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ミュージカル『ファントム』が、2023年7月22日(土)~8月6日(日)に大阪・梅田芸術劇場メインホール、8月14日(月)~9月10日(日)に東京・東京国際フォーラム ホールCにて上演される。
フランスの小説家ガストン・ルルーのベストセラー小説『オペラ座の怪人』を原作にミュージカル化された本作は、脚本家アーサー・コピットと作曲家モーリー・イェストンの黄金コンビにより誕生し、世界中を魅了し続けている。
日本でも多くの観客に愛され、2004年の初演以来、幾度となく再演されきた。2019年には加藤和樹と城田 優がW主演を務め、城田が演出も手掛けたことで話題に。作品の新たな魅力を引き出し好評を博した。4年ぶりの上演となる今回は、前回に続き城田が演出を担当。加藤と城田が再びファントム(エリック)を演じ、城田はさらにフィリップ・シャンドン伯爵役(大野拓朗とのWキャスト)も務める。
旧知の仲で互いに信頼を寄せ合う間柄でもある加藤と城田の二人に、本作にかける想いを語ってもらった。
切磋琢磨してきた、誰よりも信頼できる存在(城田)
――前回から4年ぶりの上演になります。本作はお二人にとって“特別な作品”でもあると思いますが、作品に対する想いをお聞かせください
城田 どの作品にもそれぞれの魅力がありますが、その中でもやはり『ファントム』は思い入れが強いですね。そう感じるのにはたくさんの理由があります。例えば、僕は2014年に初めてファントムを演じましたが、その前年にミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でロミオ役を演じて、和樹ともそのとき共演しているのですが、そのロミジュリのときに、「これ以上精神的にしんどい役はないだろうな」って正直思っていたんです。でも、ファントムはそれを余裕で超えてきたんですよ (笑) 。
―― 一同 (笑)
城田 おかしいな、と思うくらいすごいエネルギーが必要な役で。大人になると嗚咽して泣くことってそんなにないと思いますが、終盤のシーンなんかはもう“ダム崩壊”みたいな状態でしたね。最後はボロボロになって、カーテンコールの時は立てないくらいでしたから。でも、自然とそうなってしまうのはやはりこの作品が持つ力なんだと思います。感情的にも非常に起伏の激しい役を経験して、作品の魅力を当時身をもって感じました。そして2019年の再演のタイミングで、「演出もしないか」という願ってもないオファーをいただいて、当時「こういうところをフィーチャーしたいな」と思っていたことを実現できたのは、さらに特別な想いが増した出来事でした。
再演のタイミングで、共に何度も分岐点でよく共演してきた和樹と、エリックという役を一緒に作っていったことも僕にとってはとても大きなことでした。ミュージカルというジャンルでは、テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)で誰よりも古いところからライバル役として接してきましたし、お互いに切磋琢磨してきた間柄で、誰よりも信頼できる存在。おもしろいご縁でこうして再びご一緒させてもらえるというのも、この作品が特別であることの一因になっていますね。
――今の城田さんのお話を聞いて、加藤さんはいかがですか?
加藤 何をもってして「特別」かと言えば、やっぱり優が演出する作品で、共にダブル主演として演じるところですね。先ほど彼も言ったとおり、初舞台で共演した彼とは不思議なご縁があり、その後もいろんなタイミングで共演させていただいていて。
前回のときに、「一番いい加藤和樹を見せる自信がある」と彼が言っていましたが、それは僕の良いところも悪いところも含めて知ってくれているからこそできることなんだと思います。なので、今回も新たな発見や、自分でも気付いていない魅力というものを引き出してくれるんじゃないかなと期待しています。
「今までに見たことのない加藤和樹だった」と言われたのは、城田の力(加藤)
――実際に演出を受けて、「城田さんならではだな」と感じたところはありますか?
加藤 芝居のディレクションをする時に、実際に自分で体現してやってみせてくれるときの引き出しの多さですね。これは優ならではだな、と。すごく分かりやすいし、そこは他の演出家の方と違うところだと思います。役者に「こうしてほしい」というオーダーをどうやって伝えようかって、
城田 ♪どうやって~~(と『ロミジュリ』の「どうやって伝えよう」のサビを歌い出す)
加藤 (笑) 。何としても伝えようという意志がすごくあるので、これも愛だな、と感じますね。
――城田さんは、加藤さんに演出する際に意識されたところはありますか?
城田 僕が感じている彼の癖や、行きがちな方向みたいなのものがあるので、そこを毎日ガンガン壊していく、というのを心掛けていましたね。僕も新しい加藤和樹を見たいし、和樹本人にも「今まで見たことのない加藤和樹」を見せることを約束していましたし。エリックは決してかっこいい役ではないですが、役を通して彼が発するエネルギーや芝居で、ファンの方や一緒に仕事をした人たちが、「加藤和樹ってこんなに繊細な芝居ができるんだ」と思ってもらえるように、“繊細エキス”を注入する感じですね。そもそも和樹自身が繊細さを持っているからできることではあるのですが、そこに本人が気付いていないというか……。意外とそういうことってあると思うんですよね。
――加藤さんは城田さんに指摘されて気付いたことも多かったのでしょうか?
加藤 人ってどうしても自分のことは見えなかったりするので、それを旧知の彼に言われたことで「なるほどね」って思いましたし、新たな発見がありました。実際にやってみた結果、周りからの評価もすごくよかったんですよね。「今までに見たことのない加藤和樹だった」と言われたのは、やっぱり優の力だなと思うし、自分の中でも表現の幅が広がったという手応えがありました。このエリックという役を優と一緒に作れたことは、自分にとってすごく良いタイミングだったんだなと思います。
――前回、印象に残っている稽古場でのエピソードはありますか?
加藤 とにかく優がいっぱいいっぱいだった (笑) 。というのは半分本気の冗談ですが、やっぱり大変なことだと思うんですよ、演出と主演を同時にやるわけですから。稽古の前半はみんなの芝居を付けなきゃいけないので、彼自身はエリックのことは脇に置いて演出に徹するんですけど、通し稽古になってきた頃に、彼が稽古場に残って“一人通し稽古”をやっていた姿はすごく印象に残っていますね。
――加藤さんはその様子をご覧になっていたんですね
加藤 そうですね、サポートできるところはしたりして。でも彼には彼のやり方があるので、あまり邪魔しないように、という風には思っていました。今回はシャンドン伯爵役も増えて“三刀流”ということで、さらに大変になるとは思いますが、僕のやれる範囲で精神的なサポートはしていきたいと思っています。
――モーリー・イェストンの甘美で強靭な楽曲も作品の大きな魅力です。思い入れのあるナンバーや、注目して聴いてほしい曲はありますか?
加藤 「全て」と言ってしまえばそれまでですが、その中でもやはりエリックとキャリエールの親子の歌「You Are My Own 」ですね。ここの場面で初めてエリックが父親からちゃんと愛されていたことを知るんですが、今思い出しても泣きそうになります。もちろん、クリスティーヌとのデュエット「You Are Music」も印象に残る曲ではありますが、終盤のキャリエールとのシーンでは、もう一つの愛の形、“親子の愛”というものが描かれているので、キャリエ―ルとのナンバーは自分にとってもすごく思い入れがありますね。
――エリックを演じるうえで、大事にしたいものとは?
加藤 エリックは母親の愛をずっと探し求めているところがあると思うので、彼の心の奥底の欲求みたいなものをもっと描ければと思っています。今回のエリックがどうなるかは、正直まだわからないところはありますが、僕としては新たな気持ちで臨んでいくつもりです。
二人の絆から生まれる相乗効果に期待
――先ほど「三刀流」という言葉も出ましたが、今回城田さんは新たにエリックの恋のライバルでもあるシャンドン伯爵役も演じられます
城田 おこがましいですが、2014年からシャンドンという役に対して僕の中で理想像があり、約10年間あたためてきいるものがあるので、ついにそれを自分で体現するというチャンスをいただけたのが嬉しいです。シャンドン自身が輝くことで、和樹のエリックとの“闇と光”の対比が出せると思っています。エリックとシャンドンのキャラクターの違いがはっきり出ることによって、クリスティーヌとの三角関係がよりしっかりと描かれると思いますし、エリックはシャンドンに対して嫉妬心や怒りのような感情があるので、好きな人を取られる切なさといった部分もさらに色濃く出ると思います。そういったところは、僕らの絆も相まってとてもいい相乗効果が生まれると信じています。昔からの関係性もあってか、ファンの方たちもこのコンビを好きでいてくれる方が多いんですよね。僕らはガチャピンとムックみたいにニコイチなので、「また舞台上でガチャピンとムックが見れるよ!」って強く言いたいです(笑)。
――(笑)。加藤さんは城田さんのシャンドン伯爵にどのように向き合っていきたいと思われますか?
加藤 そうですね、今は全力で立ち向かうだけだなと思っています。彼の演じるシャンドンは、先ほど言っていたようにもうあたためにあたためて出てくるんだろうなと思っているので、そこはめちゃくちゃ楽しみですよね。10年ぶりに同じ板の上で相対するというところもすごく楽しみですし。彼が作り上げてきたシャンドンに、彼と一緒に作り上げたエリックがどう対峙していくのか、きっとおもしろいことになるんだろうなと想像しています。
――お二人のお話を聞いて、さらに楽しみになりました。最後に、公演へ向けての意気込みと、読者の方へメッセージをお願いします
加藤 今回、僕らとキャリエール役の岡田浩暉さん以外はほぼ新しいキャストになるので、このメンバーでどういう『ファントム』が生まれるのか、僕自身も楽しみにしていますし、城田 優が我々と作り出す作品の世界観をお客さまにもぜひ楽しみにしていただきたいなと思います。
城田 「2023年、日本で一番おもしろいミュージカルだった」と言われるような作品を作る覚悟と期待しかないので、ハードル上げまくっていただいてかまいません(笑)。「どんなもの見せてくれるの?」って、腕組みして待っていてください。最後には納得していただける作品を作れる自信しかないので、ぜひ楽しみにしていてください。
インタビュー・文/古内かほ