明後日HR #2「じりりた~おじさんとたまごの諸事情~」│渡辺哲 × 酒井敏也 × ニシオカ・ト・ニール(作・演出)インタビュー

写真左から)渡辺 哲、ニシオカ・ト・ニール(作・演出)、酒井敏也

さまざまな演劇作品をプロデュースしている株式会社明後日が、大人の放課後をイメージして企画した「明後日HR(ホームルーム)」の第2弾「じりりた〜おじさんとたまごの諸事情〜」が、いよいよ本日、2月22日(水)に東京・新宿シアタートップスで開幕。

「じり」とは自らの幸せである自利、「りた」とは他人の幸せである利他のこと。自利と利他が重なることが本当の幸せであり平和であるという想いが、「じりりた」のタイトルには込められている。

ストーリーは、とある施設を舞台に、ひょんなことから手にしたたまごを相部屋となった男2人がこっそりと孵そうとするハートフルな物語。たまご相手に奮闘する2人を渡辺哲、酒井敏也が演じ、共演には町田水城、森崎健康、星野勇太が名を連ねた。作・演出はニシオカ・ト・ニールが務め、音楽はあがた森魚が手掛ける。果たしてどのような作品になるのか、渡辺、酒井の2人とニシオカに話を聞いた。

――今回のお話はどのようなきっかけで生まれたものなのでしょうか?

ニシオカ もともとは2020年に上演予定だったんですけど、コロナ禍で伸びちゃったんです。明後日さんが2019年に「明後日HR」の1回目をやって、2回目の作品として企画していたんですね。なので当時何があったかちょっとよく覚えていないんですけど、確か何か心に傷を負っていて(笑)。プロデューサーの関根さんととにかく優しい物語を作りたい、ということを話していました。そして、できれば大先輩と一緒にモノが作れたら…と、まっすぐに作ってみたんです。“おじさんがたまごを温める話”というプロットは、2019年からあって、たまごを温めるのに悪戦苦闘したり、いろいろと奮闘したりしてくれる先輩方がいいなと思っていました。

――そんな奮闘する“おじさん”として、渡辺哲さんと酒井敏也さんが共演されることになりました。お2人の舞台での共演は初めて?

渡辺 昔、水谷龍二さん作・演出の「麗しき三兄妹」という一人芝居三本立ての作品で一緒にやったんだよね(2002年7月より全国巡演)。35分ずつの一人芝居で、僕が長男で、酒井さんが次男でね。

酒井 そう、だから20年ぶり?

――その時は同じ興行でも一人芝居なので、一緒の板の上に立って芝居するのは初めてになるんですね

稽古風景より

渡辺 確かにね、一緒に交わうことはなかったですね。僕はもう、今回一緒に演れてすごく楽しいですよ。だって、かわいいじゃない(笑)

ニシオカ かわいい、何て言ったら失礼かも、と思うんですけど、かわいいんですよね。お2人とも。

酒井 (笑)。僕も前のお芝居の時に、本当にちゃんとお芝居ができる方だと思っていたので、大先輩の胸をお借りするつもりでやっています。

――物語の印象はいかがですか?

渡辺 やっていくごとに、どんどん面白くなってくる。最初はわからないことも多かった。若い方との年齢の差もありますし、まぁ、僕の記憶力の問題もあるのですが(笑)、やっていくうちにだんだんとわかってきて、ああそうか!と、どんどん面白くなる。読解力が無いんだよ、僕は。

ニシオカ 全然そんなことないんですよ。でも、稽古初日からずっとそれを言ってます。初日にズンズンとやってきて、もしかして何か怒られちゃうのかな、と思っていたら「俺ね、読解力が無いから」って。すんごい怖かったです(笑)

――そしたら、まさかの告白だった、と(笑)

渡辺 でも、読めば読むほど面白くなるのは本当にそうだから。細かいのに、深い。その感じを逃さないようにしています。

酒井 僕としては、こういうお芝居自体が久しぶり。ちょっと昔を思い出して、稽古の感じとか、哲さんの芝居を受けてやる感じとか、とりあえずセリフを覚えよう、っていう感じとか、本当にそういうところからやっているお芝居なんですよ。実はまだ、セリフが入り切ってない(笑)。でも、哲さんが入ってくると“なるほど、こういう感じか”っていうのがお互いに入ってくるんですよ。こんなこともできるんだ、こういうニュアンスだったんだ、というのがわかってきて、本当に面白いですね。最近は割と大きなキャパでの芝居が多くて、今回のようなお客様の息遣いも感じ取れるような場所でのお芝居がすごく久しぶりなんですよ。だから、すごく楽しみにしています。今稽古をしていても、台本を持って、一緒に作り上げていくような、組み立てていくような感じは本当に久しぶりで、セリフが生きてきているような感じがします。

ニシオカ みんなの力を借りるために稽古場に来て、たまにメチャクチャやってみてもいいのかな、って思ってやってみちゃうような。みんなが全員野球でやっているので、私があんまりアレコレというよりは、自由にやっていただいています。

――稽古も中盤に差し掛かってきましたが、手ごたえはいかがですか?

ニシオカ もう稽古が毎日すごく楽しくて、一生稽古していたいくらい。酒井さんにおっしゃっていただいたみたいに、だんだんと芝居が立ち上がっていくような、なんだか家が建っていくような、そういう感覚があるんですね。その感じが、わかってくる。そこがもう、みんなで作っているんだなと感動しちゃうんですよ。その感覚は、小劇場のお芝居ならではの感覚なのかな、と思いますね。実は、最初はかなり切羽詰まってしまって、台本がすごく頭がぐちゃぐちゃの超大作だったんですよ。そこをみんなに読んでいただいて、どんどん整理していって、どんどん変えていきました。サグラダファミリアのような台本です。

――ある意味、そぎ落として洗練されていったんですね。渡辺さん演じるまっちゃん、酒井さん演じるすーさんという役どころをどんなふうに捉えていらっしゃいますか?

渡辺 すーさんにはだんだんと愛情を持ってきていますね。その持ってきている愛情をすーさんにはあんまり言わないんだけど、最終的にはわかってくる。でもまぁ、僕の方から分からせる必要はないのかな、と最近は思いますね。話が進むにしたがって、徐々にあれ、あれっ?とわかってくればいいかな、と。

稽古風景より

酒井 すーさんにとってまっちゃんは親友です。お友達ですね。すーさんは、きっと寂しい人生を送ってきたんでしょう。

渡辺 それはあるね。寂しさがある。

酒井 とにかくすーさんは寂しいんです…。ちょっとしたことでもやさしさを感じてしまうんですね。

――だから部屋にまっちゃんが来てくれたことが、嬉しくてしょうがない

酒井 本当にそうです。たまごのこともそうで、本当に優しく接しているんですよ。ちゃんと孵ってくれるかとか、産まれてくるもののぬくもりとか、そういうことを考えて、前よりもたまごの扱いが変わってきました。まっちゃんはちょっと、たまごの扱いが雑なんだよな(笑)。

稽古風景より

――今回は20代から70代まで、広い世代が参加している作品になっています。自分の世代から見て、ほかの世代はどのように映りますか?

渡辺 若い人のエネルギーはすごいね。体力の面では、自分が年を取ったと実感します。特にキャストは男ばかりだし、自分にも20代の時、50代の時とありましたから、羨ましいなと思うことも、ざまあみろ、と思うこともあります(笑)。でも、自分が若かったころを思い出して…みたいなことはやらない。それをやっちゃうと、あまり良くないかなと。昔はできていたけど、今はできないとか、そういうことを考えちゃうとダメだから。ある程度は何気なく、役がやっていることだから、と思えば大丈夫ですね。ある種、今の自分を受け入れてやっていかないと、ヤバいんですよ。

酒井 その辺はまったく同じ感覚ですね。若い人たし、20代、30代、40代はもうセリフもちゃんと入っているしね。

渡辺 本当にそう。毎日台本を読んでいても、全然入らない(笑)。

酒井 でもね、哲さんはセリフが入ったら凄いんですよ。セリフが一気に生きてくるんです。今日やったシーンとかも哲さん入っているな、ヤバいな僕も覚えなきゃ、って思って(笑)。

渡辺 その辺もトニさん(ニシオカ)がうまくやってくれるから。チャレンジできるよね。

ニシオカ でも本当に稽古は楽しいんですよ。年齢差も正直あまり感じない。感覚としては、男子高生の部活と、その顧問みたいな感じです。男子たち楽しそうにがわちゃわちゃしているのを見て、キュンキュンしています。

酒井 一番年下の星野勇太くんが、一番ここがああでこうで、と説明してくれるんだよね(笑)。

――ニシオカさんとしては、せっかく大ベテラン2人とご一緒できるからこそ、やりたいことや引き出したいことはありますか?

ニシオカ やはり他じゃあまりやらないことをやりたいですね。本当に大きい舞台ばかりに出ていらっしゃる方だからこそ、狭いベッドに2人で寝るような場面もなかったと思いますし。そういうところは、楽しんでやれたらと思っています。

渡辺 そのあたりは、これからもっとガッツリと(演出が)来るんじゃないですかね。そんな感じがしてきています。ある程度、わかりやすく言ってくれますし、自由にやれるように役者を野放しにしてくれてますが、そのままでは終われない役者ですから。楽ではありますけど、プレッシャーもすごくあります。

酒井 僕はまだ入って1週間くらいで、少し遅れて入ったのでまだまだこれからなんですけど。やっと頭の中で、もっと面白くなるような感じがしてきていて、少しずつ小出しに演出してくださっているんです。僕は本当に面白いと思っているんで。家で声出しなんかをやっていると、ここは当て書きかなと思うところもあって、それも嬉しいんだけど、それだけじゃいけないなとも思うんですよ。やっぱり、ちょっと違うところも出していかないと。想像していなかったような、違う方向があるほうがいいですから。もっとはっちゃけたい感じもしています。

ニシオカ すでに敏也さんならこう読むかな?という想像とは違うところを見せてくださったりして、スゲーと思っているんですよ。

酒井 役者はいろんなことを思っているんだけど、演出家さんがやっぱり正しいですから。いろいろな経験をして、こうした方がいいのかなどを考えるけど、結局のところ出来上がりは演出家が一番正しい。

ニシオカ そこは前から見ている画の責任者として、2人が一番素敵に見える方法を考えていきたいと思います。

酒井 そう思ってもらえるのが、ありがたいですね。

――「明後日HR」は“大人の放課後”をイメージにしていますが、みなさんは学生時代の放課後って、どんなふうに過ごされました?

渡辺 俺はクラブをやっていたからな。野球をやっていて、終わってからちょっと焼きそばを食べたりしてね。そういう思い出はよく覚えていますね。思春期だったけど、女の子がどうこうとかも一切なかったからな。部室には野球部だけの“男の図書館”があってね。純粋だったからこそ、馬鹿なこともたくさんやりました(笑)。進学校だったから、勉強するやつもいるし、クラブばっかりやっているやつもいるし、学生運動やっているやつもいて、今でいうと多様性があって本当に面白かったですよ。

酒井 僕はクラブをやっていたんだけど、途中でやめちゃったから。高校の時は卓球部と演劇部に入ったんだけど、特に何もしていなかったな。本当にあの頃、何かやっておけばよかったと思いますね。音楽でも聴いておけば、ダンスでもやっておけば、今がもっと違っていたかも。今の若い役者さんは本当に覚えが早いんですよ。1回やっただけで踊れるし、歌えるしね。

――高校で演劇部に入られたということは、当時から演劇にも興味はあったんですね

酒井 エリートなんで、って言えればよかったんですけど…。工業高校だったので男子が多かったのですが、演劇部には女子が少しいたんですよ。それで演劇部に入って、女の子とトランプとかやっていました。

ニシオカ 私は部活とかには入っていなかったので、放課後はタワレコにしょっちゅう行っていました。ラジオの公開イベントとか、いろいろなミュージシャンのインストアとかを観に行っていましたね。当時の流行とかじゃない、マニアックな方に興味があったので、割と変わり者でした(笑)。

――そんなみなさんが大人になってから過ごす“放課後”のような時間の本作ですが、作品を通してお客さんにどんな時間を過ごしていただきたいですか?

ニシオカ 世の中的にはちょっと、気が滅入るようなことが日本でも世界でも多くなってしまっているので、この芝居を観ている間だけは少しだけ優しさをチャージしていただけたらと思います。世界を平和にはできないけれど、隣にいる人にだけはちょっとだけ優しくしてみようか、と思っていただけるような、そんなお芝居になればと思っています。

渡辺 本当に優しい作品だよね。もちろん楽しい作品でもあるんだけど、幸せってなんだろうということを考えさせられるんじゃないかと思います。人それぞれいろいろな多様性があるので、それぞれの考え方がある。ほっとする人もいるだろうし、ちゃんとしないといけないなと思う人もいるだろうし。今のままじゃいけないな、とかね。考え方は広いですから。だから、僕みたいなやつは楽しいと思いますよ。ダメだな、もっとちゃんとしなきゃな、って思うはずですから(笑)。シアタートップスでやれるのは40年ぶりくらい?になるのかな。

酒井 僕は2004年くらいだったと思うから、19年ぶりくらいですね。本当にこの作品も含め、演劇っていうこんなに面白いものがあるんだよ、って知ってほしい。ちょっとだけ時間とお金を使ってもらって、楽しいことをやっているからちょっと新宿まで出てきて演劇を見に来てくださいね、って思っています。コロナ禍で演劇はとても厳しい状況になりましたが、この楽しさが広がっていけばいいですね。

――素敵な時間を期待しています!本日はありがとうございました

取材・文/宮崎新之