舞台ならではのエネルギーを
――いよいよ開幕が迫る今のお気持ちから聞かせてください
片桐 稽古期間があと3週間ほしいですね。舞台の開幕直前はいつもそんな気持ちですけど、今まででいちばんその気持ちが強い。
黒木 わたしも、いままで経験した舞台のなかで、こんなにもやらなくてはいけないことが多い舞台は初めてです。
片桐 ね。今回キャストが28人いるんですが、バラバラと出るんじゃなくて、だいたいほぼ全員で動いているんですよね(笑)。多いときは25、6人が舞台でワーワー言ってる。その交通整理だけで大変なのに、さらにアクションがあって、シーンとして立てるところは立てなきゃいけない。この緩急が難しいんです。
黒木 おっしゃるとおりです。ガヤも重要ですが、起きている一つひとつのものごとに、自分たちで引っかかりをつくっていかないといけません。
片桐 大騒ぎです。みんながエネルギーをぶつけ合っているような。
――そんななかで、黒木さん演じる政子はどんな人ですか?
黒木 前のめりに生きている人。人間は悲しいことやつらいことから、そう簡単に逃れられないものだと分かっているけれど、それでも振り払おうとする人ですね。むちゃくちゃですけど。
片桐 でも妙な説得力があるんですよね。乱暴だけど、ジャンヌ・ダルクのような高潔さがある。
黒木 安田さん演じる兄ちゃんと対になっている存在で、兄ちゃんが持っていないものを政子が、政子が持っていないものを兄ちゃんが持っている。兄妹ってことに意味があると思って演じています。片桐さんが政子をジャンヌ・ダルクにたとえてくださいましたが、兄ちゃんはスーパーマンだなって。
片桐 そうだね。
黒木 あと、旦那さんが意外と政子のことをちゃんと想ってくれているんだなと感じます。政子も旦那さんを大事に……はできていないですが、好きではあると思う。
――片桐さん演じる政子の旦那さん、柳さんはどんな人ですか?
片桐 セリフでも言っていますけど、嫌な現状に気が付かないふりをして、楽しく生きていけちゃう人。不満はあるけど、それを変えるために矢面に立ちたくない、責任をとりたくない。政子に対しても、是政との仲の良さに嫉妬する部分もあるけど、波風を立てないよう、なあなあに済ますんですよね。でも、ふだん弱くてやられっぱなしなのに図々しさもある。柳の要素は僕にもあるので、日常の自分を乗っけようと思います。
――主人公・是政を演じる安田さんの印象を教えてください
黒木 とっても優しい方ですね。みなさんのことを観てくれている。
片桐 そうなんです。自分の出番じゃない時もね。だから、やっぱりこの作品は安田くんありきの企画だなと思いますよ。是政の心の深さ、面倒見のよさって安田くん自身と重なるんですよ。
黒木 そうですね。私、舞台で歌うのが初めてですごく緊張していて。
片桐 そうなの? 堂々としてますよ。歌は得意だもんね?
黒木 そんなことないです! でも緊張しているときに安田さんが「ぜんぜん大丈夫やで」「自分の思う通りにやったらいい」と声をかけてくださるんです。
片桐 「こんなのどうですか?」と試すことはぜんぶ受けてくれるしね。
――お芝居をしていて、チャレンジがたくさんできる相手
黒木 そうですね。何をやっても必ず返してくださるし、その状況を楽しんでくださっている。
片桐 福原さんとのタッグも3本目だし、本当に座長という感じの振る舞いだよね。
黒木 是政はみんなのことを背負おうとしてくれるんですが、まさにそれを体現しているような、お客さんごと一緒に連れていってくれるような芝居をされますよね。
片桐 でも、妹とのシーンはすごく小さな自分を出したりもしていて。妹にだけ自分を出せる、その対比も面白いですよね。
――黒木さんは福原作品にははじめて出演されますが、脚本を読んで、演出を受けてみて、どんな感想を持たれましたか?
黒木 ロマンティストな方なのかなと感じました。セリフ自体もそうですし、音楽もお好きだし、セリフの語感も大事にされています。演出は、すごく細やかです。ニュアンス含め、「ここは詰めてください」「このシーンはもっとたっぷりやっていいですよ」と心情も丁寧に説明してくださいます。
――片桐さんは、舞台では11年前の朗読劇(『豆之坂書店〜読みたがりたちの読書会〜』)以来、久しぶりの福原作品ですね
片桐 舞台を観に行くたびに舞台に出してくれるようお願いしていたんですがタイミングが合わず、ようやく出られました。ドラマ(『あなたの番です』)では完全にあて書きをしてくださっていましたけど、今回もさっき言ったように、役に僕の性格を織り込んでくれているなと思いますね。ラジオも聞いてくださっているので、僕のこずるいところ、自分を棚に上げる力なんかが役に現れていると思います(笑)。
――ほかにも魅力的な共演者がいらっしゃいますが
片桐 みんなすごいですよ。かなわねえなと思います。中でも佐藤B作さんはすごいよね。
黒木 B作さんが出ているとつい目で追ってしまう。私にとっては仁さんもそうです。
片桐 いやいやいや!
黒木 目がいっちゃうし、楽しくなっちゃう。
片桐 B作さんに比べたらもう全然。B作さんのおじいさん力はすさまじいですよ。僕ら男優って、早い人は30代半ばくらいから60代くらいまで長い“おじさん期”があるんです。そこを生き抜いて現役の人だけがおじいさんを得られるんですよ。もうそうなってくると、やっぱり一言ひとこと、一挙手一投足が尊いなと思いますよ。ありがたや〜と思いながら見ています。どこまで意図しているのかわからない、すっとぼけた感じがめちゃくちゃいいんです。
黒木 それなのに、すごく力強いじゃないですか。でも抜くところは抜けている。
片桐 僕もあと30年頑張らないと。
――最後に、『閃光ばなし』に興味を持たれた方に一言お願いします
黒木 福原さんが「希望のある芝居」とおっしゃっていたとおり、ご覧になった方がパワーをもらって帰っていただける作品になっています。コロナ禍で心配なこともたくさんあると思いますが、力を抜いて観ていただき、楽しんで帰ってくださったらいいなと思います。
片桐 僕、1970年の万博のドキュメンタリーが大好きなんですよ。開園と同時にみんなが笑顔で走り出していくような、あのエネルギーっていまはないじゃないですか。現代はみんなが自分のやりたいことを発表できるけど、コミュニティがたくさんあって、ひとつのことに集まるような機会があまりない。この公演は、みなさんが演劇を観に来てくださった集中力をぐっと集めて、僕たちがわっと発散させるような作品だなと思うんです。アクションが多くてたいへんだけど、その分、生で観るべきものになっているなと思います。もっと言うと、この作品を観て「ほかの演劇も観てみよう」と思ってほしいですね。僕ら、演劇がないとしんどいんで。演劇ってめんどくさくて毎日たいへんですけど、それでも稽古があって、みんなのコミュニケーションがあって、日々積み上げていくこの意義は他にはないものなので。俳優のためにもお客さんのためにも、観た人に「演劇っていいな」と思ってほしいし、そう思える作品になっていると思います。
インタビュー・文/釣木文恵
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