ミュージカル『オン・ユア・フィート!』朝夏まなと×相葉裕樹 インタビュー

全世界でレコード売上1億枚以上、80~90年代に驚異的な人気を誇ったグロリア・エステファン&ザ・マイアミ・サウンド・マシーン。そのヴォーカルを務めるグロリア・エステファンの半生をミュージカル化した「オン・ユア・フィート!」がこの冬、日本で初演を迎える。数奇な運命をたどるグロリアを演じるのは、宝塚歌劇団の元宙組トップスターで本公演が退団後、単独初主演作となる朝夏まなと。グロリアをスターへと導き、やがて夫となるエミリオ・エステファンには、相葉裕樹と渡辺大輔のダブルキャストで上演される。本作にかける想いを、朝夏と相葉の2人に直撃した。

 

――朝夏さんは、アメリカで「オン・ユア・フィート!」をご覧になったそうですね。

朝夏「そうなんです! ワシントンで観てきました」

相葉「え!? そうなんですか! 羨ましい(笑)」

朝夏「まず、とにかく舞台上からくるエネルギーがすごい。使われている音楽もグロリア・エステファンの名曲の数々で、バラードもあればアップテンポでノリノリの曲もあって。それ以上にお芝居の比重も大きくて、グロリアとエミリオが出会ってから恋人になり、結婚して…そこで挫折も経験していく。そのストーリーが本当に良かったんです。私は英語がよく分かるわけではないんですが、それでも感動して泣いてしまいました。それに、あちらのエミリオ役の方と一緒に写真も撮ったんですよ(笑)」

相葉「(その写真を見て)全然僕と違う! すごくラテンの雰囲気がある方ですね…プレッシャーを感じます(笑)」

 

――涙するほどの感動だったそうですが、どのあたりに感情移入されたんですか?

朝夏「2回観てきたんですが、1回目は自分が演じることなどは全く考えずに観たんですが、家族の絆をすごく感じました。グロリアとエミリオの絆、そしてグロリアとお母さんの絆。グロリアとお母さんは確執があるんですが、お父さんやおばあちゃん、妹たちとそれを乗り越えていく家族の絆のお話なんです。そこにジーンと来ました。そういう絆って、キューバ人だろうが日本人だろうが、同じだと思うんですよ。2回目はグロリア目線で観たので…その時は泣けなかったです。これは大変な役だぞ、と(笑)」

相葉「生でご覧になっているというのは、本当に強いですよね。しかも、お客としての目線と、プレイヤーとしての目線とで2回も観ているなんて。ずるいです(笑)」

 

――ラテン音楽にはどういうイメージをお持ちですか?

相葉「そうですね…。マッチョで、浅黒くて、短パンをはいていて声が大きい! …浅いイメージですみません(笑)。ひとつひとつ、解消していきたいと思います。そもそもお客様は僕に、まったくラテンの想像をしていないと思うんですよ。自分の中の新しい引き出しを開けられればと思います」

朝夏「すごく端正でシュッとしているイメージだから、そこからラテン男の空気が出てくるとすごくカッコ良いと思う!」

相葉「すごく情熱的で、愛してるという言葉もドーンとストレートに伝えるイメージですし、ド直球ストレートの投げ合いだと思うんです。そういう役は今まであまりなくて、大体、ナヨナヨ、クヨクヨ、オドオドしています(笑)。何か探しているような、迷っているような役が多いんです」

――今回、振付の方には競技ダンスで世界的に活躍されている金光進陪さんが名を連ねています。かなり本格的なラテンダンスになるのではないかと予想しているのですが、いかがでしょうか?

相葉「僕は全く経験がないので、本当に初めての挑戦。新しいものをお見せして、お客様に楽しんでいただければと思います」

朝夏「私はショーでは経験がありますが…ちょっとオラオラしていたというか(笑)、またちょっとタイプが違うんです。男役だったので、女性としてのラテンは挑戦ですね」

相葉「むしろ、僕はラテン男の先輩になる朝夏さんに教わった方がいいのかも?」

朝夏「私もラテン女を頑張るから、ラテン男を頑張って! 一緒に頑張っていこうね(笑)」

 

――朝夏さんは宝塚歌劇団を退団されてから本作が2作目の舞台となります。何か違いや変化などは感じていらっしゃいますか?

朝夏「役を演じる上では、あまり違いは感じていないんですね。でも、自分では意識していないところで、いろんな声をいただきますね。“さっき、風切って歩いてたよ”とか(笑)」

相葉「つい、カッコよくなっちゃうんですね」

朝夏「そうみたい(笑)。でも、役を演じるということにおいては、男役も今もあまり変わっていないと思います」

 

――今回の役どころについては、現時点でどのようにとらえていらっしゃいますか?

朝夏「グロリアさんは今も現役バリバリで活躍されている。そういう方の役を演じることって、あまりないんですよね。本当は、グロリアさんとお話してみたいくらい。グロリアさんは幼いころはシャイで人前に出るなんて、みたいな性格だったのが、エミリオやおばあちゃんなどに勇気をもらってスターになっていった。周りに恵まれている方だなと思います。そのうえで、グロリア自身も自分の道を歩むうえで意志が強いし、ラテンの血が流れるカッコいい女性。でも、家族との関係の中で思い悩む繊細なところも出していきたいなと思います」

相葉「エミリオは、グロリアをスカウトして自分のバンドにメインボーカルとして入れるんですね。それって、すごいことだと思うんです。ある意味、信念を曲げているようなものですから。それくらいグロリアに魅力を感じたんだと思います。グロリアと出会ったことで、エミリオも変わっていく、彼にとっても運命的な出会いだったんだと思います。」

朝夏「エミリオは、グロリアに出会うまでは結構チャラい感じなんですよね(笑)。ちょっと冗談を言って笑わせて、キスしてくれよ~みたいな」

 

――相葉さんの顔が曇りましたね(笑)。意外とそういうキャラクターも得意分野かも?

相葉「いや、すごく難しいなと。一歩間違えるとただチャラいだけになってしまいそうで。そこにきちんと“ラテンの血”と“熱さ”を乗せて、お客様を巻き込んでいければと思います。ハードルがいくつあるのかわからない状態なので早く準備したいです(笑)」

――タイトルにもなっている「オン・ユア・フィート」は、劇中でも印象的な場面で歌われています。“自らの足で立つ”という意味で、自分自身で“自立したな”と感じたときはいつでしたか?

相葉「自立…してないなぁ。人に助けてもらってばかりです。甘えるだけ、甘え倒していますね(笑)」

朝夏「えー、なんだかカワイイですね(笑)」

相葉「すぐ“助けて―!”と、声を上げて、いろいろな人に助けていただいてます」

 

――そうやっていろいろな方のアドバイスを得て、役づくりなどに活かしているんですね。朝夏さんはいかがですか?

朝夏「私は、親からの自立という意味では少し早く始めた方だと思うんですが、役者としての自立を意識したのは、やはりトップスターになってからですね。自分の足で立たないと、みんながついて来られないという責任感でそうなったと思います。でも、卒業した今、それが無くなってしまったので…。エミリオみたいに支えて、引っ張ってくれる人がいたら嬉しいですね。女の子扱いしてもらえるじゃないですか。それが新鮮なんです(笑)」

 

――ちなみに、お互いの印象として、それぞれどのような女優、俳優だと感じていらっしゃいますか

相葉「まだ舞台を拝見したことはないんですが、お会いした時にマネキンがそのままやってきたのかと思ったぐらい本当にスタイルがよくて、むちゃくちゃキレイな方だなと。でもすごくフランクに、気さくに話しかけてくださって、とてもやさしい方だなと思いました」

朝夏「またまた…(笑)。私もマネキンみたいにスラっとしていて、(宝塚歌劇の)男役にいてもおかしくないくらい。男役はいっぱい作りこんで、男役になるんですが、相葉さんはそのままでもう決まっている。でも、今日でまたちょっとイメージが変りました。ちょっとカワイイところもあるんだなって(笑)。カッコいいところはみんな知っていると思うんですけど、こんなにフランクに話せているくらい面白い方なんですよ。私も素のままなんじゃないかと思います」

相葉「今回の役とは少し性格が離れているかもしれませんが(笑)。エミリオ役はしっかり決めていきたいと思います!」

 

――今回、エミリオ役は渡辺大輔さんとのダブルキャストになります。渡辺さんの印象はいかがですか?

相葉「大ちゃんは『タイタニック』でも一緒なので、心強いです。自分の役を客観視できるのはダブルキャストの良さだと思います。大輔兄さんの演技もいろいろ盗みながら、がんばっていきたいと思います」

朝夏「渡辺さんとは、『年齢がみんな近くて同世代なので、いろいろなディスカッションができるね』とお話していたんです。見えてくるものもそれぞれ違うと思いますし。ちょうど私がお2人の真ん中の年齢なので、それぞれがどんなふうに仕上がるか楽しみですね」

 

――最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!

相葉「ラテンのミュージカルなので、皆さんも一緒に心を動かして観ていただけたら。一緒に共有できればと思います。ぜひ楽しみにしていてください」

朝夏「観ている方もすごく感情が動かされる作品で、音楽もダンスも素晴らしいんです。ダンサーさんたちも見事なものを見せてくれます。家族の絆などメッセージ性も強い作品なので、それとともにラテンの熱いパッションを感じていただけたら。一緒に平成最後の冬を、賑やかに締めくくりましょう!」

 

インタビュー・文/宮崎新之

 

■朝夏まなと
ヘアメイク:タナベ コウタ
スタイリスト:菊池志真

 

■相葉裕樹
ヘアメイク:福岡亜樹
衣装協力:TOMORROWLAND
スタイリスト:吉田ナオキ