ピアフの魂に寄り添う傑作舞台が
生誕100周年に再びよみがえる
今年、生誕100周年を迎えた不世出のシャンソン歌手、エディット・ピアフ。激しく燃え尽きるように生きた彼女の短い人生を、10数曲ものピアフナンバーの生歌とともに届ける「ピアフ」が再々演される。ブロードウェイ、ウエストエンドで名女優たちが演じたピアフ役は、日本では大竹しのぶへと受け継がれた。2011年の初演では読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞し、名作・名演との誉れ高い作品であり役であるが、3度目の挑戦に対し、「一から作り直すというところにいきたい」と大竹は語る。
大竹「再演はわりと好きなんです。芝居には『これでいい』ということはないので、またやらせてもらえることはすごくうれしい。前の評判を聞いた方に『ピアフ、良かったんだってね』とか言われることもやっぱりうれしいです。だから皆さん期待してくださっているとも思うとプレッシャーもありますが、色んなことを全部忘れてやりたい。初演から一緒で心強い梅ちゃん(梅沢昌代)とも『新しい気持ちでやらなくちゃいけないね』というふうに話していて。『こうしたらどう思われる?』とか、『いいものを届けよう』って気負いみたいなものはあまり持たず、新しく出会った仲間と今の自分で一から作り上げたいと思っています」
近年はコンサートやCDリリースなど、歌手としての活動も積極的な大竹。
大竹「テレビ番組でピアフの歌を歌ったりもしましたけど、この芝居から離れてもすごい歌なんだなと、改めて思いました。普通の恋愛の歌なら『ちょっとすてきだな』ぐらいの印象でもいいんですけど、ピアフの歌の場合、お客さんに大きな力を与えないと意味がないって感じがする。演出の栗山(民也)さんが『ピアフが歌うときは神々しい』と言っていたんですけど、彼女の歌は本当に、地と天を結ぶような力があるんだなと思います。強くないと、歌えないんですね」
一方で彼女に対し、「孤独をすごく感じる」とも言う。
大竹「すごく愛したいし、愛されたいんだなって。実際、男性たちにも全身でぶつかっていって、すごくかわいい人ですよね。でもいつも寂しさを感じていて、だから歌っているときだけ自分になれるし、喜びもあるのかなって。彼女の歌は寂しくて苦しくて、だから普通の人の生活のなかに生きていけるんだと思います。ただハッピーな人が歌うんじゃなく、裏も表も全部分かっている人が歌うから、あの人の歌声にみんな引き寄せられるんじゃないかな。……じゃあ、私も孤独になんなくちゃいけない?(笑)」
歌に恋に全身全霊のピアフの生涯を、生の舞台で演じる。それが相当にハードであろうことは、想像に難くない。
大竹「でも『あたしが歌うときは、あたしを出すんだ。全部まるごと』ってセリフにあるみたいに、それを言えば私自身も力をもらえる感じですね。ピアフをやると疲れるんだけど、逆に元気をもらえる。やっぱり、一回一回死ねるっていうのはうれしいですね(笑)。ブランチ(「欲望という名の電車」)のような役と違って、出し切って死んじゃうから、役を引きずることもまったくないので」
だが回を重ねるにつれて、容姿を含めてピアフに近づいてきているように思うのは気のせいだろうか。まるで天国のピアフが憑依しているかのように。
大竹「美輪(明宏)さんが観にいらしたとき、普段全然ないことなのに、左肩がすごくしびれるので、役としてクスリを打ちすぎちゃったなとか思っていたんですよ(笑)。そしたら終演後に美輪さんが『(ピアフが)来てたわね。ちょうどここ(左肩)にいたわよ』って(笑)。私はそういうのはまったく見えないので分からないんですけど、彼女の魂みたいなものに寄り添いたいとはいつも思っています」
歌手と女優のピュアな魂が呼応し、舞台上で響き合う。奇跡のような瞬間を目の当たりにできる、愛と情熱に満ちたステージだ。
インタビュー・文/武田吏都
【プロフィール】
大竹しのぶ
■オオタケ シノブ ’57年、東京都出身。’75年に映画「青春の門~筑豊編」で注目を集める。その後も圧倒的な存在感と豊かな表現力による天性の演技で、映画やドラマ、舞台で数々の話題作に出演。多数の演劇賞を受賞するなど、国民的評価を得ている。
【公演情報】
ピアフ
日程・会場:
2016/2/7[日]~3/13[日] 東京・シアタークリエ
2016/3/26[土]・27[日] 名古屋・中日劇場
作:パム・ジェムス
演出:栗山民也
出演:
大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なお、伊礼彼方、碓井将大、
川久保拓司、大田 翔、津田英佑、横田栄司、辻 萬長 他