1992年に放送され、カルト的な人気を誇ったテレビドラマ『NIGHT HEAD』が、新しいキャラクターを加え、2021年にオリジナルテレビアニメ『NIGHT HEAD 2041』として蘇り、それを原作とした舞台『NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-』が、2022年7月1日（金）よりシアターＧロッソにて上演される。超能力をもったゆえに壮絶な人生を歩むことになる霧原兄弟と黒木兄弟の愛憎入り乱れる関係を中心とした世界の「破壊」と「再生」の物語が描かれる。そんな舞台で、黒木兄弟の弟である黒木ユウヤを佐奈宏紀と矢部昌暉（DISH//）がダブルキャストで演じる。そこで今回は、彼らにインタビューを敢行し、黒木ユウヤを演じることへの熱い想いを聞いた。
黒木ユウヤは可愛い“弟気質”の子で、あたり構わず吠えるチワワのよう
――原作のオリジナルテレビアニメをご覧になった感想を聞かせてください。
佐奈 アニメや小説の原作であるテレビドラマ『NIGHT HEAD』（1992年）はかなり前の作品なのに、SFの濃度と物語の斬新さは現在の多くのSF作品に比べても遜色がないですよね。アニメを観る前にノベライズされた素晴らしい小説を読んでいたのですが、小説に必要な状況説明が可能な限り省かれ、台詞だけで物語が進行していく形式になったのは、ドラマの脚本に強く影響を受けていると感じましたし、ドラマの魅力を抽出したアニメも同様で、今どきの絵で立体感があって、それがアクションのシーンにも活かされ、東京の渋谷で繰り広げられるラストバトルはカッコよくて面白かったです。
矢部 超能力バトルは、みなさん大好きだと思うし、アニメの1話目から引き込まれて、あっという間に観終わってしまいました。この世界観をどうやって舞台に再現するのか考えるだけでワクワクしています。
――脚本を読まれた感想を聞かせてください。
佐奈 主演の霧原兄弟の兄である直人は、猪野（広樹）さんと鍵本（輝）さんがダブルキャストで演じ、コンビを組む弟の直也は横田（龍儀）さんと大崎（捺希）さんがダブルキャストで演じるという豪華な布陣ですが、彼らだけではなく、僕と矢部（昌暉）くんが演じる黒木ユウヤと黒木タクヤの黒木兄弟も霧原兄弟と同じぐらいきちんと物語に組み込まれている大事な役なので、ユウヤを演じる僕にとってやりがいのある脚本だと思いました。
矢部 アニメの世界を取捨選択しながら、舞台用に設定を変えてお客様にとってわかりやすい脚本になっていると思います。そこから僕たちのお芝居やアクション、そしてダイナミックな映像を織り交ぜながら、誰にでも感動していただける舞台版『NIGHT HEAD 2041』の世界を作っていきたいです。
――おふたりが演じる黒木ユウヤはどんな人物だと思いますか。
佐奈 可愛い“弟気質”の子で、あたり構わず吠えるチワワのようですね（笑）。
矢部 たしかに（笑）。
佐奈 可愛らしさ以外にもどんな困難に直面しても強がっているキャラクターであることも、ユウヤを理解する上で大事なポイントだと思います。
矢部 ユウヤと彼の兄である黒木タクヤたちは幼い頃に両親を亡くし、ユウヤが頼れるのはお兄ちゃんのタクヤしかいない。ユウヤの言動を聞いたり、行動を見ていると、お兄ちゃんのことがとても好きだと感じますし、台詞にも「兄貴」というパワーワードが多く散りばめられていて、黒木タクヤの存在は彼にとって本当に大切です。なので、タクヤと一緒の時とそれ以外の人物といる時のユウヤの違いを演じ分けなければいけないと思っています。
――では、ユウヤにとって兄のタクヤはどのような存在だと思いますか。
佐奈 やはり唯一の家族ですから、タクヤはユウヤが強がっていることや戸惑っていることもすべて理解している。でも実は、ユウヤもタクヤが頑張って場を和ませようとおどけたり、ユウヤを元気づけようとしているのもお見通しだと思っています。そういう極太な兄弟の絆が根元にあるので、喋らなくてもお互いのことが分かる親密な関係を築き上げれば、原作の世界観を忠実に再現できるようになると思います。
矢部 佐奈くんがおっしゃった通りで、ユウヤにとっては、タクヤが親代わりなので、タクヤはお母さんみたいにお節介を焼くし、お父さんのように「少し後ろに下がっていろ」と命令したりもする。「あたり構わず吠えるチワワ」というワードも出ましたが、ユウヤは思春期真っ只中の息子で、タクヤは彼の親のような存在だと思います。
――ここまでの稽古を踏まえて、どのように演じてみようと思いますか。
佐奈 僕の場合は、ユウヤを僕ひとりで作ってしまうより、タクヤを演じる方々と一緒に作っていくことが大切だと思っています。黒木兄弟の結びつきの強さが重要なお話でもあるので、どんな兄弟かというのを先に固めないと物語が機能しないような気がするからです。そこから霧原兄弟と黒木兄弟の関係性を浮き彫りにして本作の物語のダイナミックなうねりをお見せできるように演じたいです。
矢部 これからの稽古次第ですが、アニメのキャラクターの設定を頭に入れつつ、それに囚われないように稽古場で僕の兄貴役になる（木原）瑠生くんと役を作り上げてお芝居をしたいと思います。
佐奈 それにしても、昨日稽古をしたラストシーンはとても素敵だったよね。
矢部 そうですね。いきなりラストシーンから演じましたが本当に綺麗でした。お客様にとってもラストシーンは見どころだと思います。
――おふたりは同役のダブルキャストですが、どのように差を出したいと思いますか。
佐奈 稽古をしていけば自然と僕らしいユウヤが滲み出てくると思います。まだ稽古の初期の段階なので、最初のうちは、お互いの役の情報をカンパニーのみなさんと共有して、それをベースに役を固めていきながら、自分らしい役になじませていく。先ほども言ったようにタクヤの存在も意識しながら、ダブルキャストの相手は同年代の矢部くんなので、なんでも話せるし、助け合いながら、お互いの個性の出せるユウヤを演じられたら嬉しいです。
矢部 ダブルキャストだと、俯瞰で自分の役を見ることができる瞬間があるので、佐奈くんが演じている時は周りがどう動いているのか、僕であればどうすればシーンを盛り上げられるのか、あらゆる可能性を探りながら、これからの稽古で役について理解を深め、僕らしいユウヤを演じたいです。今作に限らず、ダブルキャストの時は、稽古の最初のうちは、俯瞰で役を眺めます。次第に自分の中で役が固まっていけば、ダブルキャストの方のお芝居に引っ張られないように、僕の演技が辿るはずの一本道を歩いていこうと意識します。
――黒木兄弟と対をなす霧原兄弟とはどんな関係を築きたいですか。
佐奈 彼らって見ているともどかしいですよね。思わず「つべこべ言わず仲良くしろ」と声をかけたくなる兄弟で……まるで夫婦というか一種の恋愛関係を築いていて（笑）。
矢部 わかります（笑）。
佐奈 お客様にも、彼らのもどかしさを伝えられたら、黒木兄弟との関係性も如実になっていく気がします。近いけれど圧倒的に遠くて絶対に交わらないはずなのに、実は一本の線で繋がっている。お互いが反駁し合うような思想が2組の兄弟には植えつけられているのに、次第にどちらも放って置けなくなって、絶対に切れない縁があることを理解し合う必然性をお客様にお見せしたいです。そのためには、2組の兄弟にあるそれぞれの個性を理解して差別化できるようになりたいと思います。
矢部 稽古以外の時間でもどれだけ霧原兄弟を演じる方達とコミュニケーションが取れるかで作品は大きく変わってくると思っています。普段から積極的にカンパニーのみなさんとコミュニケーションを取ることを心がけたいです。
――それでは、最後にお客様にメッセージをお願いいたします。
矢部 シアターＧロッソという大きな劇場で映像を使い、超能力を駆使したアクションがたくさんあるので、見た目も派手だし、物語も兄弟の絆をしっかりと描いていてお客様を少しも飽きさせないので、本番を楽しみにしていただきたいです。
佐奈 ここまで僕らの対談を読んでいただきありがとうございます（笑）。今作は2チームに分かれて、主要なキャストはダブルキャストになっています。僕は「TEAM WHITE」ですが、稽古場では別のチームである「TEAM BLACK」の霧原兄弟とも稽古をしていることが多い状況で、それは作品を作る上で大切なことですし、ひとりでは辿り着けない役の解釈や感情にどんどん近づいている気がします。アクションの迫力も目を見張ると思いますが、実は、物語の密度も濃くて、さまざまな人物の複雑な感情が舞台から醸し出されるので、濃厚な人間ドラマも楽しんでください。
■プロフィール
佐奈宏紀（さな・ひろき）
1997年2月25日生まれ、愛知県出身。主な出演作品には、テレビドラマ『CODE1515』や『闇芝居（生）』、『戦国炒飯TV』などがあり、舞台には、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン、『銀牙-流れ星 銀-』シリーズ（主演）、『「BANANA FISH」The Stage』、『Paradox Live on Stage』（主演）などがある。
■プロフィール
矢部昌暉（やべ・まさき）
1998年1月9日生まれ、東京都出身。ダンス・ロックバンドDISH//のメンバー。主な出演作品には、映画『恋と嘘』や『あの空の向こうに』、テレビドラマ『オトナ女子』や『FAKE MOTION -卓球の王将-』などがあり、舞台には『池袋ウエストゲートパーク』『暁のヨナ』シリーズ、『青山オペレッタ THE STAGE』『天才てれびくん the STAGE ～バック・トゥ・ザ・ジャングル～』『不安の倒し方について』、ミュージカル『ジェイミー』などがある。
取材・文：竹下力
撮影：友澤綾乃
