撮影/高村直希
※高村直希の「高」は「はしごだか」が正式表記
顔で笑って、心で泣いて――。昭和前期の激動の時代を背景に、涙と笑いを込めて女役者の半生を描く舞台「泣いたらあかん」(吉本哲雄・横山一真脚本、竹園元演出)が、5月28日(日)~6月20日(火)に大阪・新歌舞伎座、7月1日(土)~7月23日(日)に福岡・博多座で上演される。主人公の「大和なでしこ一座」座長、川路鹿子を演じる藤山直美を中心に、波乱万丈の物語を紡ぐ出演陣が、このほど大阪市内で行われた取材会に出席し、公演への意欲を熱く語った。
名子役から人気役者に成長し、やがて新歌舞伎座社長となって子供歌舞伎の指導にも尽力した松尾波儔江(1901~1991)がモデル。1999年、2005年に上演されて好評を博した作品で、3度目となる今回は「松尾波儔江三十三回忌追善」をうたう公演となる。脚本・演出、共演者が前とは変わっているため、直美は「全くの新作のような気持ちで臨んでいます」と話す。「私は1989年に松尾先生に声をかけていただいて、新歌舞伎座で父(藤山寛美)と『追分供養』という作品で共演させていただきました。父が亡くなる5カ月前のことで、今も父の立ち姿を思い出します。いい機会をいただいたと先生には本当に感謝しています」
直美演じる鹿子は、優れた芸で人気を集めるものの、父の後妻や腹違いの妹との関係、夫の出奔など、私生活ではさまざまな困難に直面し、率いる一座も戦争という大きな渦に巻き込まれていく。明るい舞台の陰にあるつらさも描かれるが、鹿子の夫・耕三を演じる榎木孝明は「それでもこの作品は誰も悪者にしていない。優しい芝居です」と言う。
「直美さんの舞台を以前から見ていて、いつか同じ舞台に立たせていただきたかった。その夢がかないました」と初共演を喜ぶのは、腹違いの妹・禎子を演じる南野陽子。禎子も人気スターとなり、「チャイナドレス姿で歌ったりします」というから、個性の違う姉妹の舞台姿の対比も楽しみだ。
鹿子の父で、ベテラン役者の川路流星を演じる石倉三郎は、「今はただただ、必死で直美ちゃんについていこうと闘っています」と“闘う男”ぶりをアピール。流星の後妻・喜久江を演じる仁支川峰子は「すでに稽古場で思い切り笑わせてもらっています。ここで観客になって目に焼き付けておきたいと思うくらい」と作品の楽しさを語る。南野と同様、直美と初共演となる内場勝則は、劇場社員の千吉という役どころ。「(自分が属する)吉本新喜劇にはないものを目の前で見せていただいています」と、タイプの異なる喜劇の作り方に大いに刺激を受けているという。
劇中劇として演じられる「国定忠治」「新口村」の場面も見どころで、出演陣は現実にも「チーム」「一座」となって作品作りに取り組んでいる様子。コロナ禍が一応の収束をみた今、直美は「劇場に足を運ぶという習慣を思い出していただくきっかけになるような舞台になればうれしい」と、公演に込める思いを話した。
文/畑 律江
撮影/高村直希
※高村直希の「高」は「はしごだか」が正式表記