行ったんです。そのときの僕の印象が全然違った、とおっしゃっていて。「向こうにいたときはもうちょっと大きく見えてかっこよかった」って(笑)。誰も自分のことを知っている人がいない、という環境で生活するなかで、自分ではわからない変化ってあったんだな、と思いましたね。そういう風に、環境によって自分自身も変わるんだ、って自覚できたことがよかったなと思いました。ただ、そういう変化が表に出せるまでには、もう少し時間がかかるのかな、とは思いますね。
――それでは最後に、お客様へメッセージをお願いします!
今回、キャストやスタッフの方々含め、素晴らしいメンバーが集まってくださったので、その中で演じられる歓びを噛みしめながら作品に挑みたいと思います。そして、お客様にたのしんでいただけることがカンパニー全員の想いですので、必ずやいい作品に仕上げて、これ以上ないというくらいの幸せをお届けいたします。ぜひ劇場に足をお運びいただけたらうれしいです。
インタビュー・文/古内かほ