優しい時間が流れる、こいの棲む家へ。パルテノン多摩×世田谷シルク 『こいの棲む家』 堀川炎 インタビュー

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演劇、音楽などの多彩なジャンルのアーティストが結集し、〈街〉を舞台に熱いパフォーマンスを繰り広げる「パルTAMAフェス」。今年は水上ステージに、注目の劇団「世田谷シルク」が登場! 舞台美術から振付、演出まで手がける主宰の堀川炎さんに、新作『こいの棲む家』について、また堀川さん自身について聞きました。

 

劇場公演ではできない野外劇ならではの可能性を

 

――今回、きらめきの池での公演の話を聞いて、どう思われましたか。
堀川「嬉しかったです。野外劇をするのは3回目なんですけど、劇場より自由度が高いので、可能性が広がるじゃないですか。ぜひやってみたいと思いました。」

 

――上演される新作は『こいの棲む家』。どうしてこのタイトルに?
堀川「単純な発想ですけど、池なのでコイ。お魚の「鯉」に、恋愛の「恋」も絡められたら面白いかなと考えたんです。」

 

――どんな野外劇にしたいと考えていますか。
堀川「水って、変形しますよね。 掬うだけでも、色々な形になる。そこをヒントに普段の演劇とは違ったものを作りたいと思っています。あと音はですね、なるべくライブでやりたいんです。最近、演劇は生のものなのに既成音楽をスピーカーから流すことに違和感を感じてしまっています。なので生の歌があって、楽器は竹を鳴らして、とか。水の音を音楽的に活かしても面白いかもしれないですね。」

 

――ほかにやってみたいアイデアは?
堀川「普段、私が稽古場やオーディションでやっているワークショップがあるんですが、それを作品にも採り入れたいなと。」

 

――どんなワークショップですか。
堀川「今回の出演者オーディションでやったのは、稽古場の真ん中に線を引いて、向かい合った相手と同じ動きをしてみるというもの。音楽に合わせてゆっくりに動いていくと、夢のように、すごく優しい時間が流れるんですよ」。

 

――オーディションで拝見しましたが、それ自体でアートパフォーマンスのようでした。
堀川「スローって別の理由でも魅力があるんです。これは以前、アメリカの演出家のワークショップを人づてに聞いたものなんですけど。例えば母親が、赤ちゃんの泣き声に気がつき振り返るとします。それが3秒の動作だとしたら、次は動作を6秒に引き伸ばし、12秒、24秒、48秒と徐々に時間を長くしていく。すると、ある時間から、母親が赤ちゃんに対してイラッとした表情が見え隠れする。つまりスローにすることによって、今まで隠れていたものが見えてくる可能性があるということなんです。私はそこに魅力を感じているので、舞台でもスローモーションの動きが好きなんです。」

 

――ちなみに「優しい時間が流れる」というのは、世田谷シルクで目指しているところでもありますか。
堀川「今、話していて、そう思いました。普段から劇団員に、話しているわけじゃないんですけど。」

 

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山の手事情社研修生4人と「世田谷シルク」を結成

 

――堀川さん自身のことを教えてください。演劇を始めたのは?
堀川「中1の時、何か部活に入ろうと探していたら、校庭で発声練習をしている生徒たちがいて。なんとなく面白そうだなと思って、演劇部に入りました。中高一貫校だったので、そのまま高校3年生まで演劇部でした。」

 

――中高生時代に感じた、演劇の楽しさは?
堀川「自分にやるべきことが課せられていて、一生懸命そこに向かって努力するということが、まず楽しい。新しい戯曲を読むのも、セリフを覚えるのも、役作りも、なにもかもが楽しかったです。部活の友達の家にお泊まりに行っても、遊ぶのは台本の読み合わせだったんです(笑)。高3まで、私の遊びは台本の読み合わせでした。」

 

――どんな戯曲を読まれていたんですか?
堀川「高校演劇の脚本集や、演劇集団キャラメルボックスですね。あと私は井上ひさしさんが好きだったので、図書室にある井上さんの戯曲を全部コピーして、ずっと読んでいました。」

 

――高校卒業後は?
堀川「将来的には演劇をやりたいと思っていたんですが、演劇を勉強にするのは嫌だったんです。それで工学部に入って情報工学の勉強をして。大学でも演劇部に入ってはいたんですけど、理系なので、そんなに盛んではなくて、稽古時間も短かったです。」

 

――消化不良になりませんでした?
堀川「そうですね(笑)。それもあって就職活動をせず、卒業後、「山の手事情社」という劇団に研究生として入ったんです。」

 

――山の手事情社を選んだのはなぜですか。
堀川「フィジカルに特化した劇団で、衣装含めて舞台が美しかったからです。あと、古典を主にやっている団体だったので、私にとっては新鮮で。」

 

――入ってみて思ったことは?
堀川「体育会系で、つらかった(笑)。マラソンして、腹筋して、発声して、みたいな。私にはそこに燃える要素があまり持てなくて、せっかくならもっとゆっくり演劇をやりたいと、研修生の人たちと1年後に世田谷シルクを作りました。」

 

――結成当初は、どういう作品を?
堀川「山の手事情社から学んだ方法をそのまま使って、エチュード(即興芝居)で作ったシーンを繋げただけの芝居でした。その時は全員がトップで、持ち回りで演出をしてたんです。そこで他の人のを見ながら「私なら、こうやるかな」と考えている自分に気がつき、だんだん自分で演出をしてみたいと思うようになりました。」

 

平田オリザ氏に学び青年団演出部にも所属

 

――2009年の結成から8年。劇団としての変遷は?
堀川「時期ごとにメンバーが変わって、今、第5期という感じです。ただ作品的には初期にやっていることと根底は変わってなくて、同じことを繰り返しながら精度を上げていっていると思います。」

 

――2014年から平田オリザさん率いる青年団の演出部にも所属されています。なぜ青年団に?
堀川「旗揚げから2年目の第4回目の公演で、「世田谷区芸術アワード」という賞を獲っちゃったんです。特典でシアタートラムで公演できることになったんですけど、まだ自分には演出力も脚本力もないから、これはまずいなと(笑)。そこから1年間、演劇について猛勉強したんですけど、それじゃ全然足りなかったので、学校に入って、もう1回勉強し直さなきゃダメだと思ったんです。そうしたら、たまたま無隣館(こまばアゴラ劇場と青年団による演劇学校)が一期生を募集していたので、受験しました。」

 

――入ってみて、いかがでしたか。
堀川「2週間に1回くらい、平田本人が講義するんですが、その内容が面白くて、目から鱗のことばかりでした。いろいろ気づかされることが多かったです。」

 

――青年団に入ったことは、今の堀川さんの作風に影響していますか。
堀川「青年団というより、平田の影響は受けてます。「間」が大切という考え方なので、私も間については調整することが増えました。あと、青年団は100人以上の劇団員がいるんですけど、劇団のシステムに長年の蓄積を感じています。同じ主宰者としては、よくこういうシステムを作り上げたなと、驚きを感じる瞬間は未だにあります。」

 

――経済的にも成立させているところがすごいですよね。世田谷シルクも最近、法人化したそうですが。
堀川「そうなんです。いろいろとお仕事をいただく機会も増えてきたので、より職業として、きちんとやっていかなきゃなと思って。自分を戒める意味でも法人化しました。」

 

普段のきらめきの池とは違う景色を見せたい

 

――堀川さんが今、演出家として興味のあることは何ですか。
堀川「オペラですね。一昨年、ヨーロッパに留学した時に、オペラの現場を見学してきたんです。オペラはすべてがライブで、オーケストラがその場で演奏し、シンガーがマイクを使わずに歌っている。その瞬間を、100人以上の人が作っていると考えたら、いい意味でゾッとしました。そこから得たヒントも、今回の作品で活きてくるはずです。」

 

――今秋には、映画監督の河瀨直美さんが初演出するオペラ『トスカ』に演出助手として参加されるとか。
堀川「そうなんですよ。初めての打ち合わせの前は、緊張しすぎてお腹が痛くなりました(笑)。」

 

――堀川さんに求められていることは何だと思いますか?
堀川「いやいや、そんな大きなことは求められてないと思います(笑)。ただ、私は演劇の人間で、河瀨さんは映画の方。もう1人の演出助手や演出補の方は完全なオペラ畑なので、私なりに演劇の視点から、お手伝いができたらと思ってます。」

 

――最後になりますが、パルTAMAフェスの『こいの棲む家』を楽しみにしている多摩市民へメッセージをいただけますか。
堀川「私の作品はアート寄りだと思うのですが、クスッと笑って、和やかになるポイントも作れたらと思っています。あと景色も活かして、普段見ているきらめきの池とは、また違った表情をお見せしたいです。そして時間を経て訪れた時に、「ああ、あんな景色があったなあ」と思い出してもらえたら素敵だなと思っています。」

 

――多摩市民以外のファンにも、ひとこと。
堀川「きらめきの池という素敵な場所で、このたび公演します。自然からもらう力と混ぜ合わせて、一瞬一瞬を大切にする上演にしたいと思っています。水を活かしたパフォーマンスは、私自身もどんなものが生まれるのか楽しみです。どうぞご期待ください!」

 

インタビュー・文:泊貴洋
撮影:疋田千里

 

【プロフィール】
堀川炎
堀川炎
■ほりかわ・ほのお 世田谷シルク主宰。脚本・演出・振付・音楽・舞台美術などを手がける。3 歳よりクラシックバレエを習い始め、中学、高校で演劇部に入部。大学では情報工学を専攻。山の手事情社研修生を経て、2009年に同期4人と世田谷シルクを結成。日常生活に突如入り込む奇妙な状況を、時にコミカルに描いている。また2014年より青年団演出部に所属。2015〜2016年は渡欧し、ヨシ笈田のオペラ稽古を見学。現在、野外劇場、児童演劇、国際共同製作など多岐に渡る活動で注目を集める。

 

【公演概要】
パルテノン多摩×世田谷シルク 『こいの棲む家』

日程・会場:9/16(土)・17(日) 東京・パルテノン多摩きらめきの池ステージ

脚本・演出・振付:堀川 炎(世田谷シルク)
出演:
<世田谷シルク>
荒木秀智(あたらしい数字) 金子幸生 石井維 石坂杏子 岩井由紀子(青年団)
絵理子(タイムリーオフィス) 柿の葉なら(ティアラエンターテインメント) 佐藤優子
坂本まどか 佐竹奈々 佐原由美(流山児★事務所) 髙橋咲貴子 武井希未(世田谷シルク)
堀内萌(AnK) まりあ(Dou kyu sei.) 南菜央美 山中志歩 湯口光穂(20歳の国) その他