『中村勘九郎 中村七之助 全国芝居小屋錦秋特別公演2017』 制作発表レポート

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江戸、明治、昭和の香りが残る芝居小屋で、中村勘九郎、中村七之助が楽しく、美しく舞う『錦秋特別公演』

 

2005年から毎年行われている、中村勘九郎、中村七之助を中心とした中村屋一門による恒例の全国巡業公演。今年は少し趣向を変えて、『全国芝居小屋錦秋特別公演2017』として全国8カ所に現存する昔ながらの“芝居小屋”を廻る企画が実現することになった。

今回廻るのは<岐阜・中津川市>の加子母(かしも)明治座、<岐阜・加茂郡白川町>の東(あずま)座、<岐阜・瑞浪市>の相生(あいおい)座、<香川・琴平町>の金丸(かなまる)座、<愛媛・喜多郡内子町>の内子(うちこ)座、<熊本・山鹿市>の八千代(やちよ)座、<福岡・飯塚市>の嘉穂(かほ)劇場、<群馬・みどり市>のながめ余興場という、古くは江戸後期から、昭和初期にかけて築かれた貴重な芝居小屋ばかりだ。

上演するのは、まずは狂言をベースにした人気演目の『棒しばり』。今回、勘九郎は次郎冠者役で、太郎冠者には中村鶴松が扮する。棒に両手を縛られた状態で彼らがいかにして酒を盗み飲みしようと奮闘するか、どうぞご注目を。そして七之助が可憐に、しっとりと舞う『藤娘』。藤の花が咲き誇る中、塗笠を被り藤の枝を担いだ姿はまるで絵画のように美しく、誰もが惚れ惚れとするはず。また、この二つの舞踊を上演する前には、歌舞伎の舞台裏を勘九郎と七之助が楽しく紹介する『歌舞伎塾』も予定されている。

7月4日、都内某所にて、この『錦秋特別公演』の制作発表記者会見が行われた。会見の出席者は勘九郎と七之助、そして“全国芝居小屋会議・会長”の稲本隆寿。会場には全国8カ所の芝居小屋の幟が賑やかに飾られ、各芝居小屋の代表や関係者たちも法被姿で同席。中村屋には馴染みの深い小屋の関係者も多かったせいもあり、ほっこりとしたあたたかい雰囲気が漂う会見となった。

 

勘九郎「本日はお忙しい中ありがとうございます。今回はこの『錦秋特別公演』で、全国の古い芝居小屋を廻れるということになりまして、とても楽しみにしております。というのも、前回父の襲名の折り(2006年)にも古い芝居小屋を巡業で廻ったのですが、実はその時、私は怪我をしていて参加できなかったんです。ですから今回はそのリベンジという形で、新鮮な気持ちで舞台に臨みたいと思っています。一生懸命芝居をして、その町の人たちに笑顔になっていただければ大変嬉しく思います。」

七之助「今日はお集まりいただき誠にありがとうございます。私は父の襲名の折りには一緒にいろいろなところを廻らせていただいていましたので、それぞれの小屋に父との思い出、その町の皆様との思い出がたくさん詰まっております。それを懐かしみながら、今回はまた兄弟ふたりで力を合わせて、魂をそれぞれの小屋に入れたいなと思っております。」

と、まずは勘九郎、七之助から熱い心がこもったご挨拶。続いて行われた、司会のフジテレビアナウンサー・森本さやかを交えてのやりとりは以下の通り。

 

――勘九郎さんは今回はリベンジということで、気合も十分ですね。
勘九郎「そうですね。前回は、父はじめ、ご出演のみなさまがたからも面白いエピソードをたくさん聞かされていたので。今回はぜひ、自分で体験したいなと思っています。

 

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――昔ながらの芝居小屋だと、やはり通常とは違う楽しみがありますか。
勘九郎「やはり、あの空間は独特で、芝居小屋に入った瞬間から昔の時代にタイムスリップできるような感覚がありますからね。それは平成中村座でも同様だと思いますけれども。あと、前回の巡業の時は9月だったこともあって、ものすごく暑かったらしいんですよ。そうすると花道に座って芝居をしている時に、お客様が団扇や扇子であおいでくださるらしくて。」

七之助「そうなんですよ。お客様にあおがれたのは、あの時が初めてでしたね(笑)。その時は東座さんでこしらえなしの素踊り、紋付きの着物のままで『連獅子』を踊らせて頂きましたが、これは父が言っていたことでもありますが、僕の人生でもたぶんここが一番暑かった小屋ではないかと思います(笑)。今回は兄にも、いろいろと経験してほしいですね。おひねりは、当たるとなかなか痛いんだぞということとか。」

勘九郎「そう、うちの父親が前回、投げていただいたおひねりが当たったらしくて(笑)。だけど、もちろんお客様のあたたかさも感じて、結局は笑顔になったという思い出話を聞きました。」

 

――痛いんだけど、嬉しいんですね(笑)。
七之助「僕たちはあまりそういう経験がないのでそういうことに、よりライブ感があるというか。父が目指していた、お客様と舞台との敷居を限りなくゼロにしてみんなで一体となれる雰囲気が、こうした昔ながらの芝居小屋にはあるように感じるんですよ。外の虫の音も聞こえたりするんですからね。本当に、素晴らしい経験でした。」

 

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――そのあたりは、まさに芝居小屋ならではの歌舞伎が味わえるというわけですね。
稲本「そうですね。舞台と客席が非常に近いですから。舞台に立つみなさんがたの息遣いが聞こえますし、そして汗が、前の席のお客様に飛んでくるんです。それがもうたまらないとおっしゃるお客様も、たくさいらっしゃいますね。今回も、そんなことがたっぷり味わえる舞台になればいいなと思っております。」

 

さらにその後、行われた記者からの質疑応答の中では「全国各地を廻る時の楽しみは、やはり食ですね。その土地土地で地のものをいただくと、本当にパワーになります(勘九郎)」「それぞれ芝居小屋には特長があって。内子座さんは住宅街に突然ありますし、僕が一番ビックリしたのは、相生座さんの楽屋口は隣がゴルフコースになっていたこと。父の襲名の時には『口上』の格好のまま全員でゴルフ場に入りまして、篠山紀信先生に写真を撮っていただきました(七之助)」といったコメントのほか、実はこの8カ所のうち、加子母明治座は七之助が名誉館長で、東座は父の跡を継いで勘九郎が名誉館長を務めていることが発覚! 「ぜひ今回は館長らしいところも見せないといけないなと思っています!」と、二人揃って力強く宣言する姿も見られた。

続く囲み会見でも「実は、小屋が狭いとみんなで協力し合わないと成立しない公演でもあるので、大道具さんや裏方の皆さんとひとつになれる感覚があります。そういった、うちうちのことも楽しみなんです(七之助)」「こうした古い芝居小屋を巡業で廻りたいというのは父が言い出したことで、今回もそれがきっかけになっているわけなのできっと父も喜んでくれていると思います。お客様との距離がものすごく近いので、その点はとても怖いですよ。近い分、すべてを見られてしまいますからね。ですけれども、その距離感で空間を一緒に共有できるというのは、お客様と共に幸せな時間を過ごせるということでもあるので、それはやはり大変楽しいことですよね(勘九郎)」と笑顔で語り、会見をしめくくった。

今も残る古き良き時代の香りが感じられる芝居小屋で、勘九郎、七之助という当代きっての輝きを放つ歌舞伎役者の芸が観られるなんて、まさに珠玉の時間と言えそうだ。のちのちまで語れる貴重な体験となることは太鼓判、ぜひともこの機会に足を運んでみてほしい。

 

取材・文:田中里津子
写真:小池哲夫

 

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