ミュージカル「マタ・ハリ」 柚希礼音&加藤和樹インタビュー

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ミュージカルファンを魅了し続けている作曲家、フランク・ワイルドホーンの最新ミュージカル「マタ・ハリ」。2016年に韓国で世界初演を果たし大きな話題を呼んだ本作が、いよいよ2018年1月に日本初演を迎える。戦時中ながらその人気から国境を超えることを許されたダンサーで女スパイの主人公、マタ・ハリを演じるのは柚希礼音。そして、彼女の運命を大きく揺るがすことになるラドゥー/アルマンという2人の男を加藤和樹が日替わりで演じる。話題作に挑む2人がその胸中を語った。

 

――お二人とも、韓国で作品をご覧になっているとうかがいましたが「マタ・ハリ」にどんな印象をお持ちでしょうか。

柚希「私は昨年初演を、オク・ジュヒョンさんのマタ・ハリで拝見したのですが、その時にはまだ私がマタ・ハリを演じることになるとは思ってもいなくて。楽曲も素晴らしかったし、出演されている皆さんも本当に素晴らしくて、大感動したんです。その後、私が出演することが決り、もう一度、観に行きました。そうしたら、また印象が違っていて。より感情移入しましたし、ついマタ・ハリを目で追ってしまって、すごく泣きました」

加藤「僕は、今回のお話しをいただいてから拝見したんですけど、実在する人物の話ということで、あの激動の戦時中を生き抜いたマタ・ハリの存在感はやはり大きく感じられましたね。スパイとして強く生きた女性という印象を受けました。その強さがある中で、僕が演じるラドゥー大佐からのスパイ指令に葛藤する姿やアルマンとの出会いによって本来の女性としての喜びやピュアさが描かれる部分もあって。失っていたものを取り戻していくような姿も、印象に残っています」

――柚希さんはマタ・ハリを演じると決まった時、どんなお気持ちでしたか?

柚希「その頃は自分がマタ・ハリを演じるなんてまったく想像もつかなかったんです。どうしよう、もいっぱいありました。でも、本当に作品が素晴らしかったので、やってみたいなぁ…でも、私に出来るかな…けど、やってみたい…とグルグルと考えてしまいました(笑)」

――加藤さんは今回、マタ・ハリにスパイになるよう要求するラドゥー大佐と、孤独な彼女に寄り添うパイロットのアルマンを日替わりで演じます。当初、それを聞いてどのように思われましたか?

加藤「それこそ、僕もどうしよう…ですよね(笑)。演じ分けという意味では両極端な役ではあるので、やりがいがありますね。ただ、ダブルキャストとはいえ、日替わりで演じるという意味ではシングルキャストと変わらないので色々と混乱してしまいそうな気がします。特にマタ・ハリとラドゥー、アルマンの3人で歌うところもあるので…、違うパートを歌ってしまいそうなので、そこが心配なところではありますね」

――それをうかがっているだけでドキドキしてしまいますね(笑)。今回の2役オファーは、加藤さんにどちらを演じてもらうか迷った挙句、決めかねていっそ両方の役をお願いした、という経緯があるそうです。2役を演じる意気込みはいかがでしょうか。

 

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加藤「本当にありがたいですね。以前、『ロミオ&ジュリエット』で城田優がロミオとティボルトの2役をやっていて、その時、僕はティボルトで出演していたのでそばで見ていたんですけど、相当苦労していました。舞台は力を合わせて作り上げていくものですから、今回もダブルの佐藤(隆紀)くんや東(啓介)くん、柚希さんにも迷惑をかけてしまうことになるでしょうね。大きな挑戦だと思っています。それに、お話しをいただいたとき、この2役は今しかできないと思ったんですよ。もう少し若かったらダメだったろうし、年を重ねてもアルマンの気持ちを作れなくなってくる。今このタイミングでやらせていただけることに本当に感謝していますし、乗り越えるべき壁だと思っています」

――楽曲はフランク・ワイルドホーンの作曲になります。音楽についてはいかがですか?

柚希「私は、『スカーレット・ピンパーネル』の初演でワイルドホーンさんの音楽に触れているんですが、最初に譜面をいただいたときは特に音が細かく飛んでいたりもしないので難しそうには見えなかったんです。なのに、歌うとすごく難しくて、繰り返しや転調によってどんどんドラマティックになっていく。いざ、ワイルドホーンさんがいらっしゃって稽古をしていくと、本当にすごい色付けをしてくださって…。あの時は若かったので、譜面だけではわからなかったことでしたが、こういうふうに作り上げていくのか!という感動を経験させていただきました。今回は、また新しい切り口になりますし、また大きな挑戦になるかと思います。素晴らしい楽曲をやらせていただけることは本当にありがたいですし、本番までに思い切り稽古をして、マタ・ハリが生んだメロディとなるようにしていきたいですね」

加藤「僕は今回が、初めてのワイルドホーンさんの楽曲になります。彼の楽曲は歌い上げるものがすごく多くて、聴いているほうはすごく引き込まれますよね。美しさの中に、計算されたメロディラインがあるので、それぞれの個性が際立って聴こえるんです。でも、歌うほうに回ったら大変(笑)。微妙なところをいっているメロディラインなので、難しいな…と思いつつ、やりがいもある。役として、音楽に負けない歌声と言葉の説得力を作っていきたいですね。やっぱり音に負けちゃいけないですから」

――柚希さんと加藤さんは初共演になります。お互いの印象はいかがですか?

柚希「加藤和樹さんが出演された作品だと『1789-バスティーユの恋人たち-』などを拝見させていただいています。でも『ロミオ&ジュリエット』のティボルトは観れなかったんですよ…」

――そんな悲しそうなお顔でお話しされるくらい、観たかったんですね(笑)

柚希「はい(笑)。あと、先日はストレートプレイの『罠』も拝見させていただいていて。こんな素晴らしい頭身で、マントとかも似合う方とご一緒できるんだ、と本当に楽しみにしています。でも、お話ししてみるとギャップ萌えもいっぱい感じるんですよ。カワイイところや面白いところが、今日だけでもたくさんあったので(笑)、どんどん知っていくのが楽しみですね。もともと、月のような神秘的なイメージがあったんですが、普段は人間味があって意外とそうでもないのかも?なんて思っています。だから、あんまり“加藤和樹さんだ!”って思いすぎないようにしたい。私も、思っていた印象と違うと言われることが多いので、似ている部分があるのかも知れません」

加藤「期待するとがっかりしますよ。普段はそこらへんに転がっている石と変わらないですから(笑)。でも、僕からも今のセリフをそのままそっくりお返しできるくらいの気持ちです。僕は『バイオハザード-ヴォイス・オブ・ガイア-』を拝見したのが初めてで、歌える、動ける、芝居ができる、ですごい役者さんだと思っていたんです。その後、ビジュアル撮影で初めてお会いしたんですけど、それはもうクールに“よろしく…”なんて感じなのかなと思っていたんですが、とっても気さくで明るくて。なんてお呼びしたらいいですか?って伺ったら“ちえちゃん”って言ってくださって…。もうカワイイ!ってなっちゃって(笑)。このギャップはズルいですよね。『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』も拝見したんですけど、舞台の上では先生として強い大人の女性を演じていらっしゃるのに、楽屋ではとてもかわいらしい女の子なんですよ。キュンキュンしてしまいました(笑)。そういうギャップの部分は同じ匂いを感じるので、いい関係が築ける気がします。俺と一緒っていうと失礼かもしれないですけど…。くれぐれも行き過ぎないようにはしますんで、行き過ぎたときは言ってくださいね(笑)」

柚希「なんだかドギマギしてしまいますね。どんな顔して聞いていればいいかわからなくて、(現場にいたスタッフなど)いろんな方の顔を見てしまいました(笑)」

加藤「ちえちゃんは、本当に目がすごく素敵でキラキラしていらっしゃるんで、吸い込まれそうになるんです。女の子の瞳です。これが芝居の中で向き合ったときにどんな表情になるのか、楽しみですね。毎回ドキドキしてしまいそうです(笑)」

――今回の演出は石丸さち子さんで、訳詞、翻訳も手掛けられます。

柚希「私は宝塚歌劇を退団してからは、男性の演出家の方とご一緒させていく機会が多かったんです。なので女性の演出家で、なおかつ今をときめく石丸さち子さんとご一緒できるなんて、本当にありがたいと思っています。女性の心情を特に細かく作ってくださるんじゃないかと思っていますし、ご相談もいろいろさせていただきたいですね」

加藤「僕も石丸さんとは初めてになるんですが、とてもお芝居に熱くて役者のことをすごく考えてくださる方だとお聞きしています。ビジュアル撮影の時に少しお話しできて、今回2役やる上での注意点といいますか…やり遂げたい部分というのを互いに意思疎通させていただきました。その時に、本当に一緒になって作り上げてくれて、信頼できる方だと思いました。僕としては一緒になって相談できるほうがやりやすいけれど、でもやっぱり僕ら役者は演出家さんにとって食材にすぎないと思う部分もあって。そこで自分の新たな魅力に気付くことができる。だからと言って調理されているのを待つだけじゃなくて、ちゃんと自分でも発信できるようにありたいですね。そのバランスは大事にしたいと思っています」

――マタ・ハリを演じるとなるとやはりとてもセクシーになるであろう、衣裳も気になるところです。

柚希「やっぱり皆さま、どんどん脱いでいくイメージがあるものですから、そこが気になりますよね(笑)」

加藤「僕も楽しみにしていますよ(笑)」

柚希「(笑)。ビジュアル撮影の時もどうなるんだろう…と思っていたんですが、日本は日本ならではのバージョンでガラッと変わることになると思います。私は女性としてマタ・ハリを観たからかもしれないんですが…、どんどん脱いでいくということよりも、彼女自身の本体に色気を感じたんですよね。なので、そういう部分で美しい表現、色っぽさを表せていけたらと思っています」

――今の時点では、マタ・ハリをどのような女性と感じていらっしゃいますか?

 

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柚希「映画版とミュージカル版ではちょっと印象が違っているんですよね。映画だと本当にいろいろな男性と上手に接していて、転がしている凄い女性なんですが、ミュージカル版だと、そんなマタ・ハリが運命的な出会いをして“私も本当は素朴でピュアな恋愛がしたかったんだ”と気付いて、少女のような恋愛をするところが描かれているんです。かといって、生まれてからずっとピュアなままの人ではない。ばらされたくない過去を持ち、名前を変えて踊り子として生き抜く、強さと儚さ。強さだけでも色気だけでもない、いろいろなものを感じ取っているので、そういう複雑さを共感していただけるようにしていきたいです」

加藤「結局のところ、色気とかセクシーさって出すものじゃなくて、常に出てしまうものじゃないですか。じゃあそれって何なのかってなると、もうその人そのものなんですよ。それだけの人間が、そうやって生きてきたオーラを自然にまとっている。そういうものだと思います。そういうマタ・ハリをちえちゃんと一緒に作っていきたいですね」

柚希「本当にその通りだと思う! それだ(笑)」

――とてもいい感じに、お互いのイメージが通じ合っている感じがしますね。最後に公演を楽しみにしてらっしゃる方にメッセージをお願いします。

加藤「もう、今日でちえちゃんとはツーカーの仲ですからね(笑)。女性がメインのお話しなので女性の方はもちろんですが、その周りにはやっぱり男たちがいてその中で成り立っていくお話しなので、男性の方にもぜひ観ていただきたい作品です。激動の時代を生き抜いた人物の、本当に人間らしい、女性らしさの部分を注目してご覧いただきたいですね」

柚希「ストーリーがしっかりしている上に、楽曲も素晴らしいので、ミュージカルがお好きな方も、お芝居が好きな方も、どちらも楽しんでいただける作品だと思います。世界観もとっても素晴らしいものになりそうですので、できるだけ多くの方に観ていただけたらうれしいですね。あとは私たちがしっかり中身のつまった、何か心が動くような…切なくなったり、苦しくなったり、幸せになったり…なって欲しいなと思います!」

――公演を楽しみにしています! 本日はありがとうございました


インタビュー・文/宮崎新之
ヘアメイク:CHIHARU
スタイリスト:仙波レナ(柚希)、 立山功(加藤)

【プロフィール】
柚希礼音
ユズキレオン 大阪府出身。1999年に宝塚歌劇団に入団し初舞台。2009年に星組トップスターに就任し「ロミオとジュリエット」「オーシャンズ11」などに主演し、宝塚歌劇100周年を牽引するスターの1人として活躍。2015年に退団し、「プリンス・オブ・ブロードウェイ」「お気に召すまま」など舞台を中心に活躍する。これまで第30 回松尾芸能新人賞、第65 回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37 回菊田一夫演劇賞を受賞した。

加藤和樹
カトウカズキ 愛知県出身。2005年にミュージカル「テニスの王子様」で一躍脚光を浴び、ドラマ「仮面ライダーカブト」、「ホタルノヒカリ」など映像作品でも目覚ましい活躍を見せる。また歌手として単独武道館公演ほか、全国ツアーも毎年敢行しておりシンガーとしても精力的に活動。10月18日にはミニアルバム「SpicyBox」をリリースする。近年では「ロミオ&ジュリエット」「タイタニック」「フランケンシュタイン」など、大作ミュージカルへの出演が続き、実力派若手俳優として飛躍を続けている。

【公演概要】
ミュージカル「マタ・ハリ」

日程・会場:
2018/1/21(日) ~ 2018/1/28(日)  梅田芸術劇場メインホール(大阪府)
2018/2/3(土) ~ 2018/2/18(日)  東京国際フォーラム ホールC(東京都)

脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
脚本:アイヴァン・メンチェル
オリジナル編曲・オーケストレーション:
ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出:
石丸さち子

出演:
柚希礼音 加藤和樹
佐藤隆紀(LE VELVETS) 東啓介/西川大貴 百名ヒロキ/
栗原英雄/和音美桜/福井晶一 ほか
※ピエール役 百名ヒロキは大阪公演には出演いたしません。