ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇 稽古場レポート

シリーズ12年目の「薄ミュ」最新作、ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇の初日が近づいている。ここでは先行公開された演出の毛利亘宏&土方歳三役の久保田秀敏対談に続き、稽古場での様子をレポート!
対談の折、「ものを作る喜びみたいなものをまさに噛み締めながらやっています」と語っていた毛利氏の思いが示す通り、現場はカンパニー全体が同じ方向を向いて突き進むうねりを感じさせる“特別な場所”となっていた。

この日の稽古予定は「一幕」のブロック通し。スタッフ陣が準備を進める中、時間少し前から徐々に集まり始めた俳優たちは、各々に体をほぐしたり発声練習をしたりと、ウォーミングアップも万端。稽古場内にはすでに足元に色とりどりのバミリ、そして目の前には大きなセットがいくつも組まれている。少し脇に目線をやると、朱に白で抜かれた「誠」の旗を発見!これは久保田が公演に先駆け個人的に京都の旧前川邸(新選組屯所)を訪れた際、公演の成功を祈り、管理している方に直々に託されたものだという。そんな、ちょっと特別な護られた感じも、きゅっと心の襷を締めてくれる特別な感覚だ。

定時になる。毛利の「これだ。というのをみなさんで作っていきましょう!」に、「よろしくお願いします!」とカンパニーが返した言葉を合図に、稽古がスタートした。

オープニングは千鶴(竹野留里)と大鳥圭介(飯山裕太)の会話から。新選組がどのように命を燃やしたのか、土方という男がどれほど魅力的な人物だったのか、千鶴の言葉によって彼らの物語が語られていく──という静かな始まりである。そこから一転、背後のセットが扉のように開き、猛々しい土方(久保田)が多勢相手に激しい殺陣でなだれ込む。スタイリッシュな刀捌きと疾走感あるナンバーが熱さを倍増させていく、ドラマティックな幕開けである。回想録、千鶴の視点から描かれる新選組のストーリーという構造を持った本作。千鶴に対し「もっと彼らの話を聞きたい」と紳士的かつ興味津々に思いを寄せる大鳥の姿は、今の私たちが歴史を辿りながらかつての彼らのことを追いかけるのにも似ている。冒頭から観客を自然と作品世界へと引き寄せていく引力がそこにあった。

柔らかくも凛とした千鶴の歌声に導かれつつ、場面は京にやってきた千鶴が夜の町で新選組と出会う『薄桜鬼』定番のシーンへ。狂ってしまった隊士、襲われる千鶴、制圧にやってくる沖田総司(北村健人)と斎藤一(大海将一郎)が揃う切迫した場面だ。殺陣とセットチェンジのタイミングを何度もすり合わせていく中、「もう少し尺が欲しいな。お馴染みの台詞、やっぱりここに入れます」と毛利。台本をチェックすることもなくそのままシーン頭から返し、殺陣だけだったところにスッと沖田が言葉をかけ、斎藤が応える。場面が豊かになる。さすがだ。

千鶴が確保され一行は屯所へ。土方、沖田、斎藤に加え、藤堂平助(樋口裕太)、原田左之助(川上将大)、永倉新八(小池亮介)、山南敬助(丸山龍星)、近藤勇(井俣太良)も顔を揃える。大袈裟な登場ではなく日常的にするりと新選組がそこに“居る”という安定感。それは物語上だけでなく、練度を上げている「薄ミュ」カンパニーそのものの信頼感や安心感にも繋がる、本作が持つ力強さであろう。

圧巻は、池田屋御用改めからのビッグナンバー。可動性の高いセットが中央でいよいよ大階段となり、新選組とアンサンブルメンバーが入り乱れての大殺陣が始まる!斬り、走り、歌い、踊る見せどころ。新選組が一人ずつ順々に出てきて、集団としての活きの良さがほとばしっていく、一幕最初の盛り上がりポイントだ。続くシーンでの登場を舞台袖で待つ千鶴と山崎烝(田口司)も、リズムに乗り、拳を振り上げて共に歌いながら皆を応援しテンションを上げていく。ここから壮絶な歴史を駆け抜けていく新選組の道程を導くような歌詞と掛け声のリフレインも印象的で、これは新たな“お持ち帰りナンバー”になりそう。稽古場内の温度もグイグイと上がり、上着を脱いで次のシーンへと備える者も増えてきた。

ここまでで約1時間半。「何か気づいたらすぐ止める」を徹底した、細部に手を入れながらの丁寧な進行である。役者の動線と噛み合わせながらの殺陣の流れ、次々に形態を変えていくセットの配置など、アンサンブルチームの担う役割もとても大きく、要所要所で毛利はもちろん振付・ステージングの本山新之助、殺陣の六本木康弘らが俳優たちの元に駆けつけてアドバイスや修正を繰り返す。時にはほぼ出来上がっていた一連の流れをスパッと捨てて別の見せ方で再構成する場面も。そのたびに指示を聞き漏らさぬよう集中し、即修正する俳優たち。進んでは戻り、深めては進み。クリエイターの意図を汲み取り、同じ未来図を描いているのだという自信のもと、稽古が進んでいく。

シーンとシーンの合間には談笑しながらタイミングなどを打ち合わせている久保田と竹野のやり取りも微笑ましく、また、ダンスの振りを樋口に見てもらいながらおさらいしている井俣の姿も。新選組の面々は登場するたびにちょっとした裏の芝居的やりとりを様々に試すなど、わかっているからこそより“らしい”空気を生み出していこうという意識にも余念がない。

流れを整理するためにも、一旦、短いインターバルが挟まれた。もちろん、稽古はまだまだ続行。全体を見つめ、この先を見つめ、「より良いものを」という思いのこもった毛利の言葉が次々にマイクから発せられるたび、作品はまた一歩、私たちが劇場で出会う完成形へと近づいていくのだ。

取材・文/横澤 由香