写真提供:東宝演劇部
開幕を約1か月後に控えた2023年5月25日(木)、音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』歌唱披露イベントが、シアタークリエで行われ、ロレンツォ・ダ・ポンテ役の海宝直人、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト役の平間壮一、アントニオ・サリエリ役の相葉裕樹、フェラレーゼ役の井上小百合が出演した。抽選で当選した約250名の観客も参加。30曲以上のオリジナル楽曲のなかから5曲を披露し、観客からの質問にも答えて、和やかに行われた。
音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』は、モーツァルトの名作オペラ『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』誕生の背景にある、詩人ロレンツォ・ダ・ポンテの人生を描いた新作音楽劇。ダ・ポンテがモーツァルトと出会い、その才能を開花させたわずか4年と6ヶ月は、彼の80年を超える生涯の中で、最も輝いた時間だった。時代の荒波に抗い、偏見を乗り越え、制作に没頭した2人の天才の軌跡を、多彩な楽曲を織り交ぜ、見応えある人間ドラマ仕立てで描かれる。
最初に出演者4人が登壇し、それぞれに挨拶したあと、歌唱披露が行われた。1曲目は海宝による「この静かな夜に」。モーツァルトと口論になり、ガストハウスを去ったダ・ポンテが、深夜のウィーンの街で、過去に思いを寄せた人との別れを思い出し歌う。世間から女好きで詐欺師と呼ばれるダ・ポンテの誰にも理解されない孤独を歌った曲で、この作品のテーマ曲だ。ゆったりと流れるメロディのなかに、誰かと分かち合いたいという本当の願いが揺らめく。海宝の豊かな歌声と美しい言葉が、ダ・ポンテの本心をつまびらかにし、その想いが観客の心に染み込んでくる。
2曲目は平間による「僕が拍手するんだ」。紆余曲折の末、もう成功や名声を追い求めないと、モーツァルトが歌う。新たな人生を決意した姿が清々しく煌めいていて、平間がみせる新たなモーツァルトがいっそう楽しみになった。ダ・ポンテと出会うことで、その才能が大きく花開いたモーツァルトだが、本作では彼らの創作の様子が生き生きと描かれ、モーツァルトがダンスを披露する場面もあるそうだ。
3曲目は相葉による「ヴィヴァ、イタリア!」。宮廷学長のサリエリが、宮廷劇場主事の役職を与えられたダ・ポンテに、祖国のイタリアを称えオペラを指南する。力強く快活な楽曲で、ヴィヴァ〜!と高らかに誇らしく歌い上げる。本作のサリエリは、ダ・ポンテとモーツァルトに敵対する宮廷音楽界の権力者として描かれる。
4曲目は井上による「街角の女の子」。美貌を最大の武器とするソプラノ歌手でダ・ポンテの恋人フェラレーゼが、自身の生き方を歌う。何不自由なく暮らしてきたように見えるフェラレーゼの、隠された過去が明かされる。どん底の少女時代を、自分の力で生き抜いてきた、力強さと誇りが伝わってきた。
最後の曲は海宝と平間によるデュエット「最高の相棒」。ふたりの初めての共作『フィガロの結婚』が大成功を収め、やっとわかり合えるパートナーに出会えた喜びと、未来への希望を歌い上げる。ふたりの弾む心が音に乗った軽快なナンバーで、明るい未来を期待させる。海宝と平間もアイコンタクトをとりながら、跳ねるように楽しんで歌っていた。
歌唱披露の後は、観客から事前に寄せられた質問に答える形でトークコーナーが行われた。【ダ・ポンテという人物を知っていたか】という質問に対して、海宝は「恥ずかしながら、お話をいただいてからいろいろと調べて、波乱万丈で、必死に生きた姿がちょっとおかしさもあり、すごくドラマチックなのに、あまり演劇でも取り上げられなかったのが不思議」と答えた。次に、【映画では天才で破天荒なイメージがあるが、平間の考えるモーツアルト像は】との質問に、平間は「台本を1回目に読み終わって、普通の青年だと思った。優しかったり、温かかったり、丸みを帯びていたり、破天荒なイメージはあまりなく、自分らしく作っていいのかなと。優しいモーツァルトにしたい」と語った。続いて、【普段は穏やかな相葉さんが、ダークなイメージのあるサリエリを演じられるのが楽しみ。役作りで苦労されていること、実在した人物を演じる意識されていることは】という質問に、相葉は「ダークな印象は正直そんなになくて、割と愚直な音楽に熱くてまっすぐな印象の方が強い。悪役と聞いてたが、そんな悪い感じもしない……」というと、3人が「確かに」「ヴィヴァ〜!」「イタリア大好き」と笑い出す。「この曲を歌うと、みんながニヤニヤ笑い出す」と苦笑いする相葉に、「大好きなのよ!」と答える海宝。みんなに愛されている様子が伝わってきた。そして、【井上さんの歌声が好きなのですが、フェラレーゼの歌唱部分の聞きどころや、歌う上で意識した部分は】との質問に、井上は「すごく強い女性で、多分私の印象とは反対方向。とにかくオーバーに、こんな私かわいそうじゃなくて、私はこうやって生きてきたのだから、これからも同じように生きていくのよと、強い感じで歌えたら」と答えた。
【観劇を迷っている人へのおすすめポイント】を尋ねられると、「ヴィヴァ〜!」の手振りを始める海宝と平間。ステージ上も、客席も笑いに包まれた。新作だからポスターしか情報がないが、白くはならないと前置きしつつ、海宝は「ポスターからは想像もつかない何かが生まれている。稽古場はずっと笑いが絶えない」といい、平間は「僕はもう泣きました。稽古に遅れて参加した日に、僕の大好きな海宝君のシーンをやってて、リュックを背負ったままポロポロって」と、おすすめポイントを紹介。海宝は「それぞれがドラマチックな人生を送っているので、ドラマ部分が楽しい。歴史物だからと難しく描くよりは、お客さんと一緒に楽しく盛り上がっていける作品になりそう」と作品の印象を説明した。相葉は「ストーリーを追いやすく、見やすい作りになってる。今日のふたりのデュエットなど、ワクワクするような楽曲を楽しんで、バラードには浸っていただけたら」と紹介。井上は「こんなこと言っていけないんですけど、ダ・ポンテがクソ野郎で(笑)。海宝さんが演じるとどうなるんだろうと不思議だったけれど、騙されてもいいと思うような、すごくチャーミングになってしまったダ・ポンテが魅力的。皆さんの人柄が役に投影された、このカンパニーでこの配役でしかできない作品になってきている」とアピールした。
平間は、7年ぶりの共演となる海宝の座長ぶりを、「印象は変わらない。いつだって完璧に自分の熱量を伝えていて、歌の説得力がすごい。包み込まれる魅力的な声。1曲目のひとこと目を聞いたときに、間違いなく良くなる、ついていこうと思った」と力強く話した。最後の挨拶では、井上は「母国のオペラを作ろうと奮闘したモーツァルトとダ・ポンテの物語が、日本のミュージカルに挑戦している私達とリンクしている。そんな瞬間を皆さんに目撃していただきたい」と、相葉は「ダ・ポンテという音楽家がいたことを改めて知るきっかけにもなると思う。その周りにいた、いろんなキャラクターが出てきて、本当に楽しめる作品になるように、一から作っている」と、平間は「やっぱり人間というものは欲張りで、ちょっとわがままで面倒くさかったり、いろんなことが付きまとってくる。人間模様を細かく見てもらいたい」と、海宝は「キャスト、クリエイター、スタッフの皆さんと毎日いろんなことを試しながら頑張って稽古している。30曲以上の曲に彩られながら、エンターテインメントとして楽しんで、生きるっていいなと希望を持って帰っていただけるような、楽しい素敵な作品になっていくと思う。ぜひ劇場に足を運んでいただけたら」と、それぞれにメッセージを送った。
その後のフォトセッションでは、取材陣に向けた後、観客の撮影タイムも設けられた。250台近くのスマホが向けられ、シャッター音が注がれる様は壮観。4人は積極的にさまざまなポーズをしたり、笑いあったりと、終始和気藹々とした様子でイベントは終了した。
取材・文/岩村美佳