三宅裕司を座長とし小倉久寛らと共に設立した劇団スーパー・エキセントリック・シアターの第61回本公演ミュージカル・アクション・コメディー『ラスト★アクションヒーロー~地方都市に手を出すな~』が2023年10月19日(木)~29日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて上演される。
劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)は、1979年11月に三宅裕司、小倉久寛らにより設立。アクション、ダンス、歌、笑いなど、あらゆる要素をふんだんに盛り込みつつも、社会風刺を効かせた作風で、設立以来第一線を走り続けている。
初日も近づいてきた10月某日、SETの稽古場にてメディア向けに通し稽古が公開された。
今回の物語は、とある地方都市が舞台。その町で秘密裏に開発されたとされる超小型スーパーコンピューターをめぐり、国の特殊部隊と腕利きのスパイが町に潜入。それぞれが超小型スーパーコンピューターを奪取すべく、ごくごく平凡な町の人を巻き込みながら水面下で攻防戦を繰り広げていく。果たして超小型スーパーコンピューターの全貌とは――。
冒頭は、いきなり激しいアクションからスタート。銃声が響き渡り、1人の男が次々と現れる男たちをなぎ倒していく。アクロバティックなバトルシーンで、一気に作品世界に魅了されてしまった。このバトルは公安特殊部隊の訓練で、彼らはスパイやカルト集団、テロリストなどから平和を維持するため、秘密裏に国を守る任務に就いている。隊長から超小型スーパーコンピューターに関する情報を知らされた彼らは、軍事利用などに使われないよう回収を命じられた。すでに世界的スパイ組織も目をつけており、彼らよりも先に回収する必要があるという。
緊迫した場面でありながら、どこかトボケている隊長とのやりとりには思わずニンマリ。このテンポ感はSETならではだと感じられた。
超小型スーパーコンピューターが開発されたと噂される町は、最新鋭の研究が進められている都会…ではなく、道の駅には地物の無農薬野菜や工芸品が並び、整備されたキャンプ場もあるような自然豊かでごく平凡な田舎町。特殊部隊らはドキュメントドラマの撮影クルーに扮して潜入し、誰が開発に関わっているのかをあぶり出すためにエキストラ募集と称して町民たちに面会していく。そして、スパイたちもまた、すでに町に入り込んで超小型スーパーコンピューターを捜索しているようだ…。
酒好きの坊主や癖の強い陶芸家など町民たちは、みな個性が爆発していて爆笑必至。
ドラマに出演したい町民たちはクルーにさまざまなアピールを繰り広げる。中でも町長(三宅裕司)と巡査(小倉久寛)の2人のやりとりは、もはや漫才のよう。SETファンには堪らない、三宅・小倉コンビの爆笑コーナーの復活だ。芝居とも普段の2人ともつかないような自然で丁々発止なトークに、取材陣からも笑い声が起こっていた。
特殊部隊もスパイたちも超小型スーパーコンピューターのありかを見つけられないまま、町では町民文化祭の日を迎える。さまざまな演目がステージで上演される中で、強硬手段に出たスパイ陣営が町を危険にさらすあるものを持ち込んできて…!
町民文化祭は、もはやエンターテインメントショー! ラップ&ダンスや女性コーラスグループ、アクション研究会の女性たちによる演武など、コミカルでありながらも確かなクオリティのパフォーマンスを見せてくれる。そのパフォーマンスのひとつひとつから、質へのこだわりを感じさせられた。
そして物語の後半では、SETアクションの集大成とも言える、激しいアクションシーンが展開される。取っ組み合う男たちの迫力には息をのむばかり。受け身を取るたびにドシンと振動が伝わってきて、そのアクションの激しさを体感、瞬きを忘れるほどの死闘が繰り広げられた。ストーリーの展開自体は分かりやすく、難解なところは無い。しかし、実際の事件やニュースなども織り交ぜられ、科学や技術の発展がもたらすものが何なのか、それが人の幸せにつながるのか――と、コメディシーンで笑っていたからこその考えさせられる物語になっていた。
王道ともいえるコメディで笑っていたはずなのに、いつのまにかシリアスな物語に惹き込まれ、ピリッと辛いリアルの問題を考えさせてくれる手腕は、さすがSETと唸らずにはいられない。そして本番では、ここからさらにブラッシュアップして魅せてくれるはず。大いに期待して、初日の幕開けを待ちたい。
取材・文:宮崎新之