“ラルビが少林寺に出会ったという喜びに溢れたシンプルな舞台。難しいことを考える必要はなく、ダンスパフォーマンスとして観ても、少林寺として観ても、新たな世界の扉が開く”
本場少林寺の僧侶19名による大迫力のダンスとアクロバットを魅せる、世界60都市で絶賛の大ヒット作「sutra(スートラ)」が遂に日本初上陸。今回、出演・演出・振付のシディ・ラルビ・シェルカウイ(以下ラルビ)について、彼が演出した舞台「テヅカ」および「プルートゥ」に出演した森山 未來さんに、ラルビの魅力を伺いました。
◆ラルビさんとの関係について教えてください。
一番の最初の出会いは、2008年に「RENT」という舞台を観に来て楽屋で会ってから。それから2012年の舞台「テヅカ」への出演が決定し、ワークショップを重ねて上演を迎えました。
◆ラルビさんを敬愛されているということですが、魅力を感じていった経緯を教えてください。
(ラルビは)身体に対するイメージがすごくあることに加えて、建築的にものを創っていくという部分があります。高さや配置など、空間の埋め方に対して、彼の中の美学があるんです。「プルートゥ」のときにも顕著だったんですが、僕が下にいて、誰かが上にいることの意味など、高さや前後の関係図を通して、何が起こっているかという芝居を魅せている。ダンスを魅せるだけではなく、空間を数学的に捉えて構築しているところが面白いなと思います。もう一つは彼の頭の中から出てくるアイデアや発想の構築の仕方ですね。思考の柔軟さにすごく惹かれました。
◆ラルビさんはどういったように舞台を創られていくのでしょうか。
彼自身が踊って振りをつけるというのではなく、こういうコンセプトやフレーズを作りたいという意向を伝えられた演者が創ったものの中から良いものをピックアップしたり、面白いものを取り入れたりして、パズリングしながら創っていく人ですね。自分がクリエイトしなければ話にならないので、とても刺激的です。作品の一つのフレーズに対して、意見を言い合える空気は必ずあって。もちろん最終的に決めるのはラルビだけど、言いたいことがあれば伝えて問題ない空気がありました。自分がコレオグラフすることはもちろんですが、「違う」と思ったことに対してきちんと提示ができなければならない。お互いに責任を持って創り上げていきました。作品に脚本があるものではないので、創っていくたびに膨らんでいきます。
ただ、今回の「スートラ」に関してはとてもシンプルだと思います。「少林寺」と木の箱を用いた「空間」で組み立てていますね。おそらく仏教的なことを調べて、一つ一つの動作に意味合いをつけていっているのではないでしょうか。ヨーロッパの人たちは、全てのことに対して、感覚的ではなく「理屈を通す」という考えがすごくあると思うんです。作品と対話しながら創っているのでしょう。
◆そんな「スートラ」の印象や魅力について教えてください。
少林寺の身体的な力強さは見ているだけでも面白いです。それに加えて、シンプルとは言いつつも木の箱などの配置の仕方や導線を含め、ただの「少林寺拳法のショー」では終わっていません。どんな作品も、彼がやりたいと思ったイメージや、美術と身体の関係性、パズリングは昔から一貫していますね。
僕が感じている「スートラ」は、「ラルビと中国や少林寺という文化との出会い」を作品にしたという感覚があります。舞台に出てくる一人の少年僧と一緒に、アジアの文化を旅する感じですね。彼の驚きや衝撃がシンプルに表れている作品だと思います。
◆ラルビさんと仕事をすることについて、良いと思う点はどのようなことでしょうか。
最初に受けた印象や、良いと思ったことを忘れずに、クリエイションしていくことですね。稽古の過程でどんどん複雑化していくことがあるんですが、煮詰まってしまった時などは何が面白かったのかという原点に立ち返り、そこに留める。シンプルさを大事にしているところを良さとして感じています。「少林寺」というものを、どのように自分の視点で面白く魅せるかということに対して考え続けているという印象があります。
世の中にはメッセージ性を与えようとして創られている作品も数多くありますが、「スートラ」はもっとシンプルな喜びに溢れた作品ですね。単純に楽しめる作品です。西洋人から見たアジアの世界は、時に自分たちアジア人が創るものより精通したものになっています。ラルビは「アジア大好きです」といったようなエキゾチズムでは終わらないバランスがあり、上手に表現していると思います。付け焼刃の知識ではないですね。
◆今回の東京公演は、海外のツアー公演では代役のダンサーが務めた主役を、シディ・ラルビ・シェルカウイが務め、自ら主演ダンサーとして踊る特別版となります。パフォーマーとしてのラルビさんの魅力は何でしょうか?
そうですね……ラルビはアイビーみたいなツタ植物のような人だと思っています。出会ったものに対して、すごくナチュラルに絡んでいき、よりみずみずしいものに仕立て上げていきますね。踊り手としてもそういったイメージがあります。彼のソロは若い頃に一回だけ踊ったという話は聞いていますが、それ以降はどうなんでしょうか。基本はデュエットやトリオなど、誰かと演ることによって、その人を魅力的に見せて、彼自身も引き立てていくという印象です。また、自分自身の身体を含め、一つ一つをストラクチャーの素材として捉えていると思います。自分の世界観やパッションを表現するダンサーも美しい力強さをもっていますが、ラルビの場合は全ての素材を作品を構築する上での「何かの点の一つ」という考え方を持っている気がします。
だた、難しく考えなくても、「スートラ」はそもそも「少林寺拳法のパフォーマンス」ですよ。すごく極端に言うと、「中国雑技団を観に行く」という感覚でいいんです。ただ、プラスでそこにラルビの世界観が別の角度から流れているので作品に厚みがある。違う側面でも楽しめますが、彼らの動きを観るだけでも楽しめる作品。「少林寺拳法」というパフォーマンスだけでも観る価値が十分にあります。ダンスパフォーマンスとして観ても、少林寺として観ても、新たな世界の扉が開きます。魅力をシンプルに提示している作品だと思います。
取材・文/ローチケ演劇部(か)
【公演情報】
「sutra(スートラ)」初来日公演
日程:2016/10/1[土]・2[日]
会場:Bunkamura オーチャードホール
★プレリクエスト先着先行 6/4[土]12:00~6/9[木]23:00実施!
詳しいチケット情報は下記ボタンにて!