2008年にブロードウェイでミュージカル化され、2014年に日本初演を果たした『アダムス・ファミリー』。好評を博したこのステージが3年ぶりに帰ってくることになった。初演に続き一家の母・モーティシアを演じる真琴つばさに、再演への意気込みを語ってもらった。
──3年ぶりにモーティシアを演じることになりましたが、再演が決まった時のお気持ちは?
真琴「嬉しいですね。自分の声が悪気なく出せるというか(笑)、初演の時は、回を重ねていくうちに艶っぽさも出てきたような印象があります。最初は子供への愛という部分の表現がなかなか難しかったかもしれません。特に男の子は思春期、声変わりに入る時期でしたし、女性に対して気恥ずかしくなってくる年頃。この私の威圧感に、少し引いちゃったところもあったから(笑)。でも結果的には慕ってくれるようになり嬉しかったです。再演にあたり、新しいメンバーがどう新しい風を入れて、新しいアダムス・ファミリーを作ってくださるのか、そこも楽しみです。」
──今回は、壮一帆さんとのダブルキャストになります。より客観的にモーティシアを見ることができるようになると思いますが…
真琴「ダブルキャストは面白いですよ。自分の持っていないものを見ることができるんです。“そんなところが抜けてたんだ!?”、“それスゴイね”と見ることが出来る最高の教本という感じです。 前回のポスター撮りの時に『世界は私のものよ』というつもりで、と言われて。今回、壮さんのポスターも、そういう感じになっていますよね。私にとっても刺激的ですし、他のキャストの方達も毎回、新鮮な気持ちになられるのではないでしょうか。それと、壮さんは関西人ということもあって、会話でも〝間“ がいいんですよね。関西DNAってあると思うんですよ。ボケとツッコミの間合いの良さというか。 」
──ゴメス役の橋本さとしさんも関西出身ですからね
真琴「そうなのよ(笑)。間合いの良さをわかっていらっしゃる。ゴメスとモーティシアの場面って、夫婦漫才の要素満載だと思うんです。 あるシーンで、ゴメスが席に着いたときにそちらに視線を送るだけなんですけど、演出の白井晃さんに何度もダメ出しされて中々できなかったんです。その、ゴメスとの阿吽の呼吸が、関西の『なんや?』っていう感覚に近いと思うので、壮さんならうまくできそう。そのあたりも勉強したいと思います。」
──モーティシアはどんな女性だと捉えていらっしゃいますか?
真琴「『世界は私のもの』と強い印象でありながら、とても家族に助けられている女性ですね。自分の中にルールやしきたりがたくさんあって、それが崩れてしまうのがとても怖い。それ故に、対処の方法がわからなくなってしまうんです。実はとても少女だと思いますね。だから、ゴメスに対しては妻というよりも女。愛してくれなきゃヤダとか…総合してワガママです(笑)。家族への愛も大きいですが、一方的なんですよ。娘の恋愛について、父のゴメスのほうはまだ娘に歩み寄る姿勢がありますが、母親のモーティシアはダメ!絶対ダメ!ですから。普通の家庭は逆ですよね(笑)。家族が変わってしまうことで、自分の居場所がなくなってしまうことが怖いんですよ。とっても繊細な女性なんです。私ですか? 私も繊細な部分、持ってますよ(笑)」
──初演の際、橋本さとしさん演じるゴメスの伊達男ぶりも素敵でしたよね。
真琴「ちょっと尻に敷かれているような、一歩さがった男性の雰囲気がとってもお上手で。奥さんをいい気持ちにさせるのが上手いんですよ(笑)。でも、娘の前に行くと、娘にはかなわない部分がある。そんな父親の可愛さも素敵でしたね。」
──モーティシアになりきるために、真琴さんが工夫されたことは?
真琴「通販でモーティシアみたいなロングのかつらを買って、ずっとつけていました。普段の髪が短いので、髪が長い感覚がわからなかったんです。だから、あったらどうなるんだろう?というのを実感するためでしたね。ちょっと顎を上げただけでも、思わぬところに髪の毛が来たりして「なんだこの髪はー!」ってなったりもして(笑)。まだそのかつらは取ってありますよ。不器用なので、公演始まってから髪を気にしていたら、どんどんマイナスになっちゃう。稽古着も黒くて長いものを身に付けて。。。本番でなるべく雑念が入らないようにしました。」
──再演にあたり、ご自身で課題にしていることはありますか?
真琴「最近の課題なんですけど、自分の許容範囲を広げることですね。自分に厳しくしていると、例えば愛情表現するにしても、どこか相手を攻撃してしまうような印象が出てしまうんです。自分に甘く…と言ってしまうとなんだか甘やかしているような感じになってしまいますが(笑)、許容範囲を広げてあげると、相手に対する思いやりとか、やさしさが滲み出てくるような感じがするんですよね。最近その糸口が見つかってきたような気がしています。」
──ミュージカルの「アダムス・ファミリー」は、ゴシックな雰囲気がありながら、ラテンやタンゴなどアップテンポで楽しい楽曲がそろっています。曲の魅力についてもお話しいただけますか?
真琴「映画で皆さんがよくご存知の“ダラララン♪”っていう部分は、本当に冒頭だけなんですよね。私の歌に関しては内容も“死がやってくる”みたいな、なかなか持ち歌として自分のコンサートとかでは歌ったりできないような曲(笑)。でも、どれも印象的で素敵でした。 私の曲ではありませんが、父から娘に向けての歌がとっても好きでした。森雪之丞さんの訳詞もぴったり合っていて…。タンゴについては、宝塚出身だからって何でもできると思うな、と(笑)。なので体当たりでやりました。結果扱いにくい女房の感じが出ていたんじゃないでしょうか?」
──ダンスはテンポの速い曲も多くて大変そうです。
真琴「オープニングの曲もちょっとラテンな感じで、振りも細かくて、アダムス一家なかなか揃わなかった(笑)。振りのパターンが同じような繰り返しに見えるんですけど、実は少しずつ違っていて難しいんですよね。で、その間違い方に、それぞれの個性が出ていて、面白かったです(笑)」
──アダムス一家は、奇妙なことや不幸なことが大好きな普通じゃないおばけの一家ですが、見ているうちに“普通ってなんだっけ?”という気持ちになってくる感じがします
真琴「そうなんですよ。普通じゃないことも、アダムス一家にとっては普通なんです。でも、どの家庭にもそういう普通じゃないことってあったりしますよね。「ウチは家の中では丸裸で過ごすんです、それが普通です」って、普通じゃないから!みたいな(笑)。私の家は商売をしていたので、食事の時間がバラバラなのは当たり前で、数年に一度、一家で出かけて食事することがあったんですが、そういう時でも駅ビルのレストラン街に行ってそれぞれ好きなものを食べるんです。これは自分でも普通じゃない!って思っていましたけど(笑)。でもそれぞれの家の普通じゃないことに、それぞれの理由があるんですよね。」
──そういう我が家の普通じゃないことを考えながら観ていると、今回のお話しもよくあることのような気がしてきます。
真琴「そういう意味で、この作品はお子さまからご年配の方まで楽しめるエンターテインメント・ホームコメディって感じになっていると思います。初演の時、宝塚の同期生が子供のミュージカル観劇デビューにこの作品を観てくれて。男の子だったんですが、「面白かった」って言ってくれてうれしかったですね。深いけど楽しい、楽しいけど深い!あと、ご家族で観ていただくことをお勧めします。「アダムス・ファミリー」を観た後に、家族で中華なんかを囲んで「ウチの一家はどうかな?」なんて話をしたり、「実は、会ってほしい人がいるの」っていうきっかけにしたり。そういうセットプラン組みたい! 私、出ていない日はそうしてようかな(笑)」
──(笑)。そういう想像が膨らむくらい、ファミリーコメディですよね。観客もファミリーのような感覚で観れそうです。
真琴「まさにそうなんですよ。日本の観劇スタイルって、大人しくなりがちですよね。でも「アダムス・ファミリー」は、“ダラララン♪”の後に“パン、パン”って手拍子が観客席から上がったりもして、オープニングからも楽しめる。最終的な共演者はお客様ですから。お客様の呼吸や息遣いが、間になっていくんです。だから、いいところでクシャミしたりするでしょ? あれも、無意識のうちに間をとっているんですよ、きっと(笑)。たくさんの方にファミリーになった気分で、観ていただけたらと思います」
──家族の物語だからこそ、家族で観てほしいミュージカルですね
真琴「今の家族だけじゃなく、ご先祖様にも感謝の気持ちが湧いてくるような作品です。観劇するだけでなく、観劇前や後のプランも“今日はどこでゴハンを食べようかな”とか、家族や大切な方と相談して、ぜひ我が家だけの、私達だけのアダムスツアーというのを作って楽しんでいただきたいですね」
インタビュー・文/宮崎新之
■プロフィール
マコト ツバサ。1985年に宝塚歌劇団に入団し、花組に配属。1997年に月組の男役トップスターに就任し、中国公演や宝塚大劇場のこけら落とし公演などを成功させる。2001年に退団した後は、舞台、テレビ、ラジオなど多方面に活躍している。
【公演情報】
パルコ・プロデュース「ブロードウェイ・ミュージカル『アダムス・ファミリー』」
日程・会場:
10/28(土)~11/12(日) 神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホール
11/18(土)・19(日) 大阪・豊中市立文化芸術センター大ホール
11/24(金)・25(土) 富山・富山オーバード・ホール