7月29日(土)、新国立劇場で開場20周年記念公演「トロイ戦争は起こらない」の制作発表会が行われ、芸術監督の宮田慶子、出演者の鈴木亮平、一路真輝、鈴木杏、谷田歩、三田和代が登壇しました。
本作は小説家、劇作家でありながら、フランス外務省の高官としても活躍し、情報局総裁まで務めたジャン・ジロドゥが1935年、ナチスドイツが台頭するパリで、戦争に突き進む人間の愚かしさをあぶり出し、平和への望みをかけて書いた作品です。
そしてこのジロドゥ不朽の名作の演出を新国立劇場の元芸術監督でもある栗山民也が手がけます。
制作発表会ではまず芸術監督の宮田慶子が、「秋からスタートする2017/2018シーズンは新国立劇場開場20周年という節目のシーズンでもあり、その記念公演に相応しい作品を上演でき、非常に嬉しく思っています。」と挨拶。作品については「戦いに疲れ、それでも戦いに飲み込まれていくエクトールに、外交官のジロドゥは自らを重ねたのだと感じます。いつの世も変わらない人間の姿を描き出した作品でもありこんな現在だからこそこの作品が強い力で観客に訴えかけていくのではないかと思います。演出には栗山民也氏、そして翻訳は岩切正一郎氏にお願いをしました。素晴らしいキャストも揃い、私自身も非常に楽しみにしています。」と芸術監督として期待を述べました。
その後、仕事の都合で出席が叶わなかった演出の栗山民也より制作発表会に向けたコメントが読まれ、戦後72年の沖縄にある「平和の礎」を引き合いに「戦争、暴力、権力、家族、愛、不信そして孤独。それらは、ギリシャの昔から今のわたしたちにも繋がれている」と述べ、普遍的な人間の愚かさを炙り出したい、と作品への想いを明かしました。
本作の主人公トロイの王子・エクトール役を演じる鈴木亮平は、“大好き”な世界遺産でもあるトロイについて熱く語りつつ「この作品は限りなく現代に近い戦争について描かれていて、むしろ(作者の)ジロドゥさんに興味を持ちました。普通の感覚では“間違っている”と言える戦争が、どの角度で見た時に“正しいもの”になってしまうのか見つけていきたいと思います。共演者は皆さん初めてなのですが、妻であるアンドロマック役の鈴木杏さんとはW鈴木ということで相性はいいんじゃないかと(笑)。深い衝撃を与えられるような作品になると思います。楽しみにしてください!」と語った。
ギリシャの王妃エレーヌ役を演じる一路真輝は「鈴木亮平さんが今、学校の先生のようにお話してくださったので、稽古場で分からないことがあっても心強い、と思ってます(笑)。憧れの劇場で、ようやくご一緒できる憧れの栗山さんと、本当に素敵な環境で新しい舞台に挑戦できることをとても幸せに思っています。」と述べた。
エクトールの妻アンドロマック役を演じる鈴木杏は「W鈴木のもう一人の方、鈴木杏です。」とウィットにとんだ挨拶をしつつ、「台本を最初に読んだ時は胸をキリキリと痛むような気持ちになったけれど、意外に笑えるシーンもあり、題材が重い作品だけにそういう部分も大切にしていきたいです。」と感想を述べた。
ギリシャの英雄オデュッセウス役を演じる谷田歩は「自分はギリシャ作品を演じるのは2度目で、とにかく女性が強いと感じました。強い女性に負けないように強いオデュッセウスを演じていきたい。」と抱負を述べました。
エクトールの母エキューブ役を演じる三田和代は「エキューブは非常にエスプリの効いた、いわゆる『お母さん』という感じの母親ではない。いつも冗談や皮肉を言っていて、なんとなく(作者ジロドゥと同じ)フランス人の感じがします。舞台を50年やってきて初めて出会うキャラクターのように思います。不安と興奮、そして喜びを感じています!」と意気込みを語りました。
また、当日出席できなかった栗山民也さんよりコメントが到着しました。
世界最古の物語といわれる長編叙事詩『イリアス』を、数年前に舞台化しました。その分厚い上下二巻の文庫本を読みながら強く惹かれたのは、この叙事詩が人から人へと語り継がれてきた「声」の口承だということでした。
そのなかに作品のキーワードが、いくつも浮かんで見えてきます。戦争、暴力、権力、家族、愛、不信そして孤独。それらは、ギリシャの昔から今のわたしたちにも繋がれているものばかりで、その神話をもとに1935年にフランスの劇作家ジャン・ジロドウによって新たに書かれたのが、今回の『トロイ戦争は起こらない』です。この戯曲は、第二次世界大戦勃発の危機を予感し、力強く精緻に、そして詩的にも醜く歪んだ光景の数々を映し出します。そのジロドウの平和への願いも空しく、フランスはその4年後にドイツ軍の侵入を受けるのですが。ジロドゥ自身、この作品の主題に「戦争と平和」を祈る、と記しています。
この劇の主人公であるエクトールは、「相手を殺すのが、まるで自殺のようだった」と語ります。現在の核の時代では、一つの国家や民族だけでなく、それは全人類の自殺を意味することになるでしょう。自ら創り出したものに滅ぼされていくことこそ、繰り返される人間の歴史なのですが、この劇の奥底から、今も続く愚かな戦争のいくつもの断面が、炙り出されてくるのです。
この文章を書いている今、テレビから沖縄の戦後72年の「慰霊の日」の映像が流れています。国籍など問わず、すべての犠牲者の名を刻んだ「平和の礎」に込めた多くの人の思いを、こころに刻みます。そして、文学や芸術の持つ普遍の力を、再び思います。この最悪、最低の政治状況のもとで、この作品の「人間と時代について」の有効性を、見つめてみたいと思います。 (栗山民也)
【あらすじ】
永年にわたる戦争に終わりを告げ、ようやく平和が訪れたトロイの国。
夫である、トロイの王子・エクトールの帰りを待つアンドロマック。しかし、義妹のカッサンドルは再び戦争が始まるという不吉な予言をする。
一方、エクトールとカッサンドルの弟・パリスは、ギリシャ王妃・絶世の美女エレーヌの虜となり、戦争の混乱に紛れてギリシャから彼女を誘拐してしまう。妻を奪われ、名誉を汚されたギリシャ国王・メネラスは激怒し、「エレーヌを返すか、われわれ、ギリシャ連合軍と戦うか」とトロイに迫る。しかし、彼らの父であるトロイ王・プリアムやそのとりまきたちは、たとえ再び戦争を起こしてでもエレーヌを返すまいとする。
幾度にもわたる戦場での生活に、戦争の虚しさを感じていたエクトールは、平和を維持するためにエレーヌを返そう、と説得するが、誰も耳を貸そうとはしない。
とうとう、エレーヌ引渡し交渉の最後の使者・ギリシャの知将オデュッセウスがやってくる。果たして戦争の門を閉じることはできるのか。あるいは、トロイ戦争は起こってしまうのだろうか。宿命の罠は、愚かな人間たちが囚われ堕ちていくのを静かに狙っている―。
『トロイ戦争は起こらない』
作:ジャン・ジロドゥ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:
鈴木亮平 一路真輝 鈴木 杏 谷田 歩
川久保拓司 金子由之 大鷹明良 三田和代
ほか
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