日常とは何かが違う状況のなかで、もがき、ぶつかり合う人々の姿を描いてきた岩松 了。その書き下ろし新作「青い瞳」に、前田敦子が挑む。近年、女優として存在感を増している前田は、岩松作品を観たときの衝撃が忘れられないという。
前田「セリフ量がすごいのに、聞いていてとても心地がいいんです。まさに言葉の力に引き込まれる岩松さんの世界に、一度入ってみたいと思っていました」
舞台は、ある戦争終結後の地域社会。戦地から故郷に帰ったツトムは、苛酷な戦場と家族との日常のギャップに戸惑い、ふさぎ込んでいく。そんな彼の前に、子どものころの自分を救ってくれた人物が現れて……。
岩松「そもそも戦争自体が普遍的なテーマで、常に世界で起こっているからこそ、戦争から帰還した青年を襲う価値観の揺らぎのなかに、人間の本質が隠されているのではないかと。そこを探ってみたいと思いました」
岩松作・演出の「羊と兵隊」で、身代わり兵に扮した中村獅童がツトム役に挑む今回。前田がその妹のミチルを、さらに岩松と伊藤 蘭が二人の両親を演じる。
前田「ご自身の作品を演じる岩松さんが私は好きなんですね。今回は親子の役なので、一緒のシーンがあると期待しています」
岩松「家族なのでもちろんありますよ。といっても僕が演じる父親は、この家族のなかでは影の薄い人物。逆に絶対的な存在が、蘭さんが演じる母親です。母親を家族の中心、あたたかみのある存在だと考えると、戦争を経験して価値観が大きく変わった息子は、その母との距離感、うとましさを感じるのではないか。そんななかでツトムの唯一の救いになるのが、妹のミチルです。ただ、最初は天真爛漫な妹だったのが、前田さんの印象からか、徐々にひねくれた感じになってきました(笑)。前田さんがそうだというのではなく、もっと屈折したセリフを言わせたいなあと。アイドルとして若いころから大衆のなかにいて、普通の人とは違う世界を見てきたと思うんです」
前田「岩松さんがおっしゃること、よく分かります。自分でもアイドル時代は天真爛漫じゃなかったと思いますし(笑)。今は変わったのか分からないですけど……ミチルのセリフが楽しみです」
そう語る彼女は昨年、蜷川幸雄演出「太陽2068」で初舞台を踏み、堂々とした演技で鮮烈な印象を残した。
前田「初舞台で無我夢中でしたけれど、今は楽しかったという思いしか残っていないですね。もっと舞台をやりたかったので、こうしてチャンスをいただけて本当にうれしいです。でも緊張もしています。岩松さんとじっくりお話しするのは今日が初めてで、私、まだ猫をかぶっていると思います(苦笑)」
岩松「そういうの大好きですよ。それは人に見られることへの感受性が強いってことだから。僕は役者・前田敦子が自分のセリフをどう表現するのかが楽しみですね。この舞台は戦争がテーマですが、次第に〝家族ってなんだろう〞という話になっていく気がしています。家族が善の象徴だとすれば、たとえば母親が息子を守りたいと強く思うほど、それを脅かすものは許せない。他を排除する、つまり闘う姿勢になっていく。その状態からすでに戦争は始まっていると僕は考えるんですね。そうした状況や人々が変わっていく様子をリアリティを持って描いて、これは今の世界に確実につながっている話だと感じてもらえたらと思っています」
★WEB用こぼれ話
この日が初めての対談取材だったという二人の話題は、いつしかアイドル論へ……。
岩松「アイドルって人の目にさらされるし、人に対するアクションにしても、かなりの試練を与えられるでしょう? だから、前田さんも生半可な気持ちで、のほほんとは生きてこなかっただろうなと僕は想像するんです。そういうことは表立って話せないだろうけれど。僕の舞台に出てもらっているキョンキョン(小泉今日子)からも、そういうところを感じるのだけど、どうですか?」
前田「どうなんでしょうか……私はわりと、普通のままアイドルをやっていたほうだと思うんです。自己プロデュースとか全然できていなかったですし。それでも、振り返ると素直じゃなかった時期もありますし、周りの人にはきっと迷惑をかけていただろうなって」
岩松「そうなんだ。でもまあ、僕はもともとひねくれたところのある人間に、引かれますけどね(笑)」
ほかにも上田竜也、勝村政信と個性豊かな顔ぶれが揃った『青い瞳』。岩松ならではの人間の悲しみ、おかしみが詰まった舞台を通して、女優・前田敦子の新たな魅力に出会える予感! 開幕が待ち遠しい。
インタビュー・文/宇田夏苗
Photo/篠塚ようこ
構成/月刊ローソンチケット編集部 10月15日号より転載
【プロフィール】
岩松 了
■イワマツ リョウ ’52年生まれ、長崎県出身。劇作家・演出家・俳優として多岐にわたり活躍。’89年「蒲団と達磨」で岸田國士戯曲賞受賞。最近の作・演出作に舞台「水の戯れ」「結びの庭」、出演作にドラマ「探偵の探偵」、映画「トイレのピエタ」などがある。
前田敦子
■マエダ アツコ ’91年生まれ、千葉県出身。’05年、AKB48の中心的メンバーとして活躍し、’12年に卒業。以降、女優として幅広く活躍中。映画「イニシエーション・ラブ」、ドラマ「ど根性ガエル」、舞台「太陽2068」などに出演。来春、映画「モヒカン故郷に帰る」が公開予定。
【公演情報】
シアターコクーン・オンレパートリー2015
「青い瞳」
日程・会場:
2015/11/1[日]~11/26[木] 東京・Bunkamuraシアターコクーン
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