ナイロン100℃ 48th SESSION 「Don’t freak out」松永玲子・村岡希美 インタビュー到着!

撮影:江隈麗志

ナイロン100℃結成30周年記念公演の第一弾として、2月から4月にかけて東京と大阪でナイロン100℃ 48th SESSION「Don’t freak out」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が上演される。約26年ぶりの下北沢 ザ・スズナリでの公演になることや「ちょっと怖い芝居」(KERA)という作品についてなど、劇団員で出演者の松永玲子と村岡希美に話を聞いた。

「サイコホラーサスペンスのような感じでいく、かな?」(松永)

――ナイロン100℃(以下、ナイロン)の下北沢 ザ・スズナリ(以下、スズナリ)での公演はもともと2020年冬に予定されていたものですが、やっと実現となりました。改めて公演が決まっての心境をお聞かせください。

松永 中止になったときはみんな大変落ち込んで、『延期にできたらいいね』という感じで。でも本当に延期公演ができるかどうかもわからない状態だったんですよ。今回は『延期公演』ではないのですが、スズナリでこれくらいの期間でこれくらいの人数でやりたい、ということが実現できるのは非常にうれしい。と同時に、また(新型コロナウィルスの)波がきとるのかい!っていう。ドッキドキです。いろんな意味でドッキドキです!

村岡 松永さまに同じなんですけれども。でもスズナリでナイロンの公演ができるというのは本当に本当にうれしいことでして。今はその第一歩を踏み出そうとしていますが、慎重に慎重に、本番を迎えられるようにという気持ちでいっぱいです。

――ナイロンの本公演としては、スズナリは26年ぶりで、「NYLON100℃ 11th SESSION カメラ≠万年筆 近過去劇二本立て公演~1985~」以来です。スズナリで本公演をやることへの思いをお聞かせください。

松永 私、スズナリは非常に好きな劇場でございまして。やっぱり小劇場の人間にしてみたら聖地なんですよ。なんでしょうね、劇場ってね、小さくなればなるほど試されている感じがする。生のものをそこでやるだけの、体力、気力、知力をお前は備えているのか?と。お客様も目の前にいらっしゃいますしね。例えば本多劇場になると、数列先のお客様はもう暗闇の中にいらっしゃるんですけど、スズナリではハッキリ見えていたりします。それはそれは恐ろしい空間ではあるんですが、俳優業のサガみたいなものかもしれないですけど、恐怖を感じるとちょっと笑っちゃう、みたいな。

村岡 (笑)

松永 こわっ!こわっ!ってこととか、逃げたい!ってことと、うへ~(笑)っていうのが混在してしまうことがあるので。今スズナリに立ったときにどういうふうに感じるのだろう、というのを楽しみにしています。

――村岡さんはいかがですか?

村岡 聖地スズナリなので、ちょっと“もえる”というのはありますね。さっきお話に出たスズナリでの『カメラ≠万年筆』では、私は右も左もわからない状態のときに松永さんとコンビのようなお役でやらせてもらって。だからなんかすごく感慨深いものがあります。26年と聞いてぶったまげましたけれども、でもその年月を経てまた松永さんの横でお芝居ができるというのはとても、“萌え”もありますし“燃え”もあって、ワクワクしています。

――今作はどんな作品になりそうですか?

松永 正直なことを申しますと、つい数時間前にKERAさんから……

村岡 やってきたんですよ(笑)

松永 箇条書きでいくつか現時点での構想が書かれていたのですが、最後に『この通りいくかどうかはわからない』と(笑)。だからここに会している私たちは、誤情報を掴まされている可能性もあります(笑)。でも、時代設定としては大正時代もしくは昭和初期くらいかな?ということ、サイコホラーサスペンスのような感じでいくかな?ということ、そして時代も加味されて口語体ではないぞということ、それから、基本的には不条理劇ではあるけれど『イモンドの勝負』のように笑いに特化した不条理劇ではなく、シリアスな方向であるぞ、という情報は手元にあります。あと、私たちは姉妹、かな?

村岡 なんか一緒に住んでるっぽいです。

――KERAさんというと三姉妹のイメージもありますが、二人姉妹ですか?

松永 わからないです。ここにもう一人足されることもあるかもしれない(笑)

撮影 / 江隈麗志

「松永さんの後ろをくっついていった」(村岡)

――姉妹の役になるかもしれないおふたりは今回、どんなことを楽しみにされていますか?

松永 26年前の『カメラ≠万年筆』で私たちはコンビの役だったんですね。実はこの前、実家の断捨離を手伝っていたら、その台本もちょうど出てきたんですけど、なんかやっぱり原点なんですよ。お互いナイロン100℃デビュー作はそれより前の作品なんですけど、『カメラ≠万年筆』の出演者は、その当時“新人”とか“若手”と呼ばれていた人たちと、ゲストで来ていただいた方たちも世代的には似たような若い方が多かったので、そのぶんお稽古しなければならないことが多くて。

村岡 ワンシーンを一日かけてやってたりとか。

松永 こちらもがんばったけど、KERAさんもよく辛抱しましたねと思います(笑)。それでそのときに、私は“田中”という役で、

村岡 私は“日爪”。

松永 ね。やっぱり意識のどこかでいまだに(村岡を)日爪だと思っているんですよ。

村岡 わかります。

松永 村岡ちゃんは“日爪”だし、同期の安澤千草は、

二人 (声を合わせて)“和久井”!

松永 やっぱり心のどこかでそういう思いがあって。あのとき共に長い稽古時間を過ごした人たちは、なんだろう、戦友。劇団員みんな家族だし戦友でもあるんだけど、より深いところの信頼関係が強いと思います。それ以降も村岡ちゃんと共演していますが、同じシーンに出ているときはもちろん、全く絡まなくても『あそこには村岡がいる』という信頼と安心たるや、です。

村岡 ただ当時、私はナイロンに入って初めてちゃんとお芝居をしたという“生まれたての雛”みたいな状態で。そこで最初にパートナーのようなお芝居をやってもらったのが松永さんです。まだナイロンに入ったばかりの自分が出させてもらうパーツは少なかったのですが、新人公演の『カメラ≠万年筆』に関しては、ちゃんとみんなが役をふられて、やらせてもらって。だからより稽古が必要だったわけなんですけども。その、なにもできなかった頃からを(松永は)見てくれているような感じがあります。

――大きな存在ですね。

村岡 『カメラ≠万年筆』に限らず、松永さんには私の稽古にずっと付き合ってもらう、ということがとてもあって。引っ張ってくれる感じも覚えていますし、松永さんの後ろをくっついていったような気持ちがあります。そこからスタートしているので、今回一緒にできることが本当に楽しみです。

撮影 / 江隈麗志

「想像の斜め上をいっているんです、あの方は」(松永)

――ナイロン100℃は1993年に旗揚げされ、松永さんが初めて公演に出られたのが1994年、村岡さんは1995年と、初期から所属されてきました。劇団に所属していてよかったなと思うことをお聞かせください。

松永 やっぱり、帰る場所があるということだと思います。特にコロナ禍になって、自分が出演する予定だった公演がどんどん中止になっていって、ナイロンのスズナリ公演も中止になったんですけど、でもそれは劇団にいればいつかは出られる機会があるだろうと。規模は変わるかもしれない、予定されていた演目ではないかもしれないけれど、おそらくいつかは公演を打つであろう、というのを心の支えにしておりました。中止になるかもしれないけど、いつかはやる、きっとやる、ということを支えにできたのは、劇団にいてよかったなと思います。

村岡 私も、先ほど申し上げたように、村岡希美という役者はここで生まれて育った、という感じなので。私にとって劇団は実家のような。そしてKERAさんも今はいろんなカタチでいろんな公演をなさっていますが、やっぱり劇団で劇団員たちとKERAさんの作品をやる、というのが、私は一番たまらない。KERAさんの書いたものを、劇団員たちの身体を通してつくりあげることに参加しているときが、たまらない瞬間です。そういうことを思える場所というのはなかなかない。こうやって続けてこれたのは、そこに至福の感覚が合ったのかなと思います。

――長くKERAさんの作品に出ていらっしゃるおふたりから、改めてKERAさんの作品の魅力をうかがいたいです。

松永 長いこと一緒にやっていると、各俳優へのオーダーの傾向って一貫してくるのではなかろうかと思うのですが、まれにひっくり返るようなものがやってくるんですよ。例えば私ですと、『松永さ、台詞が全部聞こえるからさ、口開けないで喋って』。そして私は腹話術をがんばって、今はほとんど口を動かさずに喋ることができます(笑)

村岡 (笑)。すごい。

松永 我々はいわゆる叩き上げなんですよ。ずっこけの練習とかも。

村岡 しましたね~。つっこみの練習もね。

松永 やりました。散々やりました。そして『 “笑い”ができる俳優とはなんぞや』『笑いについて考えよう』と言われ、家に帰って鏡の前でずっと面白い顔の練習をしてきたんです。そうやって、笑いを取りたい、笑いを取れなきゃここの劇団員である意味がない、くらいの意識を持って育ってきたにも関わらず、あるときKERAさんに『松永さ、そこは笑いじゃないから』って言われて。え!?って。

村岡 (笑)

松永 途方にくれましたね。

村岡 (笑)

松永 私たちの想像の斜め上をいっているんですよ、あの方は。

村岡 (笑)。ナイロンの稽古に行くと、こういった現実のナンセンスで爆笑していることが多いなと思い出します。今回も予想はできないのでわからないですけど、立ち向かいます(笑)

撮影 / 江隈麗志

インタビュー・文/中川實穗