『100万回生きたねこ』で叙情的で豊かな舞台を生み出したイスラエルの演出家インバル・ピントとアブシャロム・ポラックが、芥川龍之介の短編小説を元にした新作、百鬼オペラ『羅生門』を手がける。ワークショップをしつつ、構想中のインバルに話を聞いた。
――芥川龍之介の小説がテーマとは、挑戦ですね。
『羅生門』『藪の中』『鼻』『蜘蛛の糸』と、主に4つの小説を一つの物語として再構成しています。芥川作品は、人間に対する問いかけから始まっており、人生の一部であり、空想の世界につながっているのが魅力です。彼の豊かで矛盾の多い詩的世界は私の作品世界と近いものを感じ、創りたいと思いました。
中でも『羅生門』には誰もが持つ二面性、分岐点が描かれています。今回の作品では善と悪、正と誤、相反する気持ち、分岐点を選択する瞬間に触れていきます。物語には問いかけや哲学的な思索が盛り込み、世界中のあらゆる人が楽しめるようにと考えています。
――インバルさんの作品に登場するキャラクターは可愛く毒っ気のあるところが魅力。今回は「百鬼オペラ」とついていますが、どんなキャラクターを構想していますか。
たくさんの妖怪を登場させようと考えています。幾層もの話を積み重ねて、芥川のファンタジックな世界観を表せたら。今、たくさんの妖怪が私の頭の中を走り回っていて(笑)。人間が妖怪になったり、逆も然り。日本の妖怪を調べていますが、自分ならではの妖怪を表したいので、あまり知識に捉われないようにもしています。先日、ダンサーとワークショップをして、たくさんのアイディアを得ました。
――音楽は『100万回生きたねこ』に続き、阿部海太郎さん。また見たこともないような楽器が使われるのでしょうか。
はい、きっと(笑)。彼は天才です。音楽は奇妙な楽器を演奏しながら、楽団が世界中を旅するイメージで創ってもらっています。ミュージシャンは才能豊かな6名。『100万回〜』の時よりも人数が増えてパワーアップしています。
――キャストの印象を教えてください。
柄本佑さんは俳優一家に生まれ育ったことに興味を持ちました。というのは、共同演出のアブシャロム・ポラックの父親が俳優兼演出家と、共通項が多いので。お会いした印象ではとても面白い表現をしてくれそうです。
満島ひかりさんは繊細さと強さの両方を併せ持っていますね。『100万回〜』初演に続き今回2回目ですが、この4年間で何を経験したのかを見たいですね。吉沢亮さんは昨日、ワークショップに参加してくれました。とてもオープンな人で、身体能力もあり、魅力的でした。他、カンパニー全員との創作作業を楽しみにしています。
【プロフィール】
インバル・ピント
■イスラエルの演出家。俳優としても活動するアブシャロム・ポラック(男性)と共同演出をするスタイルで、1992年よりINBAL PINTO & AVSHALOM POLLAK DANCE COMPANYを立ち上げ、イスラエル国内だけでなく、世界各国で公演を行う。日本での直近の活動は、2013年に、オリジナルミュージカル『100万回生きたねこ』(森山未來×満島ひかり主演)を共同制作し、その年の演劇賞を総なめに。2014年に東京都現代美術館内で新作『ウォールフラワー』、2016年に彩の国さいたま芸術劇場にて『DUST』が上演され好評を博した。
【公演情報】
原作:芥川龍之介
脚本:長田育恵
演出・振付・美術:インバル・ピント&アブシャロム・ポラック
作曲/音楽監督:阿部海太郎
作曲/編曲:青葉市子 中村大史
照明:ヨアン・ティボリ
演出家通訳:角田美知代
演出助手:西 祐子
出演:柄本佑 満島ひかり 吉沢 亮 田口浩正 小松和重 銀粉蝶
江戸川萬時 川合ロン 木原浩太 大宮大奨 皆川まゆむ 鈴木美奈子 西山友貴 引間文佳
ミュージシャン:中村大史 権頭真由 Bun Imai 角銅真実
日程・会場:2017/9/8(金)〜25(月) Bunkamura シアターコクーン(東京)
*兵庫、静岡、愛知公演あり