★7月2日(日)まで上演中★アメツチプロジェクト Re:flag vol.1 「sacrifice」ゲネプロレポート

2023.06.30

山田英真が主宰し、脚本・演出を担当するアメツチプロジェクトの新作「sacrifice」が6月28日(水)、東京・中野のザ・ポケットにて幕を開けた。初日当日に行なわれたゲネプロの模様をお届けする。

本作で描かれるのは“アイドル”や“神”を熱心に崇め、信仰する者たちの姿。現代のとある地方のファミレス、ある架空の国のある宗教の信徒たちが集う教会という2つの世界の物語が展開し、俳優陣はそれぞれの世界の二役を演じる。

前者のファミレスは、年に一度行われる国民的人気アイドルグループ「ハイリガ」のライヴ終了後のファンのたまり場となっており、今年も熱狂的なファンが各テーブルでライヴの感想について熱く語り合っている。

グループ結成当初からハイリガを応援してきたレオ(本川翔太)と仲間のテツ(神谷春樹)は、古参のファン。国民的な人気を得る前から応援してきた自負もあり、ゼロからグループを育ててきた第1期、第2期のメンバーの功績を称える一方で、人気を獲得してから加入した第3期メンバーたちの意識の低さを問題視しており、そんな新規のメンバーばかりをゴリ押ししているようにも見える運営に対しても批判的な言葉を並べる。

近くのテーブルに座るツルタ(湯本健一)とタツト(龍人)は、そんなレオとテツの会話を耳にして、ライヴの余韻や推しへの思いを踏みにじられたような気持ちになり、我慢できずに彼らのテーブルへ。ここから論争が勃発! 途中、第3期のメンバーを推すフルヤ(松波優輝)も参戦し、熱すぎる議論が展開する。

もうひとつの世界では、架空の街の架空の宗教を巡る物語が進む。教会によって贖宥状と呼ばれる、人々の罪が許されるという証明書――いわゆる免罪符が販売され、人々はこぞってそれを買い求める。だが、敬虔な信徒であるクレド(湯本)は教会が経典には言及のない贖宥状を販売すること、そして金の力で罪がゆるされるという状況を問題視するが、異議を申し立てたことで教会を破門されてしまう…。憤ったクレドは別の領主の元に身を寄せ、これまで庶民たちが読むことのできなかった経典を民衆の言葉に翻訳し、それらを印刷して“拡散”し、教会の問題点を世に知らしめることに成功する。しかし、クレドの予想を超えて、一部の怒り狂った民衆は暴徒化してしまい…。

アイドルとはもともと、人々が崇拝する“偶像”を意味する言葉であり、推し活を宗教になぞらえる言説は以前からあるが、実際に現代のドルオタたちの会話と宗教論争をパラレルワールドで並べて描くことで、改めてアイドルへの熱狂が信仰に近いものであることを実感させられる。

古参メンバーと新メンバー、古株と新規ファンの間に存在する分断、そもそも、なぜアイドルに恋愛は許されないのか? はたまた、結成当時の第1期のメンバーが全員卒業したとしても、それをハイリガと呼ぶことはできるのか? という、俗に“テセウスの船”と呼ばれる哲学的な論考にいたるまで、議題は多岐にわたり、白熱の“神学論争”が繰り広げられる。

もう一方の世界における贖宥状を巡る宗教論争においては、金儲けのために贖宥状を乱発する教会を批判するクレドは正当に感じられ、人々の支持を得るが、これを現代のアイドル論争に置き換えてみると、あまりにストイックに清廉さや理想を求めることが正しいのか? 時代と共にルールや信仰の形も変わっていくものなのではないか…? などと考えさせられる。

「神ってる」、「マジで神!」、「布教活動」などという言葉を多くの人々がごく当たり前に口にする現代だが、愛とは?信とは?我々は推しに何を求めているのか――?オタクたちの不毛な論争などと侮るなかれ!90分にも満たないシンプルな会話劇を通じて、クスリと笑わされつつ、心地よく価値観が揺さぶられる。

アメツチプロジェクト Re:flag vol.1 「sacrifice」は、東京のザ・ポケットにて7月2日(日)まで絶賛上演中!

舞台写真