1967年公開の同名ミュージカル映画を原作に、約30年を経て楽曲などをほぼ一新して舞台化が実現した、ブロードウェイ・ミュージカル『モダン・ミリー』。2002年トニー賞では作品賞を始め計6部門で受賞するなど、大ヒットを果たしたこの作品がいよいよ日本で上演される。
本来なら2020年に上演を予定していたが、新型コロナウイルス感染症による“緊急事態宣言”の影響で開幕直前に中止を余儀なくされた本作、ここで満を持しての待望の上演が叶うこととなる。
主人公のミリーを演じるのは、宝塚歌劇団在籍時は宙組のトップスターを務め、2017年に退団後は『マイ・フェア・レディ』や『Little Women -若草物語-』など話題作で主演を重ねて活躍中の朝夏まなと。ミリーと偶然の出会いを繰り返していくうち、彼女に惹かれていくジミー役には、俳優・ダンサー・アーティストとして活動、今年は『ピアフ』にマルセル・セルダン役で初参加して注目を集めた中河内雅貴、ミリーと同じホテルに下宿して親友となるドロシー役には、宝塚歌劇団在団中は宙組トップ娘役として朝夏とコンビを組み、今年は『ラ・マンチャの男』でアントニアを演じた実咲凜音が扮するほか、メインキャストでは廣瀬友祐、保坂知寿、一路真輝といった、二年前と同じ顔ぶれが揃うこともうれしい。
朝夏と中河内と実咲の三人に、作品への想いや見どころなどを語ってもらった。
――二年ぶりの再集合ですね。二年前に初日直前で中止になってしまった時のことを振り返ると、どんなお気持ちだったのでしょうか。
朝夏 稽古中からなんとかして幕を開けたいと思っていたのに、中止になってしまって。舞台が止まるということが現実に起こるとは、当時は思っていなかったんですよね。それが今では当たり前に感じるようになってきていることも、それはそれで怖いなと思いますけれど。あの時は「舞台が止まるって何、どういうこと?」って思っていました。仕事がなくなるなんて、と怖かったですし、稽古期間も終えて、みんなのチームワークでひとつの作品に立ち向かい、作品に取り組んでいる最中だったのに、役として生きるみんなを深く知る前にさよならをしなければならなかったんです。
実咲 しかも、直接会ってお互いにさよならを言うことすらできなかった。
朝夏 本当に悲しかったし、切なかったけれど、仕方ないという気持ちもどこかにありました。だって、命に関わることでしたから。それでもやはり、しばらくは立ち直れなかったです。気持ちを持っていくところがどこにもなくて、悶々としていました。
中河内 僕も、ああいう形での公演中止というのは初めての経験でした。複雑な感情が入り混じって、これからどう生きていけばいいんだろう、って思っていましたね。しかも僕らの仕事は、当時の風潮としては社会的立場が高くないところに立たされていたようにも思えて、とても悔しかったし、それをどうにもできない自分にはがゆさを感じてもがく日々でした。だけど、この作品はまたいつかできる日がきっと来るだろうという漠然とした希望を抱いてもいました。そして二年経った今、こうして上演できることになった喜びは、ちょっと言葉では表せられないくらいにうれしいですし、あの時の悲しい気持ちを越えるくらいにワクワクしている実感があります。
実咲 私も一緒で、先ほど、まぁさま(朝夏)がおっしゃったみたいに、2020年の4月は「本当に舞台ってなくなるんだ、こんなことが起こるんだ!」と驚きましたし、ショックでした。だけどどこかで「仕方ない」と自分に言い聞かせているような部分もありました。それでももう一度上演できるだろうという確信があったというか、きっとどこかで絶対にできるはず!と祈っていて。その希望があったからこそ、待っていられたという感覚もあります。約二年でこうして上演できるのは早いほうだと思いますし、本当に良かったなあという想いが、今は一番大きいですね。
――前回の稽古で、ご自身の役づくりに関して苦労したところや、演出の小林香さんからいただいて印象深かった言葉などがあれば教えてください。
朝夏 ミリーは元気で大胆で、玉の輿に乗ることを目指し、そして女性の道を切り開くという目標を持って田舎町からニューヨークに出て来るのですが、私も佐賀から宝塚を経由して、東京に出て来たわけなので、ちょっとかぶる部分もあるなあと思っていたんです。でもいざ実際に役を演じてみると、これがちょっとつかみどころがなくて難しくて。それに意外とオトボケなんですよ、ミリーって。お茶目で、ちょっと天然も入っていて。思ったことを何でも口にしちゃう、みたいなところがある。その可愛さ、お茶目さを、どうやって出そうかなという点ではとても悩みました。結局、その答えはハッキリとつかめぬままだったんですが、今回上演するにあたってまた改めて台本を読むと、なんだか前回よりも想像がぶわーっと広がった気がしたんです。あの当時から二年の間に、いろいろなことを経験させてもらえたからでしょうか、本を読んだ時点で、前回よりもミリーという役がふくらませそうだという手応えを感じられて。ですから今回は、いい意味で前回の稽古は忘れて、それでも自分に残っているもの、プラス今回は香さんも「もっと面白くする!」とおっしゃっていましたので、新たな演出も受けつつ、いろいろなアイデアを出していけたらいいなと思っています。香さんからは「まぁちゃんがミリーを好きにならないと、ミリーは演じられないよね」みたいなことを、ぼそっと言ってもらった記憶もあって。やっぱり好きになるための材料が前回はちょっと少なかったようにも思えるので、今回はさらにさらに深いところまで掘り下げてやってみたいなと思っています。
中河内 僕の前回の反省点としては、ちょっとマジメなジミーに作り過ぎたかなという思いがありまして。それも悪いことではないんですけどね。この作品、根底はコメディミュージカルなのですが、僕は台本をもらって読んだ時点で自分の役にはコメディの要素はいらないかも?と思ったので、あまりコメディ要素は入れて演じていなかったんです。役どころとストーリーの流れ的に、それほどコメディタッチで演じるような役ではないので、それは正解といえば正解なんですけど・・・。だけど、全部をただただバシッと正面から受けるばかりではなく、時には軽く受けたり、もっとキャッチャーミットを大きくしたり、できるんじゃないのかなって、この二年の月日を経て気づいたんです。あの時出来なかったことはなんだろうと思い返す時もありますし、あれからの経験を踏まえて自分の受け皿も引き出しも多くなっていたら、相手の方もきっと変わるんだろうし。あと、やっぱりアメリカのギャグって日本語にした時に伝わりづらいし、演じづらいところがあるので、そこをいかに落としこむかも課題です。もちろん与えられた台本で演じなければなりませんが、今回はまたどういうアプローチで挑もうか、と。そこは自分ひとりではなく、ちゃんと演出の小林さんと相談しながらいいアイデアを出し合って作っていきたいですね。
実咲 小林香さんのお稽古場は、役者を自由にさせてくださるというか、やってみたい方向性を見せるとそれを的確にジャッジしてくださる感じだった覚えがあります。私が演じるドロシーの役柄としては、裕福な育ちのお嬢様なのですが、これがふだんの自分とは違い過ぎて(笑)。ふだんの私はすぐ早口になっちゃうし、ドロシーのイメージからは遠いんです。それで前回の時にはお嬢様だからもっとゆったりしゃべったほうがいいかなという感覚でやっていたんですね。ですが、この間残っていた稽古中の動画を見たら「もうちょっとここは、反応を大きくしたほうがいいぞ!」とか、思うところがいろいろあって。そう考えると、今回改めて演じることによって二年前よりもより良いものをお届け出来るのかもしれない、とポジティブに捉えられたんです。自分なりにも「ここはもっとこうしたい」と、お稽古場で香さんにどんどん相談していけるよう、今回のお稽古場ではやってみたいと思っています!
――中河内さんがオフィシャルコメントでも触れられていましたが、今回は楽曲がとても良いと。言葉にするのは難しいかと思いますが、たとえばどのような音楽なのかということやお好きな曲など、ヒントを教えていただけますか。
中河内 まずオーバーチュア、最初の幕開きの曲は、まるでテーマパークか何かに来たかのような気持ちが高揚する曲なんですよ。
実咲 すごく、ワクワクしますよね!
朝夏 うん、わかります!
中河内 あの音楽を聴くと「あ~、ブロードウェイ・ミュージカルが始まる~!」って、実感できるんです。それは稽古場で聴いている時から、思っていました。あと、訳詞が素晴らしくて、僕とミリーが一緒に歌う曲があるんですが、それが今でも気づいたら口ずさんだりしているくらい、印象に残るいい曲なんですよ。それを今回、どこまでうまく歌えるかわからないですけど(笑)。とにかく、耳にも、心にも残る楽曲になっています。
朝夏 名言、出た!(笑) 「耳にも、心にも残る楽曲」!
実咲 うん、素晴らしい!(笑)
朝夏 確かに、メロディーラインが、どの曲も綺麗ですよね。私たち、前回は生バンドと音を合わせることが一度もできなかったので。バンドのオケで聴けるというのもすごく楽しみなんです。
実咲 確かに、そうでしたね。私が覚えているのは、まぁさまと一緒に歌っていた、初めの曲…。
朝夏 ああ、可愛いデュエットの曲ね。
実咲 お互いに言っていることが。
朝夏 噛み合っているようで、噛み合っていないという(笑)。あれも新鮮でしたね。同じキーの曲を私たち二人が歌っているというのが。
実咲 そうなんですよ。あの曲もキャッチ―な感じでしたし、まぁさまのソロの曲も、とってもいい歌で。
朝夏 ジミーを想って歌う曲ね。
中河内 ああ、あれは難しそうだよなあ。
実咲 すごく素敵で、メロディーラインが綺麗だなーと思いながら、いつも聴いていました。
朝夏 それこそディズニーのようなスケール感があって、ロマンティックかつ美しい曲なんです。
――では最後に、お客様に「ここは絶対に見逃さないでほしい!」という見どころポイントを挙げるとしたら、どんなところですか。
朝夏 見逃さないでほしいところ、しかないです!(笑)
一同 (笑)。
中河内 まぁちゃんは、特に出ずっぱりだしね。
朝夏 そうでしたっけ?
実咲 そうですよ、頭からずーっと出てます(笑)。
中河内 どのシーンにもいますもん。
朝夏 そうか(笑)。私、前回は中止になる直前、劇場で舞台セットを組んでいるところまでは見ていたんです。つまり、稽古場では二段目までしか実際にはなかった舞台装置が、劇場では三階建てのセットになっていて。その一階から三階まで上るという動きをつけられている場面があるものですから、あのセットを見た時に私は正直、「これか~!」としみじみして。
中河内 しかもあの時、一番上に立ってみましたよね。
朝夏 立ちました、めちゃめちゃ高かった!
中河内 マジか!って思いました。
実咲 毎日、トレーニングができますよ(笑)。
朝夏 まさに。ちょっと今回、さらに走り込んでから臨みたいと思います(笑)。
一同 (笑)。
朝夏 というくらい、ハードな稽古だったかもしれないと思い出してきました。
中河内 いや、めっちゃハードだったと思いますよ。
実咲 「これまでで一番ハードかも?」っておっしゃっていた気もしますよ。いや、『Little Women -若草物語-』が一番ハードって言ってたのかな。
朝夏 そうね、本当に『Little Women -若草物語-』はハードだったんだけど『モダン・ミリー』はまだ本番を一度もやっていないわけですから、今回で一番を抜いてしまうかもしれません。だって、ダンスナンバーもいっぱいあるから。
中河内 そうだね、まぁちゃんはダンスシーンが多いね。
朝夏 しかもここ最近は、ストレートプレイをやっていてダンスはやっていなかったので。でも舞台で踊れるというのは、やっぱりすごくうれしい。
実咲 長くて美しい手足を、存分に披露してください!
中河内 うんうん!
朝夏 しかも、中河内さんととても素敵なデュエットを踊らせていただきますし。「フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのような」って、台本に書いてありましたから、ね。
中河内 しかも、それを歌って踊る場所が、まさにその三階で。
朝夏 ちょっと、未知の世界よね!
中河内 素敵なシーンであることは間違いないので、そこも見どころのひとつなのかな。ちょっと怖いかもしれないけど。
朝夏 怖いと思う。
――本番になると、怖くないのかもしれない?
中河内 そうですね、たぶん。
朝夏 アドレナリン、出ちゃうから(笑)。
一同 (笑)。
朝夏 (実咲に)ほら、見どころは?
実咲 ハッ、私、人の話を聞いていて、すっかり自分も見どころを語った気になってました(笑)。
朝夏 (廣瀬演じる)グレイドンとの、スーパーダンスじゃない?
中河内 うんうん。
実咲 たくさん踊りますからね。久々です、あんなに踊るのは。リフトして、ぐるぐる回転して。
朝夏 アクロバティックな、デュエットダンス。
実咲 ……鍛えておきます!
朝夏 そう、みんな揃って、しっかり鍛えて臨む作品です! がんばります!!(笑)
(取材・文 田中里津子)