「熱海殺人事件 バトルロイヤル50’s」|新内眞衣よりインタビューが到着!

数々のつかこうへい作品を上演してきた紀伊国屋ホールの歴史の中でも、最も上演回数が多いつか作品「熱海殺人事件」。2023年で初演から50周年を迎える本作が、50周年特別記念公演「熱海殺人事件 バトルロイヤル50‘s」として8月4日(金)より上演される。この節目となる公演で婦人警官水野朋子役に挑むのは、同役3回目となる新内眞衣。彼女はどのような心境で50周年の大役に挑むのか、話を聞いた。

――今回で3回目の水野朋子役となります。率直なお気持ちを聞かせてください

正直に言うと、お受けしようかどうか、ちょっと迷いました。だって、50周年ですよ?すごくプレッシャーを感じています。同じ役をやる上で、やっぱり前回は超えなきゃいけないプレッシャーがあるので、気持ち的にはどんどんハードルが上がっていると思いますし、そういう部分でも迷いました。1回目は良くも悪くも、粗削りな部分もほほえましく見てくださると思うんです。ただ、熱海が大好きな熱海ファンの方も、そして私のファンも、2回目って目が俄然鋭くなりましたね。私のファンの中にも、1回目で観て熱海ファンになった方がいるんですよ。それくらい力のある作品ですし、そういう方たちに見合うものを出していかなきゃいけないという緊張感がありますね。もっと上に行きたいという気持ちはあるので、頑張ります。

――最終的に、出演しようと背中を押したのはどのような理由でしたか?

やっぱり50周年の節目であることでしょうか。岡村さんにお声をかけていただいたので、最終的には、まぁやってみるか!と(笑)。

――ご自身のファンの中にも熱海ファンが生まれるほど魅力的な作品ですが、新内さんご自身はどういうところに魅力を感じていますか?

すごく回りくどいことをたくさんするじゃないですか。でも、本人たちはずっと芯が通っていて、ピュアなんですよね。やっぱり人間の根幹ってピュアなところにあると思っているし、見せている顔と本心も違っていることもありますよね。きっと誰にでも当てはまることだと思いますし、だからこそ観ている人も感動するんじゃないかな。演じているほうも感情がぐちゃぐちゃになるし、お腹のところにグッと力を入れていないと負けちゃいそうになりますけど、終わってみると、やっぱりやってよかったって思うんですよ。そういうところは魅力的に思えますね。

――水野朋子を演じる面白さはどういうところでしょうか?

実質、2役あるような感じじゃないですか。そこの演じ分けを楽しむこともそうですし、その両方と真剣に向き合わなければいけない大変さはありますね。それぞれの愛の形が、全然違いますし、そのことが愛を考える時間にもなるので、本当に素敵な役だと思っています。

――女優として舞台に立つ機会も増えたかと思いますが、経験を重ねたことでお気持ちの変化などはありましたか?

お芝居に関しては、まだ楽しめるという感じではなくて。超えなきゃいけないハードルがまだまだあると思います。演じること自体は楽しめるようになりたいと思っているんですけど…まだ、そういう気持ちにはなれていないですね。やっぱり、うまくやりたい、って思ってしまうんですよ。でも、うまくやっても心を動かす作品にはできないと思っていて。「うまくやらなくてもいいんだよ」っていうお言葉は、たくさんいただくんですけど、自我を持ってしまっている分、葛藤しています。自分としては、みなさんと足並みをそろえたいから、うまくやりたいと考えてしまう。それには技術とか足りていないものがたくさんある。今は、とにかくついていかなきゃ、という必死さの方が大きいですね。共演のみなさんと一緒にやっていると、心動かされる瞬間がたくさんあるんです。でも、果たして私自身はみんなの心を動かせているのかな、と考えてしまう瞬間があるんですよね。

――今回、荒井敦史(木村伝兵衛部長刑事)さんは再共演となりますが、荒井さんのご印象はいかがですか?

あっちゃん(荒井)は、全部包み込んで一緒に押し出してくれるような感じなんですよね。味方(良介:2回目の熱海で共演)は、俺についてこい!って感じ。方向性は全然違うんですけど、それぞれの方向性で優しさがありますね。味方だと、私は味方に乗っかっていけばどうにかしてくれるっていう安心感があるし、あっちゃんの場合は、もし何かしでかしてくれても絶対に救い上げてくれるっていう安心感。似ているようで、方向性が全然違う気がします。

――つかこうへいさんの作品という部分では何か感じるところはありますか?

私はつかさんの作品では水野しか演じたことが無いんですけど…難しいですよね、つかさんの作品って。やっている中で、お前はどう思ってんの?って問われている感じがするんですよ。お前にはわかるのか?ってずっと言われている気がして、熱海の期間はずっと苦しいんです。正解があるものでもないから、結局ちゃんとできていたのかな、と思いながら千穐楽を迎えるんです。もちろん、達成感はあるんですけどね。人間って、こんなに深く愛のことを考えることってなかなか無いんじゃないかって思うんですよね。観に来てくださった方も、絶対に自分自身のことを考えるきっかけになる作品だと思います。ピュアで粗削りで等身大の愛を目の当たりにしている人たちを目の前にすると、絶対に考えると思うんですよ。そういう作品に今までもしてきたし、これからの私たちも、そうしていかなきゃって思います。つかさんの作品を見た後は、考えずにはいられないと思うんですよ。だからこそ、またあのセリフを浴びたくなるんだと思います。

――水野と木村の関係性は、どんなふうに見えていますか?

私はすごく素敵な関係だと思います。古き良き時代の、根底に愛が無いと成立しない関係ですよね。あんなにお世話をして、あんなに好き合っているのに、プラトニックってあり得るんですか?愛と尊敬があるからこそ、あの2人の関係性は成り立っているし、お互いのことを想いあって離れていく。でも、絶対に死ぬまで忘れない大切な記憶だと思うんです。他の道を歩んだとしても。それは、やっぱり根底に愛があるからだと思います。

――冒頭で新内さんのファンが熱海のファンにもなった、というお話もありましたが、以前の公演をご覧になった方からはどういうお声が届いていますか?

初めて熱海に参加したとき、みなこさん(愛原実花)とダブルキャストだったじゃないですか。私の公演を見てくださったファンが熱海にハマって、みなこさんのバージョンも観たくなって、実際に観劇されたそうなんですよね。それ以外でも熱海は何度も上演されているので、そちらを見に行ったりもしているみたいですし、ファンレターでも「まいちゅんがまた熱海をやっているところを観たい」って言ってくださる方もめちゃくちゃいるんです。そういうのを目にすると、心を動かすことができたんじゃないかと感じて、嬉しくなりますね。メディアも媒体も増えてきた現代で、2時間をそれだけに集中することって少なくなっていると思うんです。そんな2時間を、何か人生のきっかけになる2時間になればいいなと思ってやっているので、すごく嬉しいです。

――アイドルとしてやってきた感覚と、現在のお芝居に向かう感覚は少し違っているのでしょうか?

全然違うなって思います。個人的な感覚なんですけど、100%の自分を誰かに理解してもらうことってできないと思っているんですね。そういう意味で、アイドルとしての私も100%自分かと言われると、そうじゃないと思うんです。それは、親にだって、友達にだって100%ではなかったりします。だから、アイドルの場合は、自分のかけらをお見せしているような感覚なんです。演技のお仕事の場合は、その役の人の人生を生きているような感覚なので、全然違うんですよね。ただ、みなさんにお届けするという部分に関しては一緒で、私はそこが大好きだからこの世界に入ったんだな、ってすごく思います。お芝居の場合は、観ていただいて、なんか話したくなる。どう思った?どう感じた?って。その声を聞いて、また反映したいなって思うんですよね。

――やっぱり、ファンの皆さんの声が力になるんですね

なりますね。そしてやっぱりこの作品を見て、人との対話を増やしてほしい。東京で1人暮らしをしていると、誰ともしゃべらない日とかあるじゃないですか。時には人を傷つけてしまう言葉を選んでしまうかもしれないけど、それって対話をしたからだと思うんですよね。対話から逃げることが一番よくないと思っているので、そのきっかけになれたらと思います。

――熱海は50年間、愛を言葉で浴びせ続けてきていますが、新内さんご自身がずっと小さいころから変わっていないものって何でしょうか?

なんだろう?お調子者なところ?ずっとふざけている人だったと思います。

――そうなんですね!バラエティなどでの楽しい部分は拝見していますが、真面目でしっかりしている方の印象だったので、ちょっと意外な気もします

小さいころからずっと「調子に乗るなよ」って言われ続けている子でしたよ(笑)。でも、確かにしっかりもしているとは思います。遊び心を出せないところもあって。根はお調子者なんですけど、堅実にも見られたいんです。お調子者が行き過ぎて、ヤバい奴になりかねないので、自分で止めている部分もあると思います。調子に乗るな、と言われ続けた結果ですね(笑)。

――そうなんですね(笑)。今回は、エキサイト公演やフレッシャーズ公演などもあり、新内さんも水野役の先輩として見られる側になっていますが、いかがですか?

そっか!オールダーズってことですか!?でも、それくらい水野をやってこれたっていうことですよね。フレッシャーズ何て言われたら、私はどうしたらいいの?って感じです。私も気持ちはフレッシャーズですから。背中を見せられるほど、温まってないです。でも、何か言葉をかけるとしたら…素の自分でぶつかっていく方がいいんじゃないかとは思いますね。

――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

私自身は3度目ということで、また水野をやれることに感謝しています。これまでに熱海を観たことがある人も、また違う熱海が見られると思います!そして、まだご覧になったことのない方は、ぜひ愛を浴びに劇場に足を運んでいただければと思います。

インタビュー・文/宮崎新之