舞台作品はもちろん、朝の連続ドラマ「花子とアン」の語りやバラエティ番組への出演など、多彩なフィールドで活躍しつづけている美輪明宏。
そんな美輪が舞台美術、照明、衣裳に至るまで、すべてを自身で手がける「ロマンティック音楽会」が今年も開催される。
美輪 「最近コンサートに来てくださるファンの方の年齢がどんどん若返ってきているんです。先日アンケートをとってみたら、平均年齢が28歳なんていう日もありました。『花子とアン』も人気のようで、子どもたちが『ごきげんよう』なんて私のマネをしながら挨拶しあっているのを見ると、とてもほほ笑ましい気持ちになりますね」
幅広い年代のファンから注目されつづけている美輪は、これまでのコンサートでも時代の空気を繊細に切り取った選曲をしてきた。
昨年の第一部では、原爆の恐怖を歌った「悪魔」や、従軍慰安婦問題を取り上げた「祖国と女達」などをストレートに歌い上げて観客の心を震わせたが、今年はどのようなプログラムを計画しているのか。
美輪 「一部では、明治・大正・昭和の時代に歌われた童謡や流行歌を中心に、シャンソンも入れながら、心があたたかくなるようなステージをお届けしようと思っています。美しくて安らぎのある曲をたくさんね。松島詩子さんの『喫茶店の片隅で』や、シャンソンの名曲『枯葉』なんてどうかしら。どこかで『愛の讃歌』なども入れるつもりです」
なぜこのような時代の曲を選ぼうと思ったのか、その理由を尋ねてみると――。
美輪 「このご時世、肉体のためのビタミンや栄養は、もう過剰なくらい摂取できているはず。『衣食足りて礼節を知る』と言うでしょう。
現代人にはこの礼節、つまり心のビタミンが不足していて、精神的に栄養失調の状態です。童謡や子守唄を聴かずに育ったり、歌ったりしたことのない大人もたくさんいるでしょう。今街に溢れているのはメロディも歌詞もない、叫んでわめいてつぶやくだけの『モノクロの音楽』ですから。私は、テレビでもラジオでもあまり聴けなくなってしまったあの時代の素晴らしい歌を、もう一度復活させたいと思っているんです。人々の傷心をなぐさめ、孤独を癒してくれる『心のビタミン』になる歌をお届けします」
続く第二部では、エレガンスでロマンティシズム溢れる華やかなステージを予定。
美輪の美意識が詰まった舞台美術も堪能できるはずだ。
美輪 「舞台づくりに関しては、昔の『VOGUE』をめくったり、竹下夢二や高畠華宵だとか、あの時代の資料を見たりして、構想を練っているところです。昨年のコンサートでは、二部の幕が開いた途端にお客様から大きな歓声と拍手が巻き起こりましたからね。次はあれ以上のものをと思って、どんな美術にしようかちょっと悩んでいるんです。いっそのこと、目が明けられないくらいにギラギラな舞台にしちゃおうかしら。枯れ木寸前の日本の美意識に花を咲かせようと灰を撒き続ける『文化の花咲じじい役』もなかなか大変なのよ(笑)」
インタビュー・文/まつざきみわこ
Photo/御堂義乗
【プロフィール】
美輪明宏
■ミワ アキヒロ 16歳で歌手になり、シンガーソングライターの元祖として「ヨイトマケの唄」など多数の楽曲を制作。現在は「毛皮のマリー」「黒蜥蜴」など、舞台作品の主演・演出・美術・照明・衣装・音楽を手がける総合舞台人としても活躍中。