『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the stage (通称ヒプステ)が、 ディビジョン単独ライブ『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』 Rule the Stage《Rep LIVE》(読み:レぺゼンライブ) を開催。シンジュク・ディビジョン“麻天狼”、オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”、ナゴヤ・ディビジョン “Bad Ass Temple”、イケブクロ・ディビジョン “Buster Bros!!!”と、 4つのディビジョンがそれぞれ全国三都市で単独ライブを行う。そのスタートを切るシンジュク・ディビジョン“麻天狼”から、観音坂 独歩役の井出卓也に、ライブの見どころと意気込み、そして、鮎川太陽(神宮寺 寂雷役)と荒木宏文(伊弉冉 一二三役)との関係性についてもたっぷりと語ってもらった。
──『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage《Rep LIVE side M》直前です。まずは、今の心境を教えていただけますか?
僕は去年12月の公演(『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage《Bad Ass Temple VS 麻天狼》)からヒプステに参加しているので、既存曲をゼロから覚えなければいけないのが結構大変で、自分の中でも焦りがありました。セットリストが発表される前から独歩が参加した曲はすごく聴いていて、寝ても覚めてもずっとヒプステの曲が流れている状態になっていたので曲自体は入ってたんですけど、ダンスを覚えるのが大変で。でも、太陽先生と荒木くんが、いい感じに天然なんですよ(笑)。僕が仕上げていくのに比例して、あの人たち自分の歌詞が抜けてしまったりして。それを見て、「ちょっとミスっても大丈夫かも?」って、謎の安心感が生まれている状態です(笑)。
──井出さんのツイッターから相当焦りを感じたのですが、追い込まれた状態になると現状が夢の中にも出てくる……という役者の方もいらっしゃいますが井出さんはいかがですか?
夢には出ないけど、曲は常に頭の中で流れているので、ちょっとうなされてます(笑)。でも、ヒプステの曲って本当にキャッチーで、一度聴いたら覚えてしまうように出来ているから、日常で皿を洗っていても、洗濯物を干していてもずっと頭の中で流れてるんですよ(笑)。気分転換に他の曲を聴くことがあっても、シンジュク以外のヒップホップの曲は聴かないですね。R&Bのしっとりした曲を聴いて、もう一回気合いを入れ直して独歩のシャウトを聴きにいくっていう、その繰り返しです(笑)。
──植木さんの「まずはシンジュクが完成いたしました」というツイートに、井出さんがツッコむようなやりとりがちょっと面白かったです(笑)
植木さんは「できたじゃん」みたいな感じなんですよ(笑)。独歩をやるにあたって、緊張しなくていいよ、気を張らなくていいよみたいなことを言ってくださっているんだと思うんですけど、結構こっちは本当に余裕ないから、いやいや、ダメダメダメ全然できないからって(笑)。
──D.D.Bの皆さんをはじめ、ダンスを教えてくださる方は周りにいらっしゃるのかなと思ったのですが
そうですね。ただ今回、他のディビジョンのライブもあるので、D.D.Bの皆さんは、誰よりも覚えなきゃいけないものがたくさんあるんですよ。だから割と自分のことは自分でしっかり管理していかないと置いていかれるような感じもあって。もちろん最初の振りはしっかり教えてもらっているし、太陽先生も荒木くんも教えてくれるし、分からなかったらすぐ聞ける人たちが周りにいるのはありがたいです。曲もダンスも全部入ったので、あとは独歩としてどう動いて、どうラップをしていくか、それを肉付けしているところです。
──その見せ方についてですが、ご自身でもアーティストとして活動されているので、ラップで歌うことには慣れているけれど、独歩としてステージに立つということに難しさもあったりするのかな…と
初めてヒプステに出演した時は時間がかかりましたね。「どうしたら独歩のラップになるんだろう」みたいなことはあったけど、稽古場で1ヶ月しっかりやって、公演数も多かったので、今は独歩としてのラップがスムーズにできるようになっています。普段、自分の楽曲でシャウトすることってないんですよ。稽古で1ヶ月丸々シャウトし続けていたので、シャウトがめっちゃ上手くなりました(笑)。今回、新曲のためにレコーディングをした時も「シャウト上手いね」って言われました。独歩から逆輸入じゃないけど(笑)、自分の楽曲でも取り入れられたらいいなと思いましたね。
──今回のライブの見どころや注目ポイントは?
舞台はこちらが準備したものを観て、心を動かしてもらうものだと思うんですけど、ライブは観客と一緒にその瞬間を盛り上げていくとか、感動できる時間をオンタイムで共有していけるものだと思っています。自分たちが予想していない反応も全て、一緒にライブの流れの中で巻き込んで作り上げていくものだから、いつもなら、独歩は「俺なんて……」と終わるところも、お客さんが盛り上がっていたら、それを超えるほどの独歩なりの狂気というか、テンションが上がったところを見せたいなって。各会場でもきっと色が違うだろうし、公演を重ねていくなかでも変わっていくだろうし。それがすごく楽しみで、今まで自分でも想像していなかった独歩が出てきそうだなという気もしています。
──声出しも解禁になっているので、そういった意味でも観客との相乗効果がさらに高まるライブになりそうですね
3人の“煽り”の部分は、原作でも描かれていることがあまりないと思うので、その部分をキャラクターとしてどう表現して、お客さんの気持ちを上げていくのかというのは僕らの課題でもあるんです。寂雷先生と一二三は自分から煽っていく感じではないのかなとなると、じゃあ、独歩がトップから行きます!みたいな感じで狙ってます(笑)。そこで独歩がハズすと会場が盛り上がらなくなるんじゃないか……と思うこともありますけど、やるしかないですね。
──あらためてどんなチームですか?
まず、大人ですね。それぞれ活動経験が長いし、自分の中で、個人でやるべきこととチームとしてやらなきゃいけないことの区別がきちんと分かっているチームだと思う。がむしゃらに「こうしよう、ああしよう」みたいな話をするのではなくて、「これは自分でできる。でも、これは3人でやらなきゃいけない」みたいなことを、限られた稽古時間の中で、自分たちで考えてから周りに発言をしている大人なチームだと思います。
──年齢は荒木さんが上ですが、役としては一二三と独歩は幼馴染。他のインタビューで、普段の上下関係はふんわりしているといった話を荒木さんがされていましたが、井出さんから見て、それぞれどんな関係性ですか?
これは僕自身のスタイルだけど、人との付き合い方も、対“その人”というより、対“役”の関係性で日常もいっちゃうんです。荒木くんに対しても、普段から幼馴染くらいの気持ちでいる方が楽だなと思うので、僕は荒木くんに「ねぇねぇ」みたいな感じ(笑)。もちろん、荒木くんがそれを許してくれるのが分かっているからいけるし、荒木くんも普通の温度で返してくれるんです。現場で荒木くんがクールなイメージで見られていたことを僕が知らなかったというのもありますけど、周りのスタッフさんは「こんなにフランクな荒木くん初めて見た」って驚いていて、「実は荒木くんってファニーな人だったんだ」みたいなことが起こったようです(笑)。
──普段も役との関係性のまま接しているということですが、最初からですか?
荒木くんって、ボケなのかボケじゃないのか分かんないボケをするんですよ(笑)。流そうと思えばそのまま流れるけど、僕的には拾っちゃう。今のボケだよな?と思って突っ込む。しかも、「なんでだよ」みたいな雑な感じで(笑)。それを荒木くんが嬉しそうにしてくれたんですよね。太陽先生は「荒木くんに突っ込んでる!」と思ったみたいです(笑)。僕は昔から荒木くんの活躍を見てきて、きっとこういうのも大丈夫だろうなと思ってボールを投げてみたら、キャッチしてくれる感じがあったから、そこからはもう「いける」と(笑)。
──なるほど(笑)。役の関係性のまま普段から接しているということですが、鮎川さんのことを「先生」と読んでいらっしゃるのも同じ理由なのですね
「先生」と思ってた方が楽だし、身長が高いので、話す時にどうしても見上げちゃう。そうすると小さい頃の感覚が呼び起こされて……あ、先生だなって(笑)。太陽先生は、普段からいろいろ気を遣ってくれて、初めて会った時も、太陽先生から話しかけてくれました。今回の振り入れでも僕が分からないことはていねいに教えてくれますね。そうやって気を遣って声を掛けてくれるのは必ず太陽先生です。ただ、太陽先生ってマイペースなところもあって、最初は教えてくれるんだけど、後半から「俺どうしたらいい?」「ラップ分かんないんだけど」と焦りだして僕に聞いてくる時もあります(笑)。本当に、3人でいてすごく居心地がいいですね。
──素敵な関係性ですね。ところで、井出さんが独歩を演じる上で一番大切にされているはどんなところですか?
独歩って、ヒプステの中で、最も一般に近い感覚の人間だなと思うんですよ、最初は。だけど、普通にスーツ着て街を歩いているだけなのに、たくさん職質されることってそんなにないと思うんです。派手な髪と服で歩いてた時の僕でさえ2回くらいなのに(笑)。だから、独歩は一見普通に見えるのに、狂気とか、そういう溢れ出ている何かがあるんだろうなって。要するに、自分の感覚では普通っていうものが周りから見たら普通じゃないみたいなことが独歩を演じる上でカギになってくるのかなと。独歩は普通だと思っているのに、いろんな抑圧を受けてバーストしちゃうみたいな感じ(笑)。そこが他のキャラクターとは違うなと思っていて、だからライブをやるにしても舞台をやるにしても、「自分は普通ですよ、まともですよ」っていう気持ちが大事なのかなと思っています。
──「普通ですよ」と装いながら、目に見えない狂気みたいなものを出すのって簡単なことではない気もしますが……
その部分は作るというよりも、我慢することの方を大事にしているというか。自分で自分にプレッシャーをかけ続けて、ストレスを与えていくみたいな感じですかね。この役をやるとね、なんか不思議と日常でも悲しいことがいっぱい起こるんですよ(笑)。目的地からちょっと遠い駐車場に止めて、帰りにお金を払おうとしたら2,150円だったんです。でも、財布には2,100円しかなくて50円足りない。そういう時に限ってカードが使えない駐車場な上に、コンビニも近くにないっていう(笑)。この役をやっている時ってこういう小さいストレスがいっぱい起こるんですよね。おそらく、日々の小さいストレスが増えるというより、独歩をやることでそれに気づくのかもしれないです。
──引き寄せかと思いきや、気づきですね。では、ヒプステの公演に出演する前と後で、作品やキャラクターに対しての印象に変化はありましたか?
もちろん、自分の中で想像していたイメージと実際のステージがすべて合致するとは限らないですけど、太陽先生の寂雷、荒木くんの一二三に、僕が演じる独歩がどうアプローチしていこうかということは常々考えています。だから、自分が予習してきたキャラクターイメージだけではなくて、その人としっかり芝居をやることが僕は大事だと思っているので、当然、やる前と後ではイメージも変わってくるかなって。何公演もやっていると、必ずしも毎回同じアプローチで相手がやってくるかどうかは分からないし、荒木くんって日によっていろいろチャレンジしてくるんですよ。その日の雰囲気によってセリフの言い方が違ったりして、それに対して僕も変えていかないと、壁ができちゃうじゃないですか。あっちがいろいろ球を投げてくるのに合わせて、僕も球を取りに行くことで、初めて役が生きていることにつながるのかなと思っています。一緒にその場を生きていく感じがすごく楽しいです。
──日によってお芝居を変えることに抵抗はない?
僕は、キャラクターの範囲の中での幅はあっていいと思っています。だって、僕が日常を生きていても、「明るいよね」「元気だよね」と言われることが多いけど、暗い時だってある。だからそのキャラクターの中でも、明るさと暗さみたいな幅はあってもいいのかなって。特にヒプステは、ラップを題材にした作品なので、より役が生きている感覚が強いのかもしれないですね。ラップは言葉数も多いし、しっかり自分の思っていることがリアルに伝わりやすい。具体的に伝わりやすいというジャンルの音楽でもあるので、自分の生の感じに合わせてラップが変わっていく感覚も面白いなと思います。
──こういうお話を聞いていると今回のライブも全公演拝見したくなります。では、公演に対する意気込み&メッセージをお願いします
今話したことに近いですけど、舞台は毎日同じクオリティ、同じことをやることが大事だと思うんです。幅はあっても決められたセリフがあるわけだし、その世界の中で生きることが大事だと思うけど、ライブは逆に、毎回同じじゃない方が僕は面白いなって。一公演ずつ、そこに来てくれた人たちとどれだけ一緒にその空間を作れるかっていうのが大事だよねって、“麻天狼”の3人でもよく話しています。だから「舞台観たし、曲も聴いたことあるからライブはいいかな」ではなくて、そのライブ、その日しか聴けない音楽が存在するような公演になると思っています。その日にフィットしたものをお客さんと一緒に作っていくライブをお届けしたいと思っているので、楽しみにしていてください。あと、これは個人的な意見なんですけど、いろんなディビジョンの単独ライブが行われるわけじゃないですか。「シンジュクが一番良かったな」って言わせたい(笑)。全部のディビジョンのライブが楽しみで、気になっていますけど、他のどのチームにも本気で負けたくないとも思っています。とか言いながら、初日終わってみたら、すげぇ落ち込んでるかもしれない……。
──さっきまで「負けたくない」とおっしゃっていたのに、もう落ち込んでる(笑)
(笑)。あと、予想してないことが起きてそうで怖いですね。僕、前回の公演の大千秋楽の日、シャウトして舞台から落ちちゃったんですよ。それが映画館でも上映されてしまったという(笑)。ライブでもそういうことが起こってしまうかもしれないですけど、もちろんケガをしないように気を付けます(笑)。
──最後に「ローソン」と聞いて思い出すことやイメージって何かありますか?
Pontaカードですね。中学生の頃って、自分のカードとかめったに作れないじゃないですか。クレジットとか「カードを持っているのは大人だな」という気持ちがあって、ローソン行った時に「カード作りますか?」と言われたのがめちゃくちゃ嬉しくて。だから、人生で初めて持ったカードがPontaカード(笑)。ローソン行くたびに、現金出す前にドヤ顔でカードを出すっていう。僕を大人にしてくれたのがPontaカードでしたね(笑)。だから、スマホアプリでポイントが貯められるようになっていますけど、僕はずっとPontaカードを使います(笑)。
インタビュー・文/佐藤則子
【プロフィール】
井出卓也
■いで たくや
1991年3月12日生まれ