1967年に「おぼろ忍法帖」として単行本化された山田風太郎の人気小説「魔界転生」。天草四郎を中心とする死者再生術により蘇った魔界衆と、幕府の命を受けて凶悪な魔界衆に立ち向う柳生十兵衛軍との戦いを、壮大なスケールで描いた傑作時代劇の舞台版が、いよいよ来月、10月6日から博多座にて開幕!
その雄大な歴史ロマンに加え、奇抜な展開で時空を超えたアクション・エンターテインメントと云われた本作は、1981年に千葉真一や沢田研二といった豪華顔ぶれを迎え、深作欣二監督により映画化。それ以降も、舞台、漫画・アニメ・ゲームなど、数多くのジャンルでリメイクされた、山田風太郎の最高傑作だ。
今回、本作の舞台化の演出を手掛けるのは、ドラマ「TRICK」シリーズや「SPEC」シリーズ、映画「20世紀少年」など多くの話題作を手掛けた奇才・堤幸彦。また、演劇界の重鎮・マキノノゾミが脚本を担当し、新たなる『魔界転生』を蘇らせる。
この話題作において主演の柳生十兵衛に抜擢されたのは、ドラマ「遺留捜査」シリーズなどでもおなじみの俳優・上川隆也。その柳生十兵衛に敵対する天草四郎を演じるのは、近年、蜷川幸雄演出舞台やドラマ、バラエティと幅広い活躍を見せている溝端淳平。また、四郎の姉・お品に高岡早紀、四郎によって甦らさせられた淀殿に浅野ゆう子、十兵衛の父・柳生宗矩には松平 健といった大御所らが脇を固める。
5月某日、キャンペーンで福岡を訪れた上川隆也。そこで開かれた会見で上川は、本作に関する思いを次のように語ってくれていた。
―本作のオファーを受けた時の感想は?
「「魔界転生」は他の忍法帖の作品の中でも奇策を図った作品で、初めて読んだ時に『なんという着想の作品なんだ!』と度肝を抜かれ、好きになった作品です。柳生十兵衛は今までに演じたこともありましたが、まさか“魔界転生の柳生十兵衛”という役は自分に回ってこないのだろうと思っていたので、その作品で今回のお話をいただいた時は、はじめは冗談かと思いました(笑)」
―演出を務める堤幸彦に対する印象は?
「堤さんという方はTV界において、『堤以前、堤以後』などと称されるような演出をもたらされた方ですが、いざカメラの前で演じる時にそういったことを感じさせないんです。演出にこだわりはあるにせよ、役者に奇をてらったことをさせる…ということではないんです。一回カメラを通してモニターに映りこんだ自分を見ると、思ってもみなかった効果がもたらされていたり、知らないうちに空気感が加味されていて、そこがいい意味で“堤マジック”として起きているんですね。今回はカメラを介さずお客様と相対するわけですが、その堤マジックが舞台の上でも醸されるのではないかなぁと、とても大きな期待を持ちつつ稽古を待っている状態ですね(笑)」
― 敵対する天草四郎を演じる溝端淳平の印象は?
「彼はいい男ですよ~(笑)。以前、ある番組のロケでご一緒したことがあるんですが、過酷なロケにもかかわらず、どんな環境や状況に対しても決してネガティブな発言をしなかったんです。そのことが僕は共演者として頼もしかったのを覚えています。そこは彼の人間力だと言っていいものだと思いますし、この座組でそんな彼がもたらしてくれるものにも期待しています」
― 今年、天草四郎没後380年という節目を向かえ、作品ゆかりの地、島原・天草「潜伏キリシタン」が世界文化遺産として登録された。そんな年に本作が上演されることに関してどう感じているのか?
「そうですね、これは“巡り合せ”と言ってもいいと思います。この『魔界転生』上演とともに、天草四郎没後380年、四郎ゆかりの地のユネスコ世界遺産登録決定などが今回は1つならず揃っているので、“巡り会わせ”というものを改めて考えさせられました。この作品が今年上演されるということも、何かの計らいでは?とか、最初から決まっていたことなんじゃないのか?とさえ思えますが…。すみません、自惚れてしまいましたね(笑)」
― 何度となく舞台・映画化された『魔界転生』。映画版では、上川が演じる柳生十兵衛を千葉真一や佐藤浩市という大先輩が演じているが、そのことに対してプレッシャーは感じるものか?
「プレッシャーは…無いと言ったら嘘になります。でも、少しくだけた言い方になりますが、それを背負っても仕方ない。むしろ打ち捨ててしまっていいものだと思っています。新しい『魔界転生』が創り出されるのならば、僕はそれに正面から臨むべきでしょうし、過去の作品に引きずられるべきでもない。それぞれの作品に大いなる尊敬を払いつつ、僕は僕の十兵衛を演じさせて頂こうと思います。ある意味、舞台って不思議な空間で日常と地続きでありながら異世界でありうる空間なんです。映像作品で作り上げられるような奇想天外な世界観とはまた違った世界が舞台では作れると確信していますので、そこに不安は感じていませんし、絶大なる期待感を持って本作に臨みたいと思っています!」
― 通常、東京からスタートする舞台が多いなか、今回は博多座から開幕となるが、スタートが地方であることに関してはどう感じているか?
「今回、博多座からスタートするということは、先ほども言いましたように、天草四郎の縁の地が世界遺産に登録される年であったり、彼の没後380年という機運のひとつに、(九州の地)博多座からスタートというものも含まれていると思っていますので、博多座で箔をつけて東京・大阪に乗り込みたいなと思っています!僕は博多座に立つのが初めてとなりますが、この劇場はミュージカルにもストレートプレイにも、どんなジャンルの作品にも対応できる劇場だと聞きます。役者としてはどれほどの風景がこの板に広がっているんだろう?と思うほど期待も膨らみますし。今回の機会を得られたのは心からうれしく思っています。平成最後の秋、皆さまとお芝居を通して“いい秋”を過ごせたらと思っております」
福岡キャンペーンでの取材会は稽古前の時期だったということもあり、まだ舞台の構図が鮮明になっていない中ではあったものの、記者たちからの質問に対し丁寧に言葉を紡ぎだし、真摯に語ってくれた上川隆也。彼をはじめ豪華キャストたちによる演技の競演はさることながら、プロジェクションマッピングを駆使した映像やワイヤーアクションなど見所満載で一瞬たりとも目が離せそうにない。堤演出×マキノ脚本が織り成す新たな『魔界転生』という異世界、“堤マジック”がかかった世界観を生で体感できるのは、いよいよ来月!残り約1ヶ月に迫った博多座公演に期待は高まるばかりだ。博多座公演後には、11月東京・12月大阪と公演が続く。各公演のチケットはローソンチケットにて好評発売中!
取材・文/ローチケ演劇部(シ)
【こぼれ話】
今回の取材会では上川隆也さんの真面目で誠実な部分が印象に残った。どんな質問にも真摯に答えていた上川さん。そんな彼の“誠実さ”が垣間見えるエピソードを2つほど―
<エピソード1>
本作の“死者の甦り”を例に挙げて、異なる時代に生きた剣豪などと対決する柳生十兵衛を演じる彼に、「もし、誰かを甦らせることが出来て、なおかつ戦えるのなら誰を甦らせたい?」という難解な質問を投げかけてみたところ、誠実に答えを出そうと考えてくれる上川さんの姿に恐縮…。長い沈黙の末、彼が出した答えは意外な人物だった。
「“対決”にはなりませんが…、小津安二郎監督がもし平成の世に甦られたら、どんな作品を撮られるのか観てみたいです。黒澤明監督が描くような活劇を観てきた一方で、小津監督の『東京物語』のような、画が持つ美しさ、詩情のようなものも好きでして。そして、もし自分にオファーを頂けたら、飛び上がらんばかりに光栄なことだなと。すみません、対決じゃなくて(笑)」
<エピソード2>
取材会の最後、フォトセッション(撮影会)準備の為に一度その場を離れた上川さん。スタッフが撮影時に使用するポスターパネルをセットするもなかなか位置が定まらず、固定できたと思ったパネルが床に落ちてしまった瞬間、それは起きた。その準備を横で待っていた上川さんが、誰よりも先に落ちたパネルを取りに走り寄り、自ら設置台にセッティングしようとする紳士ぶり!その素晴らしい対応に彼の人間力を感じた。