ミュージカル『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』・市村正親ひとり芝居『市村座』│市村正親 インタビュー

2023年に役者生活50周年を迎える市村正親。そんなアニバーサリー・イヤーを控えた2022年12月に上演されるのは、市村にとってライフワークともいえる『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』だ。頑固な老人・スクルージの前に突如現れた精霊によって、過去、現在、未来を旅して、人生の大切なものに気付いていくという物語は、大きな節目を迎えようとしている市村にふさわしい作品といえるのではないだろうか。そして、2023年2月からは、10回目となる「市村座」を上演。50年の歩みを振り返り、そのすべてを注ぎ込んだ演目を繰り広げるという。2つの公演に臨む市村に話を聞いた。

 

――スクルージ役は市村さんにとって、もはやライフワークのひとつともいえる役どころですよね。

初演から数えると7回目になるのかな。最初にスクルージを演じたときは40代でした。スクルージはもう、お迎えも近い年齢で、40代でやったころからに比べるとだんだん実年齢に近づいてきて、実感をもって演じられるようになってきましたね。キーが高い曲も多いから、体力の必要な役なんですよ。で、年を取ったから体力が無くなっちゃったのかといえば、そうじゃなくて、むしろ逆。実年齢に近いからこそのパワーがあります。初演の頃は老けたメイクをするのに1時間半くらいかけてご迷惑をおかけしましたけど、もうそんなにしっかりメイクしなくてもいいくらいなんじゃないかな(笑)。今回、どんなふうに自分の中でスクルージが展開されてくるか、自分でも楽しみです。

――年齢を重ねた今だからこそ、演じられるスクルージがあるということですね。

そうですね。以前、チャールズ・ディケンズが「クリスマス・キャロル」を生み出すまでの誕生秘話を描いた映画「Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~」でスクルージの吹き替えをやったんだけど、その時にスクルージを演じた俳優さんも、きっと実感を持って演じていたんじゃないかな。そんなふうに思いました。初演の頃は、役を作っていたように思います。でも、だんだんと作らなくてもいいんだな、と。スクルージが抱えている孤独感っていうのを、今までとは違うかたちで出せるんじゃないか、っていう気がしますね。

 

――何度演じても感じられる、『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』の良さはどのようなところだと思いますか。

自分の過去や現在、そして未来を精霊がやってきて見ていくじゃないですか。でも、それって精霊がこなくてもできること。過去を振り返ることも、現実を見ることもできます。そのうえで、未来は現在の結果、現在のその先にあるものです。過去を振り返って、温故知新じゃないけれど、自分の良いところ、悪いところを確かめて…現在をどう生きるか。そういうものを通して、人は1人では生きていけないんだ、みんなとの繋がりの中で生きていくんだということに気付いていきます。あんな頑固な表情がかわいいおじいちゃんになっていくお話ですから、家族のありがたさや人との交流の温かさを感じられますし、やっぱり1年の終わりに観るにはいいお芝居だと思いますね。

――2023年は、市村さんにとって役者生活50周年の節目となります。どのような心境でいらっしゃいますか。

50周年、よくいろんな役をやってきたと思います。自分で嬉しいな、と思ったことは、英語をしゃべれなくてよかったということ。「ミス・サイゴン」をやったときに思ったんだけど、英語がしゃべれる人は、みんな向こう(ブロードウェイ)でやっているんですよ。そうすると、そのイメージがついちゃう。その点、僕は日本でやっているから、「ミス・サイゴン」もファントムも、「スウィーニー・トッド」も、「ラ・カージュ~」も、「屋根の上のヴァイオリン弾き」もやることができました。すごいバリエーションだよね。今年なんかはG(ゲイ/「ラ・カージュ・オ・フォール」のアルバン役)で始まってG(爺/スクルージ役)で終わるんですよ(笑)。そういうふり幅のある役を演じることができたのは、よかったと思うね。

 

――2月からは、50周年の節目を飾る「市村座」も開幕しますね。

僕はキャリアのスタートを1973年の「イエス・キリスト=スーパースター」から数えていて、劇団四季のオーディションに受かる前は西村晃さんの付き人をやっていたんです。その時にも少し出ていたんですけど、そこは入れていないんです。四季での17年間は…俳優さんが病気になったことで「ゆかいなどろぼうたち」の役が回ってきたり、「コーラスライン」で演出さんに「ポールらしく振舞え」って言われてやっていたら「あまりやる気を感じられない」って言われたり、まぁいろいろありました(笑)。退団してからの33年も、1年半ぐらいのブランクは空きましたけど、やっぱりいろいろありましたね。「ミス・サイゴン」のオーディションはもし落ちたら、別に受けてなかったよ、とシラを切るつもりでした(笑)。そういう裏話というか、いろんな話を詰め込んでいこうと思っています。

――たくさんの役を演じてきたからこそ、本当に盛りだくさんの内容になりそうですね。それにしても50年にして、まだまだ新しい役も演じていらっしゃるのもすごいことだと思います。

2021年にやった「オリバー!」もね、プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュがどうしても僕に演じてほしいと何年も前から言っていてね。それでロンドンに来いって、ずっと言われていたんです。そしたら「メリー・ポピンズ」で彼が日本に来て会ったんです。そこで僕が女優だったらメリー・ポピンズをやりたかったよ、なんて話したら「君にはぴったりの役があるじゃないか」と、「オリバー!」でフェイギン役をやることになったんですよね。ミュージカル俳優にとって、役は命の証のようなものだから。生をもっと大事にしなきゃいけないし、1回1回を大事に、50年を振り返っていきたいと思います。

 

――「市村座」といえば、落語を基にした芝居仕立人情噺も楽しみのひとつですが、今回はどのような演目になるのでしょうか。

これまで文七元結、芝浜ときて、今回は「死神」をやろうということになりました。西村晃さんの付き人をやっているときに、西村さんがいずみたくさん、藤田敏雄さんと組んで「死神」をミュージカルにして、やっていたんですよ。ピンキー(今陽子)さんとかと一緒にね。そういうのもあって、その原本をやろうと思いました。おひねり目当てでしっかりと大団円の芝居をやろうと思います(笑)

――市村さんにとってのルーツにつながるような題材を選ばれたんですね。50周年を迎えて、今後俳優としてどのように演じていきたいですか。

まぁ、正直に言うとしんどいです。でも舞台に立っているときは、もう燃えているんですよ。とはいえ、50年を過ぎたから、もう自分が引っ張っていくような役はいいかな、とも思っています。本当にいろんな役をやってきて、マクベスもハムレットもリチャードもやっちゃっているしね。あと残っているのは、リア王くらいかな。リア王も壮大な役だからエネルギーがなくちゃけないし、やれるならやっぱり面白い役だしやりたい。それ以外でも、もう若い役はできないですから、重厚な大人の役と出会えたらと思います。今まで出会えなかった作品と巡り合いたいですね。やっぱり俳優は所詮俳優。誰かの激しい人生、複雑な人生を疑似体験していきたいというのが、この世界に入ってきた理由ですから、そこはこれからもやっていきたいと思います。役に対しては攻撃的にいかないと、保守的な芝居はお客さんには面白くないからね。

 

――まだまだ攻撃的に役にのめりこむ市村さんを楽しみにしています! 実感を持って演じるスクルージも、やりたいことを詰め込んでいる「市村座」にも期待しています!

そうですね。「市村座」は、最初は僕が髙平哲郎さんのおもちゃだったんだけど、今は僕がおもちゃにしているから(笑)。今回は髙平さんに頼んで、僕の役者生活50年をひとつの歌にして、それで詞を書いてってお願いしてあるんですよ。それで上柴はじめさんに作曲してもらって、それを最後に歌うんです。僕が作るんじゃなくて、髙平さんが見てきた僕の役者人生の曲です。楽しみにしていてください。

 

取材・文/宮崎新之