『研の會』尾上右近 会見レポート+独占インタビュー【前編】

歌舞伎役者にして、歌舞伎伴奏音楽である清元唄方として清元栄寿太夫の名でも活動を続けている、“歌舞伎界の二刀流”尾上右近。それだけにとどまらず、精力的にテレビ番組やCMにも出演するなど、ボーダーレスに活躍の場を広げている彼が、今年も自主公演『研の會』を行う。その公演内容について右近本人が語る記者発表会が6月初旬、都内某所にて開催された。まずは、その会見の模様をレポートする。

第七回となる今回、上演する演目は『夏祭浪花鑑』と『京鹿子娘道成寺』。子供の頃から馴染み深いというこの二演目のこと、そしてこの自主公演に快く出演を決めてくれた先輩、同輩、後輩の出演陣について、右近が語った

今回は会場の場所がこれまでとは変わり、浅草公会堂というややキャパシティの広い劇場となります。そこで、広いキャパの劇場になったらぜひやりたいと思っていた、この古典演目二題を選ばせていただきました。『夏祭浪花鑑』も『京鹿子娘道成寺』も私にとっては思い出がある作品ですが、いずれも初役で挑みます。

まず『夏祭』は以前、傾城琴浦というお役で出させていただいた経験があり、子供の頃からも馴染みのある演目です。いわゆる上方のお芝居ですけれども、今回はその中で浪花の男らしい、泥臭いほど真っ直ぐな団七というお役、それからお辰というお役、この二役を演じ分けさせていただきます。そして今回も素晴らしい出演者の方々にご協力いただける運びとなりました。

釣船三婦というお役には中村鴈治郎のお兄さんにお出ましいただきまして、一寸徳兵衛と三河屋義平次という二役には私の三つ上の先輩の仲間であり研の會には初参加となる坂東巳之助さんに出ていただきます。徳兵衛は団七の心の友みたいなお役ですので、ちょうど僕と巳之助さんの関係と近い部分もありますし、義平次は意地悪じいさんなのですが老け役だからといってエネルギーがないと物語に説得力が生まれませんし、実は長年ずっと巳之助さんにこの義平次をやっていただきたいと思っていたんです。ただ、今回はスケジュール的に8月2日(水)、 8月3日(木)にこの浅草公会堂の研の會に出ていただくのですが、その翌々日が歌舞伎座の初日なんですね。巳之助さんは歌舞伎座にもお出になられているので、この強行スケジュールでもご協力いただけるのは、歌舞伎界の中でこれから共に新しい景色を一緒に見ていこうと手に手を取り誓っている仲間だからこそ頼めたことですし、それを快く引き受けていただけて本当に嬉しく思っています。

さらに中村種之助さん、中村米吉さんはまさに僕と同い年で、今回は『夏祭』と『道成寺』の両方で全面的に協力していただけることとなり、ありがたいです。さらに私は尾上流という踊りの流派の手ほどきを受けておりまして、3歳の時に初めて踊りの稽古に伺ったところから役者人生が始まっているのですが、その尾上流の家元である尾上菊之丞先生のご子息の羽鳥嘉人くんに、団七の息子の市松役で出ていただくことになりました。彼にとってはこれが初めての歌舞伎デビューになります。そして傾城琴浦役には研の會に二度目の参加となる可愛い僕の大事な後輩、中村莟玉さん。おつぎ役には尾上菊三呂さんという、私にとっては役者としての自分の乳母のように何から何まで面倒を見てくださっている存在の方に出ていただきます。

そして『京鹿子娘道成寺』のほうは、言わずと知れた大曲であり、女方舞踊の中でも最高峰の作品です。私が所属する音羽屋にとりましても縁の深い演目でもありますので、大事に大事に、第一歩となる初役の白拍子花子をつとめたいと思っています。今回は能力という配役で種之助さんと米吉さんにお出ましいただきますけれども、これは普段は坊主、お坊さんのお役なんですね。その所化役として私もこれまで何度も出させていただき、舞台上から白拍子花子の踊りを間近で見ながら勉強してきました。とにかくどちらも体力勝負のお役でもありますので、この二演目を1日2回上演するというのは、自分で決めておいて途方に暮れております(笑)。しかしその大変さこそが、自主公演の醍醐味。そう考えると、今回が最も途方に暮れるラインナップになっているなと覚悟もしつつ、挑ませていただきます

さらに、初めて浅草で自主公演を行うにあたっては。

東京出身の身としてはふるさとというものがないようなもので、それで浅草という土地にとても魅力を感じていた時期に頻繁に伺っていたら、浅草の方たちがとても可愛がってくださるようになって。ある意味、ふるさとが見つかったなと思わせてくれたのが、この浅草という土地でした。今回、自主公演の第七回にして会場が変わり、客席数も増えますので、ここでまた新たな第一回みたいなつもりで挑ませていただきたいと思っています。そういう気持ちもありまして、いつも自主公演の記者会見の時には役柄にちなんだ服装をしたり、クリスマス時期にはサンタクロースのコスプレをしたりして、まあ滑り続けているんですけど(笑)。今回は初心に帰って正々堂々と、ということで大真面目に紋付き袴姿で登場させていただいた次第でございます

そして、ここでサプライズ。今回の自主公演用のポスターの特別版ということで、日本を代表する現代美術家の横尾忠則氏に右近が直談判してデザインを依頼。この場が、そのお披露目と相成った。右近本人も、この出来たてホヤホヤのポスターを眺めながら、「カッコいい!」と感激しきり。

先日出版された『右近vs8人』という、現代アートの作家さんたちとの対談集の中で横尾さんに初めてお目にかかりまして。もう、本当にお話が面白くて、先輩というよりは何だかお友達のようにお話をさせていただいて、とても楽しい時間を過ごさせていただいたんですね。そのあとの原稿チェックの際にご本人が「右近さん、今度は何か一緒にお仕事しましょうね」といった一文を校正の段階で付け加えられて、それに対して僕も「じゃあ、僕から何かオファーした時にはお断りしないでくださいね」という一文を加えさせてもらったんです。それがあったとはいえ、自主公演のポスターをデザインしてほしいとお願いするのはなかなか勇気がいりましたが、思い切ってお願いしたら引き受けてくださることになりました。まだ僕も出来上がりを見たばかりなのですが、横尾さんのいろいろな想いが伝わってくるポスターになりましたね。以前、スーパー歌舞伎のポスターをお作りになった歴史もあるそうなんですが、その時のものともまた違うポップさがあり、歌舞伎らしさが伝わる配色のセンスと横尾忠則さんらしさ、僕らしさと現代らしさ、さまざまな“らしさ”が詰まったポスターを作っていただいたなと思っています。これは一生の宝物です! 個人の会で横尾忠則さんにポスターを頼むだなんて。「右近、やりやがったな!」と思ってもらえたら嬉しいです!!

加えて、横尾氏から右近に宛てたメッセージも届いたとのことで、ここで披露された。

尾上右近さんのライフワークの研の會のポスターを描かせていただいて、大変光栄です。ちょっと面白い作品ができたと喜んでいます。果たして右近さんが気に入ってくださるかな、ちょっと心配です。この研の會が続く限りお手伝いさせていただければ嬉しいですね。研の會、拝見します。またいつでもふらっと遊びに来てください。待っています。横尾忠則

この横尾からの言葉には「出会いって本当に幸せですね。幸せでしかないです!」と、右近もテンションが上がった様子。

もちろんリスペクトは最大にありますが、それこそ心の友達だと思いつつ、今後もいろいろなことでご一緒させていただきたいですし、横尾さんの人生の中で僕と出会えて良かったと思っていただける瞬間が少しでもあったら嬉しい。人と関わるということは、やはり人生においての財産なんだということを実感しています

そして、この会見後には、ローチケ演劇宣言による独占インタビューも敢行!
さらにたっぷりと今回の自主公演への想いを熱く語ってもらっているので、<後編>も引き続きお読みください。

取材・文/田中里津子