『Ring of Keys』
ついにこの曲のことを書ける時が来ました!FUN HOMEいちの名曲『Ring of Keys』。
この曲は、本作が作品賞を受賞した2015年、トニー賞授賞式で披露されたことでFUN HOMEを代表する曲となりました。私もこの曲がきっかけでNYまで公演を観に行ってしまいました…。そんな、ものすごくパワーのある曲です。今回、中アリソンを演じる大原櫻子さんも、「トニー賞授賞式の中継でこの曲を聴き、心に刻まれていました。」とコメントしています。(大原櫻子さんのインタビューはこちら)
新聞を読む父、暇を持て余す小アリソン。ある日のダイナーでのそんな一コマからこのシーンは始まります。そして、次にダイナーのドアが開いた瞬間から、小アリソンは新しい一歩を踏み出すことになるのです。
入ってきたのは宅配の女性。ボーイッシュな格好をした彼女に、アリソンは一目で魅了されてしまいます。レズビアンでありながらも、そんな自分をとても堂々と表現している彼女を初めて見て感じた、言葉にならない感情を歌った歌がこの『Ring of Keys』なのです。
魅了されたといっても、恋なのかそれとも単なる憧れなのか、それはその人の捉え方によって変わってくるかもしれません。自分と同じ世界の人に初めて会った感動。その堂々とした姿勢、ショートヘア、ジーンズ、編み上げのブーツ、そのすべてから感じる魅力。一言に恋とは言えないとしても、小アリソンはもう完全に虜です。
この曲中で小アリソンが言葉に詰まる部分は、そんな虜な様子をよく表しています。本当に何かを感じた時は、それをうまく言葉にできないのでしょう。まだ幼い小アリソンにはさらに、合う言葉が見つからないのかもしれません。観客も、言葉ではない、内側から何かが湧きあがってくるような、なんだか魔法のような表現に、思わず魅入ってしまいます。
そして、この曲にもあります、「緩急」。以前「緩急」のついた表現をFUN HOMEの作品の特徴としてあげましたが、この代表曲にももちろんその表現は入ってきます。湧きあがる感情の中で、ふとその流れが止まる瞬間。熱い鉄が冷めた時に固くなるように、より感情が強くなる瞬間。そんなものが、曲の構成として、そして、小アリソンの表現力の中に隠されているような気がします。
よく、ミュージカルは突然歌いだすから苦手だ、歌わなくていいじゃないか、という意見を聞くことがあります。しかしこの曲を聴けば、歌にすることがどれだけ感情を表現するのに適しているかが分かるでしょう。だってこの感情、果たしてあなたは台詞にできますか?
とにかく一度見ていただければわかります!小アリソンの表現の豊かさ、迫力、あふれ出る感情の波を、是非とも劇場でお楽しみあれ!
※子供時代のアリソン=小アリソン、大学時代のアリソン=中アリソン、大人のアリソン=大アリソン
文/ローチケ演劇部員(有)