明治6年に創業した明治座が、創業150周年の記念公演として4月、5月に連続して歌舞伎を上演。4月は、中村梅玉、中村又五郎、中村芝翫、片岡孝太郎、松本幸四郎、片岡愛之助らによる『壽祝桜四月大歌舞伎』を上演する。昼の部では義太夫狂言三大名作のひとつ「義経千本桜 鳥居前」、酒豪同士の飲み比べ「大杯觴酒戦強者」、舞踊「お祭り」を、夜の部では四世鶴屋南北の傑作「絵本合法衢」を通しで上演する。公演を前に合同取材会が行われ、出演者らに加え、明治座の代表取締役社長・三田芳裕も登壇し公演への思いが語られた。
「150周年のお祝いですから、振付を相談したり口上などで、今回ならではのものをお見せ出来たら(梅玉)」、「仲のいい座組なので、みんなで楽しく一丸となって作っていけたら(芝翫)」、「歌舞伎が凝縮された代表的な作品ばかり。花咲く季節ですので、そういう色とりどりの匂いと色を楽しみながらご覧いただけたら(幸四郎)」と、各々が意気込みを述べ、祝祭のような公演に期待を膨らませた。
『壽祝桜四月大歌舞伎』は4月8日(土)~4月25日(火)まで、東京・明治座にて上演される。
中村梅玉、中村又五郎、中村芝翫ら出演者からコメントが到着した!
中村梅玉 コメント
この度、明治座創立150周年記念の公演を承りました。本当にありがたく思います。明治座では先輩方の数々の舞台が繰り広げられてきて、現代に続いております。この令和の時代に、歌舞伎の第一線で活躍している後輩たちと一緒に、先輩方に負けないようないい舞台をお見せできればと思っております。個人的には、私は久しぶりの明治座出演でございます。いろいろな思い出もありますので、今回も楽しみにしております。
Q.明治座の思い出は?
私が明治座に初めて出演したのは、初舞台の年の昭和31年。初舞台は正月の歌舞伎座で、3月に父の歌右衛門と出たのが初めてでした。その当時の明治座には楽屋の地下に食堂があったんですよ。お芝居の合間に食堂でお蕎麦なんかをつついていたのが、とても楽しかったのを覚えています。それ以後もずっと縁があり、30年前の新装のときに親子の芝居で「二月堂」をさせていただいたこともよく記憶に残っております。父との共演は、おそらくそれが最後だったと思います。いろいろな思い出があり、とにかく私の大好きな劇場ですね。
Q.今回の見どころは?
「大杯觴~」というお芝居はとても愉快なところがあるので選ばれたと思いますが、いわゆる世話物とは違った感じの、役者の仁でみせるようなお芝居です。幸ちゃんや芝翫さんと一緒に、いい芝居に作り上げていくようにしていきたいですね。「お祭り」は副題に「流れは絶えず明治座百五十年を壽いで」をつけていただいております。振付も相談して、お祝いの口上など、何かお見せできるようにと考えております。
中村又五郎 コメント
この150年という記念公演に出演させていただくことを、本当にありがたく思っております。この新しくなった明治座さんの前の場所では、本当に毎年のように出させていただきました。この記念の機会に出演が叶いましたことは本当にありがたいですし、この先も明治座さんで歌舞伎が数々行われますことを願っております。この4月公演にたくさんのお客様にきていただくことを切に願っております。ありがとうございました。
Q.明治座の思い出
私は、以前の明治座さんに良く出させていただきまして、なかなかに楽屋が入り組んでいた劇場だったという思い出がございます。右に左に、上下と分かれている劇場で、今の(市川)猿翁のお兄さんの舞台の時に朝から晩までいろいろとさせていただいて学ばせていただきました。梅玉のお兄さんが言っていたように食堂があって、舞台に座っていると下からいい匂いがしてくるんだと、聞いたりしましたね。そんな懐かしい劇場です。
Q.今回の見どころは?
私は「絵本合法衢」に出させていただきますが、私はいい人です。この作品は、幸四郎さん演じる役が、とにかく悪い人です(笑)。鶴屋南北特有の勧善懲悪のお話ですが、悪は悪としての人間の性、善は善としての人間の性のようなものが描かれています。どうぞご覧になってください。
中村芝翫 コメント
明治座さんのお祝い、記念の公演に出させていただくこと、大変にありがたいことでございます。芝翫になってからは初めての明治座出演でございまして、歌舞伎として出させていただくのは、おそらく2回目になります。今回は兄さんをはじめとして、同世代でやっていくことになりますが、私は昼の部で「大杯觴酒戦強者」を久々の興行でさせていただきます。明治座さんとは、やはり市川左團次が深いご縁があります。「大杯觴酒戦強者」は左團次さんにお書きになった作品だそうですので、幸四郎さんと力を合わせて、また新たないい芝居ができればと思います。
Q.明治座の思い出は?
僕は昔の明治座には出させていただいたことはないんですが、昭和55年に橋之助を歌舞伎座で襲名したときに、楽の次の日にちょうど明治座さんで猿翁の兄さんがお芝居をしていらっしゃって、伺ったら猿翁の兄さんが僕を見つけてくださいまして、橋之助を襲名したと舞台にあげて披露してくれたんです。すごくドキドキしたのを覚えています。亡くなった父の七代目芝翫も、晩酌をしながら明治座さんの思い出やいろいろな話をしてくれました。それを背景に明治座さんに伺うと、兄さんたちがキラキラとしていて、僕もいつかあんな風にお芝居がしたいと思っていましたね。
Q.今回の見どころは?
先ほども少しお話がありましたが、「大杯觴~」は河竹黙阿弥らしくないお芝居でございます。あの当時の初代左團次さんという方は、海外公演をなさったりと、新しいことをたくさんやり始めた方で、演劇にとっては画期的なことをされた方。そのために、演出もとてもリアルに変わったりしている中で、歌舞伎の醍醐味も凝縮された作品ではないかと思っております。馴染みの表現ではなく、埋もれずに息を吹き返すような作品は歌舞伎には多くございますが、その中でも貴重な作品ではないでしょうか。夜の部の「絵本合法衢」は、前は与兵衛をやらせていただいたことがありますが、今回は(瀬左衛門で)ちょっと年をとりました。こちらは特に幸四郎さんが、悪です(笑)。仲のいい座組なので、ここ数年はなかなか交流が難しくあいさつなどもできなかったですが、少し緩和されて、みんなで楽しく一丸となって作っていけたらと思います。
片岡孝太郎 コメント
明治座さんには新劇場になりました時に、祖父の十三代目と一緒に出させていただきまして、今回が2度目となります。節目節目の回に出させていただくことになりまして、こんなに名誉なことはございません。この度は息子も一緒にださせていただくこととなり、本当にありがたいです。私は夜の部「絵本合法衢」に出演しますが、この作品はもともと父の仁左衛門がよくやっていたものなんですが、幸四郎さんのお父様が復活させた作品で、今回はその作品をお返しするような気持ちだと父が申しておりました。幸四郎さんと一緒に大きなものを作れたらと思っております。
Q.明治座の思い出は?
私が小学生くらいの頃でしょうか、又五郎の兄さんや猿翁の兄さんが明治座でお芝居されているときは、とにかく父が帰って来ない。お稽古があがって、私が学校に行くころになって帰ってくるようなイメージでした。あとは、やはり劇場の周りにおいしいもの屋さんがいっぱいあるので、帰りにちょっとたい焼きをかったり、甘いもの屋さんに寄ったりした思い出があります。
Q.今回の見どころは?
私は(「絵本合法衢」で)悪い人の彼女になり、殺されちゃいます。また、いい人の奥さん役と、両極端な役を演じます。僕にとっても初体験のお役なので、先日稽古をつけていただきました。台本自体は父が何度かやっていますが、今回のバージョンがこれから出来上がってくるので楽しみです。また、うちの千之助も出させていただきます。すごくご縁がありますし、演目すべてが、150周年バージョンということで、そこを楽しみにしていただきたいと思います。
松本幸四郎 コメント
私は今回、昼と夜をともに出させていただきます。いずれも大役でございますので、そういう意味ではとてもプレッシャーと言いますか、緊張と言いますか、そういう気持ちの中でやらせていただくことになると思います。明治座さんには数度、出させていただいておりまして、いろいろな挑戦をさせていただきました。公演回数としては、他の劇場に比べて少ない経験の場所ではありますが、非常に思い出深い、強い記憶が残っている劇場です。夜の部の「絵本合法衢」は何度も上演されていますが、改めてと言いますか、敢えてと言いますか…初演は五代目幸四郎でございます。祖父、父とさまざまな演出がなされている所縁のある演目でおありますので、新たに作らせていただきまして今回上演という形になりました。明治座さんは、古典の大事な作品、それを新たに作り上げる作品というのをさせていただける劇場です。その恩返しをぜひ舞台で、皆さまにお伝えできればと思います。
Q.明治座の思い出は?
私も今の劇場でしか出たことが無いんですが、楽屋が客席の下にある形なので、楽屋から花道の方が近いというところもあるくらい。どこからでも楽屋が近くて便利な劇場という印象です。楽屋の洗い場が少し深くて、ちょっとした洗濯もできてすごく便利なんですよ…と、こんなことをお話しても仕方ないんですが(笑)。明治座でのお食事もとてもおいしいんですが、ちゃんこ屋さんとか、親子丼とか、歩いて行けるところにおいしいものがありますし、あらゆるところが楽しめる場所、そして刺激的な場所というイメージですね。
Q.今回の見どころは?
えーと、悪い人です(笑)。歌舞伎にはあらゆるジャンルがあることが特徴ですが、その中でも、凝縮された代表的な作品ばかりという印象です。花咲く季節ですので、そういう色とりどりの匂いと色を楽しみながら、悪い人を楽しんでいこうと思います。土台は祖父の台本で、いろいろな書き込みがされています。それを見ながら、作り上げていきたいと思います。どうも、悪い人でした。
片岡愛之助 コメント
本日はありがとうございます。明治座さんには、歌舞伎でも、歌舞伎以外のお芝居でもいろいろ出させていただいていますが、記念の年に出させていただけるのは本当にありがたいことでございます。今回は歌舞伎の三大名作のひとつ「義経千本桜」で佐藤忠信を務めさせていただきます。今回、初役ということで芝翫兄さんに習って務めさせていただこうと思います。そして150周年ということで、立ち回りもいつもとは違ったものに、という想いもございますので、皆さまぜひ、明治座にお越しいただきたいと思います。
Q.明治座の思い出は?
私も新しい明治座だけですが、本当に歌舞伎以外のお芝居でも大役をつけていただいたり、歌舞伎でも新しい挑戦をさせていただいたり、本当にたくさんの勉強をさせていただきました。それは、今もそうだと思っています。
Q.今回の見どころは?
私は「義経千本桜 鳥居前」で初役を芝翫兄さんに教わって務めさせていただきます。そしてフレッシュなメンバーで務めていきますので、精一杯頑張りたいと思います。狐に変わる瞬間などを注目していただけたら、嬉しく思います。
明治座代表取締役社長・三田芳裕 コメント
本日は明治座創業150周年記念の壽祝桜四月大歌舞伎の合同取材会にご参加いただきましてありがとうございます。今回は豪華な顔ぶれでございます。また、私どもと関係があります神田神社では4年ぶりのお祭りが5月にも予定されておりまして、お祭りの大変タイムリーな機会になっていると思います。松竹さんには大変なご配慮をいただき、感謝しております。明治座は明治6年に、現在から西の方に100メートルほど離れたところで創業しました。江戸時代には今の人形町あたりに芝居街がこざいまして、江戸の香、人々に歌舞伎のDNAが今でもこの日本橋に息づいております。地元の方のみならず、多くの歌舞伎ファンが楽しみにしてくださっていると思います。どうぞよろしくお願いいたします。
取材・文/宮崎新之