今年デビュー20周年を迎えた、日本のミュージカル界が誇る歌姫・濱田めぐみ。その記念すべき年でいちばんの挑戦作になりそうなのが、このソロ・ミュージカル「Tell Me on a Sunday~サヨナラは日曜日に~」だ。コンサートではひとりで何千人もの聴衆を魅了してきた彼女だが、それがひとりでのミュージカルとなると当然、勝手が違う。
濱田「コンサートの場合は私からお客さまとダイレクトに向き合えますけど、お芝居であるミュージカルは逆に“観てもらう”という感じ。自意識がなくなって、段取り以外は何も考えずに役をひたすら生きている私を、お客さまが客観的に観ているという状態がいちばんいいと思うんですよ。とはいえ、相手のいない状況だとそれだけでは足りないかなと思うし、どうやって立ち上げて進めていけばいいのか。暗中模索中です」
濱田が演じるのは、ロンドンからNYに渡ってきたデザイナー志望のエマ。夢多き、いわゆる普通の女性だ。そのパワフルな歌声にふさわしい激しい作品や役を生きることの多い濱田にとって、この普通な設定が逆に珍しい。濱田本人も、「死神みたいな“人外”の役じゃないし、処刑されたりもしない!」と笑う。そのエマが「いろんな恋をし、いろんな経験をし、あらゆる角度から自分や社会を見つめ直す。そのうえでやっぱり夢に向かって行くという成長プラス、冒険の物語」。今回の日本版ではエマという役名がついているが、海外での上演では“THE GIRL”として、決まった名前がついていない場合も。つまり観客それぞれが自分の名前を当てはめて観ることができるような、等身大の親近感がある。
濱田「そうそう、きっとそういうことがしたいんだと思うんです。だって彼女のキャラクターや行動って、本当に身近だから。ずっと泣いていたけどこれじゃダメだと思って鏡に話しかけたり、失恋したら分かりやすく髪を切ったり(笑)。ものすごくちっちゃなことかもしれないけど、そのちっちゃなことの重なり合いが日常。一般的に見たらよくある些細なことでも、本人にとっては大きな事件だったりするでしょ? 私はこれまで、本当のとんでもない事件や人生の転機ばっかり舞台上でやってきました(笑)。だけど今回はやりすぎず、『あ、友達にいるな』ぐらいの近しいリアリティを感じながら観ていただけるものにしたいですね」
音楽は「CATS」「オペラ座の怪人」などの、言わずと知れた大作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバー。
濱田「曲がすてきでドラマ性があるから、それで十分。やりすぎる必要なんてないんです。聴いたことのある曲ばっかりっていうのが第一印象でした。『この曲なんとなく好きだな』と思っていたものが、実はこの作品の曲だったというのがたくさんあって。終始傷ついているエマを常に慰めたり励ましているような、どれも優しいメロディーラインなんです。なのにそれとは対極のような、希望や勇気なんかもどこかしら感じられる。不思議ですよね」
楽曲数はオーバーチュア含め25、6曲。当然のことながら、たった一人で歌い切る。
濱田「自分のコンサートでも15、6曲だったんですけど……すごい作品をありがとうございます、という感じ(笑)。今は弱音をたくさん吐いているけど(笑)、準備の時間を幸いいただいているので、曲をどれだけ早めに自分の中に入れてしまえるかでしょうね。それでも1日1曲覚えても約1カ月かかる(苦笑)。ただ、やりたくてもやれないような作品で、これを今の私がやれることはすごいご縁だし、大切に大切に取り組みたいと思っています」
濱田は同じロイド=ウェバーの「ラブ・ネバー・ダイ」(「オペラ座の怪人」の続編)のヒロインを演じた2年前にも、この巨匠の楽曲の魅力にじっくりと触れた。当時、ロイド=ウェバー本人と対面したときの貴重なエピソードを聞かせてくれた。
濱田「もうね、普通の人とは違うすごいオーラを放っていて。思ったより背が高くていらっしゃるし肩幅も広いし。舞台稽古の、私がちょうど『ラブ・ネバー・ダイ』という大ナンバーを歌う前のシーンでいらしたんですけど、その瞬間、『ハッ!』となって芝居が止まって。全員がピタッて止まっちゃったんですよ。『ホンモノ!?』っていうか、『ロイド=ウェバーって本当に実在したんだ!』ぐらいの感じ。わかりますよね?(笑) そして後から聞いたんですけど、私の『ラブ・ネバー・ダイ』を音響卓のところで仁王立ちになって聴いていらしたと。私は気づかなかったんですけど、それが目に入っていたら、きっと歌えなかった。その後のパーティーでお会いしたとき、『良かったよ。これから慣れてきたら、きっともっと良くなるよ』と声を掛けてくださったのを覚えています」
そんな“ミュージカル界の巨人”が自身の繊細さや人間味を一人の女性に託して書き上げたとも言える、ロイド=ウェバー作品史の中でも貴重な一本。巨匠×歌姫が贈るこの素朴な珠玉作は、心の中にいつまでもそっと置いておきたい大切な作品になるはずだ。
インタビュー・文/武田吏都
構成/月刊ローソンチケット編集部 4月15日号より転載
【プロフィール】
濱田めぐみ
■ハマダ メグミ ’72年、福岡県出身。’95年~’10年、劇団四季に所属。退団後も日本ミュージカル界でトップを走りつづける。8月「王家の紋章」、来年1月「フランケンシュタイン」に出演。
【公演情報】
ソロ・ミュージカル「Tell Me on a Sunday~サヨナラは日曜日に~」
日程:2016/6/10[金]~26[日]
会場:東京・新国立劇場 小劇場
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!