PARCO&CUBE 20th present『人間風車』 矢崎 広×松田 凌 インタビュー

人間風車

矢崎 「腹黒さもにじむ役作り。人間って怖い、を表現したい」
松田 「子どもであることが一番難解。遊びながら真剣役作り」


14年ぶりに再演される童話ホラー舞台『人間風車』。脚本の後藤ひろひとは今回のために「一部のリライトではなく最初の一文字から書き直す」と前回インタビューで語っていたが、いよいよ完成して俳優・スタッフに届き稽古に突入したようだ。演出を担う河原雅彦との打ち合わせにより、現代にも突き刺さる普遍性と新鮮さをもって蘇る『人間風車』。「芸達者でないと演じきれない難しい戯曲だから、全員が選抜メンバー」と河原も推すキャスト陣から、いまをときめく注目俳優の矢崎広と松田凌が、創作まっただ中の稽古場で取材に応じた。これまでの彼らとは一味も二味も違う役作りに挑んでいるようだ。

 

――出演が決まった時の率直な感想は?
矢崎「タイトルは聞いたことがありましたが、中身についてはふわっとした情報しか持ってなくて。オファーがあって調べ始めましたが、尊敬する大好きな先輩方が歴代演じられ、演出の河原さんも出ている。これはもう、すごい作品なんだなと思うと、背筋を伸ばす気持ちと同時に喜びもありました」

松田「興奮しました。最初に聞いた時、一回、嘘だ、と思うほど(笑)。演劇好きの叔母の影響もあり、(脚本家の)後藤(ひろひと)さんの作品は学生時代から見ていて、『人間風車』の話も叔母にたくさん聞いていました。でも、観劇できていなかったんです。それに出られるとなって、本当に望んでいた場所なのでとにかくうれしかったです」

 

――過去上演のDVDなどは見ましたか?どんな感想を持ちました?
矢崎「お客様と同じ目線だと思いますが、最初は楽しく笑って見ていたら、はっと亀裂が生じ、それを機に一気にひっくり返ってしまう。ファンタスティックホラーというより、“人間の恐怖”を強く感じました。終わり方も不思議な後味。あんなに笑っていたのに、ちょっとモヤモヤしちゃう感じで。後藤さんが、お客様にいろいろ持ち帰ってほしい、後で議論してほしい、とおっしゃっていたのはこれか、と思いました」

松田「衝撃的におもしろくて、うれしさと怖さが混同しているお話だと思いました。過去2作品は再演なのに違う魅力で、これを当時、生で見なかった自分に嫌気がさしましたよ。本当に見応えがある。このエンターテイメントの世界に自分も参加させていただくからには、2017年度版の歯車の一つにしっかりとなりえるよう尽力したいです」

 

――河原さんの演出はお二人とも経験ありですよね。
矢崎「僕は3回目。河原さんの稽古場は、俳優として成長させてもらえる場で、役者が持ち込むものをちゃんと見てくれる方なんです。厳しいとよく言われるけど(笑)、愛のある厳しさだし、俳優はそれに応えるべきだと僕は思っています。河原さんの創りたいもの、作品の一つのピースとして、役割を果たしたい」

松田「そう。河原さんの稽古場は笑いと緊張が入り乱れ、刺激がありますよね。俳優とはなんたるかを教えてくれる、お芝居を教えてくれる場所です」


矢崎「1回目(『パクオペラ時計じかけのオレンジ』)では何もできない自分がいて、悔しい思いをしました。2回目(『黒いハンカチーフ』)でもまだ悔しさが残っていて、そして今回のチャンスです。できる・できないは別としても、自分の臨み方から変えようとしています。河原さんの現場だから挑戦できるものがたくさんあるんです。見てくれる河原さんの存在は大きいから」

 

――それぞれの役作りで考えていることは?
矢崎「僕が演じる小杉は、調子いいけど小悪党になりすぎないというか、微妙なラインを探っている最中です。年上、年下、相手によって態度を変える、友だちと仕事ではぜんぜん人が違う、そういう微妙なラインをなるべく細かく、明確に変えていくと、小杉のキャラはおもしろくなるんじゃないかと。そのために脳の切り替えを練習している感じですね。たとえば、平川(成河)にお金を貸すのも、やさしさだけじゃない、腹黒いものも出して……」

松田「僕は則明という子ども役なんですが、とにかく、子どもである、ということが一番難解。物語の大きな鍵に童話があり、子どもたちはその童話への始まりをちゃんと届けなければならない存在。僕ら子どもが平川の話を聞くことで、物語全体への導入が成立する部分もあると思うんです。過去に演じられた八嶋(智人)さん、中山(祐一朗)さんの則明があるように、僕には僕の則明を演じたいと思います」

矢崎「子どもたちは童話の世界へ行くし、平川は童話と現実のどちらへも行ける。でも、小杉は現実にいるリアルな人間。だからちょっと居方が違って、難しい役回りです。平川にどういう影響を与える存在なのか、模索している段階で」

 

――世間を観察したり?
矢崎「最近しますね。具体的なモデルを探しながら町を歩いていますよ。居酒屋の隣の人とか、駅のホーム。新宿なんて人間観察にぴったりです(笑)。人間の表情の材料集めという意味では、サスペンス映画も見るようにしています。小杉の役作りをしていると、自分にも向き合うことになります。知らないうちに人を傷つけているかもしれない、妬まれているかもしれない。そういうことは日常生活にたくさんあって、気にしても仕方がない、でも、あるから、見る人に共感してもらえるし、人間って怖い、が伝わると思うんです」

 

――松田さんたち子どものシーン作りは楽しいのでは?
松田「楽しいですね、遊んでいます(笑)。子ども役の演者の皆さんが本当に素敵なんですよ。うまいし、遊び心もあるしで、しっかり真剣にシーンを作りながら遊んでいるような柔軟性も忘れない。河原さんの演出があるからできることですが、楽しくやっています」

 

――矢崎さん、子どもたちのワイワイシーンが羨ましくなりませんか?
矢崎「汗だくなんで大変そうだなと(笑)。出て来る童話が変わるたびに、キャラ変わりも多いし、ほんとすごいと思います。小杉は、あまり汗をかかない役かなと思ったんですが、実はのっけから汗をかいていて。全員に言えますが、結構カロリー使っていますね」

 

――童話や絵本に影響されたり、真似してしまった経験は?
矢崎「母が学校の先生なのもあって、誕生日プレゼントが毎年絵本のセットでした。ゲームボーイがほしいのに、名作全集や絵本がどん!全然うれしくない(笑)。でも、あると読みますよね。だから絵本や童話はわりと知っているんです。影響を受けたのは、後藤さんも動画メッセージでおっしゃっていましたが『おしいれのぼうけん』。違う世界とつながってどうかなっちゃうんじゃないかって期待して、真似して無駄に何度も押し入れに入りましたよ。『千と千尋の神隠し』や『ハリー・ポッター』と、異世界にひゅっと入るお話が好きです」

松田「影響を受けたのは『100万回生きたねこ』です。幼い時に読んだのが不思議と印象に残っていて、学生時代になってまたきっかけがあり読み返すと、幼少の記憶の中の印象と異なる印象を受け、驚きました。年齢をすこし重ねただけで、こんなに感じ方が変わるのかって。童話って深いもんだなと思いますよね。いまもたまに読みます」

 

――改めて、『人間風車』はどんな話だと思いますか?
松田「大人が読むべき童話」

矢崎「いまにぴったりの、普遍的で、いまのあなたに届く作品」

 

――ビシッと決まりました!最後にメッセージをお願いいたします。
矢崎「後藤さんが脚本を改訂され、この2017年にふさわしい作品になっていると思います。世界がどんどん変わっていくいまの時代、お客様の中の何かに突き刺されば。最後の最後まで見届けてください」

松田「童話と同じように、見ていただけたら、それぞれの感じ方でそれぞれに心に残るものがあると思います。これは言葉では伝えきれません。目で、耳で、心で確かめに来てください。答えがあるかはわかりませんが……。僕らも精一杯に演じます」

 

取材・文/丸古玲子

 

【プロフィール】
矢崎 広

■ヤザキ ヒロシ ‘87年、山形県出身、俳優。劇団ひまわり入団後半年未満の異例の早さで’04年ミュージカル『空色勾玉』でデビュー。’12年には舞台『MACBETH』で初の単独主演。その後多数の作品に出演、『ミュージカル ジャージー・ボーイズ』、『ロミオ&ジュリエット』、テレビドラマ、声優、ナレーションなど幅広く活躍。

松田 凌
■マツダ リョウ ‘91年、兵庫県出身、俳優。’11年デビュー。’12年には初出演舞台ミュージカル『薄桜鬼』斎藤一篇で初主演を務める。ほか、舞台『東京喰種』(主演)、テレビドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』『男水!』(主演)など。

 

【公演概要】
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PARCO&CUBE 20th present『人間風車』

日程・会場:
2017/9/28 (木) ~10/9 (月・祝) 東京・東京芸術劇場 プレイハウス
2017/10/13 (金) 高知・高知県民文化ホール・オレンジホール
2017/10/18 (水) 福岡・福岡市民会館・大ホール
2017/10/20 (金~22 (日) 大阪・森ノ宮ピロティホール
2017/10/25 (水) 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
2017/10/28 (土) 長野・ホクト文化ホール・中ホール
2017/11/2 (木) 宮城・電力ホール

作:後藤ひろひと
演出:河原雅彦

出演:
成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、
今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、
小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次