同じ顔ぶれで臨む2年越しの再演
観た人みんながきっとハッピーになれる!
とびきりキュートでかなりシュールな、大人も子供も一緒になって楽しめる愛すべきファンタジー、『気づかいルーシー』が2年ぶりに再演される。これは大人計画主宰・松尾スズキによる同名の絵本を原作に、松尾とも親交が厚いノゾエ征爾が脚本・演出を手がけたオリジナルの音楽劇だ。絵本のルーシーに見かけも動きも「そっくり!」と大好評だった〈ルーシー〉役の岸井ゆきのを筆頭に、今回の再演版も〈王子様〉に栗原類、〈馬〉に山中崇、〈おじいさん〉に小野寺修二ら、初演と同じ顔ぶれが揃うことになった。待望の再演に目を輝かせる岸井に、作品への想いや意気込みなどを聞いた。
――『気づかいルーシー』を再演すると聞いた時は、まずどう思われましたか。
岸井 実は2年前の東京公演中から、漠然とですけど「2年後に再演しよう」という話があって。それからずっと楽しみにしていたので「やっと、できるんだ!」という気持ちでした。
――初演の本番中に、再演のお話が出るなんて、うれしいことですよね。
岸井 本当にうれしかったです。私たちもやっていて楽しかったし、お客さんもみんな笑顔で帰られていたので、「またぜひ、やりたいね」ってキャスト同士でも話していたんです。
――実際のところ、お客さんの反応は本当に良かったですよね。
岸井 ものすごく、良かったんです。まさか、ここまでみなさんが受け入れてくれるとは!って、みんなでびっくりして。
――今回の再演では、どういうところが変わりそうでしょうか。逆にここは変えたくないな、という部分はありますか。
岸井 ノゾエさんは台本を少し変えたいとおっしゃっていましたし、踊りもちょっと変えるようでしたけど、具体的にどうなるのかはまだ今はわからないですね。ただ、ノゾエさんご自身が今回は出演もするそうなので、そこが前回とはすごく大きな違いになるのではないかと思います。この間、「ノゾエさんは、どんな役をやるんですか?」って聞いてみたんですが、「いや~、足りないところにいるって感じかな」とだけ、おっしゃっていました(笑)。私自身に関しては、よりパワーアップしたいと思っています。たとえば歌と踊りについても、初演よりレベルアップしていたいですし。ストーリーはどう変わるかわからないですが、でも大元にある“気づかい”をするという部分は絶対に変わらないので、そこのところは前と変わらず大切に、むしろより強く出していけたらいいなと思っています。バランスを見ながら、またみんなで一緒に作っていけたら。
――前回と同じメンバーが揃ったというのもいいですよね。
岸井 はい! このオリジナルメンバーは、どの役も「この人しかいない!」という方ばかりですからね。まず、私も類くんも原画に似ている気がする(笑)。馬は、山中さんじゃなかったらあの着ぐるみをあそこまでうまく動かせないだろうし、おじいはおじいで、あんな真っピンクな皮の衣裳を着こなせる人はいないだろうし(笑)。小野寺さんには踊りの部分でもすごく助けてもらって。それぞれの個性が、すごくいい具合に合わさっているメンバーなんです。
――稽古場の雰囲気はどんな感じだったんですか。
岸井 最初は「楽しくやろうね!」みたいな感じでしたけど、歌の稽古が始まるとそんなのんきな雰囲気ではなくなっていって。だけど歌っているだけで、やっぱりちょっと楽しくなってきちゃうんですよね、できるできないは置いておいて(笑)。というのも実はこのメンバー、私も含めて歌が少し苦手な人が多くて。みんなして「ええ?」「どの音? どの音??」みたいな状況だったんです。だけどそのおかげで「これはヤバイぞ」って会話ができる仲に、すぐなれたというのもありました。
――むしろ、最初から完璧にできちゃうメンバーが揃っているよりも。
岸井 仲良くなりましたね。「うん、合ってますよ、合ってますよ!」とか、お互いになぐさめあったりもしながら(笑)。舞台上で演奏してくださっている、森ゆにさんと田中馨さんもとても懐の深い方たちで、いつも待ってくれて。「できると思えば、きっとできるよ!」って。
――励ましてもくれて。
岸井 そうなんです。ちょっと早く行って自主練習する時も、付き合ってくださいました。本当に、和気あいあいとした稽古場でした。
――前回、周りの反応で印象深かったことはありますか。
岸井 終演後、知り合いはみんなすごく笑顔で楽屋に面会に来てくれていましたけど、中には何人か泣き笑いみたいな人もいて。「感動しちゃった~」って言ってくださって、それはこちらも予想していなかった反応でした。だって、皮をはいだりはがれたりみたいなことをいろいろやっているのに(笑)、「涙が出る」って結構すごいことですよね。フィナーレのところでは私たちも感動しているんですけど、それがちゃんとお客さんにも伝わっているんだと思って、とてもうれしかったです。
――子供たちの反応も良かったですよね。
岸井 そうですね。私が客席に向かって話しかけるシーンがあるんですけど、日によっては、シーン……ってなる日もあって。そうなると「おおっと、どうしよう」なんて思っていましたけど(笑)。子供が多い日は「あっちだよ」とか「そっち行っちゃだめ」とか言ってくれて、参加型みたいになっていました。
――それって、すごく鍛えられそうですね。その場ですぐに応えなければいけないから。
岸井 そうなんですよ。毎日、言うことが違うから「どうしようー」「今日はどうくる?」って。そうそう、前回は初日に、そのみんなに話しかけるシーンで客電がついて明るくなったら、すぐ近くに松尾さんがいらしているのを見つけてしまって。
――うわ、それはいきなり緊張しますね。
岸井 いっそ、ここで松尾さんに話しかけたほうがいいのかなと思ったんですけど、さすがにやめておきました(笑)。
――原作者である松尾さんの反応は、いかがでしたか。
岸井 すごく良かったんです。ノゾエさんに「ありがとう」とおっしゃっていただいて、ツイッターでも褒めてくださって。ずっと稽古では常に松尾さんの原作のことを考えながら、みんなで作っていましたから、初日はブルブル震えていたくらいだったんですけどね。だから松尾さんにそう言っていただけたことは、私たちの自信にもなりました。今回の再演でも「また良かったよ」って言ってもらえるようにがんばりたいと思います。
――岸井さんが最近した“気づかい”にまつわるエピソードを教えていただけますか。
岸井 友達と一緒にご飯をする約束をしていた時、私だけ合流するのが少し遅れてしまったことがあって。私はまだご飯を食べていなかったのに、その場にいたみんなはもう食べ終わってしまっていて。「ご飯は?」って聞かれたんですが、つい「うん、食べた、食べた。大丈夫」って言ってしまったんです。
――本当はおなかがすいているのに?
岸井 はい。なんだか言えなくて(笑)。その時は何人か友だちがいて、大勢いるとどうしてもいつもと違って、変に気をつかってしまうところがあるんです。私の場合、考えたことが言葉になる時間がちょっと長いので、置いていかれちゃうところが少しあって。でも、すごく仲のいい女の子がいるんですけど、その子はいつも待ってくれて。だんだんと楽になれて。彼女のおかげでだいぶいろんな人と自分の言葉で話せるようになったんですよ(笑)。
――では、このあとの稽古、本番に向けて楽しみなことや、目標は。
岸井 ここのところずっと、筋トレをしているんですが「だいぶ、よくなってきたね」と先生に言っていただけるようになってきて。この鍛えた身体でルーシーを演じるのは今回が初めてですから、前回とどんな違いがあるか今から楽しみです。最初にくるくるまわるシーンがあるんですけれど、今回はもしかしたら連続2回まわれるんじゃないかななんて思っているんですよ。
――では、ぜひお客さんへお誘いのお言葉をいただけますか。
岸井 この『気づかいルーシー』は、観た人がみんなハッピーになれる作品です。でも、ただ楽しいだけではなく、その中には家族の関係性であったり、優しさゆえの気づかいがあったり、新しい発見ができたり、大切なことを思い出したりできる作品でもあるので、ぜひ劇場で一緒に体感してほしいなと思います!
取材・文/田中里津子
【プロフィール】
岸井ゆきの
■キシイユキノ 1992年2月11日生まれ。神奈川県出身。2009年にドラマ『小公女セイラ』で女優デビュー以降、映画『友だちのパパが好き』(2015)、ドラマ『真田丸』(2016)、『99.9‐刑事専門弁護士-』(2016)、『るつぼ』(2016)など、数多くの作品で活躍。初主演映画となる『おじいちゃん、死んじゃったって。』が2017年に公開予定。この秋は劇団☆新感線『髑髏城の七人~Season風~』にも出演する。
【公演情報】
『気づかいルーシー』
原作:松尾スズキ(千倉書房「気づかいルーシー」)
脚本・演出:ノゾエ征爾
演奏:田中馨、森ゆに
出演:岸井ゆきの、栗原類/川上友里、山口航太、ノゾエ征爾/山中崇、小野寺修二
日程・会場:
2017/7/21(金) ~30(日) 東京芸術劇場シアターイースト(東京)
2017/8/4(金) ハーモニーホールふくい(福井)
2017/8/6(日) まつもと市民芸術館(長野)
2017/8/11(金・祝)・12(土) 富山市婦中ふれあい館(富山)
2017/8/16(水) はつかいち文化ホ-ル さくらぴあ大ホール(広島)