森山開次『サーカス』森山開次・ひびのこづえ・川瀬浩介 インタビュー <前編>

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写真左より ひびのこづえ・森山開次・川瀬浩介

 

 森山開次の新作「サーカス」が東京・兵庫で上演されるにあたり、インタビューに伺った。
テーブルには森山のほかに、美術・衣裳のひびのこづえ、音楽の川瀬浩介も着席する。
今回、どうしてもこの3人が揃ったところでインタビューしてみたかった。なぜか?
まずはこちらの動画をご覧いただきたい。

≫動画を観る(Youtubeに移動します。)
森山開次×ひびのこづえ×川瀬浩介『LIVE BONE』
(2013年/スパイラルホール/©森山開次プロジェクト)

 この作品は、「サーカス」同様に、森山が出演し、ひびのが衣裳を、川瀬が音楽を担当する『LIVE BONE』(以下、『LB』)だ。骨・内臓など身体をモチーフとするダンス作品で、2010年の初演以降、形式を変えながら各地で上演され続けるプロジェクトになっている。

 そもそも3人の出会いは『LB』よりさらに前にさかのぼる。2004~2009年にNHK教育で放送されていた「からだであそぼ」の1コーナー『踊る内臓』(2008~2009年度放送)で、臓器に見立てた衣裳を身に着けた“カイジくん”が踊る、『LB』の原型となった作品だ。それから6年あまり、3人はチームを組んできたことになる。

 『サーカス』は、同じ3人の名前がクレジットに並ぶまったく新しい作品だ。そもそも3人はどんなチームなんだろう?培われてきた関係性でどのように『サーカス』を作るんだろう?3人揃ったところで、話を聞いてみたかった。

 


 

――新作のクレジットに3人のお名前がある!ということで最初は驚きました。どういうきっかけでまた3人が集まることになったのですか?

森山開次(以下、森):「からだであそぼ」をやり、『LB』もやってきて、その後でなにか子ども向けの作品を作るなら「サーカス」をテーマにしたいとずっと頭に置いていました。僕、こうやって自分で絵を描いたり(チラシ)、衣装を自分で作ったりすることもあるので、“いつか森山開次の世界のサーカスを作る!”って夢があったんです。今回の『サーカス』の絵も前から描いてたんですよ。でも、自分だけでいろいろやってしまうことは何か違うな、それでいいのかなと思ってたときに、こづえさんや川瀬さんと出会ったんです。
たとえば『LB』では、こづえさんに「精霊のイメージ」って言ったらなぜか骨の衣装が出てきたり(笑)、僕自身は「ここは身体表現で感じてもらいたい」と思っていても、川瀬さんの音楽は「See you, BONE.」とか「ありがとう」とか直接ことばで伝えてくる。♪心臓~っていう歌詞で、こづえさんが作った心臓のパーツをつけて踊るとかね。そこは「何もつけないで心臓って表現したいし想像させたい」というのが僕のほんとうの思いだったりするんです。でも、『LB』はふたりとのそういうぶつかりあいから作品が生まれていったし、プロジェクトをずっと続けることで新しいものを発見できたことは大きかった。
以前、テレビの旅番組に出て、サーカス団でクラウンを学んだことがあるんです。クラウンは道化とも言われますけど、当時、自分としては道化=“笑い”はあまり得意じゃないつもりでした。でも、ロケに行くころにはもう『LB』をやっていて、「からだであそぼ」にも出ていたので、実は自分もクラウンのように人を笑わせる・楽しませる部分を持っていたんだと気づいたんです。もう『LB』でやってることではないか!って。そういう部分はもともと自分の中にあったと思うんだけど、それを『LB』で吐き出せた、見つけられた、って思いが強かったんですよね。
そんな経緯があったから、今回の『サーカス』をやるとなったとき、自分の世界観だけで行こうか…いやちょっと待てよ、自分が予想できないことをやってみたいし、新しい自分を見つけてくれた『LB』のご縁もあるし…ということで、ふたりに声をかけさせていただきました。

ひびのこづえ(以下、ひ):わたし、一緒にやるのを無理強いしたかなあ…っていまだに思ってるんだけど。

:(笑)いやいや、そんなことないです。ダンサーも、衣裳とか音楽とかいろんなことに関わっていかないと新しいものは生まれないなと思ったんですよ。若いころは、「音楽とダンスをセットにしなきゃいけない」って固定観念があって、普通に音楽をチョイスしたつもりが著作権の処理が必要と知りあせったり、音楽を意識しすぎてカウントに追われてダンスに集中できないと「ダンスって何なんだろう!?ダンスだけじゃ成り立たないんだろうか!?」みたいなことを思ってた。衣裳や音楽とともにあるから成立するというのは舞台では当然のことですよね。それはダンスでも、ジャンルが何であれ、同じことなんですよ。だから、今回も自分ひとりで何から何までやるのではなくみんなと一緒にやろうと思いました。

 

――こづえさんは「ぜひ一緒にやりたい!」と自らおっしゃったそうですね。

:開次さんが新作を作るという話はなんとなく聞いていて、いいなぁ、一緒にやりたいなぁって思ってたんです。そのあと開次さんの舞台を見に行ったら、開次さんがすごく体調崩していたから、あ、これは今ここで一緒にやりたいですって言ってしまっていいものかな…って迷ったんだけど、結局「いや、もう、なんでも助けますよ!」くらいの気持ちで言っちゃった。

:それ、うれしかったですよ!川瀬さんもそうです。川瀬さんの音楽にはいろんな面があって、『LB』のような明るくてちょっとナンセンスな側面と、それとは違う側面を持ってるのも知ってたんで。またきっと違う側面が見られるんじゃないかと思って、『サーカス』もお願いしました。

 

――川瀬さんは、最初に『サーカス』のお話を聞いたとき、どんな印象でしたか。

川瀬浩介(以下、川):話を聞いたときはかなり忙しい時期で、どうしようかなという感じだったんです。これは大変なことになるだろうと思いながら始めてみたらやはり大変なことになってますね(苦笑)。新国立劇場といったら昔からよく通って公演を観ていた場所でもあるし、ぼんやり、いつかこういうところで仕事ができる日が来るのかなぁと思っていたら、ようやく…しかも、開次さんからご依頼いただいたので、これは断る理由はない!ただ、果たして大丈夫か!?というのが最初の素直な印象でしたね。

 

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<公演チラシ(イラスト版)>

 

――開幕まではあと2ヶ月くらいですね。   

:そうですね。2015年が明けてから月に1~2回くらいのペースでワークショップをやって、今回出演するメンバーに会っていますがすごく楽しいですね。新体操出身の浅沼圭さんがいたり、大道芸をやっている谷口界くんがいたり。元はダンサーで、いまは芝居もやっている宮河愛一郎くんがいたりとか、みんな個性豊かだなぁって思いながら、稽古場でいろいろやっているのがすごく楽しくて。

 

――お稽古のときはこづえさんと川瀬さんもいつも一緒なんですか?

:いや、いつもではないですよ。ワークショップのときはちょこちょこ見に来てくれますけどね。こづえさんの衣裳を使った動きをやったりもしますし。動きやすい衣裳と、またその…動き優先ではなく…面白さ重視の…。

:言葉を選びましたね、いま(笑)。

:うん、選んだ(笑)。そういう衣裳も使いたいので、試行錯誤する時間を一緒に過ごせればと思います。たとえば『LB』は、基本的に衣裳はタイツだけですけど、小道具がたくさんあるので、小道具のモノたちと友達になる時間も必要なんです。今回の『サーカス』でも、できるだけそういう時間を取れるようにしています。
僕が『LB』で体験したことを、今回出演するメンバーにも体験してもらいたいです。身体表現をみせるところと、身体表現だけではないところ…それはぼくが『LB』で戦ってきた部分でもありますけど、みんなでそれを体験できたらいいなって。
サーカスと聞くと「曲芸」のイメージが強いと思うんですよ。シルク・ドゥ・ソレイユみたいに、豪華なセットがあって、命綱をつけて危険と隣り合わせで、とかね。今回の『サーカス』はそうではなく、サーカスに行った時のワクワク感と、さらに一味違うワクワクさを出していきたい。だから、稽古場ではみんなにいろんなアイディアとか知恵を出してもらえたらうれしいです。僕、正直、助けてほしいんです。自分の中に作品のイメージはあるけど、イメージを具体化していくときには助けが必要だから。だからこの2人にも、出演メンバーにも「助けてほしい」!

 

――開次さん、『LB』のパンフレットの中で、「このふたりとのやりとりはいつも“剛球魔球”なんです」ってコメント寄せてらっしゃって、すごく印象的だったのですが。

:“剛球”はわたし?

:こづえさんは“魔球”じゃないですか?

:両方じゃないですか?

:あ、両方か。

 

――この3人が揃うと、その場はどんな雰囲気なんでしょうか。

:見てのとおりの感じです(笑)。僕も、それが…えーと、心地いい、ってわけじゃないんだけど…。

:絶対心地よくないよね!?(笑)わたしは、いつか、開次さんを怒らせてみようかなって思っています。普段めったに怒らないから、そろそろ、バァン!って破裂するように開次さんにストレスを発散してもらいたくて。開次さんが「眠れない」って言っているとか聞くと、どこかで気持ちに栓をしてるんじゃないかと思って…どこかでそれを爆破できる瞬間をつくろうかな。

:じゃ、僕のいないところでお願いします(笑)!

:ええー!?

 

 

取材・文・写真:ローチケ演劇部(た)

 

 

★インタビュー<後編>は⇒コチラ

 

【プロフィール】

■【演出・振付・出演】 森山開次 (モリヤマ カイジ)
21歳でダンスを始め、2001年ソロ作品の発表を開始。05年『KATANA』で「驚異のダンサー」(ニューヨークタイムズ紙)と評され、07年ベネチアビエンナーレ招聘。12年『曼荼羅の宇宙』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、江口隆哉賞、松山バレエ団顕彰・芸術奨励賞を受賞。演劇・映画・写真作品等幅広い媒体での身体表現に積極的に取り組んでいる。「情熱大陸」「からだであそぼ」等メディア出演も多い。平成25年度文化庁文化交流使。

■【美術・衣裳】 ひびのこづえ (ヒビノ コヅエ)
静岡県生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。コスチューム・アーティストとして広告、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビなど、その発表の場は多岐にわたる。毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞受賞、他展覧会多数。1997年作家名を内藤こづえより改める。NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」のセット衣裳を担当中。歌舞伎「野田版 研ぎ辰の討たれ」、野田秀樹作・演出「ザ・キャラクター」「MIWA」「エッグ」などのほか、新国立劇場ではオペラ「さまよえるオランダ人」、こどものためのオペラ劇場「ジークフリートの冒険」「スペース・トゥーランドット」、ダンス公演・菊池純子「メタモルフォシス」、演劇公演・野田秀樹「贋作・桜の森の満開の下」の衣裳を手がけた。オペラ「フィガロの結婚~庭師は見た!~」衣装担当。5月26日金沢歌劇座より全国順次公演。森山開次とは、NHK教育テレビ「からだであそぼ」、パフォーマンス・劇場版などの「LIVE BONE」シリーズでコラボレーションを行っている。http://haction.co.jp/kodue/

■【音楽】 川瀬浩介 (カワセ コウスケ)
作曲家・美術家。1970年京都生まれ 東京育ち。2002年光のための音楽《Long Autumn Sweet Thing》を発表し、デビュー。05年、愛知万博で発表された映像作品《ポピュラスケープ》の音楽を担当。その雄大でロマンティックな楽曲は「この映像世界に魂を吹き込んだ」と評された。10年、第13回文化庁メディア芸術祭に、代表作《ベアリング・グロッケン II》が出展され話題に。12年、東京スカイツリーで催されたイルミネーションイベントにて最新作《光の音色:a tone of light》を発表。NHK教育テレビ「からだであそぼ~踊る内臓」の音楽を担当し、森山開次、ひびのこづえと「LIVE BONE」シリーズでツアーを共にしている。デビュー以来、「間口が広く奥行きのあるもの」を追求している。「あなたの心に眠る感動を呼び覚ますこと──それが私の使命です」http://www.kawasekohske.info

 

【公演情報】
森山開次『サーカス』
<東京公演>
日程:6/20[土]~28[日]
会場:新国立劇場 小劇場
<兵庫公演>
日程:7/4[土] 15:30開演
会場:兵庫県立芸術センター 阪急 中ホール