あの『おとこたち』が帰って来る――。
ハイバイの新作公演として2014年初夏に上演された「4人の男達の半生と死期」を描いた物語が、
2016年4月〜5月に待望の再演ツアーを行う。
ハイバイ主宰で、今作の作・演出を担う岩井秀人、
初演に続いての出演となる俳優の菅原永二、
再演からの出演となり、劇作家・演出家・俳優の松井周の3名による
「おとこたち」クロストーク、いざ開幕!
あそこまでシリアスに受け止められると思わなかった(岩井)
松井 「『おとこたち』は観た人によっていろいろな感想があると思うんだけど、これ、結構きつい話ですよね?」
菅原 「台本を読むと面白くて笑っちゃうけど、実際にやると『きついなぁ』と思う。(初演時の)お客さんの反応もね」
岩井 「あそこまでシリアスに受け止められると思わなかった」
松井 「あ、そうなんだ?」
岩井 「50〜60代の人には『こんなんで俺たち負けねーし、予期してとっくに避けてるから』とか言われたかったんだけど、すごくヘコんでる人もいたし」
菅原 「女の人も結構ヘコんでて」
岩井 「そう。なんでだろうねぇ?」
菅原 「どこに反応したのか気になった」
岩井 「人生あんなもんじゃない?という気がするんだけどなぁ。どうなんだろう?」
菅原 「俺、初演のDVDを観たんですけど、観ると毎回泣いちゃうの」
岩井 「俺は葬儀のシーンで毎回やられる。あそこの永二くんはえぐい」
菅原 「俺だけじゃないけど、結構みんなすり減らしながらやってたかも」
岩井 「観ていていちばん面白かったのは長久手(市文化の家)の千秋楽で、始まった瞬間からみんなの切羽詰まった感がものすごい。あれは絶対、俺の精神状態がどうとかそういうことじゃないのね。めちゃくちゃ面白くて、冒頭からちょっと半泣きで観ていた。なんだあの回!」
菅原 「ほかのお芝居を観ていると『ここで泣いてください』みたいな悲しげなシーンとかもあるじゃないですか。でもこれに関してそういうのは一切なくて、普通に泣いてしまう」
松井 「人生はトランプの『大貧民』みたいに突如革命が起きてひっくり返されたりもするけれど、その瞬間の“素”というか、無防備な状態に陥った人間が好き。『おとこたち』にはそれがたくさん詰まっている」
岩井 「なるほどねー。そういう言葉で表現したことはないけれど、多分それは(自身にとって)すごく好きなことだと思う」
松井 「だよね、多分」
岩井 「揺るぎないと思っていたものがパッとなくなる瞬間とか」
松井 「そうそうそう」
梅干し食べてるみたいな顔っていうんですかね?(松井)
岩井 「このお芝居は初演である程度完成していると思っていて、あとはこれをどんどん“作品にしていく”ことが求められるから、そこに俳優のスペシャリストを入れようと。で、自分がまいた種で無自覚にひどい目に遭ってしまう……みたいなことを思い浮かべたら松井くんが出てきた」
松井 「それ、どんなとらえ方なの?(笑)」
岩井 「自分だけが信じていることをまったく信じていない人たちに向かって一生懸命話す、みたいな寂しさがすごく似合うんだよねぇ」
松井 「ああ、そういうの好きかも。自分は熱弁しているけれど、周りから見るとズレちゃっている。
――菅原さんと松井さんの共演歴は?
菅原 「『劇団、本谷有希子』の『遭難』(2012年)が初共演なんですけど、なにせ大変な現場で……」
松井 「触れられないほど大変そうでした」
岩井 「俳優さんが体調不良で降板されて、その代役が永二くんだったから」
菅原 「俳優の松井さんを最初に観たのは『四つ子』(※2011年上演の『四つ子の宇宙』。岩井秀人、江本純子、前田司郎、松井 周の四人による企画公演)。ゴミ袋を被った松井さんが両性具有になろうとしていて『……なんだろう? これ』と」
松井 「ほんとにねぇ(笑)。あれ、なんだったんだろう?」
菅原 「松井さん以外誰もやりそうにない感じで」
松井 「確かに(笑)。俺が永二さんを観て覚えているのは、やはりハイバイですね。めちゃくちゃ印象に残っている。永二さんはなんといっても、顔。この顔が大好きなんです。梅干し食べてるみたいな顔っていうんですかね?」
菅原 「梅干し食べてる?」
松井 「困っているときの顔が梅干しを食べているみたいで。ああ、伝わるなぁと」
岩井 「演出家の言う言葉かよ、『梅干し食べてる顔が好き』って(笑)」
菅原 「初めて言われた(笑)」
言われて「ん?」と思うことがひとつもないんです(菅原)
――岩井作品に多く出演しているおふたりに「岩井演出にまつわるエピソード」をお聞きしたいのですが。
松井 「『投げられやすい石』(2011年)のときは、稽古がほぼなかったんですよ」
岩井 「ハハハ(笑)」
松井 「プラモデルを作ったり」
――え?
岩井 「だから永二くん、次は(その領域に)突入するからね。『おとこたち』はすでに一回やっているんだから」
松井 「俺は初めて……」
岩井 「いや、そういうときはやっている人合わせになるの」
松井 「マジで!?」
岩井 「だって(『投げられやすい石』は)そうだったでしょ?」
松井 「あのときは絵を描いたり、神社へお参りに行ったり、それこそ石を投げに川へ行ったりして。こっちは初めてだから『……なるほど』と思った。要はここから」
菅原 「『こういう芝居の作り方なのか』と」
松井 「そうそうそう。でもね、『どうやら違うな』というのが徐々に分かってくる」
――セリフの読み合わせなどは?
松井 「たまにやるんですよ。『今日はここからここまで覚えターイム!』みたいな感じで」
――岩井さん、その流れで稽古を進めた狙いは?
岩井 「そうですねぇ……。ちょっと分かんないです」
一同 「あはははは(笑)」
岩井 「『なげられやすい石』に関して言うと、再演だし“どう再現するか?”みたいなことに重きをおいていて、その時間を有意義に作るためにまだ稽古をしないほうがいい、みたいなことを考えていたんだと思います」
――菅原さんは「岩井演出」に関していかがです?
菅原 「岩井くんは、言われて『ん?』と思うことがひとつもないんですよ。意味が分からなかったら聞くし、聞いたらすごく分かりやすく腑に落ちる。『おとこたち』もそうで、あるとき、葬儀のシーンで泣くタイミングを少し後ろへずらしたんです。そこは感情を高ぶらせるシーンなので『大丈夫かな?』と思ったけど、いざやってみたら『うおっ! こういうことかー!?』みたいな。たぶん、前のシーンから準備しちゃってて、おかしなことになっていたんだと」
岩井 「思い出した。もうでき上がっていたんだけど、少ーしだけ違和感があったんだ。キャラクターの心情が明らかになる前に永二くんはその状態になっていて」
菅原 「すぐ見抜かれちゃうから『今ちょっとやりすぎちゃった。笑いを取りにいきすぎちゃった』というときは笑ってないですもん」
松井 「へーえ、そういうときもあるんだ?」
菅原 「内心『ヘンなの出ちゃった』と思っているとき」
岩井 「それは僕がどうこう言う前に永二くんも気づいていることなんだよね。そして、すぐに修正できる永二くんこそ本当にすごいと思う」
すげー面白くなると思うんですよ、ほんとうに(岩井)
――では最後に、今回の再演に向けてひと言ずつメッセージをいただければ。
菅原 「単純に楽しみです。同じ役を二回やることは経験上あまりないので」
岩井 「ありそうだけど、そうなんだ?」
菅原 「再演でも役が替わることが多かったから」
松井 「永二さんの役、面白いよね。語り手でもあるけれど、中へ入っていく役割もあるし、その出入り具合が面白い」
菅原 「そうですね」
松井 「僕は、自分の人生がつまらないので、作品のなかで人生を謳歌したい」
岩井 「あー、そうね。松井くんはこう見えて、すごくまっとうに生きている人なので」
松井 「そうなの。だからこそ浮気をしたりね」
岩井 「そうだ、そうしなよ」
松井 「僕にとっての岩井くんは“調教師”みたいな存在で、この人が見てくれているから、僕は欲望全開でいくことができる」
岩井 「ええと、そうですね……。僕はこうやって『これ、面白いんですよ〜!』とか平気で言いながらあっちこっちを回れる作品を作るためだけに、嫌だけど新作を作っているので(笑)、そういう意味で本当に楽しみです。初演でほとんど完成していて、そのときも素晴らしいキャスティングでできたと思っていたところに、今回さらに松井くんを招き入れて超盤石になると思うので……、これ言っちゃいますけど、すげー面白くなると思うんですよ、ほんとうに。でもこういうことってどう測ればいいのかなぁ?」
菅原 「僕、あまり演劇のDVDとか観ないんだけど、このDVDは何度も繰り返して観ちゃうから、きっとそういうことだと思う」
岩井 「そう、『おとこたち』は100年くらい経ってから上演してもすげー面白いと思う。男が事故る。酒だったり不倫だったり仕事のストレスだったりで、本能的に事故ってしまう。現代的な要素もたくさんあるけれど、原始人がやっても未来人がやっても、ちょっと書き換えさえすればいけるはず。だからまあ、観ておいて損はないと思うので、ぜひ観に来てください。僕らは基本ゲラゲラ笑いながら作品を作っているので、お客さんとも笑い合いつつ、ヒドい未来を想像して耐性を付けていければ……と思います」
インタビュー・文/園田喬し
Photo/曳野若菜
構成/月刊ローソンチケット編集部 2月15日号より転載
【プロフィール】
岩井秀人
■イワイヒデト ’74年、東京都出身。劇作家、演出家、俳優、劇団「ハイバイ」主宰。’03年にハイバイを旗揚げ。’12年に向田邦子賞、’13年に岸田國士戯曲賞を受賞。
菅原永二
■マツイシュウ ’72年、東京都出身。劇作家、演出家、俳優、劇団「サンプル」主宰。’07年にサンプルを旗揚げ。’11年に岸田國士戯曲賞を受賞。
松井 周
■スガワラエイジ ’74年、東京都出身。俳優。劇団「猫のホテル」を経て、現在は舞台公演を中心に映像・ナレーション等、幅広く活動する。
【公演情報】
ハイバイ「おとこたち」
日程・会場:
2016/4/4[月]~17[日] 東京芸術劇場 シアターイースト
2016/4/23[土]・24[日] 三重県文化会館小ホール
2016/4/29[金]・30[土] 仙台市宮城野区文化センター パトナシアター
2016/5/7[土]・8[日] 福岡・西鉄ホール
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!