写真左より)皆川猿時、細川徹
細川徹が脚本と演出を、皆川猿時が主演を務めるシリーズの最新作が10月、本多劇場にて上演される。2016年『あぶない刑事にヨロシク』から数えて4作目となるこのシリーズには軸となる皆川と荒川良々をはじめ、池津祥子や村杉蝉之介ら、おなじみのベテランが集う。さらに今回はミュージカルで活躍する牧島輝、今回が初舞台となる乃木坂46の金川紗耶も参加。とことんバカバカしいのが持ち味のこのシリーズについて、2人に聞いた。
医療モノ✕インド映画の舞台!?
──細川徹さんと皆川猿時さんがタッグを組んだ舞台は2016年からスタートして今回が4作目ですね。刑事モノ、先生モノときて今作は医療モノですが、この発想はどこから?
細川 舞台で医療モノって、あまりないからいいかなと。まあ当然、やりづらいからなんですけど。手術シーンだと医者の顔は隠れるし、手元もアップにできないし、大きな声も出さないし(笑)。でも「あまりやられていない」ことについ惹かれてしまって。今回はこの医療モノを、インド映画みたいに、映画『RRR アールアールアール』(2021年製作・インド)みたいにしようと思っているんですよ。なるべく派手にしたい。
皆川 そうなんだ。細川さんの作品って、毎回くだらなくて素晴らしいんだけど、繊細な芝居を要求されるんです(笑)。だから、くだらないのに「芝居をやってるな」という感じがするんだよな。
細川 やること自体はわけがわかんなかったりシュールだったりするけど、感情だけはちゃんとしているのが僕の作品の特徴だと思っていて。「ここはこういう気持ち」というのがいちいちあるから、内容のわりにはちゃんと演じてもらいたいというのがあるんですよ。
皆川 あと、細川さんの台本ってね、覚えにくいんです。だいたいひらがなだから。偏差値を下げて演じろという意味が込められているのかもしれないけど。だから漢字に書き直して覚えたりしますよ。
細川 そうなの!?だったら漢字で書くよ!先日、映画の脚本を作っていて、プロデューサーから「ちょっと修正しました」と戻ってきたのを確認したら、ほとんどがひらがなを漢字にするっていう修正だった(笑)。
──このシリーズでは毎回、皆川さんと荒川良々さんがコンビとして登場しますが、改めて細川さんが感じる皆川さん、荒川さんの魅力は?
細川 芝居も、人としても、魅力しかないですよ。二人とも芝居が細やかで、すごくうまい。その演技力を、僕とのシリーズでは無駄なことだけに集約して、すごくちゃんとやってくれる。だからこそ、作る側としては緊張します。つまんないことでも面白くできちゃう人たちだから、二人がそこまで苦労しなくても面白いものにしなくちゃと。さらに二人の力で面白さが増していくものにしたい、いつもそこに辿り着こうと思って作っていますね。
皆川 荒川くんと芝居をしていると、「あ、こんな演技するんだ」と本番中にドキッとしたりキュンとしたりすることがありますね。『3年B組皆川先生』(2021年)だったら先生と生徒という間柄で「こいつ、本当にかわいいな」と思う瞬間があるのが面白いんですよ。ウソで芝居しているはずなのに。
細川 あと、荒川くんは加減を知らないよね。荒川くんのブレーキは、普通の俳優さんとは完全に違う場所でかかってる気がする。
皆川 痛いを通り越して、びっくりすることがありますね。まあでも、相手に怪我をさせないから大したもんですよ。毎回村杉(蝉之助)くんの髪の毛を鷲掴みして首を前後左右にガンガンやるんですけど、まったく怪我しないし、なんなら村杉くん元気になってるもんね(笑)。
細川 皆川さんと荒川くんの芝居を観ていると、二人の信頼感みたいなものが物語に乗っかっているような気がしますね。別に言葉で「ここまで行くよ」とか確認せずにどんどん芝居をしていく。そうするうちに、お互いに対するリスペクトみたいなものが作品に反映されて、観客にも伝わって、最終的にグッとくるのかなと思っています。
稽古中の雑談が生み出すもの
──ベテラン勢の中に、今回は牧島輝さん、金川紗耶さんというフレッシュな顔ぶれも参加されますが…
細川 このシリーズ、いつも主役の皆川さんが一番大変で。だからある程度若者2人に任せて、少しは皆川さんを楽させてあげたいですね。特に金川さんは今回初舞台なんだけど、やっぱり経験が少ない方が座組に入ると、すごく素直な芝居をしてくれて、気付かされることが多いんですよ。「僕らは普通だと思っていたけど、これ変なことだったんだ」とわかることもあるんです。まっすぐなお芝居をする人が大ベテランの中に入ることで、周りの芝居も変わったりするし。金川さんには一度会いましたけど、天然なところがあるから、稽古場が楽しみです。
皆川 若者お二人といろいろお話するのが、今から楽しみですね。
──このシリーズの稽古場は、雑談がとても多いと伺いました
皆川 はい(笑)、斬新ですよね。稽古の中に雑談の時間が組み込まれているという。雑談だけで終わったりする。他の現場ではありえません。まあでも、積極的にコミュニケーションをとる必要もなくなるし、すごくありがたいですよ。
細川 なんで雑談するかというと、キャストの皆さんがどういう人かを知りたいというのがいちばん大きくて。「ずっと黙っているな」とか「追い詰められるとこうなるんだな」とか。そういう人となりが作品に反映されると、僕の頭だけで考えているものよりもちょっと膨らむんです。だから内容は二の次で、キャストが仲良くなるための手段として雑談をしているんですよね。別に完璧に、機械のように作りたいわけじゃないから。
──特にこのシリーズは、完璧に作ることよりもそういったキャスト同士の理解が深まるほうが重要ということですね
細川 そうですね。せっかく一緒になるなら牧島くんのことも金川さんのことも詳しく知りたいですからね。そうやって彼らの性格が活かされると、より面白くなると思うんです。
──最後に、『ドクター皆川』がどんな作品になりそうか、教えてください
細川 生で観ることがいちばん面白いタイプの芝居だと思います。本当に「なんでもあり」な、突然のアクションとか、踊りや歌、客いじりまで毎回丁寧にやるから、参加型というか……「演劇」というより「劇」というのがふさわしい舞台ですね。稽古中は「前と違うことをやろう」と思うけど、結局毎回同じになる。
皆川 いつも観てくださるお客さまにとっては、毎回想像を超えてこない芝居だと思うんですよね(笑)。まあでも、最後ちょっとホロッときて、熱い気持ちになる。そこだけ何故か想像を超えてくるっていう。このシリーズの常連の皆さんはぼくも含め、どんどんおじさんおばさんになり、一人はもうおじいさんみたいになってます。自分の体と相談しながら、想像できる範囲の期待に応えられるよう頑張ります。
細川 想像の、ほんのちょっとだけ上にいけばいいよね。
皆川 10月には暑さも落ち着いてるはず、芸術の秋ですから。「日本にこんな芸術があったんだ」と(笑)、お気楽にいらしていただけるとありがたいです。
インタビュー・文/釣木文恵
写真/ローチケ演劇部