撮影/荒川 潤
ミュージカル『スクールオブロック』が8月17日(木)に東京にて開幕、大阪公演は9月23日(土)から10月1日(日)まで新歌舞伎座にて上演される。
本作は2003年に公開されたジャック・ブラック主演の映画「スクール・オブ ・ ロック」を原作にしたミュージカルで、『オペラ座の怪人』や『キャッツ』などで知られるアンドリュー・ロイド=ウェバーが音楽を手がけ、2015年にブロードウェイで初演された。
日本では2020年の公演中止を経て、今回が待望の初上演。
日本版翻訳・演出は鴻上尚史が手がける。
鳴かず飛ばずのロックギタリストのデューイがひょんなことから厳格な名門進学校の臨時教師になりすまし、破天荒な授業を行いながら、子供たち、そして大人たちを変えていく物語が描かれる作品で、デューイ・フィン役を西川貴教と柿澤勇人(Wキャスト)、名門校の校長ロザリー・マリンズ役を濱田めぐみ、デューイの親友ネッド・シュニーブリー役を梶裕貴と太田基裕(Wキャスト)、ネッドの恋人パティ・ディ・マルコ役をはいだしょうこと宮澤佐江(Wキャスト)が演じる。生徒役は1,452名が参加したオーディションを経て、ビートチーム12名、コードチーム12名が選ばれた。
主人公デューイ・フィンをWキャストで演じる西川貴教と柿澤勇人に話を聞いた。
「え、これできんのかな?」「これ、毎日やるんですか?」
――稽古が始まっているそうですが、実際に動き出してどう感じていますか?
柿澤 まだ序盤ではありますが、子供たちの演奏の楽器パフォーマンスが素晴らしいです。でも芝居には慣れていないので、どう動く、とかいつ台詞を言う、みたいなことに関しては、最初まったく言うことを聞きませんでしたね(笑)。
西川 素直なので、台詞を言ってる人のほうを向いちゃうんですよ。それによって完全にお客様にお尻を向けている状態が普通にある(笑)。
柿澤 鴻上さんもすでに50回くらい本気で注意してます(笑)。
西川 舞台が学校なので、小道具としてホワイトボードがあるんですけど、鴻上さんがそれに大きく輪を二つ重ねて書いて、「こっちの輪が“冷静”、こっちの輪が“情熱”。この重なっているところに、いい芝居があるんだぞ」って説明していました(笑)。僕も聞いていて「なるほど」って勉強になりましたけどね。
柿澤 そうですね。そこは僕らにとっても再確認ができたり、新たに「そうなんだ」と思うところもたくさんあるので、非常に勉強になります。
――ミュージシャンの西川さんには、子供たちの楽器パフォーマンスはどう見えていますか?
西川 そこはもう、やはりものすごい数のオーディションを勝ち抜いたメンバーなので。つい「子供たち」みたいにくくってしまいがちなんですけど、もう全然、それぞれの個性があって素晴らしいです。
――お二人が演じるデューイという役は演じてみていかがですか?
柿澤 今は1シーンごとに稽古をしている段階ですが、先日みんなで初めて最初から最後までの本読みをやりまして。そしたら、もう……えぐかったですね(笑)。
西川 めまいがしました。
柿澤 「え、これできんのかな?」
西川 「これ、毎日やるんですか?」
――(笑)
西川 脚本を一人で読んでいるときは、ちょっと間(ま)を作ってもいいかもと思った場面とかもあったんですけど、あの本読みをして、そんなことしてたら1幕だけで120分かかると気付きました。これは一瞬で心を動かしていかないとだめだなって。
柿澤 そうですね。
西川 なので “気持ちの動き”の大変さはある気がします。生徒も12人いるから、デューイは12人分心を動かさないといけない。そこは大変そうだなと思いますね。
柿澤 テンション的なところでも、デューイは登場からいきなりアクセルをベタ踏みでいく感じです。以前、ブロードウェイでこの作品のバックステージを紹介する動画を見たことがあるのですが、デューイ役の役者が「今ちょうど一幕が終わったんだよ」と言って、すんごい疲弊してたんですよ(笑)。その理由がやっとわかりました。だから今は楽しみっていうよりは不安です……(笑)。
西川 僕なんかより圧倒的に舞台経験のある柿澤くんが不安だって言うんですから。僕の心は言わずもがなでしょう!?
柿澤 (笑)。
――子供たちと接する中でもらうエネルギーもありますか?
西川 もちろん。よく「没個性」と言ったりしますけど、このカンパニーにいるみんなはなおさらかもしれないですが、「こういう子供たちがいるのならまんざらでもないんじゃない?これからの日本」って思いますから。
柿澤 吸収もすごく早いですしね。最初の頃は、どこか遊びとか習いごとみたいな、自分の得意なことの延長線上でやっていたと思うんですが、稽古開始から2週間経って変わりつつあります。そういう成長はすごいと思うし、「いいなあ」とも思います。僕は子供の頃にピアノを習っていたんですけど、早々にやめてしまって。だからピアノを弾いている姿とかを見ると、「これが才能なんだ」って思いますね。すげーヤツばっかりです。
西川 ドラムの二人とかもすごくいいゴーストノート(ドラムテクニック)が入ってる。「なかなかいないな、こんな子」って思います。すごいですよ、本当に。
――鴻上尚史さんの演出は、受けていかがですか?
西川 僕は初めてご一緒するのですが、すごくいろいろな意見を吸い上げてくださる方で。作品が進んでいくと厳しいこともあるかもしれないですが、今は「なにがやりやすいか言ってください」と言ってくださいます。いつもそう?
柿澤 そうですね。鴻上さんは多分、僕たちの中から出てきたもののほうが正しいと思っているんだと思います。だから「これだ」って決めずに、自由度を高く、間口を広くしてくれて、僕らがいろいろトライしていく中で「これがいい」とかジャッジしてくださるんですよ。
デューイの「一生懸命さ」がロック
――デューイが子供たちにロックを教える作品ですが、この作品における“ロック”ってなんだと思われていますか?
柿澤 むずかしい。なんだろう……。今は正直、とにかく一生懸命、役を全うするしかないなって気持ちです。「子供たちにこういう影響を及ぼしたい」とか「こういうデューイ像があって、理想があって、こうしたい」みたいなこと以上に、やらなくちゃいけないことが多い。僕の場合は多分、一生懸命やって、汗だくになって、くたくたになって、終演したらなにもできねえ、みたいになって終わる気がします(笑)。
――その姿がもしかするとデューイかもしれないなと思いました
西川 ね。
柿澤 だといいんですけどね。
西川 ロックって現代のミュージックシーンにおいてはちょっとノスタルジックなものというか。あんまりロックロックって言う時代じゃないよねってものになっている。でもやっぱり、抗ったりぶつかったりみたいなものはロックの象徴みたいなところがあって。僕がやっている「イナズマロックフェス」に、出てくださる方々はロックミュージシャンに限らず、アイドルもいれば、アニメをルーツにしたアーティストの方もいたり、本当にジャンルがごちゃまぜなんです。でも僕の中では、地方で開催するむちゃくちゃなイベントに出てくださるという時点で、信念を持って来てくださっている方々だと思う。そういう「想い」みたいなものが「ロック」だと思います。そういう意味では、さっきカッキーが言っていた、「一生懸命さ」ですよね。歳を重ねた僕が、大汗かいて、夢中になって、必死になる瞬間って、ぶっちゃけカッコ悪いし見せたくないなと思うけど、でもこのカンパニーでそういう時間が過ごせることは、やっぱり人生にとってすごくロックな瞬間なのかなと思う。カンパニーのみんなと一緒に、そういう作品にできたらいいなと思います。
インタビュー・文/中川 實穂