『Little Voice リトル・ヴォイス』スペシャル対談!
水野良樹(いきものがかり)×白井晃(演出家・俳優)が、
大原櫻子の魅力を語る!
『Little Voice リトル・ヴォイス』は、無口な少女リトル・ヴォイス(LV)が、歌の力で自らの人生を切り拓いていく物語。5月に上演されるこの舞台で、LV役に挑む大原櫻子をよく知る水野良樹と、白井晃が初対談。アーティスト・女優としての彼女のことから、音楽と演劇の関係までが明らかにーー。
あんなにまっすぐなエネルギーを出せる人はいない
ーーお二人と大原さんとの出会いから教えてください。
水野 大原さんのことを知ったのは「いきものがかり」がお世話になっている亀田誠治さんを通してでした。亀田さんが大原さんのデビュー映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の音楽プロデュースをされていて、僕の妻が原作のコミックのファンだったこともあり、映画館に見に行ったんです。「すごい人だな」と思いましたね。まず声が素晴らしいし、こんなにはっきりとまっすぐなエネルギーを出せる人はなかなかいないなと。そこで好きになり、大原さんのライブに行ったんです。それから直接知り合ったわけですが、今では演劇の世界でも活躍されていて、歌もうまくて芝居もできて、この後どうやって進んでいくだろうなということに僕は興味があって。昨年、白井さんが演出協力された大原さん出演のミュージカル『わたしは真悟』も観に行きました。
白井 それはありがとうございます。僕は大原さんの初舞台(地球ゴージャス『The Love Bugs』)も拝見していますが、お会いしたのは『わたしは真悟』の本稽古の前、一緒に芝居の稽古をしたのが最初です。舞台は2本目なのにちょっとしたディレクションにも素直にすぐに反応してくれる、非常に勘がいい人だなという印象を受けました。舞台でご一緒するので大原さんのライブ映像も見たんですよ。あまりに元気いっぱいでびっくりしました(笑)。
水野 大原さんは明るく元気でまっすぐで、というイメージがありますよね。白井さんがおっしゃったようにライブでもまさにそうで、ファンはそれを期待する。ある意味、オフィシャルイメージを背負っていると思うんです。人によってはファンの期待に応えるために頑張ることもあるのでしょうが、『わたしは真悟』で大原さんを見た時に、本質的に明るくて、開かれた人なんだなと感じたんです。今日、僕らに会いに来てくれた時もそうで、その場にいる全員に対して距離を詰めるのがすごい。もちろんいい意味で。誰もができることではないし、だからみんなに愛される。大原さんがいることで明るいものが循環していくんです。
白井 接する人間を明るくするエネルギーはすごく感じますよね。僕なんて大原さんに「白井さん!」と声をかけられるだけで5歳ぐらい若くなった気がします(笑)。今日も舞台の稽古の後で少々疲れていたんですが、大原さんと会った瞬間元気になり、自分までいい人になったような気持ちにさせてくれる。
水野 それってすごいことですよね。
白井 本当に。だから会うのが楽しみなんです。『わたしは真悟』の時は演出のフィリップ・ドゥクフレさんがベタ惚れだったので、僕は控えめにしていたんですけれども(笑)。
普通の言葉を感動的に伝えてくれる声の力
ーーアーティスト、そして女優としてお二人が思う大原さんの魅力とは?
水野 歌って、うまいと思われたら多分負けなんですよ。うまいんだけれども、それを意識しないで聴ける状態が、ポップスとしては一番いいと僕は思います。大原さんは歌がとてもうまいけれど、聴いている人は「うまいね」と言う前に、もっと違う言葉が出てくるというか。特に若いシンガーがそうなのですが、声量とかキーの幅の広さとか、技術を見せたくなるものなんですね。大原さんはそれがないのがすごいし、自然に技術があって、しかも普通の言葉を感動的に伝えることができる。歌にとって、実はそれが一番大事なんです。
白井 今の水野さんの話は芝居にも通じますよね。「うまいね、でも何も残らないけれど」というのが一番残念なパターン。とはいえ技術は必要なので難しいわけですが。俳優はよくその人となりが芝居に出る、と言われますが、何に感動したり笑ったりという経験の蓄積が、役者を作る大きな要素ですし、もちろん天性というのもありますよね。大原さんは子供の頃から舞台を観ていたそうなので、いろんなものを見て「私はこれが好き」というものが、彼女の中で一番の感性の源になっている気がします。
ーーそんな大原さんが演じるLVは、父親が残してくれたレコードを聴くことが唯一の楽しみのヒロインです。一人音楽を聴いているうちにジュディ・ガーランドやマリリン・モンローなどの歌をそっくりに真似できるようになり……という物語の中で、往年のシンガーたちのヒットソングを歌います。
白井 僕は世代的に馴染みがある歌手ばかりです。ガーランドは子どもの頃に見た映画『オズの魔法使』はもちろん、ミュージカル映画が好きだったので、彼女の作品はいろいろ見ました。古き良きアメリカのジャズからポップスを明るく魅力的に聴かせてくれる人ですよね。モンローもチャーミングな歌手ですし、ビリー・ホリディは重い愛の歌がいい。エディット・ピアフは主宰していたカンパニー(遊◎機械/全自動シアター)で歌ったり使ったりしました。
水野 楽曲のラインナップを見ただけでも、すごいチャレンジだなと。でも大原さんなら、やっちゃうんでしょうね(笑)。
白井 きっとね。僕にはピアフの晩年の名曲「水を流して」を歌っている大原さんが、今は想像できないだけに楽しみです。
ーーちなみに、お二人にとって心の支えになった音楽とは?
水野 音楽的に素晴らしいかどうかとうより、その時の自分に引き寄せて支えられた、というパターンが多いかもしれません。たとえば僕がウルフルズの「笑えれば」が好きなのは、自分の好きなことをやって最後に笑えれば、という歌詞が自分の人生にハマって、元気付けられたからで。自分を支えてくれる音楽とは。そんな単純な結びつきが強い気がします。
白井 中学か高校の頃、井上陽水さんのアルバム「氷の世界」を聴きながら、生きていくのは辛いけれど、辛くていいんだ頑張ろうって思ったことを今思い出しました。矢野顕子さんの「JAPANESE GIRL」が出た時にはとんでもないミュージシャンが現れたと驚いて。矢野さんで思い出したのが、高校時代に勉強を押し付けられて苦しい時にはっぴいえんどを聴いていたこと。政治的なメッセージ性のある重いフォークの時代の後、はっぴいえんどが出てきた時には、心の中に風が吹いたみたいな感覚があったんですよね。
水野 僕がはっぴいえんどに出会った頃は、すでに伝説のバンドだったので、リアルタイムで聴いた感触がわかって新鮮です。
白井 そうそう、高3の時がまた辛くてね。山下達朗さんの「RIDE ON TIME」を聴いて元気をもらっていたんです。大学に入ってサークルで「真夏の夜の夢」の芝居を作った時にも、登場人物たちが森の中に入るシーンであの曲を大音量でかけて。ちょっと恥ずかしい思い出ですが(笑)面白いでしょう。
水野 いやあ、面白いです。
白井 さらに言うと『三文オペラ』のドイツ人作曲家クルト・ヴァイルの音楽にハマりまくった時期があり、いまだに自分にとって芝居における音楽のあり方のベースになっているところがあります。
演劇にとっての音楽の力とは?
ーーせっかくの機会なのでお二人に伺いたいのですが、演劇と音楽の関係性について、どう感じていますか。
水野 演劇を観て思うのは、音楽はあくまでも要素の一つ、主役ではないってことですね。逆にライブは音楽が主人公なので、どうこのメロディーを主役にするかと常に考えます。一方で舞台における音楽の力は大きいなとも感じるんです。音楽一つで空気が変わるので。ワイドショーでも何でもない映像に、おどろおどろしい音楽がかかると急に衝撃ニュースみたいになりますよね。
白井 そうなんですよ。僕は音楽がとても好きなものですから、舞台でもたんなるBGMにしたくない思いがあって。たとえばカップルの楽しいシーンに切ない曲が流れることで、二人が背負っているものが深く見えてきたりする。芝居と音楽が違う方向からきて合わさった瞬間、もう一つ違う、第三の感情が見える。それが僕は一番好きなんです。
水野 興味深いですし、白井さんとお話しして、歌を作るヒントをもらいました。今の話に重なりますが、大原さんも本質的に持っている明るさ、あの声だからこそ、逆に悲しみを伝えることができるのかなと。大原さんがあの明るい笑顔で泣きながら歌ったら、誰もが感動すると思うんです。
ーーあらためてLV役に挑む大原さんに、お二人からエールをお願いします。
白井 大原さんは何よりあの声、ですよね。歌のうまさはもちろん、どう観客が自分の歌を聴いて楽しんでいるかを常に客観的に見る視点がある。あと、ダンスがうまくて驚きました。「わたしは真悟」で実力派のダンサーたちの中で一緒に踊っても引けを取らないくらい身体がキレる。身体ができているというのは、舞台に立つ上でとても大切なんです。つまり舞台で演じるための武器をたくさん持っていて、なおかつ明るい天性のオーラがあるので。とにかく自分を信じて頑張ってくださいと言いたいですし、どんどん演劇をやって欲しいなと思います。
水野 身体ができているとおっしゃいましたけど、大原さんはライブを見ていてもどの瞬間も絵になっているんです。そういう人はあまりいなくて、僕が思いつくのは矢沢永吉さんとイチローさんぐらい。本能なのかテクニックなのか、両方なのかわからないけれど、大原さんはそれができると同時に、あるがままに歌っているように感じる。だからこそ、僕らは彼女の歌を聴いて楽しくなり幸せになり、感動するのだと思いますね。
【プロフィール】
水野良樹
■ミズノ ヨシキ 神奈川県出身。1999年に吉岡聖恵、山下穂尊と「いきものがかり」を結成。06年メジャーデビュー。17年1月、10周年を区切りに「放牧」宣言。現在はソロとしてNHK Eテレ「天才てれびくんYOU」エンディングテーマ、6月リリースの関ジャニ∞のニューアルバムへの楽曲提供など幅広く活動中。
白井晃
■シライ アキラ 京都府出身。1983年から2002年、遊◎機械/全自動シアター主宰。16年よりKAAT神奈川芸術劇場芸術監督を務める。近年の主な演出作に『No.9-不滅の旋律-』『ペール・ギュント』『マハゴニー市の興亡』、ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』など。5月5日~23日KAATにて上演される『春のめざめ』を構成・演出。
【公演情報】
日程・会場:
2017/5/15(月)~5/28(日) 東京・天王洲 銀河劇場
2017/6/3(土)・6/4(日) 富山・富山県民会館 大ホール
2017/6/24(土) 福岡・北九州ソレイユホール
作:ジム・カートライト
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)第21回読売演劇大賞 優秀演出家賞受賞
出演:大原櫻子、安蘭けい、山本涼介、池谷のぶえ、鳥山昌克、高橋和也
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!