エン*ゲキ #06 即興音楽舞踏劇『砂の城』│中山優馬&池田純矢、大阪・取材会レポート!

2022.10.03

中山優馬&池田純矢 “即興音楽舞踏劇”という世界的にも類をみない新たな挑戦に挑む、若き2つの才能!

「今作は“究極の偽物”になれると思っています。全33公演、33通りのストーリーをお届けします」(池田純矢:写真右)
「即興で歌うからこそ、自分の感情を最大限に乗せることができる」(中山優馬:写真左)

大阪出身の俳優・池田純矢が作・演出を手掛けるエン*ゲキシリーズの第6弾は、即興音楽舞踏劇『砂の城』。 最新作では、実力派俳優たちが感情で歌を紡ぎ、演劇と人間が持つ力を問いかける“即興音楽舞踏劇”に挑戦。主演は、高い歌唱力とキレのあるダンスに加え、繊細かつ力強さのある演技力で高い評価を得ている中山優馬。 共演には、岐洲匠、夏川アサ、野島健児、池田純矢、鈴木勝吾、さらに升毅といった華と実力を兼ねそろえた多彩な顔ぶれが集結する。大阪は、11月3日(木・祝)~13日(日)までABC ホールで14公演。東京は、10月15日(土)~30日(日)まで19公演を予定。上演に先駆け、9月30日(金)に大阪のカンテレ本社にて、主演の中山優馬と、作・演出・出演の池田純矢の囲み会見取材会が行われた。

会見冒頭、中山は「今回、“即興音楽舞踏劇”ということで、みなさんの頭の中にも‘?’がたくさん出ていることと思います。(大阪だけで)全14公演。大阪ではなかなか経験のない数をやらせていただくということで、お力添えをお願いします」とかしこまって挨拶。

対照的に「ジャニーズ事務所に入りたかったよ~。池田純矢です!」とニヤリと笑って場を和ませる池田。続けて、「作・演出。そして今回も出演しています。“即興音楽舞踏劇”ってなんじゃこりゃ?ってことなんですけど。ストレートプレイ、ミュージカル、歌舞伎、いろんなジャンルがありますが、今回は、演劇の手法として新しいジャンルで勝負しようという作品です。即興で歌い踊るので、1秒後にはその動きはなくなります。舞台公演の儚さ美しさ、粋を極めるという。昼公演と夜公演でガラッと変わりますし、東京・大阪、全33公演なので、33通りのストーリーが繰り広げられます。なかなかない試みだと思います」と自信をのぞかせた。

エン*ゲキシリーズは毎回テーマが決まっており、今回のテーマは“即興音楽舞踏劇”。「―僕等は、間違いを犯した―。」というキャッチコピーがついている。その内容について、池田は「物語は、小高い丘に大木が1本。主人公のテオの亡骸がそこにある、というところから始まります。自ら命を絶ったテオ、そこにいたるまで彼がどう生きたか、を描きます。これまでの作品に比べると、かなりエッジが効いた、ソリッドな、とがった作品になっています。というのも、今回、いろんな挑戦をしています。今回の脚本は、自分の中のプライベートな、インナーな部分を描いています。今までは出すことがなかった、恥ずかしい、汚い、醜い、と思った部分を含めて。今、これをしないと前に進めない、やるしかないと思ったんです。今までは、いわゆるエンターテインメント、笑って、楽しめて、ほろりと泣けてハッピーエンド、という作品を作ってきました。今回はあえて芸術作品と呼ばれるような、そういう方面でも勝負したいと思ったんです」と熱く語った。

なぜ、自分の内面をさらけ出さないと前に進めないと思ったのか、という突っ込んだ質問が飛ぶと、池田は「2年半ぐらい前に人生のターニングポイントを迎えまして。今まで15・6年やってきたことが、いったいなんだったんだろうと思った瞬間があって。憧れの先輩方はたくさんいて、歴戦の先輩方に並びたい…じゃなくて超えたい。今自分が世界一になれることは、自分の感情しかないと。いろんなことがあり、自分のすべてをオブラートに包まず、ありのまま、苦しみも喜びも、本当の感情で描きたいと思ったのがきっかけです。過去の自分と決別し、許し、新たな第一歩となる作品にしたいと思っています」と告白した。

一方の中山は「センシティブな問題、本質的な部分、セクシャルな部分、今までの池田純矢作品とは違った部分を描いています。今までの池田純矢作品、僕が見せてもらった中では、2時間のエンターテインメント、ストーリー展開がしっかりあって、どちらかというと楽しませてもらえる、という印象でした。今回はそれに比べるとエンターテインメント要素が少なく感じました。よりストーリー、キャラクターに寄った作品だなと。ですが、ある架空の国という設定やキャラ造形に関しては、池田純矢らしいという印象です」と池田純矢作品に関する造詣の深さをうかがわせる発言を。

というのも、中山と池田は映画での共演を経て、プライベートでも仲良し。役者同士としての共演とは異なり、今回は演出家と役者として向き合っているわけだが、それについて中山は「稽古場にいても、演出家、作家、役者いろんな顔があって、全然違う脳の働きによるアプローチをしているので、やっぱり才能やなと。演出面では、プレイヤーもやっているので、僕ら役者の気持ちもわかるからこその間の取り方、言葉の選び方をしてくれているなと感じます」と尊敬の念を。この“待つ演出法”について池田は「毎作品演出方法が変わるのですが、今回は物語的に、役者が本心でいないと薄っぺらくなってしまうので、できる限り役者本人が役の核をつかんで欲しいと思っているんです。僕はヒントやきっかけをお渡しして、役者さんから生まれるのをひたすら待っています」と解説した。

エン*ゲキシリーズは、作・演出・出演だけでなく、池田がキャスティングから関わっているといい、今回のキャスティングについて池田は「2年ぐらい前に 優馬と2人でご飯を食べている時に、一緒に作品作りをしたいねという話になって。もしやるとしたらどういうものか、話し合ったんです。2人の共通項としては『プロたるもの、常に80点以上出さないといけない。全体を通して、成功点以上出せるようにしないといけない』という部分でした。だからこそ『120点も出せば、0点も出すみたいな俳優は、うらやましいね』と。そんな僕たちが120点出すには即興しかない!と。難しいし、恥ずかしさもあるけど、僕らだからこそ、即興が売り物になる、ハイクオリティな作品を生み出せると思ったんです」と作品誕生の秘話を明かした。

加えて「優馬の素顔を知っているからこそ、他の演出家が拾えない部分を拾えるのが、演出家としての強みですね。どんな突飛なことを言っても、優馬はまず『はい』と言ってやるんです。それはすごくありがたいことで。その上でとてもセンスが光る。こんなにいい俳優はなかなかいないです。間違いなく、演劇界を背負っていく俳優になりますし、僕も演劇界を背負っていきたいと思っています」と絶賛。

それを受けて中山は「演出を受けている時は、1キャストと演出家という立ち位置で接しています。でも純矢君はプレイヤーとしても出演するので。誰よりも悩んでますね(笑)」と、にんまり。

「難しいですよ、誰も演出してくれないから。相談乗ってよ、役者として!」と懇願する池田に、中山は「一人で悩んでください!」とあっさり塩対応で、会見場の笑いを誘った。

さて、“即興音楽舞踏劇”とは、どこまでが即興で、どんな稽古や準備をしているのか気になるところ。それについて池田は、「基本的に歌は、コード伴奏があって、アレンジの音色があって、メロディーがあって成立していますが、今回は旋律を作っていません。テンポも流動的です。ピアノの生演奏なので、歌にピアノが合わせる場合も、ピアノに歌を合わせる場合もあります。歌詞もただのガイドで変わってもいいと思っています。といっても、そんなこと、実現可能なのか?と思われると思います。それを実現可能にするシステムを考えて、今、可能な状態になっています。音楽が変われば、踊りも変わります。メロディーや歌詞が毎回変わるので、即興じゃないと踊れない。ならば、どうすれば、即興で踊ることができるのか、のルールを作ってお渡ししました。数学的、システマティックに考えるのが好きなので。稽古に関しては、こっちにいけば行き止まり、いけないルートを見つけるための、即興をするための稽古をしています」と解説。

続いて中山が「音楽に関しては基本のコードはあるので、その中でどう自由に動かすのか。即興をする中でそのコードからはみ出しそうになった時は、ピアニストの方がついてきてくれたり、という綱渡りをずっとやり続けています。すごく危険なことなので、稽古場では失敗はありますが、失敗しなかった時のパワフルさ、集まったときのすごさはあるなと感じています」と補足した。

即興で演じるにはかなり難易度が高いと思われる今回の作品について、中山は「今までとはまったく違ったアプローチです。今まではどれだけ音を正確に取っていくか稽古したうえで、どこでニュアンスを入れるのか稽古していました。ですが、今回の稽古は自分の中から生まれるもの、ニュアンスはもうすでに入っている上でルールの中で音を入れていきます。結果、自分の気持ちが一番乗っているものが出せるんです」と前向きにとらえている様子。池田も「音楽に俳優が寄っていかないといけなかったところ、今回は俳優が自由に一番気持ちのいい得意な音で歌えるので、より感情が乗せられるんです。これをやることで、歌とダンス、芝居、全セクションの稽古が一緒にできるんです。音楽待ちもないですし、振付師はモチーフを渡すだけです。俳優はただただ役作りをすればいい。歌練習もいらないんです。だから、とても速いスピードでできあがってきています。まさにニュージャンルですね。ほかの作家さんもマネしたくなると思います!」と笑顔を見せた。

稽古が始まる前は不安な様子も見せていたという中山だが「一番不安だったのはもちろん即興の部分でしたが、ルールができたことによって、大海原に漕ぎ出すときに、果てしない航海にならないように、途中地点にブイをおいてもらったような。それが、ある音だったり、合わせる1小節だったり。命綱となる地点があるので、みんなと一緒の方向に向かっていけるんです。ブイが見えている状態であれば、どれだけ離れても戻ることができる。アドリブではなく即興として成立させ、クオリティを守ることができる。そういうところが見えてきたので安心しました。全体像が見えてきました」と語りながら落ちついた表情をのぞかせていた。

続けて池田が「偽物だからこそ、真ん中に置くべきは本物の感情であるべきです。僕は、偽物が本物を超える瞬間を観たいんです。今作は“究極の偽物”になれると思っています。優馬は間違いなく80点以上出してくれる俳優ですが、今回はいい意味で危うい芝居に変わりました。瞬間瞬間を生きる俳優、大人の俳優になって、大きな武器を手に入れたと思います」と本作の本質を語った。

また、池田の脚本は早く上がることに定評があるが、「今回は改稿に改稿を重ねました。これが書けたのはみんなのおかげです。書いている時はひとりぼっちで。さらけ出して思い出す作業がしんどくて。でもまだちょっとかっこつけて装っている部分があったんですよね。それをみんなが指摘してくれました。鈴木勝吾には「上手く書けてるね」って言われて「ミスった」と思いました。升(毅)さんには『若いんだからもっと書きたいように書いたらいい』と言ってもらい、まだ言い訳しようとしていた自分と向き合うことができました」とカンパニーへの思いも明かした。

さて、そろって大阪出身の中山と池田。大阪で公演することに対して池田は「大阪公演など地方公演で休演日があるなんて、珍しいですよね。北新地!って思いました(笑)。優馬をお気に入りのてんぷら屋さんに連れていきます」と宣言。中山は「地元が大阪なので、大阪公演には特別な思い入れがあります。14公演という回数、そうそうできることではないですし、気合も入ります。大阪のお客様は笑いに対して厳しいところはありますが (笑) 。このご時世、舞台公演をすること自体に議論があると思いますが、大阪公演を含め地方公演では、せっかく払うお金と時間に対して、精一杯楽しもう!と来ていただいているお客様が多いように思います。せっかく払っていただく時間とお金以上のものをお見せしたいと思います。そして、てんぷら屋さんにも連れていってもらって、時間があれば、純矢君を実家にご招待したいと思います (笑) 」と笑いを交えつつ、真摯な思いを語ってくれた。

最後に「舞台作品は役者だけではなにもできません。セット、照明、音楽、衣装、いろんな要素、いろんなスタッフの方がいて、さらにお客様に見ていただいて完成するものです。今、この苦しい時を共有する意味のある時間と力を提供する作品になるよう、新たな挑戦を見届けていただけたらと思います」と中山。

「今はこの舞台のことしか考えられないくらい必死です。でもすごく心地よくて気持ちよくて幸せな稽古場です。ここに至るまでに、いろんな思いがありましたが、みんなが力を貸してくれて支えてくれて。ひとりでできることなんてたかがしれています。みんなとつながっていること、それを今回すごく感じています。だからお客様ともつながりたい。人間は一人じゃ生きていけない。そのことをお客様とも共有して同じ景色を観たいと思います」と池田が語り、取材会は終了した。

『即興音楽舞踏劇』という世界的にも類をみない新たな挑戦に挑む、若き2つの才能。その伝説の瞬間を目撃しに、ぜひ劇場に足を運んでみては?